公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2014年度 ワークショップI プロジェクトD

■プロジェクトD:地域から考える経済・社会のグリーン化〜環境産業・環境配慮・地域づくりについて〜

(1)趣旨

 国際社会において、グリーン経済やグリーン成長の政策が、経済発展の牽引役の一つとして期待されている。我が国においては、平成24(2012)年、第4次環境基本計画において、経済・社会のグリーン化とグリーンイノベーションを重点分野と位置付けられた。東北では、東日本大震災からの復興が課題であるが、その一つとして環境先進地域の実現や、再生可能エネルギーの利用促進とエネルギー効率の向上などが課題として掲げられている。

 本プロジェクトは、世界や全国的な潮流の中で、地域におけるグリーン経済の発展の可能性を、宮城県をケーススタディとして、地域における企業等の動きや地方公共団体等の環境政策の動向を踏まえて検討したものである。検討に当たっては、環境汚染の未然防止や自然等の地域資源の保全といった環境配慮の観点に加え、環境ビジネス・環境産業の育成、地域の活性化の観点を検討し、地域において環境と経済の好循環を実現する方策を検討した。また、環境対策の費用及びその負担のあり方を考察し、政策提言の実現可能性を高めることとした。

(2)経過

ア 年間の作業経過等

a)前期

 まず、4月は、まず「グリーン経済」、「グリーン経済」について、基礎的な知識を習得するため、参考文献を読み、グループで議論することから始め、外部不経済など環境経済学の知見を深めた。持続可能な経済社会のあるべき姿について、環境対策とそのためのコスト負担のバランスの観点から、企業の行動や政府の役割を議論した。

 また、次の点について疑問が湧いたので、担当を決めて報告し、議論を深めた。

  • 米国のグリーンニューディール政策の動向
  • 日本の成長戦略におけるグリーン経済の位置づけ(民主党政権時)
  • アベノミクスの中での環境経済の位置づけ、
  • バイオエタノール政策の経緯と普及の進まない理由
  • 環境ビジネスの動向

 また、横断的な視点として、市場と政策を円環的に結びつけ、消費者やメディアも巻き込みながら、好循環を生み出すことができないかということも提案された。

 5月末から6月にかけて、宮城県内のグリーン経済に関連する動向について現地視察を行い、現場の取組や課題を学んだ。質問項目を事前にまとめることで問題意識を掘り下げた。

 具体的には、沿岸部の東松島市を訪問し、市職員から震災復興の中で環境未来都市づくりについて説明を受けるとともに、メガソーラー事業等を視察した。また、東松島市を地域協働事業で支援をしている「一般社団法人持続可能で安心安全な社会をめざす新エネルギー活用推進協議会(JASFA)」からヒアリングを行った。内陸部の大衡村を訪問し、民間による取組として、トヨタ自動車株式会社等が進めているF-グリッド事業や、みやぎ生活協同組合のリサイクルセンターを視察した。さらに、宮城県全体の環境政策の動向について、県環境生活部環境政策課からヒアリングを行った。

b)中間報告会

 中間報告においては、グリーン経済についての理論や概念と、宮城県内における具体的な取組を整理するとともに、今後の研究の方向性を発表した。中間報告会においては、グリーン経済といっても、多様な分野や活動主体が対象であり、研究の出口として、何について、どこに提言するのかを明確にするべきである。また、環境と経済の好循環といっても、特に企業は経済的利益優先であり、環境保全とのバランスをどのように整理するべきであるなどの指摘をいただいた。

c)夏季

 中間報告会での指摘も踏まえ、一人ひとりが具体的なサブテーマを検討することにした。検討テーマは、次のとおり。

  • (低炭素社会分野) 燃料電池自動車の普及、スマートコミュニティの普及
  • (循環型社会分野) 食品ロス問題の解決、小型家電リサイクルの推進
  • (自然共生社会分野) 環境教育と自然再生
  • (財政基盤) みやぎ環境税のあり方

d)後期(年内)

 9月からは、それぞれのサブテーマに関して、視察やヒアリング等を行いながら、政策提言に向けた本格的な検討を開始した。チームとして、進捗状況を報告し、互いに助言等を行いながら進めた。

 また、チームとして、共通する検討の方向性や枠組を整理しながら進めた。まず、レポートと論文の違いについてフリートーキングを行い、論拠を明確にして、自分の意見を主張することの重要性を確認した。また、国や地方公共団体の政策の動向、環境ビジネスの市場動向等の事実を収集整理するだけでなく、理想・目標と現状とのギャップを意識し、具体的な問題・課題を抽出することとした。情報収集に当たっては、新聞記事やインターネットで見つけた情報だけでなく、政府の統計情報や審議会情報などを情報の信頼性、新しさにも留意して、複数の情報源を、バランスよく整理することとした。

 10月には、チーム全体としての検討方針について議論し、提言先を宮城県とし、政府における地方創生の動きや震災復興の政策との連携を念頭に政策パッケージとしてまとめることとした。

 この検討方針に沿って、11月初めに、宮城県に対して、詳細な質問項目を送付し、宮城県環境生活課から再度ヒアリングを実施した。県としては、現段階で政策の方向性を明確にしにくい質問事項もあったが、大学院生の自由な発想でオリジナルな提言をする趣旨を御理解いただき、資料提供等の御協力をいただくことができた。

 11月から12月半ばにかけて、宮城県内の自治体や事業者だけでなく、先進事例等を求めて全国的なヒアリング等を精力的に行った。政策提言のアイデアを得るまでには、様々な壁に直面したが、全員諦めずに乗り越えた。燃料電池自動車については、具体的なデータや事例等に基づき、実現可能性の観点から、検討対象に電気自動車を加えて、車両及びインフラ整備両面での総合的な検討を行った。スマートコミュニティについては、県内における進捗情報を調査し、沿岸被災地だけでなく、内陸部を含めた展開の可能性を探った。食品ロスや小型家電リサイクルといった廃棄物・リサイクル対策は、市町村の仕事だという各行政機関の反応に対し、法令における都道府県の位置づけや、国の審議会での議論を踏まえ、広域性の観点から県の仕事について論理を構成した。震災後自然再生の動きが止まっている蒲生干潟については、環境教育の拠点としての可能性を検討した。みやぎ環境税については、継続を主張するとともに、県民の理解と参加を深めるために、日本では市町村の導入例しかない1%条例の手法の県レベルでの導入にあえて挑戦した。

 検討に当たっては、アイデアや情報をパワーポイントによりカード式に整理しながら発想を広げるとともに、論理的な思考を深めるため、サブテーマ毎に、各人執筆アウトラインを作って文章化の作業を進めた。

e)最終報告会

 サブテーマの検討を進め、政策提言の仕上げを図るとともに、総論として、グリーン経済と地域創生を統合的に捉えた「グリーン創生」のアイデアを提唱し、まず宮城県において実現する「みやぎグリーン創生プラン」を提案することとした。また、最後の総括として、地方創生政策としての効果や、必要な財政規模の試算を行った。

 12月の後半は、ほぼ毎日のように作業を行い、ギリギリまで政策提言の完成度を高めた。無駄な説明を削り、短時間で明確なメッセージを伝えられるようリハーサルを繰り返し、最終報告会に臨んだ。最終報告会においては、メンバー全員が、厳しい質疑応答に対して、打たれ強く誠実に対応できるようになった。

f)後期(年明け以降)

 最終報告書については、最終報告会時点でもかなり文章化が進んでいたが、年明け以降、明確で読みやすい日本語になるように推敲を重ねた。また、最終報告会で、各論がばらばらとならずに、チーム全体としての議論が重要という指摘を受けて、最初の総論及び最後の総括については、全員の総意となるよう何度も協議した。

 参考資料としてヒアリングの成果を添付し、最終的には320ページを超える最終報告書を作成して、1月末に提出した。全員一人ひとりが具体的な政策提言を行うとともに、また、全体を「グリーン創生」という共通のコンセプトでまとめることができ、ワークショップのねらいは十分に達成できたものと考える。

 2月の上旬から、ヒアリングをお願いした自治体、企業等に、お礼を兼ねて報告を行った。2月10日に、宮城県環境政策課を訪問し、報告書を手交するとともに、宮城県における燃料電池車導入検討の動きなどを紹介いただき、本提言で示した課題について、現実に政策が動き始めている部分もあると評価いただいた。

イ ワークショップの進め方

 原則として、毎週火曜日の3限〜5限にワークショップを実施し、必要に応じて自主ワークショップを実施した。副担当の島田教授にも御出席いただき、貴重なご助言をいただいた。また、学生全員と教員が共有するメーリングリスト等を活用して、作業効率の向上と情報の共有化を図ることができた。

 各学生は、持ち回りでリーダー・儀典・書記・会計等の役割を務めることとし、リーダーがワークショップの議事進行や全体調整を担当することとした。リーダーは、議論のファシリテーションの方法、助言や励ましなど雰囲気づくりなどチームをまとめる責任とノウハウを学ぶことができた。また、現地調査、ヒアリングに当たって、外部との交渉を通じて、段取り、誠実なコミュニケーションを学んだ。

 最終発表においては、ヒアリング等でも温かく見守り続けていただいた宮城県環境生活部環境政策課副参事兼課長補佐の三浦智義氏にコメンテーターをお願いし、行政の現場からの厳しい指摘とともに、学生たちの真摯な研究姿勢についてお褒めいただいた。

(3)成果

ア 最終報告書について

 最終報告書は、3部から構成されている。

 第1部「総論」では、まず、第1章で、「ブラウン経済」から「グリーン経済」への転換について国内外の環境政策の展開の歴史的に整理した上で、地域におけるグリーン経済の動き、宮城県における取組を紹介した。第2章では、地方創生の動きを整理し、グリーン経済と結びつけて、「グリーン創生」のコンセプトを提示した。第3章、第4章で、現在の宮城県の環境政策の体系、具体的内容や課題を整理した上で、第5章で「みやぎグリーン創生プラン」を提案している。

 第2部「各論」では、「みやぎグリーン創世プラン」の内容として、次の6つのサブテーマについてそれぞれ1章ずつ、既存の制度等概要、取り組むべき課題を整理した上で、具体的な政策提案を行った。

  • ①次世代自動車普及促進総合計画―次世代自動車が走るまち 宮城県―
  • ②人が住み続けられる魅力あるまちを目指したスマートコミュニティの推進―低炭素と住みやすさの両立―
  • ③宮城県から考える食品ロス削減施策―環境保全と経済的メリットの両立を目指して―
  • ④小型家電リサイクル推進施策―宮城県の都市鉱山に眠るレアメタルの発掘―
  • ⑤グリーン復興に向けた新しい蒲生干潟自然再生事業―レジリエンス・スクール・オブ・蒲生―
  • ⑥宮城県の環境政策財政―みやぎ環境税の継続と発展―

 第3部「まとめ」では、みやぎグリーン創世プランの全体像を改めて示すとともに、地方創世政策としての効果や、政策の実現に必要な財源について論じた。

 本報告書が提示した「グリーン創世」のコンセプトが、宮城県だけでなく、他の地へも広がり、それぞれの地域におけるグリーン経済の推進の一助となれば、幸いである。

イ ワークショップを通じた能力育成について

 一人ひとりが、国内外の大きな潮流を広く捉えつつ、地域で様々な活動主体が直面している実務的な課題を探りだす力を身につけた。また、解決が難しいと問題について、諦めずに考え続ける知的なしぶとさも身につけた。学生らしい柔軟なアイデアを真に活かすためには、データ、先進事例等による根拠付けや、論理構成や文章の錬磨が必要であることを学び、将来のために自分の能力不足に気がつく契機となった。また、礼節はもちろん、段取り・日程管理、相手の状況や関心に配慮したコミュニケーションなど、社会人として常識を身につけることができた。さらに、チームワークについて、各人の努力が相乗的に発揮されるよう、目的意識や共通のフレームワークなどの工夫が効果的であることを実践的に学んだ。

 この1年間の経験を通じて、メンバー全員が自らの強みを活かし、弱点を修正し、自立的に成長することの大切さを理解し、社会人としての基礎力を強化したと評価する。

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