専攻科目
地方分権・地方行財政政策、選挙制度
略歴
山形県遊佐町の出身で、地元の酒田東高等学校卒業まで鳥海山の麓で育ちました。1988年に東京大学法学部を卒業し、当時の自治省(現総務省)に入省しました。
本省では、選挙課、政治資金課、行政体制整備室(市町村合併担当)、自治大学校等に勤務しています。
選挙課では、衆議院の現行選挙制度である小選挙区比例代表並立制の企画立案に従事しました。また、日本が初めて本格的に国連の平和維持活動(PKO)に参加したカンボジアの総選挙(1993年5月実施)に、選挙監視要員として参加しました。この選挙監視要員としての体験から、国連の選挙支援活動について興味を持ち、1999年10月~2000年3月まで、ニューヨーク市立大学大学院の客員研究員として、国連の選挙支援部(Electoral Assistance Division)の活動を調査研究しました。
行政体制整備室では、市町村合併担当として、全国の講演会等に出向き、市町村合併の必要性や意義について説明を行いました。平成の市町村合併当初に3,232あった市町村数は、1,724(平成23年4月1日現在)となり、一定の成果があったと考えています。
地方では、愛知県や福井県、福岡市に勤務しました。福井県市町村課長の時は、江戸川乱歩賞受賞作家に依頼して、福井県の市町村を舞台とした推理小説を作成し、全国にその解答を募集するなど、市町村のPRに努めました。同財政課長時代には、1997年1月に日本海で発生したナホトカ号重油流出事故への対応に当たりました。
福岡市財政局長の時は、2兆6千億円を超える市債残高の縮減のため、市債発行額の段階的縮減を定めた「財政リニューアルプラン」の作成や福岡市債に対する格付けの取得等により、福岡市の財政健全化を進めたほか、一般競争入札の拡大や総合評価方式の導入など入札制度改革にも取り組みました。
2010年8月に東北大学公共政策大学院教授に着任いたしました。微力ながら、生まれ育った東北の地に幾ばくでも恩返しすることができればと考えています。
公共政策大学院での授業
2010年度後期の授業では、「地方自治政策体系論」を担当しました。日本が少子高齢化と財政危機に苦しむ中で、市町村合併の進展や、地方交付税による財源保障制度の見直し、さらには衆議院議員の議席配分方式に対する判例の変化など、これまで地方を制度的に支えてきた仕組みがどのように揺らいできているかを考察しました。
2011年度は、公共政策ワークショップⅠを担当し、7名の学生と一緒に「東北地方における広域連合等の広域的実施体制創設の可能性について」をテーマに研究を行いました。
広域連合については、東北地方では、各県の温度差もあり、現在でもあまり議論が進んでいない状況ですが、東日本大震災からの復興を遂げ、東北地方の将来に希望をもたらすためには、東北地方の6県が広域連合の下、力を結集する必要があるとの考えに立って、研究を進めました。初めて実務について学ぶ学生たちにとって、決して易しいテーマではありませんでしたが、関西広域連合や内閣府地域主権戦略室、東北地方の関係自治体、増田元総務大臣、寺田参議院議員(前秋田県知事)、山田全国知事会長など、関係者へのヒアリングを行い、できる限り現実的な制度設計となるよう、教員、学生共々、知恵を絞ったところです。
研究の成果として取りまとめた「東北広域連合の創設について」と題する政策提言については、去る1月24日に、学生から直接、村井宮城県知事に提言書を手渡しました。この様子は、地元新聞やテレビに大きく取りあげていただき、東北地方における広域連合創設に関する議論に一石を投じることができたのではないかと考えています。
2012年度は、「地域社会と公共政策論Ⅰ」を担当し、「平成の市町村大合併の検証」をテーマとして取りあげる予定です。平成の大合併については、住民サービスの供給体制の充実強化や行財政の効率化が図られたとの評価がある一方で、周辺部の旧市町村の活力低下や住民の声が届きにくくなったとの課題も指摘されるなど、様々な評価がなされています。本授業では、政府の市町村合併担当者をはじめ、合併をした自治体やしなかった自治体の首長など、多彩なゲストスピーカを招いて、平成の大合併を多面的に考察してみたいと考えています。
また、法学部の演習では、「現代地方自治演習」を担当しています。限界集落問題や自治体破綻など地方の疲弊の現状とその要因分析、「緑の分権改革」といった地域再生の取組み、市町村合併や道州制等の自治体再編の問題、さらには東北再生など、最近の地方行政をめぐる重要な課題について取りあげるとともに、地方自治体が地域活性化に取り組んでいる具体的な事例を分析することを通じて、自治体の政策形成のプロセスや施策実施上の課題等について考察を行っています。
ところで、東日本大震災からの復興を目指す現在の東北地方には、防災や風評被害対策、環境の復元、まちの再生、雇用の確保など、公共政策として考えるべき課題が多数存在しています。一人でも多くの学生がこの東北の地に集まり、東北と日本の将来のために何をなすべきなのかを一緒に考えて欲しいと思っています。このようなときにこそ、東北地方で学びたいという志の高い学生をお待ちしています。
研究室にて
東北地方では、人口減少や少子高齢化の進展、長引く不況による雇用機会の減少、医師不足など医療・福祉サービス提供体制の不足といった各県に共通する課題が従来から存在しており、東日本大震災後は、さらに防災体制の強化や新エネルギーの開発促進、風評被害対策などの新たな課題が加わっています。このような各県に共通した課題は、いずれも単県による対応では解決が容易でないものであり、東北地方全体として、人的、財政的資源を結集して取り組むことが望ましいものと言えます。
また、このような課題の解決にあたっては、出先機関の事務・権限も一体的に活用することが、効果的、かつ効率的です。
昨年度の公共政策ワークショップⅠでは、このような観点から、東北地方の各県が力を結集できる結節点として、また、出先機関の事務・権限の受け皿として、東北地方に広域連合を創設することを提言しました。
政策提言に当たっては、二つの大きな柱に基づいて、東北地方における広域連合が取り組む具体的な政策を検討しています。
一つめの柱としては、住民に「安全」、「安心」、「希望」をもたらす政策を考えるということです。東北地方では先述したように各県に共通した大きな課題を抱えていますが、震災後は、防災や失業問題など、新たな課題が加わったことで、住民は不安を募らせ、将来が見通せず、未来への希望が抱けない状況にあります。これを打破するためには、広域連合が取り組む政策によって「安全」、「安心」、「希望」を創り出すことが必要だと考えました。
二つめの柱としては、東北地方全体にメリットがある政策を考えるということです。広域連合の創設に消極的な知事の多くは、市町村合併において周辺部が衰退したと言われているように、広域連合の創設により人口が多い宮城県への一極集中が進み、他県は宮城県に飲み込まれてしまうのではないかといった警戒感を持っています。そこで、東北地方が一致協力できるように、特定の県にのみメリットがある政策ではなく、東北地方全体がメリットを享受できる政策を考えることに力点を置いて提言しました。
そして具体的には、「防災」、「医療」、「産業」の三分野を取り上げ、「防災」に関しては「広域防災拠点の整備」と「広域防災訓練の実施」、「医療」に関しては「ドクターヘリの共同運航」と「遠隔医療の推進」、「産業」に関しては「新エネルギーの開発促進」と「新商品調達認定制度」、「マイクロファイナンスの創設」を、それぞれ広域連合が実施すべき施策として提言したところです。
それぞれの施策は直ちに実現可能というわけにはいかないかもしれませんが、今後、東北地方において広域連合の創設を考える上で、十分議論のたたき台になるものと思われます。広域連合について関心をお持ちの方は、我々の政策提言「東北広域連合の創設について」をご一読いただければ幸いです。
現在、全国を通じて地方の疲弊が進む中、関西や九州では、大きくまとまることにより、権限や財源を集約し、地域の生き残りを図ろうとする動きが現実化しています。しかしながら、東北地方では、まだまだそのような動きは見られません。東北地方がバラバラのままでは、東日本大震災からの復興を遂げ、東北地方に安全・安心で希望のある東北地方を作っていくことは、難しい面があるのではないかと考えています。東北地方に広域連合を創設し、東北地方6県が人的・財政的な資源を結集できる結節点をつくることが今ほど求められているときはないと思います。
私自身は、微力ながら、今後とも東北地方における広域連合の創設について、多方面に訴えていきたいと考えています。東北6県の各知事の英断に期待しているところです。