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■プロジェクトC:「21世紀東アジアのグランド・デザイン構築における日本の役割」に関する政策提言

a)このワークショップのねらい

 冷戦終結以後の世界政治の特徴の一つとして、グローバル化の進展を背景とした地域主義の興隆がある。東アジア地域においても、経済面のみならず多様な分野においていわゆる機能的協力が進展し、相互依存関係が深化している。これを受け、日本政府も東アジアサミットなどを通じて「東アジア共同体」に言及するなど、今後の東アジアの地域主義のあり方を模索している。その一方で、例えば歴史問題や領土問題など各国間のナショナリズムの高揚により、政治的緊張感は高まりつつあり、相互間の信頼醸成を妨げる要因ともなっている。

 このような状況を踏まえ、このワークショップにおいては、21世紀の東アジアのグランド・デザインのあり方を考察し、その達成に向けて現時点において日本がなすべきことについて具体的に検討して、政策提言を行うことを目的とした。

b)実施概要

ア.第一期(概ね夏休みまで)

 まず、「東アジア」という地域を検討するに当たっての問題意識を絞り込む前提として、東アジア地域において昨今議論される「東アジア共同体」構想について文献調査を試みると共に、経済統合の発展モデルについての基本的な知識を共有した。次に、現在、東アジア地域において行われている金融、貿易、環境、エネルギー、保健衛生、災害対策といった分野での協力の枠組みや具体的な内容、今後の方向性について調査・分析することによって全体像を把握し、日本の東アジア政策について議論するための基本知識の習得を図った。これらの調査を元に、本ワークショップとして検討していくべき政策分野として、暫定的に、@金融・通貨、A環境・エネルギー、B通商・投資、の三分野を選定して、本ワークショップ独自の政策提言を行うための下地としての知識の涵養と、問題点の大まかな把握を行った。

イ.第二期(夏休み以降初冬まで)

 上述の活動を通じ、東アジア地域における協力の可能性を持つ三分野についての基本的枠組みや問題点を理解した上で、更に掘り下げた形で日本政府および政策担当者による本件に関する政策実施の具体的な問題点を把握し今後の展望を検討するため、複数の省庁、部局、関連政府機関、団体等を選定し、これらに対するヒアリング調査を行った。これらを踏まえて、日本の東アジア政策のあるべき姿の方向付けを進め、政策分野の更なる絞込みと、今後の政策の進め方に関する本ワークショップ独自の評価、政策提言の内容についての方向付けを行った。

ウ.第三期(初冬より年末まで)

 上述の活動により得られた情報の分析・評価と、ワークショップ内での議論の積み重ねを通じ、本ワークショップ独自の政策提言の方向性として、日韓関係の重要性を指摘するべきであることが得られた。対外政策を扱う本テーマの趣旨に鑑み、また学生としてのリベラルな立場を生かしつつ、国際的なバランス感覚に配慮した政策提言を行うべきとの趣旨から、インタビュー先を韓国政府機関、および韓国経済団体にまで広げた。また、韓国の研究者および学生との共同ワークショップを通じ、外国の考える東アジア地域について肌で感じる機会を得、本ワークショップ独自の政策提言を行うための、より踏み込んだ情報を得ることに成功した。

エ.第四期(年明けから二月の最終報告まで)

 以上のような活動を通じて、日本および東アジア地域の将来にとって東アジア共同体の構築が必要であり、その構築に関しては経済分野での協力が重要であると認識した。その中でも日韓経済連携協定の締結が地域に与える影響の重要性を指摘し、大局的視点からその締結に向けた努力を進めるため、日韓経済連携協定締結に向けた日本の具体的役割を提示した。

c)成果

ア.報告書について

 本テーマは対象分野が広範囲にわたり、また関連するアクターも国際的次元及び国内的次元の双方において多様であり、文献調査には相当の労力を要した。また、現地調査という観点からも制約を受けざるを得ず、必ずしも容易なテーマではなかった。

 しかし、そのような状況にもかかわらず、韓国でも現地調査及び国際共同ワークショップによる検討を通して、外的な視点から日本の立場を相対化することが可能となり、同時に最終報告書に記したような具体的な提言を骨太なものとすることができた。そうした点で、今回の報告書は、ともすれば抽象的な提言になりがちな国際ワークショップの弱点をかなりの程度克服することができたものと自負している。

イ.ワークショップ全体について

 まずワークショップの作業を個々のプロジェクト毎に割り当てられた作業室で行うことにより、自然と皆が議論や作業を行える環境が確保され、さながら行政が政策立案を行うときのような白熱した議論がなされるなど、学生主体で運営が行われていた。また、そうした政策形成過程の経験のみならず、スケジュール等のロジ管理やプレゼンテーション、そして最終報告会等における的確な質疑応答など実社会において不可欠な行動についても今回のワークショップを通じて皆が相応に習得したものと考えられる。

ウ.対外政策分野に関する基本的視座の涵養

 東アジアのグランド・デザインに関わる政治・経済・文化の現状と政策提言を検討するにあたって、グローバルな地域主義の動向や理論的検討、主要国の外交政策、ビジネスやNGOといった様々なアクターの動向、といった対外政策にかかわる基本的知識を修得すると共に、政策の立案・交渉・施行を担当する者として何ができるのかを主体的に考察することで、国際社会が直面する主要な課題にどのように対応するか考える際の基本的視座を涵養することができた。

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