ごあいさつ
これからの社会を構想するために
東北大学公共政策大学院は、公共政策分野の担い手として高度な専門的知識や能力を身につけた「政策プロフェッショナル」を育成することを目的に、2004年に発足いたしました。政策プロフェッショナルとして必要な知識や能力とは何か、どうしたらそれらを大学院で教えることができるのか。私たちが出した一つの答えが「現場力」であり、現場力を身につける場としての「ワークショップ」という授業形態です。
公共政策の企画・立案は、問題の発見、原因の分析、解決策の探求、政策の提言という一連の過程から成り立っています。そこでは、多くの専門的・学術的な知識も必要です。しかし、そうした「知識」は、頭のなかに入れておくだけでは干からびてしまいます。実践の場で生かすことによって、はじめて真の価値が発揮され、「知恵」となるのです。
頭のなかの「知識」を生きた「知恵」へと昇華するために必要なのが、現場力です。問題が実際に生起する現場に入り込み、自分の目で観察し、人びとの声に耳を傾け、その土地の歴史を理解する。現場で得た情報をもとに、現場の具体的な姿を頭に描きながら、政策を構想することができる。現場力とは、こうした力の総体です。
現場力を身につける場として私たちが用意しているのが、「公共政策ワークショップ(WS)」です。毎年度4つ設けられ、学生はそのいずれかに所属します。中央省庁から派遣された実務家教員と研究者教員が共同で、実務と理論の両面から指導を行うこともWSの特徴です。WSでは、実際の行政機関や民間企業と同じく、チームとして一つの課題に取り組みます。そして、現場に赴いてヒアリングや調査を行い、政策案を練り上げていきます。それは、これからの社会の理想を考え、構想するという意味で、クリエイティブなプロセスでもあります。
私たちの地元である東北地域は、2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けました。WSでは、仙台や宮城をはじめとする多くの東北地域の現場に出かけていき、復興や防災・減災、コミュニティの再構築、あるいは農業の再生といった課題を抽出・分析し、解決に向けた政策提言を行ってきました。これらの課題は東北地域に限られるものではなく、日本のその他の地域でも重要なものばかりです。さらには、新型コロナ対策のような緊急の課題や経済安全保障のようなグローバルなテーマも取り上げ、日本各地だけでなく外国にも調査の足を延ばしてきました。現場は至る所にあるからです。
本大学院の修了生は、国、地方自治体、シンクタンク、マスコミ、民間企業などさまざまな職場や分野で活躍しています。大学院で身につけた現場力や能力は、どのような分野に進もうと、役に立つものだと自負しております。修了生が経験し、また現役生が今まさに取り組んでいるのと同じように、私たちと一緒に現場に赴き、そして、これからの社会のあり方を構想してみませんか。みなさんのご参加を、心よりお待ちしています。