東北大学公共政策大学院Newsletter Vol.18
(2006年1月30日配信)

■出版物の中の東北大学公共政策大学院と公共政策ワークショップ

今回は、牧原出助教授による、本大学院に関する出版物の紹介をお届けします。

出版物の中の東北大学公共政策大学院と公共政策ワークショップ

牧原 出

2004年4月に本大学院が開校してから、2年が過ぎようとしています。本年3月には、1期生が修了することになるでしょう。

幸いなことに、この間、公共政策大学院という大学院制度についての認知も深まっていったように思います。いくつかの雑誌や書籍などが、公共政策大学院についてとりあげています。また、本学からも大学院での政策研究成果が登場し始めています。こうして、東北大学公共政策大学院は、東京大学、早稲田大学などの公共政策大学院とは異なるユニークな大学院として、とりあげられているといえるでしょう。

いろいろな所で説明してきたことですが、本学の教育の中核は、「公共政策ワークショップ」という体験型の集団作業による政策案を作成する授業です。本学は、これを特に重視し、大学院をあげてそのメソッドの開発に努めてきました。似たような名称の授業は他の公共政策大学院にもありますが、それらは本学の公共政策ワークショップと比べて、カリキュラムの中での比重も軽く、内容も本大学院のものとは異なります。つまり、公共政策大学院は、そのカリキュラムに応じて性格が大きく異なるのです。

ここでは、本大学院に関する出版物を紹介しながら、本大学院の特徴について説明してみようと思います。

@三神万里子「公共政策大学院は機能するか」(『論座』2005年5月号)

各大学で公共政策大学院が設置される以前に、『ジュリスト』1252号上に公共政策大学院についてのシンポジウム記録が掲載されました。これは、東京大学と人事院との共同開催という形をとっており、公共政策大学院への応援記事という性格が強いものと言えるでしょう。これに対して、三神さんの記事は、公共政策大学院という制度について中立的な視点から、その問題点をも取り上げています。

たとえば、いくつかの公共政策大学院での実務家による授業について、「古い体質の経験談に終始し、現状の社会経済システムに関する知識が全くない」であるとか、「官僚出身の実務家は、自分のつくった政策の説明、つまり?講演?になってしまう」という学生の談話を載せています。

しかし、東北大学公共政策大学院に関して、このようなことはありません。本大学院の「公共政策ワークショップ」は、現実に行政機関が抱える政策課題への処方箋を集団作業で作成するよう、実務家教員と研究者教員が適切な指導を行うものです。そこには、「古い体質の体験談」も「自分のつくった政策の説明」も入る余地がありません。より高度な政策教育を狙っているのです。

だからこそ、三神さんの記事では東北大学公共政策大学院は、かなり高い評価を得ています。「ワークショップを重視するコロンビア大学とロンドン大学の仕組みを取り入れ」、「学生にとっては、実際の政策提言にかかわるワークショップが勉強の場になる」と指摘されているのです。三神さんは、こうした教育の目的を大学院自体の「シンクタンク化」を目指していると要約してくれています。これは、将来的な課題ですが、すでに大学院でのワークショップにおける研究成果は登場しているのです。それが次の文献です。

A『地震被災者に対する住宅再建支援策の調査研究業務報告書』財団法人宮城県地域振興センター(平成17年3月)

これは、2004年度公共政策ワークショップTプロジェクトA「自然災害により被災した住宅の再建支援に関するワークショップ」の成果です。平成15年7月26日に発生した宮城県北部地震によって、1276棟の全壊住宅、3800棟以上の半壊住宅の被害が発生しました。ワークショップでは、被災世帯に対するヒヤリング調査を行い、現行の支援策にどのような問題があるかを検討しました。そもそも、現行法制では、自然災害による財産の損失に対して、国や地方公共団体は損失補償あるいは損害賠償の責任を負うべきものとは考えられていませんが、社会福祉の観点からいくつかの支援措置はなされています。これらについて、あるべき公的支援とはいかなる形で可能かという政策課題に答えることが、ここでのねらいです。

ヒヤリング調査では、行政が行う被災認定と民間会社が行う査定との相違への不満が高いこと、被災者生活再建支援法にもとづく支援金の利用度が低いこと、宮城県の独自支援について支給額が低く、至急時期が遅いことに消極的評価が付けられたことなどの結果が得られました。これを下に、教員がさらに独自の検討を行い、災害救助法・被災者生活再建支援法などの支援制度を合わせて統一的な制度に体系化し、支援内容を項目化して、それぞれについて適切な限度額を設けるという制度設計を提案しています。

東北大学公共政策大学院としては、こうした公共政策ワークショップでの調査を、教員によるさらなる理論化と組み合わせて、実効性のある政策研究・政策提言を深めていきたいと考えているのです。

B藤倉雅之『大学院へ行こう!』(講談社現代新書)

この本は、臨床心理士指定大学院、MBAスクール、法科大学院など、近年誕生した新しいタイプの大学院について平易に解説した本ですが、その中でも、「多分野に発展する専門職大学院」の例として、公共政策大学院がとりあげられ、その実例に東北大学公共政策大学院が説明されています。公共政策ワークショップを「生きた素材をつうじて何かを学という興味深い経験」であって、「往々にして結果が美化されてしまい、失敗の部分に焦点が当たらない」事例研究とは、大きく異なると、指摘されています。@の三神さんの記事とは別の角度から、本学の公共政策ワークショップについて説明されています。これらは、本大学院の授業がユニークであり、かつ有効であることを第三者の立場から語っています。だからこそ、他の公共政策大学院とはひと味もふた味も異なる東北大学公共政策大学院について、特に取り上げてくれているのです。

C「東北財務局との連携による政策教育の試み」『季刊「東北ざいむ」』2004年1月号
D「東北大学公共政策大学院の政策実務教育」『計画行政』第27巻第1号

CDは本大学院関係者による論稿です。Cは、財務省から派遣された上村直教授が、東北財務局の庁内誌に寄稿したものです。Dは、日本計画行政学の学会誌における「大学のパラダイムシフト」シリーズで、本大学院について紹介しています。これは、本大学院で経済学理論を教授されている鴨池治教授のご紹介で、牧原が書かせて頂いたものです。

このように、本大学院は、設置後いろいろなメディアに、公共政策大学院の一つの典型ケースとしてとりあげられていることを、ご理解頂けたのではないかと思います。これからも、適宜、公共政策大学院関係の出版物をニュースレター等に掲載していきたいと思います。

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