副院長メッセージ

今こそ公共政策ワークショップの本領を

 本日より、本大学院の前期授業がやっと始動しました。とくに新年度初日の4月1日、仙台市内でのクラスター発生が認定されてからは、まさしく怒涛の展開でした。オリエンテーションや前期授業のオンライン化準備、学内施設の利用制限など、前例のない試みの連続で、我々はまだ緊張の真っ只中におります。もちろん、大学教員の苦労など、医療や介護・保育などの最前線におられる方々や、罹患した感染症状と戦われている方々の大変さと比べれば、ほんの微々たるものに過ぎません。それでも、政府の緊急事態宣言下でのオンライン授業開始をこうして何とか迎えられるまでには、本大学院の教職員全員の膨大な努力があったことは、ここに特筆しても許されるように思います。

 しばらく対面型の授業実施が制約される今だからこそ、公共政策ワークショップの存在意義について、再び考えてみたくなりました。2004年、本大学院が創設された頃の資料をあらためて読み返すと、欧米の諸大学での政策研究スタイルを参照して、三類型の政策実務教育のあり方が議論されていたようです。すなわち、抽象的なモデル化で「未来」を予測するシミュレーション型、実際に起きた「過去」の事例展開を分析するケーススタディ型、そして、「現在」進行形の政策課題を追跡するワークショップ型の三つです。その上で、因果関係を限定するシミュレーション型でも、後知恵に終わりかねないケーススタディ型でもなく、(教員の教育負担はかなり大きくなる)ワークショップ型をあえて本大学院の中核に据えた経緯が伝わってきます1)

 もちろん、目の前でのコロナ問題では、この三つは切り離されずに同時展開しています。接触8割減のシミュレーションが脚光を浴び2)、終息まで3年かかったスペイン風邪(1918-1920)のケーススタディも再び注目を集めています3)。そして同時に、このコロナの影響が、人口減少、介護システム、安全保障環境、農村振興などの平時の課題にまでどう及ぶのか、我々はこれから一年かけて考えていくことになります。たとえ当面オンラインで進んだとしても、集団での調査や議論を通じて「次の一手」を一緒に探していくワークショップの意義は決して色あせていません。

 政策提言の本場であるアメリカのシンクタンクを考察した本を読むと、シンクタンクとは、歴史の転換点となるような世界大の危機の産物であることが強く印象づけられます4)。古くは二つの世界大戦があり、その後もキューバ危機や9・11テロを経て、アメリカのシンクタンクや公共政策系の大学院は、その政策提言力を常に鍛えられてきました。本大学院は、東日本大震災という未曾有の危機を力を合わせて乗り越え、現在の位置に立っています。そして、世界大のコロナ危機に直面している今、異例のスタートを切る今年度の本大学院もまた、その真価が問われる局面にあることは間違いなさそうです。

 この困難な課題に対して、飯島院長を筆頭に、学生・教職員が一丸となり、時にはOB/OGの手も借りて、これから取り組んでまいります。我々の挑戦に今後とも変わらぬご支援・ご協力をよろしくお願い申し上げます。

2020年4月20日
公共政策大学院副院長 伏見岳人


  1. ^牧原出「東北大学公共政策大学院の政策実務教育」『計画行政』27巻1号、2004年、115-116頁。三神万里子「公共政策大学院は機能するか」『論座』2005年5月号、58-67頁。
  2. ^https://twitter.com/ClusterJapan\ /status/1250364311144296454
  3. ^速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』藤原書店、2006年。
  4. ^船橋洋一『シンクタンクとは何か』中公新書、2019年。
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