東北大学公共政策    

諏訪園貞明 SUWAZONO Sadaaki

専攻科目

経済法及び競争政策・消費者政策等の経済規制政策

略歴

 慶応大学経済学部を卒業後、昭和61年に日本銀行に入行、調査統計局、国際局等を経て、平成7年に公正取引委員会に2年間の予定で出向しましたが、ここで持株会社解禁関連法案の策定作業に携わり、2年にわたる関係方面との調整の末、ようやく成立しましたが、その際の興奮が忘れられず、日銀に戻らず、そのまま公取委に転職することを決めました。その後、平成15年から経済取引局総務課企画室長として、四半世紀振りといわれる独占禁止法の抜本的改正作業を担当。また、平成19年から2年間、経済産業省に出向、消費経済対策課長として35年振りといわれる特定商取引法等の抜本的改正作業の一部(ネット広告規制、執行制度強化等)を担当、その後、一旦公取委に戻った後、平成21年からこちらに赴任しています。この間、米国フレッチャー法律外交大学院で修士課程を修了しています(Master of Arts)。

公共政策大学院での授業に当たって

 上述しましたとおり、持株会社解禁に関する独占禁止法改正法案作業も難航を極めましたが、平成17年に成立した独占禁止法の抜本的な改正法案も、昨年9月のジュリスト巻頭論文で根岸哲神戸大名誉教授が述べられたとおり、「難産の末に成立した」まさに3年越し、もみくちゃにされた上での法改正でした。この時も、改正法案が成立してみると、持株会社解禁法案の成立のように、新聞一面トップで白抜き大見出しで報道され、また、その経過は、朝日新聞の村山編集委員がその著書「市場検察」(文芸春秋)で描かれているとおり、気恥ずかしくなるくらいドラマチックでありましたし、政策の効果自体も全国の談合組織の多くを壊滅に追いやったとされるなど大変威力はありました。しかし、その組織的代償は少なくないとされ、未だに反省の念にかられることがあります。他方、特定商取引法の改正では、こちらも審議会の前には、様々な市民団体が経済産業省前で街頭演説を行うなど大変盛り上がりましたが、様々な市民団体、業界団体の声のみならず、秋葉原の小さな会議室で中小のネット・ショップ店主の方々の声も拾って丁寧に作業を進めました。法制上は大変難しい面が少なくなかったのですが、担当補佐の内閣法制局での踏ん張りもあって他の先進国にも例のない厳格な罰則を含む規制制度を創設することができました。

 公共政策大学院では、平成21年度後期の「政策体系論 政策実務D」において、上記の法改正作業も含め5回にわたる法改正作業や、予算要求作業、長期ビジョン策定作業において、これまで繰り返した様々な失敗の経験を踏まえて独占禁止法や特定商取引法に限らず、様々な経済規制に関する実際の法改正作業について、その審議経過を追いかけ、どうしたらもっと望ましい改正を実現できただろうかという観点から議論してもらいました。正直なところ、学生のみなさんが毎回、参考文献を読みこんだ上で新鮮なアイディアを次から次へと披露してくれ、これは失礼ながら、うれしい誤算でしたが、同時に、こうした講義を通じて法改正作業の仮想シミュレーションともいうべき追体験ができる学生の方々がうらやましくなりました。前もってこうした訓練を積んだ上で、法改正作業に臨んでいれば、過去の様々な失敗もある程度回避できたのではないか、もっと違った結果になったのではないかと悔やまれることもあります。

 平成22年度のワークショップでは、「政策体系論 政策実務D」で行ったこうした経済規制の法改正のシミュレーション作業を最初に行い、政策の企画立案事務を肌で知ってもらった上で、福田内閣以来、進められている「消費者・生活者視点での行政の転換」に係る政策の企画立案、特に、地方公共団体と国との関係に焦点を当てる形で、宮城県や福島県などの協力も仰ぎつつ研究を進めていきたいと考えています。

研究室にて

 その昔、「定価」販売という言葉がありました。今も、本や雑誌、新聞、CD等で残っていますが、今の若い方は、「希望小売価格」といった方がより馴染み深く感じられるかもしれません。昔も今も、独占禁止法の再販売価格維持行為禁止規制(いわゆる「再販規制」)が施行されており、原則、「定価」販売などないはずなのですが、ここ20年くらいの規制緩和政策推進等の結果として、同規制の適用除外は大幅に縮小し、また、その執行体制は格段に強化され、今や、どんな商品でも小売店側による自由な価格設定は当然の前提となっています。それどころか、現在は、安売りの「嵐」、とでもメーカーは言いたくなるでしょう、底なしの価格崩壊現象が日本中、どの街でも吹き荒れています。その結果、というかどうかについては慎重な検証が必要ですが、街の古くからの家電店は相当程度淘汰され、郊外のスーパー間でも激しい競争が起こり、駅前ではシャッター通りと呼ばれる光景が広がるなど社会全体に大きな影響を与えています。もちろん、再販規制の影響のみならず、大店法の撤廃や、地方における所得格差と呼ばれる現象など様々な要因が指摘されていると思います。他方、こうした現象がもっと進んだ米国では、一昨年、連邦最高裁判決において、再販規制について「原則違法」の判断から、「合理の原則適用」へと1世紀振りに判例変更を行いました。

 これは、大変大きな政策変更であり、我が国において直ちに同様の政策決定を行うことは想定されてはいませんが、OECDの当局者会合の場でも、各国における政策変更の是非について真剣に議論され、今年は、EUがその適用除外制度において、多少とも弾力的な措置を行うことが見込まれています。こうした政策変更の妥当性を議論するには、法学的な検討のみならず、経済学的な検討、とりわけ情報の非対称性や不確実性、インセンティブの観点からの研究が欠かせません。現在、京都大学の川濱昇教授をヘッドとする公取委競争政策研究センターの研究チームの一員として、法学・経済学それぞれの角度からの研究をすすめているほか、チームで企業からのヒアリング、海外当局者等との意見交換も行っています。

 ヒアリングでは、関係企業、特にメーカー側から、切実な流通現場の実態などが紹介され、正直、政策判断の難しさを強く実感しています。公共政策大学院においても、前述の「政策実務D」でこの問題を取り上げましたが、さらに、研究が進んだところでその成果について一緒に議論できればよいかと考えています。

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