公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2005年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:広域市町村における新たな食料・農業・農村基本政策の推進方策調査−「食」と「農」が共生するまちづくりの提案−

a)ワークショップのねらい

 近年、「農業政策」が「食料・農業・農村政策」へと広がりを見せている中で、各市町村において地産地消、都市農村交流、食育、循環型農業等の新しい取組が進められている。一方、市町村合併が進展し、都市部市町村と農村部市町村が合併したような広域市町村が見られるようになってきている。

 本ワークショップは、このような「食料・農業・農村政策」の視点と「合併」の視点を結び付けた政策提言を行うこととし、都市部・農村部双方を含む広域市町村を念頭に置いて、双方の住民にとって意義のある、新たな食料・農業・農村の基本政策のあり方及びその推進方策をモデル的に立案することを目的として調査分析を行った。

b)ワークショップの経過

ア.調査分析の前提条件

 担当教員からはあらかじめ次の前提条件が示された。
@メンバーは、最近都市的市町村と農村的市町村が合併して誕生した市の農政課職員として、都市部住民、農村部住民の双方にとってメリットがあり、かつ、双方の住民が一体感を持ち得るような施策を検討すること
A施策の検討に当たっては、基本的な施策のあり方及び具体的な施策内容に加え、実現に向けての推進手法(関係者の合意の取付け方法等)も併せて示すこと

 このような前提条件の下で、どのような問題意識に基づいて調査分析を行うか、1年間の行動計画をどのように立てるか等については、学生自身で検討することとした。

イ.経過

 前期は、4月から5月にかけて担当教員等が主導して食料・農業・農村政策や地方自治に関する基礎知識の習得を行った後、学生主体で1年間の行動計画(調査設計を含む)を作成し、担当教員の審査を受けた。その上で、以後は学生主体で当該計画に基づく調査分析、報告書の作成等を行った。毎回の運営についても、基本的には学生主体で進められた。

 まず、仙台市担当者へのインタビュー及び仙台市内で開催される農業関係のイベントにおいて来場者へのアンケート調査を行う(7月)ことを通じて広域市における食料・農業・農村政策上の課題についてのおおむねの理解を得た。その後、インターネットを活用して、全国の市町村を対象に食料・農業・農村基本条例又は基本計画の策定状況及び消費者・農業者双方にメリットのある施策に関する先進事例の調査を行った(〜9月)。

 後期は、以上の調査を通じて、地産地消、都市農村交流、食育及び循環型農業が取り上げるべき施策であるとの認識で一致し、これらを取り扱うこととして検討を進めた。

 中間報告会(10月下旬)では問題意識を確定し切れていないとの指摘があり、これを踏まえて「食料・農業・農村政策」と「合併」との関係を整理し、合併によって生ずる問題点の解決に「食と農をつなぐ」施策がどう貢献し得るかとの視点に基づくこととした。 その後、これまでの調査・分析の結果を念頭に置きながら、実際に都市部・農村部が合併した東北地方の6市(八戸市、盛岡市、秋田市、酒田市、鶴岡市及び会津若松市)の合併担当者及び農政担当者へのインタビューを実施し(12月)、そこから得られた成果を基に、最終報告書を取りまとめた(2月)。

c)ワークショップの成果

ア.最終成果としての報告書の作成

 最終報告書は、「市町村合併に伴う問題点について、食料・農業・農村施策を用いた解決策及びその推進手法を立案し、合併市に対して提案すること」を目的に、東北地方における合併市を念頭に置きながら、「合併市における住民の一体化の醸成」を図る観点からの地産地消、都市農村交流、食育及び循環型農業に関する施策の活用、当該施策を推進するための基本計画の策定等を政策提案するものとして作成した。

 最終報告書については、本大学院の最終報告会における発表後、東北農政局に対して報告を行い、評価を仰いだ。市町村合併問題に加え、地産地消、都市農村交流、食育及び循環型農業を対象とし、かつ、推進手法まで調査分析した結果、いずれも掘り下げが十分ではないことを指摘されたが、現在の食料・農業・農村施策の動向を踏まえている点、「合併市における一体感の醸成」との視点で施策を取りまとめてパッケージ化している点については良い評価を受けた。

イ.ワークショップの作業過程を通じて修得されたもの

 ワークショップの作業は受け身ではなく、かつ、集団で進めていかなければならない。このような作業の経験を通じて、実社会における組織としての行動についての経験と自信をある程度得ることができたものと考えられる。また、最終報告書の作成、プレゼンテーション資料の作成、最終報告会における想定問答等については基本的には学生主体で取り組んだ。具体的には、学生の案に対して担当教員が指摘を行い、その指摘をふまえて修正案を作成するとのプロセスをとったことから、効果的かつ理解しやすい説明とはいかなるものであるかを体感することができた。

 東北地方の合併6市へのインタビューについては、質問表の作成、調査旅行プランの作成等に至るまで各参加学生が自ら企画して実施した。いずれの市にあっても担当者の方々に長時間にわたり真摯に対応していただき、メンバーも実際の行政の現場の思いが体感できたのではないかと考えている。ただし一つ残念であるのは、時間的制約からインタビュー先が行政担当者のみとなったため、関係者(本テーマの場合は農業団体、消費者団体等)の方向性が必ずしも一致しない場合が多々ある中で、どのように調整・連携しながら問題解決が図られていくのかといった点について実感を持つのが難しかったのではないかと思われる点である。この点については、学生が意識して、2年次のワークショップIIにおいて補うよう努力することを期待している。

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