公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2006年度 ワークショップI プロジェクトD

■プロジェクトD:「地方中小都市の中心市街地の活性化」及び「産業廃棄物最終処分場の立地問題」

a)特色

 このワークショップは、通常のワークショップと異なり、1年間に二つのテーマを取り上げた。前期のテーマとしては、「地方中小都市の中心市街地の活性化問題」を取り上げ、後期は、「産業廃棄物最終処分場の立地問題」を取り上げた。これらの二つのテーマは、いずれも、今日、東北地方の市町村が直面している極めて困難な現実的課題であり、これらを解決することは喫緊の問題となっているが、いずれの問題も、広角的、複合的、計画的、現実的アプローチが必要であり、経済学的、法学的、社会学的、地理学的な見地からの総合的判断が必要な問題でもある。

b)前期課題:中心市街地活性化

 地方都市における中心市街地の衰退は、平成に入って急激に進み、中心市街地活性化法をはじめとするいわゆるまちづくり三法が制定され、全国で活発な施策展開が行われた。にも関わらず、中心市街地の衰退は止まらず、最近では大規模小売店舗の郊外立地が中心商業地衰退の主因の一つとされ、その立地コントロールの必要性が強調されてきた。このワークショップでは、極めて厳しい状況に置かれている地方中小都市について、その認識と政策の基本的方向が正しいものであるかを再検討し、あるべき施策の方向と具体的な施策を提案することを前期の目標とした。

c)後期課題:産業廃棄物処理施設の立地コントロール

 後期のこの課題も現在東北各地で大きな問題を引き起こしているが、これに関しては、
i 現行廃棄物処理法が廃棄物処理施設の立地を市場に任せ、処理施設の安全性の確保と周辺環境の保全の視点からの規制を実施しているに留まっており、適切な立地コントロールを行うための規定を欠いていることに対して、適正な立地を確保するための法制度上の対応をどのように構築していけばいいかという点
ii 産業廃棄物は、様々な都市活動の結果として生じるものである以上、その処理を行うための施設が立地する地域で生じている様々な問題を解決する責務は、廃棄物の排出地域と排出事業者にあると考えられるが、これらの責務を果たす上で不可欠な費用が生産・消費の過程で適切に負担されていないのではないかという視点から、適正な負担とその還元の仕組みをどのように構築していけば良いかという点
を検討し、提案することを目指して作業が行われた。

d)実施内容と手順

 前期の作業は、次のような手順で行われた。

@現状認識と問題意識の確立

 現状についての実態を正確に把握することが政策検討の第一歩であるとの認識に立って、学生たちは、早い段階から現地に出向き、その後も繰り返し現地を訪れて自分たちの認識を再確認する作業を行った。

A運用を含む現行法制度についての正確な知識と問題点の把握

 @の作業と併行して、まちづくり三法をはじめとする現行諸制度についての把握作業を行い、それらがどういう仕組みで機能しているか、それぞれの法制度の射程はどの範囲まで及んでいるか、制度間の連携はとれているか、これまでの実績はどうなっているか、トータルとして評価できるものとなっているか、評価できないとすればそれはどういう点か等について、多くの解説書、論文等を読破する作業を行った。

B問題点の確認とその検証

 @とAの作業を通じて明らかになった制度と政策の問題点を整理し、関係者にヒアリングを行い、自らの問題意識を確立し、施策検討の仮置方針を纏める作業を行った。問題点の例としては、例えば、中心市街地活性化法の施策は、地方の中核・中心都市はともかくとして、中小都市では殆ど機能していないのではないか、地方中小都市の場合、商業そのものに問題があると言うより、市街地の人口、その構成分布、購買力の減少、土地利用といった別の要素が大きく影響しているのではないか、中心商業の衰退の主因は、大規模小売店舗の郊外進出のせいではないのではないか等である。これらの仮定のそれぞれについてデータ検証(全国平均的検証と具体の対象都市としての白石市での検証)を行った。

C政策提案の基本方針

 地方中小都市で実施に移すべき政策の基本方向についての検討を行った。例えば、地方中小都市においては、人口を増加させようにも有力な産業の確保の途は厳しいため、市街地の拡大を抑制し、中心部への人口と諸機能の集中促進政策が有効ではないか、中心市街地の活性化は、経済ベースでのみ考えるのではなく、高齢者を含む住民の生き甲斐、活動度、満足度等を増大させる方向の施策展開が必要なのではないか等である。

D具体的な施策提案

 具体的に提案される施策は、地方中小都市においても実施することが可能で、実効性があるものである必要がある。このため、具体的施策は抽象的な地方中小都市を想定して検討するのではなく、実態調査の対象とした宮城県白石市を念頭に置いて、Cの基本方針に沿って実施することができるものに限定し、具体的な検証を行って、提案の形にまとめ上げる形となった。

e)後期の作業

 後期は、東北地方で大きな問題を引き起こしている産業廃棄物処理施設の立地問題を取り上げた。その実施内容と手順を掲げるだけの紙面の余裕がないが、実施手順については、前期と大きな違いはないので、ここにはその主な項目の一部を次に掲げる。
@産業廃棄物問題の本質についての議論
A産業廃棄物処理施設の有する公益性についての議論
B廃棄物処理法の最大の欠点である立地コントロールの欠如と市場主義の是非について
C税負担によるコントロールの可能性
D現在の各県の廃棄物税の問題点
E収益をもたらさない山林と土地利用の問題
F産業廃棄物処理施設立地地域に対する立地交付金制度の可能性
G産業廃棄物処理施設の立地適地と不適地の明示制度の可能性
Hその他

f)ワークショップを通じて得られたもの

 ワークショップの最終成果として、具体的な政策提案を行う場合、どうしても、それが実行可能であり、明確な効果を上げられ、様々な利害調整過程を経て、生き残ることができるか、という点が最も高いハードルとなる。このため、ワークショップの各作業過程は、常に現地での調査を基本に置いたものでなければならない。全国画一的な色彩を強く持った法制度と現実との間のギャップをどうやって埋め、地域に即した政策を企画立案することができるかは、究極的には作業に携わる関係者がその地域をどの程度好きになるかにかかっている。それが抽象的であるほど、施策も抽象性を帯びざるを得ない。

 ただ、このような接近方法は、ともすれば、高い理想から外れ、将来展望の欠けた、実行可能性のみが前面に出る結果となりがちである。ワークショップ作業においては、多面的、広角的検討が不可欠であることに加えて、地上の目線からの検討と俯瞰的検討が併せて必要である。また、法制度の問題点をクリアする必要がある場合には、実証的検討と併行して、法理論的な検討が行われる必要がある。

 このワークショップにおいては、現実の社会で要求される時間の中で、どの程度のことが可能かを検証するものとなったが、社会人を対象とするワークショップの場合に限定すれば、二つのテーマを取り上げることは可能であり、十分意味があるものと考えられる。

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