公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2005年度 ワークショップI プロジェクトB

■プロジェクトB:保健福祉分野における行政計画と政策評価

a)趣旨

 本ワークショップは、宮城県保健福祉部の協力を得て、同部が平成17年度に行った二つの行政計画の見直しのプロセスに参加しながら、計画の評価を踏まえた政策提言を行うことを目的とした。二つの行政計画は、介護保険を中心に高齢者の保健・医療・福祉の基本指針を定めた「みやぎ高齢者元気プラン」と、生活習慣病予防を中心に健康増進の基本指針を定めた「みやぎ21健康プラン」である。

 ワークショップの実施にあたり、以下のような基本方針を設定した。
ア.国や市町村ではなく、県の立場を想定して検討を行う。
イ.法制度面からの検討に留まらず、科学的見地からの定量的な検討を重視する。
ウ.実地調査を行う際には、先進的な地域や事例のみに目を向けるのではなく、通常の事業を行う地域や事例も重視しながら全体的な理解を得る。

b)経過

 前期は、「みやぎ高齢者元気プラン」と「みやぎ21健康プラン」に関連する法制度と施策の現状と課題について、県庁職員の講義、福祉施設見学、文献購読などを通して理解を深めた。具体的な作業としては、高齢者介護と生活習慣病それぞれから個別テーマを設定し、発表と質疑応答を通して問題点や改善方法について議論した。高齢者介護については、権利擁護、介護サービス従事者の質の向上、在宅・施設の基盤整備などを題材として取り扱った。生活習慣病については、たばこ対策やアルコール対策、がん予防対策などを取り扱った。

 後期は、本ワークショップで政策提言を行う重点課題として、介護予防と脳卒中予防を選択し、要介護者の増加抑制という目標を設定した。具体的な作業としては、県内市町村における介護予防事業と健診の実施状況と効果に関する統計的分析、介護予防の有効性に関する医学文献の批判的吟味、健診の受診率を向上させるための施策の検討などを行った。

 以下のような実地調査を実施した。
ア.宮城県の保健福祉行政に関する県庁職員の講義(6回)
イ.福祉施設見学(グループホーム、老人保健施設、特別養護老人ホーム、仙台フィンランド健康福祉センター)
ウ.介護予防に関するヒアリング(宮城県保健福祉部、東北大学医学部・歯学部、仙台市、角田市、登米市、涌谷町、柴田町、大河原町、亘理町)
エ.脳卒中予防に関するヒアリング(宮城県予防医学協会、角田市、三本木町、松島町)
オ.宮城県の実施する調査の補助(高齢者虐待調査、県民健康調査)
カ.「みやぎ高齢者元気プラン」と「みやぎ21健康プラン」に関する県検討会の傍聴
キ.統計解析プログラム講習会

c)成果

 調査の成果は最終報告書にまとめた。重点課題として選択した二つの施策のうち、介護予防については、医学文献の批判的吟味に基づく再検証の結果、有効性に関する科学的根拠が十分に確認された運動器の機能向上、栄養改善の二分野を優先的に実施するよう、県から市町村に技術的助言を行うことにした。また脳卒中予防については、健診受診率を現行の50%から80%に引き上げることを目標に掲げ、市町村がそれぞれの実情に適した未受診者対策を実施することに対して県が財政的支援を行う新規補助金制度を提言した。これら二つの提言を実行することで、平成22年度における宮城県の要介護者の推計増加数を10%(1,164人)抑制し得ると試算された。

 調査の結果は、本大学院の最終報告会で発表したほか、宮城県保健福祉部においても報告会を行った。最終報告書の一部(介護予防の有効性に関する医学文献のまとめなど)を、県が次年度より行う市町村への指導に活用したいという意向も示され、調査結果が実際の行政に反映される成果もあった。

 ワークショップを通して、通常の講義や演習では十分に獲得できない各種の能力を、学生は身につけた。一年を終えたある学生の次のような感想が、その成果を物語っている。

「公共政策ワークショップIは、学生次第でどのような方向にも持っていくことが可能な、非常にやりがいと魅力がたくさんのものであると実感している。取り組んだ研究そのものへの知見はもちろんのこと、集団作業というものを通して、人間的にも大きく成長できた。ワークショップそれ自体が研究でもあり、生活でもあり、自己分析ツールでもあった。」

▲このページの先頭へ