三好信俊先生(2003年〜2005年 環境省より)
公益財団法人 地球環境戦略研究機関 特別政策アドバイザー
「公」を担う
大学院創設20周年おめでとうございます。
私は、2003年4月に東北大学法学研究科・法学部に環境省から出向し、環境法政策を担当しつつ、公共政策大学院の発足の直前から直後にかけての二年余の間、その準備と運営、教育に従事しました。
当時公共政策大学院に関しては、専門職大学院の中で一定のイメージが共有されていた法科大学院に比べて、カリキュラムの構成をはじめ一から準備を進めざるを得ず、実務家と研究者の協働による「ワークショップ」を中核に位置付けることは決まっているものの、その後院長を務められた故生田長人教授の言葉を借りれば、座学では身に着けることが難しい資質である「自らの体験を通して学び取るしかない(スキルとは区別された)アビリティ」を有する人材を育成する場をどのように設定すべきかについて議論を重ねることになりました。発足前で実績の見えない大学院を志した学生にとってチャレンジであったことはもとよりですが、行政官としての場数はそれなりに踏んではいても、教育者としての経験が乏しい私自身にとっても、高等教育の現場で生じる課題に対処するために試行錯誤したことは得難い経験となりました。
また、大学院での経験は、私にとって「公共」の意味を改めて考える機会にもなりました。その中で、我が国では「官」が「公」を独占しているかのような錯覚に陥りがちなのではないかとの思いから、大学院における政策のプロフェッショナルとしての「官」の役割や機能についての学びを「公」を担う主体としての市民のはたらきへの理解にうまく繋げられないかと考えたところです。今回20年にわたる実績をたどり、設立以来一貫して、多彩で充実した「ワークショップ」の運営を通じて、必要な実務能力を習得しながら実現性の高い政策案の形成に正面から取り組まれていることを拝見し、様々なステークホルダーとのやり取りや意見の違いを調整して一定の政策としてまとめていく過程自体が、学生の皆さんにとって、ともすれば実現性を顧みない極端な言説が横行する今日の社会の中で求められる市民として持つべき資質の涵養に役立つものと改めて思う次第です。
コロナ禍の影響をはじめ運営に係る様々な課題を乗り越えてこられた教員・学生各位、さらには「ワークショップ」等の実施に協力いただいた関係者の皆様に敬意を表するとともに、東北大学公共政策大学院の益々の発展を祈念いたします。
以上