東北大学公共政策    

プロジェクトA:人口減少社会における地方行政のあり方  ~秋田における今後の施策展開を考える~

(1)趣旨

すでに我が国は本格的な人口減少局面に突入しており、今後、大都市圏では高齢化の急激な進行、地方圏においては、大幅な人口減少(自然減)に加え、圏域外への人口流出(社会減)が続いていくことが懸念されている。

公共政策としては、国全体の問題として、少子化対策を積極的に進めるとともに、大都市圏と地方圏の間での人口バランスを是正していくことが求められている。

本ワークショップにおいては、地方圏に関する調査研究として、人口減少率が高く、さらに、圏域外への人口流出が続いているという大きな課題に直面している秋田県の地方公共団体の視点で、今後の施策展開を考えていくこととした。

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

4月から6月にかけては、①基礎的知識の習得、②地域経済分析システム(RESAS)や秋田県による自己分析を基にしたデータの整理・分析、③秋田県、横手市での実地ヒアリングを行った。具体的な活動は以下のとおりである。

まず、各メンバーの役割決めと、3つのサブグループの設置を行った。前期は、このサブグループ単位で、参考文献の調査発表やデータ分析を行っていった。

基礎的知識の習得としては、教員から、(1)地方自治制度の概要、(2)政府の地方創生の取組の概要、(3)公共政策の立案の手法、(4)RESASの概要について講義を行った。このうち、(3)としては、課題分析のツールとして、ロジックモデル、ロジックツリーを、政策提言のためのアイデア出しのツールとして、KJ法、マインドマップ、フィッシュボーンチャートなどの説明を行った。なお、以後の調査研究においては、ロジックツリーとマインドマップを主に使っていった。

教員の講義の後は、サブグループ単位で参考文献の調査発表を行っていった。この作業の分量は多かったが、ここで後の調査研究活動の基礎が固めることができたと考える。その参考文献の例をあげれば、政府の取組に係るものとしては、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」、「自治体戦略2040構想研究会」の報告書、「これからの移住・交流施策の在り方に関する検討報告書」があり、秋田県の取組に係るものとしては、「秋田県人口ビジョン」、「あきた未来総合戦略」、「秋田県の機能合体の取組(秋田モデル)」がある。

併せて、サブグループごとに担当分野を決め、RESASを用いて、秋田県に関するデータ分析(全国比較等)を行い、課題の抽出や、秋田県の強み、弱みを整理した。

そして、5月には秋田県庁、6月には横手市役所を訪問し、現地ヒアリングを行った。

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

6月の最終週から7月にかけては、上記の調査研究活動をもとに、中間報告会のためのパワーポイントを作成していった。

中間報告の内容は、それまでに学習した内容(国の政策、秋田県の取組)、秋田県の現状分析、分析により抽出された課題の整理、後期における政策検討の方向性とした。

c)夏季

夏季においては、前期の文献調査、実地ヒアリングの内容を最終報告書の形式で、各自分担して執筆を行った。このことで後期は、政策提言の検討と最終報告会におけるパワーポイントの作成に注力することができたと考える。

また、夏季には、政策提言の検討に資する先進事例の洗い出しや更なる文献調査をメンバー各自で行った。

d)後期(年内)

10月に入り、役割の変更とサブグループの再編を行った。まず、3つのサブグループ(関係人口G、イノベーションG、ふるさと納税G)ごとに、以後の調査研究の方向性を議論するとともに、現地ヒアリング先や先進事例の洗い出しなどを行い、その後全体で議論し、また、各サブグループでの検討を進めるといった作業を繰り返していった。

関係人口Gでは、関係人口に関連する先進事例のほか、過疎地域へ人と仕事を取り戻すための取組として全国的に注目されている「田園回帰1%戦略」や、秋田県で新たに取り組んでいる「コミュニティ生活圏形成事業」の研究を行った。さらに、実地における調査として、同事業においてモデル地区とされ、住民によるワークシップが開催されている横手市及び羽後町の集落地区や、同じくモデル地区でもある五城目町の起業・コミュニティ支援施設に赴いた。併せて、秋田県内の人口動態等のデータ分析を進めていった。

イノベーションGでは、健康寿命対策と交通対策に焦点を絞ることとした。健康寿命対策については、秋田県の健康に関わるデータ収集と数値分析を行った上で、ICT・IoTに関する文献やICT地域活性化事例100選をもとに、SWC健幸ポイントコンソーシアムの取組に着目し、事業内容の詳細調査を行っていった。交通対策についても、上記文献調査を経て、グローバル創業・雇用創出特区に指定され、スマートフォン向けマルチモーダルモビリティサービス「my route」を実施している福岡市の現地調査を行った後、秋田県及び横手市の交通政策に関する現地ヒアリングを行った。そして、制度面における研究として、政府の未来投資会議等における検討状況を把握し、検討を深めた。

ふるさと納税Gでは、ふるさと納税制度に係る統計資料及び先行研究、ふるさと納税活用事例集の調査を進めていった。さらに、それまでのヒアリング調査から明らかになってきた地域の課題についてふるさと納税を活用して課題解決を行うための政策の検討を行った。

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

最終報告会に向けて、11月下旬にパワーポイント資料の作成を開始した。

最終報告会では、データの分析結果等の説明の後、政策提言として、第1部ICT関係として、①ICT・IoT×インセンティブ付与×行政・医療機関の取組、②自家用有償旅客運送の拡大を、第2部人口関係として、③クラウドファンディング型ふるさと納税を活用した(1)起業支援、(2)地域資源の発掘・活用、(3)地域課題の解決、④企業版関係人口の拡大に向けた補助制度・デュアルスクールの導入等を発表した。

f)後期(年明け以降)

最終報告会時点での最終報告書(案)においては十分に反映できなかった点及び最終報告会での指摘事項を踏まえて、各自分担して報告書の加筆を行っていった。その後、全員で通読し、議論しつつ、内容を確定していった。

(イ)ワークショップの進め方

毎週火曜日の3限から5限の他、随時、メンバー全員又はサブグループごとに自主的に調査研究を行った。さらに、中間報告会及び最終報告会の前には、連日ワークショップ室で作業を進めた。

共通作業のために、OneDrive、Google driveを用意した。講義資料・発表資料の閲覧、パワーポイント・最終報告書の作成は、主にOneDriveを用いた。

メンバーの役割は、前期・後期それぞれに、代表、副代表(これらはサブグループのリーダーを兼務)、書記、儀典・渉外、会計に役割分担した。また、パワーポイント・最終報告書の作成にあたってはそれぞれ作成の総括責任者を置いた。

なお、後期は全員がPCを持参し、速やかにOneDrive上のファイルの閲覧・修正作業を行っていった。

(3)成果

(ア)最終報告書

最終報告書は、「はじめに」及び「おわりに」の他、全5章から構成されている。

まず、第1章において我が国の人口推移など「日本の現状」を述べた後、第2章において、地方創生の取組、総務省の研究会報告書など、国の政策について整理した。

第3章では秋田県の状況と取組及び横手市の取組について整理を行った。そして、第4章では、人口減少問題の原因要素に対応して課題を設定し、その課題ごとに秋田県の状況についてRESAS等による分析を行い、考察をしている。

最後に、第5章において、第4章における分析をもとに、先進事例等をも踏まえ、政策提言を行っている。

本研究は、エビデンスに基づく政策形成となることを目指しつつ、さらに、メンバーが実地調査を重ねて、現地の地方公共団体や集落の方々の実情を踏まえたものになるよう努めたものである。数値に特化した議論になりがちな人口減少問題ではあるが、地域に寄り添う形での政策提言となっているものと考える。

(イ)ワークショップを通じた能力育成

政策立案においては、問題解決力と実現可能性の高い政策を提言することが望ましい。そのため、データ分析と客観的、論理的な思考を行うように繰り返し指導した。さらに、地域の抱える実際の課題を踏まえて、公共政策を考えていくことの重要性を認識できるよう、現地調査や教員からの実態説明を重視してきた。以上により、データ分析と実情に即した政策提言というクール・ヘッド、ウォーム・ハートな政策立案能力を磨く経験となったものと考える。

このページのTOPへ