東北大学公共政策大学院Newsletter Vol.11
(2004年10月6日配信)

■NEWS

去る2004年9月25日(土)、平成17年度本大学院の第1次選考試験(筆記試験)が、東京と仙台で行われました。東京(丸ビル)では34人、仙台(本大学院)では29人、合計63人が受験しました。

本大学院の中核的な授業科目である公共政策ワークショップが、文部科学省の「専門職大学院形成支援プログラム」のプロジェクトに選定されました。

■教員エッセイ

今月は、上村直教授による「ワークショップ」報告と、坪野による「政策調査の技法」報告の二本をお送りします。

模索と希望(ワークショップ報告)

上村 直

今年4月のワークショップの開始に先立ち、ワークショップはどんな進め方をしたら良いのか、学生のみんなにどんな体験をしてもらうのが良いのか、これまでの実務での自分の経験を想い起こし、あれこれ考えました。真っ先に浮かんできたものは、「主体的に取組む」をモットーとする場にできたら、ということでした。私たちは皆、教育を通じ極めて効率的に知識を教えられてきており、それが私たちの知的基礎となっていることは間違いありませんが、その先の世界では、「正解」が書かれたものなど存在するはずがなく、目の前に広がる混沌とした現実に誰しも直面させられることになります。従って、一人一人が自ら問題意識を持ち、どうしたら良いのか考え、問題の解決策を案出する必要に迫られます。更に、それが良い案なのか吟味し、関係者に説明し、討議し、説得し、交渉し、実現に向けて取り組んでいく必要があります。この過程は実に骨の折れる過程ですが、それにもかかわらずこの行動を支えるものがあるとすれば、それは主体的な取組み姿勢であり、そこから生まれる熱意であり、手ごたえであり、やりがいであると思います。参加する学生一人一人がワークショップの運営に積極的にイニシアティブをとる、そんな理想が浮かびました。

しかし、これは簡単なことではありません。自分で探求するということは、頼るものがないということですから、文献、資料、データにこまめに当たったり、関係者から色々と聞き取りをしたり、あれこれ調べてみるしかありません。しかも、何ら問題意識を持たずに調べるということは不可能ですから、調べるためにはあれこれ考えてみることが同時に必要となります。ここが最も大変で、何らかの見方、考え方がないと先に進めないのですが、そういう知恵がなかなか出てこないでウンウン唸るというのが実務での私の常でした。しかし、とにかく「たたき台」となる何らかの案を作り、そこから試行錯誤で進むしかありません。道筋も方向さえも覚束無いのですが、深い霧の中を手探りで進むしかありません。自分で進むには、あれこれ考えながら、手数をかけて調べることが必要であることや、それがなかなか大変な作業であることもワークショップでは実感してもらいたいな、というのが二番目に浮かんだことでした。

しかし、集団的作業は、試行錯誤の大変さに立ち向かう強い味方になります。試行錯誤とは、何らかの案を、関係するデータ、資料、文献、見解、意見などと突合せ、間違いを直し、より良いものに練り上げていく過程といえるのではないかと思いますが、これらの作業は一人で行うよりも集団で行うほうが効果的です。問題意識を共有しながら異なる目を持つ仲間と一緒に検討することにより、それまで見えなかった色々な角度からあれこれチェックすることが可能になります。一人でやっていると気付かないことは間々ありますし、言われてみるとそうだなと思うこともしばしばです。ワークショップでは集団的作業の意義も感じてもらいたいな、という想いが浮かびました。更に、集団的作業を効果的に行うためには、方法論を身につけることが必要となります。方法論といっても、特段難しいものではありません。言葉で明確かつ丁寧に記述し、それを共通のベースにして議論するという方法です。まず、調べたことなり、気づいたことなり、自分の考えなり、提案したいことなり、何でも言葉=「紙」にし、それを全員が共有して議論するというやり方です。ワークショップでは、集団的作業のための方法論も身につけてもらえるようにできないか、という想いが併せて浮かびました。

早いものでワークショップが始まってもう半年が過ぎました。上記の「想い」の達成具合いはどうかと自問すれば、標題のような言葉が浮かんできます。言うは易く、行うは難し。どうしたら良いのか一人一人自分で探求することは、実にシンドイことです。基礎的な説明から始まって整然と教えられることなく、いきなりプールに突き落とされて水泳を覚えろと言われたようなものだからです。試行錯誤しろと言われても、何らかの手掛かりがないと先に進めません。それを見つけようと皆で話合うのですが、なんとなく話し合っているけれど、何が得られたのか明確でない状態になってしまいました。しかし、彼らは、まずこの状態から自力で脱出しないと進まないという認識を共有し、そのためにはどうしないといけないのか、一人一人自分で探求し始めました。まず、方法論から始まったのです。ワークショップの運営の仕方が変わりだしました。集団的作業を効果的に行うため、各回の作業で何をするのかを明確にし、誰が作業をリードするのかを決め、作業や討議のベースとなる「紙」を準備し、できるだけ目に見える成果物を得るようにするという方法が少しづつ定着し始めました。集団的作業のための方法論も身につけてもらえるようにできないか、参加する学生一人一人がワークショップの運営に積極的にイニシアティブをとるようにできないかという想いは、徐々に達成されつつあるように感じています。また、方法論が形作られるにつれ、調査内容も蓄積が進んでいます。こまめにデータや資料にあたることの必要性と重要性も実感を持って学んでくれているように思います。

しかし、後期に向けて、課題も残っています。調べたデータ、資料を幾ら積み上げても、それらを関係付け、統合する見方、考え方が明確でないと、資料集に終わりかねません。ここが一番大変なところで、私などもよく上司、先輩から「あれこれ調べて書いてあるけれど、考え方がないじゃないか」と叱責されたことを思い出します。そこで、この点は少し従来の「教える」方法に戻ることにし、前期調査計画書や中間報告書の作成の際に、私自身の見方、考え方を示し、参考にしてもらうことにしました。しかし、後期では、もっと彼ら自身の見方、考え方が前面に出てくることを期待しています。また、議論を通じ、取りあえずの案の間違いを直し、より良いものに練り上げていくという集団作業の醍醐味の体験も、殆ど後期に残されています。模索は道半ばです。しかし、彼らは授業時間外も自主的に集まり、努力を続けています。努力がある限り私は楽観しています。後期のワークショップも、彼らとともに悩みながら、やはり手探りで進もうと思っています。

スキルの「汎用性」(政策調査の技法報告)

坪野 吉孝

必修科目である「政策調査の技法」の一環として、6月21日(月)から7月12日(月)までの4回、毎週月曜日の午後一杯をかけて、「表計算ソフトを用いた統計解析演習」を行いました。

はじめての試みだったので、演習に先立ち、「エクセル」を中心とする表計算ソフトの使用経験について、学生にアンケート調査を行いました。その結果、「エクセル」を使ったことのない人が、約6割と多数派でした。使ったことがある残りの4割も、簡単な図表を作成するていどの経験しかない人が大半であることが分かりました。

そこで実際の演習では、エクセルの「初心者」と「経験者」という、二つのグループに分かれてもらいました。「初心者」グループの23人には、「エクセルで図表を作成し、それをワードなどの文書に貼り付けて、図表と文章の混在した報告書を作成できる」ようになることを到達目標として、実習を行いました。助手2名と後期博士課程の大学院生1名が「チューター」として張り付き、学生ひとりひとりの進捗状況を見ながら、アドバイスをしました。

「エクセルを一から教えるなんて、大学院というよりパソコンスクールの乗りだね」という声もありました。けれども、図表などの資料作成は、官庁に限らずどんな職場でも、新人が最初にやらされる仕事の一つです。また、同時進行で進められているワークショップでも、さまざまな統計指標を図表にまとめて整理する作業が進んでいました。そうした事情もあり、ここは「格調の高さ」より「実用性」を優先することにしました。4回の演習の最後には、全員がテキスト一冊分の課題をやり終え、基本的なスキルを獲得することができたようです。

いっぽう、「経験者」グループの6人には、私がチューターとなり、「29名の公共政策大学院学生を対象に質問票調査を行い、その結果を集計して、報告書を作成する」という小プロジェクトを設定しました。学生同士の相談により、「東北大学公共政策大学院生の生活実態に関する調査」をテーマに決めました。勉強時間や交友関係などの生活状況を、昨年までの学部生の時と、現在の大学院生の時とで比較するという基本方針を決め、質問票を作成しました。同級生に質問票に回答してもらい、そのデータを入力・集計し、データを解釈しながら図表にして、さいごにA4版で18ページの報告書を作成しました。

「定量的なデータを、分かりやすい日本語で表現する」「結果と考察を混同せず、きちんと区別して記述する」「結果から飛躍したスペキュレーションではなく、データをふまえた考察を行う」 これまで医学部の大学院生に指導してきたのと同じことが、ここでも通用することが分かりました。文章の一つ、形容詞の一つに注意を払って、正確な日本語を書く。こうしたスキルには、医学でも他分野でも共通する「汎用性」があることを実感しました。その意味では、教える側の私にとっても、貴重な経験でした。わずか4回の演習でしたが、小さな、しかし具体的な進歩を、学生諸君が実感してくれたことを望んでいます。

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