東北大学公共政策大学院Newsletter Vol.26
(2006年12月22日配信)

■追加募集のお知らせ

2007年4月入学志願者を対象とする追加募集を行います。

出願受付期間平成19年1月26日(金)〜2月1日(木)
入学試験平成19年2月17日(土)
最終合格者発表平成19年2月23日(金)
試験会場東北大学公共政策大学院(宮城県仙台市青葉区片平)

詳細は、以下のURLをご参照下さい。
http://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/admission/2007add/

■教員エッセイ

今回は、8月に経済産業省から着任した佐分利助教授(経済産業政策担当)をご紹介します。

8月に東京から着任されて、仙台の生活はいかがですか?
― とても快適です。(今は寒いけど。)

横浜の官舎に住んでいた時は、満員電車で毎日1時間半かけて霞ヶ関まで通っていました。往復で3時間。以前暮らしていたエジプトの友人にこの話をすると、「日本人は俺たちよりも悲惨な生活をしてるんだなぁ」と笑われます。それが、今は家から大学まで歩いて15分。自転車なら5分。これが人間の生活なんだなぁと思いますね。

仙台は100万都市なのに全然ごみごみしていなくて、森があって四季が豊か。海の幸はおいしいし、車で30分行けば温泉があります。こんなに恵まれた街はなかなかないんじゃないでしょうか。(今は寒いけど。)
役人から突然大学教員になって、とまどうこととかはありませんか?
― 子供の頃から3度のメシより本が好きで、ゆくゆくは大学で教鞭をとりたいと思っていたので、人事から「東北大学に行ってみないか」と聞かれた時は、思わず「えーっ、本当にいいんですか??」と声を上げてしまいました。家族からは「(エジプトから2年前に帰ったばかりだから)今度の異動は引っ越ししないところにしてね。」と言われていたのですが、「人事からの命令でこの話は断れないんだ。」と説得して(笑)。これまで書いた論文やエッセイをかき集めて大学に提出し、審査が通ったときはほっとしました。

大学では個室を与えられ、自由時間もたっぷりあり、研究環境としてはすばらしいものがあります。一方で、以前のように大部屋で仕事をするわけではないので、日々の会話が少なくなりますし、椅子に座っているだけでシャワーのように情報が降ってくるわけではありません。自分から情報を取りに行かないと、すぐに“世捨て人”になってしまう危険がありますね。
公共政策大学院ではどんな授業や研究をされているんですか?
― 専門は経済産業政策体系論で、経済産業省の行っている政策、例えば中小企業政策やエネルギー政策などを紹介しています。また、自分はこれまで15年間「社会問題解決のプロ」として役所で働いてきたので、「社会問題解決手法」も教えています。

これまで人類は、自然科学の進歩により、さまざまな問題を克服してきました。医学の発達により疫病を、肥料や農薬といった農業化学の発達により飢餓を克服し、気象衛星やレーダーによって台風も予測できるようになりました。

しかしながら、社会科学の進歩は自然科学に300年遅れています。未だに貧困や戦争は無くなりませんし、いじめや地球環境問題など、新たな問題に有効な対策が見いだせていないのが現状です。こうした問題意識から、研究室では社会そのものを対象とした医学、「社会医学」の研究をしています。
「社会医学」とは、あまり聞きなれない言葉ですが、どのようなものなのですか?
― 人の「病(やまい)」は、人体の構造を解明し(解剖学)、組織の役割を調べ(生理学)、病原体を発見し(病理学)、薬を開発する(薬学・薬理学)ことによって、治療ができるようになりました。同様に、貧困や戦争といった社会の「病」も、社会の構造を解明し、発生メカニズムを調べて対策を講じれば、制御(コントロール)できるようになるのです。この制御という考え方が重要で、平和を祈ったり、誰かを悪人に仕立て上げたりするだけでは、戦争を制御することはできません。社会の病を制御するためには、その事象の奥にある社会法則を明らかにする必要があるのです。ケインズ理論が革命といわれるのは、景気というこれまで制御できなかった社会の事象の法則性を明らかにし、公共事業という薬によって制御できることを示したからです。

私は、多くの社会問題は、その構造を解明し(社会解剖論)、組織の行動原理を調べ(社会生理論)、問題の発生要因を明らかにし(社会病理論)、それぞれの問題解決に適した政策=薬を開発する(社会薬理論)ことで、制御が可能になると信じています。そうした社会の病を、近代医学の考え方を利用しながら治すための学問体系が「社会医学」なのです。「社会医学」が認知され、より多くの人がこの研究に携われば、社会の病は、評論家やマスコミの批判合戦に終わるのではなく、より確実に、再発防止ができるはずです。
先生は、公共政策大学院の役割は何だとお考えですか?
― 公共政策大学院には、以下の役割が求められると思います。

第一に、社会の医者である役人や役人のタマゴの教育です。役人の使命は、社会問題の解決にあります。しかし、役人は公務員試験のために法律や経済は学びますが、社会がどのような仕組みで動いており、どのような治療が効果的か(効果的だったか)について体系的に学ぶ機会も、そうしたカリキュラムもありません。

公共政策大学院は、「公」と関わりながら働く人、公務員はもちろん、政治家、公的セクターに関係する民間企業の社員、NPO職員や市民のための教育と自己研鑽の場です。世界各国の最先端の政策手法を学び、社会の問題解決のための心構えや手法を学ぶ場、私流にいえば「社会医学部」であり、社会医学の体系的な知識と経験を身につける場になるでしょう。

確かに公務員になって2〜3年もすれば、一通りの仕事はこなせるようになりますが、それはちょうど江戸時代に沢庵先生のところに弟子入りし、見よう見まねで漢方薬の処方をするようなものです。なぜその薬が効くのか、どういう病気なのかを説明しろと言われても、「これまでそうやって治してきたから」(前例主義)としか答えられません。公共政策大学院では、ちょうど医者のタマゴが医学部で医学について学ぶように、社会問題の把握の仕方や処方箋の書き方を、体系的に学ぶことができ、卒業後は同じ病気を前にしても漢方医とは別の見方ができるようになるはずです。

第二に、社会問題の「治療法」の研究です。公共政策大学院は、日本や世界の様々な社会問題を類型化・体系化し(社会病理論)、その問題に対する様々な取り組みを研究します(社会薬理論)。そして、どういう病気にどういう薬が効いたのか、成功事例・失敗事例を集めて分析し、新しい薬を開発・提案することが求められます。

第三に、地域の社会問題の解決です。医学は、実際の症例への取り組みの中で進歩してきました。天然痘の予防のため8歳の少年に牛痘を注射したジェンナーの話は有名ですね。公共政策大学院は、自治体の抱える問題、商店街の抱える問題など、さまざまな問題の対策を考える場になります。特に、東北地方は、雇用問題、高齢化問題、農業問題など、様々な問題が顕在化している社会問題の(言葉は悪いですが)宝庫です。「教えるは学ぶの半ば」というように、具体的な事例を通じて理論は精緻化され、発達します。地域の問題解決手法を実際に考え、教え、その試行錯誤の中で大学院自らが鍛えられ、成長していきます。学生も、都会の大学院では得られない貴重な体験ができると思います。
最後に、公共政策大学院を志す学生に一言おねがいします。
― ともに、世界を救おう。

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