専攻科目
対外関係論
略歴
2009年9月1日から在籍。外務省出身の実務家教員です。福島県生まれ、1971年東京大学から外務省へ。外国(米国、中国、ASEAN等)及び外務本省(アジア局、経済協力局、情報文化局等)、内閣官房等で勤務。主な担当歴は、地域は中国、ASEAN、分野は政務、経済協力、広報・文化交流等。中国関係が最も長く(北京の大使館で公使(文化・広報)、上海で総領事。中国語を解する)、次がASEAN(二カ国で大使)です。(財)自治体国際化協会にも勤めました。
公共政策大学院での授業にあたって
10年4月から、WS1(修士一年生のワークショップ。謂わば、実務志向の大型ゼミで、本大学院の特色ある科目)の一つ(Cグループ)で、8名の院生と、地方自治体の国際交流事業(主に対外的側面)について、主に福島県と島根県松江市による中国関係事業を例に、調査、研究を行いました。そうした事業の、対外関係における自治体による「主体」的な活動という面の意義、地域の振興等にも果たし得る役割等に着目して、再評価を行うと共に、「オール・ジャパン」の外交の、重要な一環を成すものとしても位置付け、その効果的な実施の方途を考える、という趣旨でした。学内での講義・討論に止まらず、外務省やJICA、国際交流基金等の訪問・調査、福島県と松江市への訪問・ヒアリング等を行いました。更に、中国を訪れて、地方政府(江蘇省、浙江省杭州市)、大学(南京大学、浙江工商大学)、研究所(上海国際問題研究院)等の中国側機関及び我が国の上海総領事館、福島県事務所等で幹部方から話を聞き、意見交換や交流事業を行って、地方自治体の交流事業の意義と効果を実地に検証することを試みました。このテーマは、個別には良く知られた論点もありますが、種々の観点を包摂して、彼我双方からの視線で、地方自治体が対外関係に於て主体性を持って交流事業を行うことの意義を、多角的に捉えようとした試みは、恐らく初めてではないかと思います。院生諸君は、よく努力をして、実に立派に政策提言を含む報告書を纏めました。先ず仙台市への報告会を行った後、震災に遭って、福島県と松江市への報告は延期されましたが、良い折に実施したい考えです。振り返ると、テーマは少し大き過ぎた感もあり、読むべき資料、訪れる組織、面談する人達が相当多岐に渉って、苦心も多かったのですが、院生諸君には、純粋に学問的な境地を超えた、正に実地に、政策を志向する勉強をして貰えた、という面もあります。外務省やその他の組織で、また中国に於いても、責任ある幹部にお会いできたこと、中国の2大学で、学生間交流の実をあげたこと、中国へは、本大学院の牧原院長が顧問として同道して下さり、先方との間では、期せずして、大学(院)間交流の場が現出したこと等は、良い思い出です。
今年は、震災で学期の始まりが遅れましたが、新しいWS1を担当し、ASEANのラオス国と中国を例に、我が国の経済協力が、外交を含む我が国の対外関係に於て果している役割、有する意義を研究し、そのより効率的な実施延いては増進に向けて提言を行うことを目指しています。前回のWS同様に、外務省やJICAへの訪問、担当者からのヒアリング等は必須ですし、今回は、対ラオスで意義ある活動を行っているNGOとも接触する予定です。ラオス国の訪問、指導者表敬、政府機関からのヒアリング、大学生との交流、経済協力の現場訪問、日本にあるラオス大使館、現地にある日本大使館や国際機関の訪問・ヒアリング等も重要で、タイミング良く実施して行こうと思います。ラオスは、私が以前勤務していた地ですが、とても魅力のある国で、最近では旅行者にも人気が増しています。とは言え、一人で出掛ける機会は中々ないので、国際的な視野を広げる、という意味でも、現地視察は、良い機会であると思います。
院生諸君も、大いに期待している様子です。
この他に、政策実務の講義で、外交政策論を担当しています。前回は、09年10月からの学期でした。9月1日に大学院に着任したばかりで、模索しつつの講義でしたが、「外交とは」の総論から、対外関係の諸側面、重要な外交分野(中国、ASEAN等)、外交機関(外務省)の機構論と外交政策決定プロセス等を、演習的に、全員参加で学びました。自身の実務経験を踏まえ、現場感覚が出るよう工夫しました。いろいろ苦心もありましたが、提出された期末レポートを見ると、中々の出来栄えで、嬉しく思ったことでした。講義では、東北大学ゆかりの、中国の文豪魯迅の「藤野先生」を中国語で読むことも試みました。単に「魯迅」の名前を知るだけでなく、人と人の交流の意義を想う縁として、とのつもりです。
今年の5月から、同じテーマで、政策実務の講義をしていますが、今学期は、震災の影響もあり、時間がやや短縮されるので、前回の反省をしつつ、なお幅を広げて、勉強して行ければ、と思っています。
その他に、これまで主に学部生・研究大学院生向けに、日中関係論、近現代の対中外交論、ASEAN論等の演習も担当して来ました。龍学生諸君も約三分の一を占め、交流の場としても中々楽しいものがあります。皆で餃子を作り、茹でて食べる「餃子会」コンパも二回ほど行いました。これは楽しいものです。第三回目は、震災の影響もあり、延期されたままですが、、、。
研究室にて
耐震工事が成った川内の法学研究棟の研究室に移り、仕事も軌道に乗ってきた旨、この欄に記したのが、随分以前のことのように感じられます。その後、大地震と大津波が起り、世の中がすっかり変わってしまいました。東日本の広大な地域で、多くの方々が、甚大な被害を受けられ、今もなお、困難な状況下で、奮闘しておられます。また、その中で起きた原発の大事故は、世界史的な、問題の広がりと深刻化を齎し、未だに(6月初現在)事故自体の終息を見ていません。私も、職場のある仙台、居住する郡山市(福島県)、実家のある田村市(同前)、留守家族のいる東京で、被災し、現在も、放射能におびえ、風評被害に苦しむ福島から、大学に通勤しています。これまでの状況の推移は、本当に人生観が変わる程のものでした。
地震と津波の巨大さ、被害の甚大さ、なお続き、拡大する放射能の危険等は、何れも大変な事態です。しかし、先日まで、公務員として行政の一端に連なった者として、私には、それら自体への深刻な思いに加えて、何がこうした大災害、災厄を齎したのか、それらを「天災」、「想定外のこと」等と片づけて良いのか、政府や公務員の側で、もっと何かが出来たのではないか?復興と蘇生には、深く、厳しい反省と、問題の剔抉が必須ではないか、といった想念が去来します。
大震災の中心的被災地、東北は仙台に所在する東北大学公共政策大学院に学び、研鑚を積む院生諸君は、明日の日本とそこでの行政を支える中心的存在として、震災・原発事故と行政の関わり、使命感に燃え、責任感覚の旺盛な公務員のあり方などについて、深い考察を為し、立派な公務員となる資質を身につけるに至るであろうと思われます。
私は、学部生・研究大学院生向けの日中関係論、対中外交論等の演習、本大学院での対外政策の講義等では、歴史的状況の下での為政者や外交当局者の責任を論じたりして来ていますが、今年は、公共政策大学院でのワークショップに於ても、日本外交や今次震災に関連した行政の使命や責任等の問題をも考えて行きたい、と思います。
研究室窓外に広がる若葉の緑を眺望しつつ、東北延いては日本の早急な復興と原発事故・放射能の危険の安定化を祈って。