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■プロジェクトC:日本の国際協力における「人間の安全保障」の推進

a)このワークショップのねらい

 冷戦終結後の国際社会においては、人々の生命や安全を脅かす様々な新たな脅威が深刻化し、従来のように国家が国境を守るという発想だけでは十分な対応ができなくなっている中で、新たに「人間の安全保障」という理念が主張されるようになってきている。近年日本政府も、日本の強みを生かした積極的な国際貢献という文脈の中で、国連などの場を通じ「人間の安全保障」概念の普及と具体的適用に努力してきているが、未だ十分な理解が得られているとはいえない状況にあり、今後の進め方が課題となっている。

 このような状況を踏まえ、本ワークショップにおいては、近年日本の国際貢献にかかわる対外政策の中で重要な位置を占めつつある「人間の安全保障」について、その前提となる冷戦後の国際社会が直面する課題についての分析・検討を踏まえつつ、この理念の有効性、具体的適用の現状・課題、さらに国際社会の他の主要なアクターの取り組みなどを分析・評価し、今後の日本の国際貢献協力の展開の中で、この理念をいかに位置づけるか、またその具体的適用をいかに進めて行くべきかについて検討し政策提言を行うことを目標とした。

b)実施概要(以下の仕分けは概念的なものであり、実際には重なっている部分がある。)

ア.第一期(概ね夏休みまで)

 「人間の安全保障」理念については、学問的研究、国際機関の 主要なアクターによる具体的適用を前提とした定義づけ等、さまざまなレベル、アクターにより、いろいろな主張が行われてきており、またその概念が射程とする分野も、開発経済から、人権、紛争など広範囲にわたっているので、まずこれらの全体像について把握し、国際問題、対外政策についての基本的知識をもつための主要文献講読を行った。それとともに、日本政府による本理念の精緻化の努力と具体的実現の方法への取り組みの基本点ついて理解するために、関連省庁の政策担当者に対するインタビューを実施し、本グループ独自の評価を行うための基本的知識の涵養と、問題点のおおまかな把握を行った。

イ.第二期(夏休み以降初冬まで)

 上述の活動等を通じ、本理念及びその具体的適用にあたっての基本的枠組みを理解した上で、さらに掘り下げた形で日本政府による本件にかかわる政策実施の具体的な問題点を把握し今後の展望を検討するため、インタビュー先を複数の省庁、部局、関連独立行政法人、さらに国連関係者にまで拡げ、政策提言の具体的内容の策定につながる重要性を意識しつつインタビューを行った。これらの結果を踏まえて、本理念に関する今後の政策の進め方に関する本グループ独自の評価、政策提言の内容についての方向付けを進めた。

ウ.第三期(初冬より2月初めの最終報告まで)

 上述のような作業を通じて得られた情報の分析・評価と、グループ内での各論点についての議論の積み重ねを通じ、日本政府が、国際社会の直面する新たな問題に対処するための日本独自の強みをいかした貢献としての「人間の安全保障」概念についてその基本的理念について評価できるとする一方で、今後の課題にかかわる重要な点として、@方法論の曖昧さ、及びAこのような曖昧さによる日本のODA政策への反映の不足の存在が問題であるとの結論が得られた。そしてこれらを克服するための具体的改善策としてのグループ独自の方法論を提唱し、その実践として4つの具体的分野をとりあげて、グループ独自の具体的政策提言をとりまとめた。

c)成果

ア.最終報告書のとりまとめ

 本テーマは、対象分野が広範にわたり、また関連するアクターも国際的次元及び国内的次元の双方において多様である等、必ずしも容易なテーマではなく、また、作業の遂行にあたっては、現地調査にかかわる制約や政策実務の現場との距離等の困難もあったが、このような制約の中で、グループとしての独自の評価と付加価値をもった政策提言の策定に積極的に努力した。このような努力は、幅広い文献調査、国際機関を含む多くの政策実務関係者へのインタビュー、プロジェクト・ドキュメントの講読に加え、国連改革等にかかわる国際社会の動きや、日本政府内での組織改革の進展等を含む、現実の社会において同時進行している動きを踏まえながらの作業を通じて行われ、最終的に、現場での動きをも踏まえた独自の視点からの具体的提言をとりまとめることができた。

イ.団体作業の円滑な遂行の修得

 具体的政策提言のとりまとめという、一つの明確な目標に向けての集団作業を学生達自身のイニシアチブで遂行する経験を通じて、作業分担、スケジュール管理などのロジスティックにかかわる面とともに、異なる意見の集約や建設的な議論の進め方、効果的なプレゼンテーションの仕方などを修得することができた。

ウ.対外政策分野に関する基本的知識の涵養

 「人間の安全保障」を一つの切り口として、国連などの国際機関、主要国や途上国の立場と動き、さらに日本政府の関係者、NGOなどさまざまなアクターの立場や考え方、相互の関係等の対外政策にかかわる基本的知識と、国益や国際貢献等の対外政策の基本的論点についての理解を深めつつ自らの視点を養うことにより、国際社会が直面する主要な課題と日本の国際的貢献のあり方などの対外政策について考える際の基本的知識を涵養することができた。

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