東北大学公共政策大学院Newsletter Vol.19
(2006年3月8日配信)

■教員エッセイ

今回は、渥美恭弘教授(前財務省国税庁長官官房企画課長)のエッセイをお届けします。

新米教授の仙台奮闘記

渥美恭弘

私が昨年7月に東京の財務省からの出向という形で、当公共政策大学院・法学研究科の「教授」などという立派な肩書きを賜り、初めての東北・仙台の地でこれまた初めての単身赴任を始めてから、早いものであっという間に半年以上が経ってしまいました。

今、この半年あまりを思い返せば、梅雨明け直後の暑さの中で、「七夕祭り」を横目に新しい住居と職場への引越し・着任に汗と冷や汗をかいた7月から8月初旬。冷房の入らない川内キャンパスの研究室で、前任者代々引き継がれている骨董品級の大型扇風機からの風に救いの涼を求めながら、半袖・半ズボン姿で、「グローバリゼーション論」と「小泉構造改革」などという身の程知らずの大テーマをそれぞれ選んでしまった講義とゼミ(これらは主として法学部生向け)の準備に週末返上でてんてこまいの残りの8月。その扇風機からの風がいつのまにやら青葉山からの爽やかな風に替わり、つかの間の心地よさを感じた9月。今思えばきっとベスト・シーズンであったろうにそれを感じる余裕は全くなく、いよいよ講義・ゼミがスタートし、事前の準備努力もむなしく結局毎回の準備・実施に自転車操業状態の10月。キャンパス全体が黄葉・紅葉に包まれ、東京とは全く異なるその色付きの美しさに一瞬は感動しながらも、やはり授業の準備・実施に自転車操業状態でそれどころではなかった11月。

そうこうしているうちに、一気に気温は下がり始め雪は早くも降り始め、「仙台はそれほど寒くなく、雪も降らないところだよ」と教えてくれた東京の多くの友人たちが次第に大嘘付きに思われ始めた12月前半。屋外にあっては、凍りついた道を歩くためにスパイク靴というものに人生初めて履き替え、さらにこれまた人生初めての経験となったバイク通勤でもそのバイクの両輪をスパイクタイヤに履き替えて、転倒予防に万全を期すとともに、屋内にあっては、おかげさまで暖房こそ入る研究室で、温暖の地・静岡生まれ・育ちの私向けにさらに数々の暖房器具を取り揃え、防寒対策に万全を期したはずにもかかわらず、結局、滑って転ぶは風邪を引くはの12月後半。その後も寒さは一段と厳しく大雪も重なる中で年を越え、私にはスキー場のように見える雪景色のキャンパスを窓越しに、期末試験の採点が終わると、最初の一学期をやっと何とか無事に終了できたという達成感・満足感に心を満たされた1月末。そして今この原稿を書いている2月の今日は、季節はずれのばか陽気で、私の心の中と同じく、一足早い春を迎えているようです。

大学卒業後の25年余り、財務省(旧大蔵省)というところでいわゆる「行政官」の仕事ばかりに従事してきた私が、人に何かを教えるという「教育者」にいきなり転職し、見ること聞くことやることすべてが初体験の連続で、周りの皆様には大変ご迷惑をおかけしながらも、とりあえず一学期が終わってみれば、何物にも代えがたいすばらしい貴重な体験をすることができたと関係各位並びに神様に深く感謝しています。具体的に言えば、学生よりも誰よりも実は私自身が一番勉強させられ学べたこと、自分の半分以下の年齢の若い前途ある学生の皆さんと授業やゼミの飲み会などを通して接することができ、そのエネルギーの一部をもらえたこと、同僚のご立派な学者先生方の世界を垣間見れたこと、そして、最初に記したように、美しくも激しい仙台の四季折々の自然環境の移り変わりを体験できたこと、などなどです。特に、学生に対する授業のアンケート調査票に、「今までに取ってきた授業の中で一番面白かったです」などとお世辞半分でも書いてくれた学生がいたことは、私にとって天にも昇る喜びでした。「先生冥利に尽きる」とはこういうことかと実感しています。

何かこのように書き綴ってくると、私の教授生活は終わりつつあるかのようですが、そうではありません。始まったばかりなのです。「先生」と後ろから呼びかけられて3秒以内に振り返ることがようやくできるようになりました。この4月からはいよいよ当公共政策大学院で目玉の一つである「ワークショップI」の責任教官を1年間担当します。この「ワークショップI」というのは、読者の皆さんは私以上によくご存知かもしれませんが、担当教官の指導の下に、学生自身が主体的に、個別の政策課題を選定し、それについて現場をまわったりして調査・分析し、解決策を練り上げるという一連の集団作業を行うというもので、いわば政策実務の現場の「疑似体験」をするプロジェクトです。私の「ワークショップI」では、東北地方を中心とする地域金融機関とそれに対する金融行政をテーマとして取り挙げる予定で、目下その準備中です。教育者としては全く新米の私ですが、長年の行政官としての経験・知見と短いながらも極めて貴重だったこの半年余の体験を活かし、この「ワークショップI」を、希望と情熱に燃える学生と一体となって、真の春が訪れるであろう4月からスタートできることを心待ちにしている今日この頃なのです。

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