東北大学公共政策大学院Newsletter Vol.27
(2007年2月10日配信)

■韓国における共同ワークショップおよび現地調査を終えて

公共政策ワークショップIの一環として行った韓国現地調査について、修士1年学生の齋田逸朗君の報告をお届けします。

韓国における共同ワークショップおよび現地調査を終えて

齋田 逸朗(修士1年)

2006年11月29日から12月3日の5日間、公共政策大学院の国際WS一行(教員2名、学生6名)は韓国ソウルを訪れ、国民大学国際学部との共同ワークショップおよび現地調査を行いました。

今年度の国際WSは、「21世紀東アジアのグランド・デザイン構築における日本の役割」に関する政策提言をまとめることを目標に活動しています。「東アジア共同体」形成の推進に向けて、地域的なFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)を締結していくことを提言の中心にする方向で現在調査を進めています。

日韓共同ワークショップは、「東アジア共同体」をテーマに、韓国側から教授8名、学生約20名の参加を得て行われました。副担当の戸澤英典助教授による「地域主義の歴史的位相―『東アジア共同体』論議の今昔―」、われわれ国際WSメンバーによる「『東アジア共同体』と日本のFTA戦略」、金鍾杰教授(漢陽大学)による「韓日経済関係の新しい模索:韓国の視点」の3つの報告とそれらに対するコメントや質疑応答という形で、盛んな議論が交わされました。

韓国側の教授からは、中国との覇権争いを有利にするためにインド・豪州・NZを入れた日本の「東アジア共同体」構想が統合を遠ざけてしまっているとの批判や、日本は1997/8年のアジア通貨危機の対応で東アジア諸国の信頼を失ったなど論争誘発的な発言がなされ、大変刺激を受けました。その他にも、日本の地域形成戦略の特徴として、東南アジアが中心にあること、省庁間で意見の相違が見られること、経済戦略と外交・安保戦略が別々であることなどが指摘され、日本の視点を相対化するいい機会になりました。さらに、日本が東アジアで民主主義や人権などの普遍的価値を理念として唱えている一方で、中央アジアでは抑圧的な体制を認めていることはダブル・スタンダードではないかといった厳しい指摘もありました。自分たちに足りなかった、あるいは見落としていた点に気づくと同時に、お互いが納得できる地平を見出すことの難しさも強く感じました。また、韓国の学生からも矢継ぎ早に疑問が投げかけられ活発な議論・意見交換をすることができ、交流を深めることもできました。

現地調査は全国経済人連合会(全経連:日本経済団体連合会に相当する韓国の経済団体)と外交通商部に対するインタビューを行いました。全経連では通訳を介したインタビューが初めてだったことから、限られた時間の中でできる限りの回答を引き出すのが難しいことを実感しました。一方で、文献調査では得られなかった韓国産業界の生の声を知ることができ、大変参考になりました。外交通商部では、政務担当の東北亜一課長と通商担当の東北亜通商課長にインタビューを行いました。こちらが想像していた以上に日本に対する友好的な姿勢を持っていることに驚くとともに、日本への期待が強いがゆえに、逆説的にそれが失望や不信に変わる可能性が常にあるのだと思いました。韓国のFTA戦略についての質問では、地域政策と結び付けて重点的に東アジア地域とのEPAを推進している日本と異なり、韓国がよりグローバルにかつ同時多発的にFTAを進めていること、戦術として周辺国と交渉を始めてアメリカやEUを交渉の場に引き出したことなど、興味深い話を聞くことができました。また、日韓のFTA交渉体制の違いに質問が及ぶと、偶然にも外交通商部の組織編制会議の直後で、FTA局が2部編成に強化されたという「特ダネ」を得るという幸運に恵まれ、エキサイティングな時間になりました。一方で、通商課長の日本語による論理的かつ説得的な話し方に感嘆し、彼のような人たちと渡り合わなければならない外交交渉・通商交渉のタフさを想像せざるを得ませんでした。

現地調査の一環として、南北分断の象徴たる板門店の視察も行いました。38度線の緊張した警戒態勢や南北分断の実情を見ることができ、日本にいては感じることができない朝鮮半島の緊迫感を体験することができました。直立不動の警備兵や有刺鉄線、国威発揚のために(馬鹿馬鹿しくも)荒れ野に高さを競い合う国旗掲揚台など、あらゆるものがいまだ休戦状態に過ぎないという悲しい現状を物語っていました。吹き付ける冷たい風が両国分断の悲しみを表しているようで印象的でした。

今回の韓国訪問は、日本の視点・自分たちの視点を相対化し、国際WSの議論を国際水準でも通用することを目指して企画されたものです。各国の思惑や国内政治上の様々な利害が錯綜する国家間の外交を論じるために、外的な視点から一度日本の立場を眺める機会を持つことは重要な意味を持つものであり、実際に大きな収穫になったと自負しています。それがどれだけ報告に活かせるかは私たちの能力と気合い次第ではありますが…。

■教員エッセイ

今回は、原田賢一郎助教授(総務省より出向)のエッセイをお届けします。

「政策立案型」授業について感じたこと・考えたこと

原田 賢一郎

東北大学公共政策大学院では、「公共政策ワークショップ」と称する授業を1年生と2年生の必修にしています。これは現実の政策課題を自ら調査し、解決方策を立案するという、いわゆる「政策立案型」授業であり、本大学院の目玉授業の一つです。なお、詳しい内容については、本大学院ホームページの該当箇所(http://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/curriculum/#workshop)を御覧いただきたいと思います。

私は、昨年9月以降、このうち2年生が通年で履修する「公共政策ワークショップII」について、数名の学生に対する指導を担当しました。また、彼らを含む何名かの学生に対する口述試験の審査委員も担当しました。そして、来年度はこれらに加えて、私のような実務家教員の最大の任務である(1年生が通年で履修する)「公共政策ワークショップI」の指導も担当する予定であり、現在、その準備に取り組んでいるところです。

本大学院における「政策立案型」授業に関する私の業務経験は概ね以上のとおりですが、昨年8月に着任する前の職場(総務省自治大学校)でも、全国から集まった都道府県や市町村の中堅職員に対して「政策課題研究」又は「政策・条例立案演習」と称する「公共政策ワークショップI」に類似した「政策立案型」研修(※)の指導を担当していたこともあり、そこでの経験も踏まえて「政策立案型」授業について私なりに感じたこと・考えたことを大きく分けて二点述べることにしたいと思います。

(※)詳しくは、総務省自治大学校ホームページの該当箇所(http://www.soumu.go.jp/jitidai/seisakukadai.htm)及び雑誌『月刊自治フォーラム』の該当箇所(「自治の課題への取組」)を御覧ください。

まず、こうした「政策立案型」授業のねらいについて述べたいと思います。これについては過去にもこのニュースレターで他の教員が述べておられますが、端的に言えば「政策形成能力の修得」ということに尽きるのではないかと思います。

このことを実際の政策プロセスに即して、若干敷衍してみます。政策プロセスのあり方については、近年、「PDCAサイクル」ということが言われています。このニュースレターの読者の方々は既に御存じの用語とは思いますが、敢えて申し上げれば、「P」は政策の立案(Plan)、「D」は政策の実施(Do)、「C」は実施後の評価(Check)、「A」は評価に基づく見直し(Action)ということですが、そもそもこの「P」の前に「S」、すなわち、現状分析や課題の抽出・提示(See)があり、これが「PDCAサイクル」が始動する前提になると考えられます。こうしたことを踏まえ、「政策立案型」授業は、(本大学院の「公共政策ワークショップI」のように)予め設定された又は(同じく「公共政策ワークショップII」のように)自ら設定した政策テーマについて、まずは現状分析を十分に行ったうえで課題の抽出・提示を行い(See)、当該課題の解決方策としての政策について、その実施(Do)を見通しながら、具体的な提言を行うこと(Plan)、すなわち、このサイクルの「S」から「D」までを疑似体験することによって、「政策形成能力の修得」を目指すものであると考えます。さらに、現状分析や課題の抽出・提示は、既存の政策との関係でみるとその評価(Check)と捉えることもでき、また、政策提言の内容として場合によっては既存の政策の見直し(Action)を盛り込むことも考えられるので、「政策立案型」授業は、全体を通じて上記のサイクルをぐるりと疑似体験するものであるとも言えるのではないかと思います。

一方、実際の政策プロセスでは、立案した政策案を基にして関係者の合意を取り付けていく「政策調整能力」も政策形成能力の不可欠な要素となっていますが、これについても「政策立案型」授業においてある程度修得することが可能であると思います。すなわち、本大学院の「公共政策ワークショップ」であれば、実際の政策現場に足を運び、担当者・関係者に対してヒアリング調査を行うことを求めていますが、その過程で先ほどの意味での政策調整能力の前提となる交渉能力を修得することができます。また、本大学院の「公共政策ワークショップI」のようなグループ作業では、討論の過程でグループの仲間を説得し、納得させることが求められますので、この面でも政策調整能力を修得することができるでしょう。さらに、先ほどのヒアリング調査先の担当者・関係者などに対して、立案した政策案の実現可能性を問うことを繰り返すことを通じて政策調整能力を一層高めることも可能であると思います。

次に、受講者が「政策立案型」授業に取り組む場合の留意事項について述べたいと思いますが、紙幅の関係上、研究内容、特に政策提言に関する留意事項に絞って述べることにします。

先ほど述べたとおり、「政策立案型」授業は、政策プロセスを疑似体験することを通じて政策形成能力を修得することをねらいにしていると考えます。しかし中には、政策提言の先取り、すなわち、まず提言の内容を設定し、それに合わせて現状分析や課題の抽出・提示を行っているのではないかと思われる例も、私の過去の経験ではいくつか見受けられました。このようなやり方は、「政策立案型」授業に取り組む意義を見失うことになりかねないと思います。政策立案の原点は、まず、改善すべき現状としての問題の提起とその明確化にあります。何らかの政策を提言したいと思う時には、必ずそこに問題が埋もれているはずです。そこで、政策提言の形を急いで整えるよりも、まず、解決すべき課題は何かという問題意識を明確にし、現状分析をしっかり行って、その上で解決方策としての政策提言を取りまとめるというプロセスを大切にする必要があると思います。現状分析が不十分な研究からは、決してよい政策提言は生まれません。ただし、これもよく見受けられる例であるように思いますが、現状分析だけで力尽きてしまったというのも困ります。

次に、政策提言に当たっては、現行の法体系や制度は必ずしも障害にはならないと思います。これらを所与のものとせずに、その改革や改正を提言の内容に含めることは何ら差し支えないと考えます。こうしたことは、新たな制度の設計を掲げる提言については当然のことですが、当初は運用の改善に関する提言を行うつもりでいたものが、研究が進むにつれて、運用の改善だけでは課題を十分に解決することができないという認識に至った場合には、そこで検討を打ち切ることなく、思い切って制度の改革や新たな制度設計の検討に進む必要があると思います。

また、直ちに実現が可能な政策の提言であることは必ずしも必要ではないと思います。逆に実現可能性にこだわるあまり、小手先の提言になってしまうのは望ましいことではないのではないでしょうか。とはいえ、全く現実離れした提言でも困ります。いわゆる「コペルニクス的転回」をもたらすような「制度改革」を提言するのであるならば、そうしたことが実現するための条件や必要な環境整備の方向性を明らかにすることが必要であると思います。

次に、新たな政策の提言である以上、どこかの地方自治体の先進的な事例や外国の事例を勉強して、そのポイントをまとめてみましたというレベルでは困ります。その政策課題を取り上げた視点や提言の内容に、新規性や独自性などといったキラリと光る要素が含まれていることが必要でしょう。

また、政策提言の内容については、「こんなことができたらいいな」というレベルに留まっているようなものでは、政策提言として不十分であると思います。政策提言の内容は、その実現のための具体的なプログラムを含むものであることが必要です。例えば、制度の改革や新たな制度の設計を提言するのであれば、できる限り、国の法令や地方自治体の条例の改正や新規制定といったところまでまとめあげることが望ましいと思います。なお、この場合には、できる限り法制的な観点から提言の内容をきちんと詰めることも必要でしょう。それから、組織や団体の設立、推進体制の整備などを提言して、それでうまくいくだろうというのも、政策提言としては不十分であると思います。組織や団体を設立した場合にどのようなことが問題となる可能性があり、それを克服するためにどのような方策を講じるべきか、又はその推進体制が円滑に機能していくために、どのような取組をしていくべきかなどといったことについても、明らかにする必要があると考えます。それとの関連で言えば、私の過去の経験では「困った時のNPO頼み」とでもいうべき現象が多く見受けられましたが、現にNPOが多数存在する分野ならともかく、仮にNPOがほとんど存在しないような分野ならば、政策提言としては不十分でしょうし、また、NPOが多数存在する分野であっても、それに対して行政がどのように関わっていったらいいのかをはっきりさせるべきであると考えます。同様に、補助金の交付や法定外税の創設などといった財政上の施策を講じれば、自ずから政策は実現できると言わんばかりの提言も見受けられるように思いますが、このような提言が説得力をもつためには、例えば、経費等を試算してその施策の「費用対効果」を検証することや、財政的な支援が本当に誘導効果をもつのかという点について心理的側面等から説明することなどが必要であると思います。

なお、課題として提示したものの、提言した政策では必ずしも解決できないと考えられるものを全て今後の課題や留意事項として整理してしまうようなことはないようにする必要があると思います。提言した政策の実行上の課題等に言及する場合には、少なくともその解決の方向性を示すようにすべきであると考えます。

最後に、行政内部の視点だけでなく、国民・住民や納税者の視点から、この政策提言はどのように評価されるか、その参加や負担について十分な理解や協力が得られるか、といったことについても常に留意しながら政策提言をとりまとめる必要があると思います。

以上、「公共政策ワークショップI」の指導を実際に担当する前にもかかわらず、僭越ながら「政策立案型」授業について私なりに感じたこと・考えたことを述べさせていただきました。来年度に自分の担当する公共政策ワークショップI及びIIではこれらを踏まえた指導ができるよう、努力していきたいと思います。

なお、このニュースレターの読者の中で特に地方自治体関係の方々におかれては、私の担当するワークショップの学生が行うヒアリング調査等でお世話になることも多々あろうかと思います。その際には御協力のほど、よろしくお願いします。

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