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■プロジェクトB:宮城県制度融資における創業支援機能の強化

a)趣旨

 本ワークショップでは、地域経済の活性化のための金融行政施策のひとつとして、宮城県が民間金融機関等と連携しつつ自ら実施しているいわゆる「制度融資」に着目し、特に、その各種メニューの中でも、「創業育成資金」に焦点を絞り、宮城県に対し、同資金の制度や取組体制の改善策を政策提言するべく、調査・研究を実施した。同資金を選定した理由は、企業の創業期はリスク評価が難しいため民間金融機関が単独では融資を敬遠しがちであり、従って、社会全体から見れば本来融資されるべき新規事業であっても融資されないといういわゆる「市場の失敗」(情報の非対称性)のケースであり、官の介入が正当化されるにもかかわらず、他県と比べても現状の取組が不十分と考えられたからである。

b)経過

 前期は、まず、金融の基礎的知識の習得のための文献購読(4月に毎週2回)から始まり、次に、地域金融における主要な行政当局・金融機関である、東北財務局、日本銀行仙台支店、日本政策投資銀行仙台支店、宮城県庁、仙台市役所、七十七銀行、仙台銀行、杜の都信用金庫等への訪問・幹部等からの講話・質疑応答等(5月、6月にほぼ毎週2回)を通じ、幅広く地域金融の現状と課題の理解・把握に努めた。その後、テーマの絞込み作業を行い、結局「小規模事業金融の課題とその政策的支援」とすることになった。その調査のため、上記各関係機関に加え、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工会議所、融資先企業等への聞き取り調査(訪問)及び専門的な文献調査を積極的に実施した。その結果を元に、毎回の正規ワークショップ会合で、「学生のみによる事前打ち合わせを踏まえた上でのペーパーに基づく報告・質疑→今後(特に次回まで)の作業内容の決定」を繰り返し、上記テーマでの中間報告(10月)に至った。

 後期は、中間報告の反省を踏まえ、テーマをさらに絞り込むこととし、政策提言先を宮城県に絞るとともに、支援すべき対象も創業期の企業に限定することとし、テーマを「宮城県制度融資における創業支援機能の強化」とした。このテーマの下で、東北経済産業局、みやぎ産業振興機構を新たに調査先に追加して、更なる県内関係機関への聞き取り調査(主に訪問)を進めるとともに、他県の現状を調査するべく、全都道府県庁の制度融資担当者への照会調査(メール)及びその結果を踏まえての福井県庁、鳥取県等の先進事例の聞き取り調査(電話、メール)を実施した。また、それらと並行して、制度融資や創業支援の公益性、制度融資・政府系金融機関による融資・民間金融機関独自の融資の関係(役割分担、棲み分け等)の整理といった理論的な論点について文献調査を深め、最終報告(2月)にむけての「理論武装」を行った。ワークショップの運営方法としては、前期同様、毎回の正規ワークショップ会合で、「事前打ち合わせを経たペーパーに基づく報告・質疑→今後(特に次回まで)の作業内容の決定」を繰り返す方法を採った。

c)成果

ア.最終成果としての最終報告書の作成

 調査・研究の成果は最終報告書にまとめた。同報告書では、宮城県の制度融資メニューのひとつである「創業育成資金」について、その現状を分析し、他県の先進事例とも比較した結果、課題として、@創業時審査の困難性、A融資条件の厳しさ、B県が行う他の創業支援策との連携不足が浮き彫りとなったことから、これらの課題を解決するために、「創(はじめ)」という名称の新創業育成資金の創設を宮城県に提言するとしている。「創」においては、創業支援者数を導入初年度において130件(現在は年40件程度)にするとの目標を設定し、新規性・成長性を的確に評価するための「評価委員会」の設置、全国トップクラスの優遇融資条件、みやぎ産業振興機構が行う創業支援策との具体的連携策を盛り込むことにより、3つの課題を解決するとしている。また、併せて、「創」の広報・公聴制度の強化及び「創」単独を対象とするきめ細やかな行政評価の実施もパッケージにして政策提言するとしている。

 この最終報告書に基づき、本大学院の最終報告会で発表を行った。また、宮城県産業経済部に報告したところ、大いに参考にさせていただくとのコメントをいただいた。

イ.ワークショップ全体について

 本ワークショップには、経済学を専攻した学生はたまたまひとりもおらず、まして金融というある意味で極めて専門的な分野のテーマであったが、地域金融機関や政府系金融機関の現状、中央・地方の金融行政の仕組み等金融の基本的知識の習得はできたと考える。また、学生主体でフィールド調査を中心に集団作業(特にワークショップBは9人と多かった)を10ヶ月余にわたり経験したことにより、社会人として当然に必要とされる組織のなかでのチームワーク作業能力(同僚との対人関係、スケジュール等のロジ管理を含む)、対外的なコミュニケーション能力、情報収集のための折衝能力が涵養されたと考える。また、毎回の発表や中間・最終報告会により、政策文書の作成能力、報告・発表のプレゼン能力についても、相応の習熟がなされたと考える。

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