公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2004年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:自然災害により被災した住宅の再建支援

a)このワークショップの目指したもの

 自然災害により住居が被害を受けた場合、近年、被災者に対してその補償を行うべきではないかという主張がしばしば行われている。現在の我が国の補償法体系の下では、誰の責任でもない自然災害による被害について公的な補償が行われることは肯定されていないが、現実には、住居の回復・確保に関しては、公的融資をはじめとして、様々な形で公的支援措置が講じられている。しかし、これらの措置は、必ずしも体系的ではなく、被災者の置かれているケースによって受けられる支援にはかなり大きな格差が存在し、生活の本拠となる住居の確保という最もベーシックな要請にしては、適切な対応ができているとは決して言い難い面がある。自然災害により住居が滅失・毀損した世帯に対し公的支援を行おうとする場合、それは、どの様な考え方に基づいて行われるべきか、また、どの程度の支援がふさわしいか、さらに、国・都道府県・市町村の負担区分はどうあるべきかといった課題については、確立した考え方があるわけではない。このワークショップでは、上記の課題に対して、調査・議論・検証を駆使したワークショップ方式で、理論的に優れ、実社会における実現可能性を持った提案を行うことを目指して行われた。

b)ワークショップの実施内容と手順

 このワークショップにおいては、平成15年7月に発生した宮城県北部地震の被災住宅世帯を具体例として取りあげ、その被災世帯に対する実態調査を通じて、「実際にどのような公的支援が行われたか」を把握し、「現行法に基づく救済・支援策にはどのような問題が存在するか」を見いだし、上記の課題について、現実的かつ理論的にアプローチする形をとった。

 具体的には、本ワークショップでは、次の手順で、作業が行われた。
@まず、参加者は、被災者支援のための法制度と現実にどの様な支援が行われたかを把握することからスタートした。
A次に、参加者は、これらの現行制度にどのような問題点が存在するかの検討を行った。
B次に、参加者は、被災地に出向いて、被災者が実際にどの様な支援を受けることができたかという視点から、インタビュー調査を実施し、被災者の側から見た救済支援の実態を把握することとし、そのために必要な調査票の作成、地元町等関係者とのフィールド調査実施のための具体的な調整・準備を行った。
C10月下旬から11月上旬にかけて、参加者全員で、現地に出向き、土曜、日曜に、計7日間、フィールド調査を実施した。
Dこれらの調査の結果得られた220の調査票に関し、その集計・分析を行い、その内容を踏まえて、現行の支援制度の持つ限界、問題点等を議論した。
E12月から1月にかけて、外部講師を招いて、議論を行い、改善策についての現実的・理論的検討を行った。
H以上の総合的考察の成果として、最終提案の作成を行った。

 月別により具体的に見ると、

4月現行災害関係法制の概論講義
5月現行法制度の把握と憲法学、行政法学等からの本問題に対するアプローチ実績の把握
6〜7月現行法制に基づく支援実施内容に関する関係機関へのヒアリングの実施等、現行制度の運用実態の把握
7〜9月被災者に対する調査項目の検討と調査票の作成、フィールド調査実施のためのプログラムの策定・調整
10〜11月被災者に対するフィールド調査の実施
11月フィールド調査結果のまとめと分析及び現行支援法制の問題点の摘出
12月支援法制のあり方に関する討議
1月あるべき支援法制のまとめ

c)本ワークショップによる検討の成果

 本ワークショップにおいては、各参加者はチームを組み、教官の指導の下に、自ら企画して調査を行い(インタビュー調査項目の決定、調査実施に関する県当局、町当局との調整、被災者へのインタビュー等はすべて参加者が自ら行った)、関係行政部局等へのヒアリングを実施し、責任を持ってその成果を発表するという形で、終始一貫して自己責任作業を行うことに重点を置いた。参加者は、教室をでて、現実の社会の中で行動することを要請されるため、学生といえども、社会の一員として行動し、相手を説得し、理解してもらうことが必要となる。これらの外部との折衝・調整を通じて、学生達は、相手との間に人間としての信頼関係を築くこと無しには、良い成果は得られないことを身をもって経験することになった。

 各チームの得た成果は、参加者全員が共有し、その上に立って徹底した議論をし、結論を見いだすという共同作業が行われたが、これが十分に行われないと、手戻りが多く、作業が順調に進捗しないという結果をもたらしたため、学生達は、チームワークの重要性を痛感せざるを得ず、組織の中でその一員として役割を果たす上で、何が最も必要なのかを体感することとなった。

 また、上記の調査検討においては、自然災害と補償、自然災害と国・地方公共団体の責務、自然災害による被害に対する救済の在り方と基本的人権、公的支援と自力救済或いは共済という三つの考え方をどの様に組み合わせるか、といった行政法学や憲法学の極めて高度な理論的検討を行うことが避けられない。参加者は、研究面と実務面の両面において第一線の議論に触れ、自らの理論構築能力を養成する機会が与えられることになった。しかし、現実に、この部分については、学生達は、個人の住居の再建等に公費を投入するに値する「公益性」が認められるか、それはどのような公益性かという点等を中心に、極めて困難な理論的検討課題に直面する結果となり、度重なる議論が行われたにもかかわらず、十分説得力のある理論的結論に到達し得たかといえば、必ずしもまとまった成果を挙げることができたとは言い難い結果となった。ただ、この課題自体、かつて政府内部で長期間をかけて検討された経緯を有しており、第一線の学識経験者からなる委員会においても明確な結論を得るに至らなかったことを考えれば、今回の検討のレベルとしては、必ずしも低いものであったとは思われない。

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