公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2007年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:「平成の合併」後の基礎自治体における地域自治組織のあり方の再検討

a)趣旨

 平成16年、地方自治法や市町村の合併の特例に関する法律の改正等が行われ、市町村内の一定の区域を設置単位とし、「住民自治の強化」や「行政と住民との協働の推進」などを目的とする組織として、「地域自治区」又は「合併特例区」と称する「地域自治組織」を市町村の判断で設置することができる法制度が創設され、これらの地域自治組織を設置する市町村が見受けられる。また、これら法定の地域自治組織とは別に、いわば法定外の地域自治組織を設置している事例も見受けられる。

 しかしながら、これらの地域自治組織が、「住民自治の強化」や「行政と住民との協働の推進」などといった所期の目的を達するものとして機能しているかどうかは、設置から日が浅いこともあり、必ずしも明らかではない。

 本ワークショップにおいては、@これら地域自治組織の現状分析、A現状分析を踏まえた課題の抽出、B課題を解決する上での現行法制度と運用等が抱える問題点の提示、C問題点の解決方策としての政策提言を行い、現状分析や課題・問題点の抽出・提示、政策提言を行う能力、すなわち、「政策形成能力」を養成することを主たる目的にすることとした。

b)経過

ア.内容について

 前期においては、まず4月から6月にかけて、地域自治組織に関する基礎的な情報収集を文献調査等の方法により行った。具体的には、第27次地方制度調査会における議論の内容、地域自治組織の法制化の内容とその趣旨、全国の特徴ある地域自治組織の設置事例などに関する情報である。また、4〜5月にかけ政策提言を行うプロジェクト機関として予定されていた東松島市及び大崎市を訪問し、地域自治組織の関連施策について説明を受けた。さらに、5月中旬から7月にかけて、地域自治組織の具体的なイメージをつかむことなどを目的として、両市の地域自治組織の関係者に対してヒアリング調査を行うとともに、地域自治組織が行ったワークショップ活動に参画することなどを通じて参与観察も行った。7月から9月にかけては、全国的な地域自治組織の現状を詳しく把握するために、平成11年度から平成17年度に合併した全ての市町村(557団体)を対象としたアンケート調査を実施し、85.1%の回収率を得た。それと並行して、市町村合併の有無を問わず、地域自治組織を設置し、先行的な取組や参考となりうる特徴的な取組を行っていると思われる宮城県外の11市の担当者等に対してヒアリング調査を行った。これらの現状分析等を踏まえ、課題・問題点と考えられる事項を抽出・提示した。

 後期においては、具体的な政策提言内容の検討に入り、地域自治組織が「住民自治の強化」や「行政と住民との協働の推進」などといった観点から有すべき性質又は機能を抽出し、それらを実現するための望ましい制度設計と運用のあり方について考察を加えた。具体的には、東松島市及び大崎市で追加ヒアリング調査を行い、両市に対して、提言案の内容や実現可能性等を度々確認した。また、11月下旬から12月上旬にかけて、「住民自治の強化」や「行政と住民との協働の推進」等といった観点からの地域自治組織の優位性を明らかにするため、地域自治組織を設置していない宮城県内の4合併市町の担当者に対して、ヒアリング調査を行った。さらに、12月上旬には、行政と住民との協働の過程をより明らかにして政策提言につなげるため、広島県安芸高田市の関係者へのヒアリング調査も実施した。

イ.ワークショップの進め方について

 4月から11月までは、原則として月替わりで幹事と書記を分担することにより、参加学生が作業スケジュールを的確に管理する能力を涵養する機会を得ることができるよう、また、全員がワークショップの進行に責任をもち、集団作業において円滑なチームワークを心がけ、リーダーシップを涵養する機会を得ることができるよう配慮した。また、原則として毎月末に月例報告会を開催し、その月の成果・課題・今後の方向性について幹事から報告し、全員で議論することにより、分かりやすく正確な(説明)文書を作成する能力や効果的・説得的なプレゼンテーションを行う能力を高めることができるよう努めた。

c)成果

ア.最終報告書について

 まず、アンケート調査、ヒアリング調査及び文献調査等を通じて、@市町村内の一定区域に設置されるものであること、A住民による協議や意見集約の場をもち、それぞれの区域内における合意形成を行うものであること、B区域内で活動する各種団体・住民・行政を結びつけるプラットホームとなるものであること、C地域が抱える課題を解決するための活動を実施するものであることの4つを、地域自治組織が「住民自治の強化」や「行政と住民との協働の推進」などといった観点から有すべき性質又は機能として抽出した。

 そのうえで、それらを実現するための望ましい制度設計と運用のあり方として、@設置単位、A住民意見の集約・合意形成、B各種団体との連携方策、C行政による人的・財政的支援、D法定の組織と法定外の組織との違いの5つを論点として取り上げ、考察を加えた。

 さらに、政策提言については、@東松島市に対しては、従来、地域内の各種団体に個別に交付していた補助金を廃止して地域自治組織に一括交付することとし、地域自治組織が、公開のプレゼンテーションを伴う審査を経て使途を決定すること、A大崎市に対しては、ホームページにより地域自治組織間の情報共有を図ること及び現行のチャレンジ事業交付金制度を見直すことをそれぞれ提言した。

 なお、最終報告書の内容については、2月中旬の最終報告会で発表したほか、東松島市(市長及び企画政策部地域協働推進課職員)及び大崎市(副市長及び市民協働推進部まちづくり推進課職員)に対してもそれぞれ該当する部分を別途報告し、具体的な政策提言の内容について一定程度の評価を受けるとともに、その実施に当たっての問題点等についてコメントをいただいたところである。

イ.ワークショップ全体について

 当初主たる目的にした「政策形成能力」の養成については、@現状分析、A課題・問題点の抽出・提示、B政策提言といった政策形成過程の一連の流れを曲がりなりにもたどったため、それなりに達成できたのではないかと思われる。なお、アンケート調査及びヒアリング調査の企画・実施をはじめ、最終報告書及び最終報告会におけるプレゼンテーション資料の作成に至るまで、基本的には全て参加学生が主体的に取り組んだところである。

 また、@作業スケジュールを的確に管理する能力、A分かりやすく正確な文書を作成する能力、B効果的かつ説得的なプレゼンテーションを行う能力、C有意義なヒアリング調査を行う能力などを養成することも副次的な目的として掲げていたが、これらについても毎回のワークショップで参加学生が行う主体的活動に対して、担当教員が細かく指導することにより、少なくとも各人の能力の現状と課題については十分に自覚できたものと考えており、これらの能力向上に向けた学生各人の今後の努力に期待するものである。

 なお、反省すべき点を一つ挙げるとすれば、東松島市及び大崎市に対する政策提言を絞り込む段階で、時間的制約等からヒアリング調査先を専ら両市の担当者に限ったため、提言内容が小粒なものになったことが挙げられる。そもそも、地域自治組織が「住民自治の強化」を設置目的の一つとしたものである以上、何らかの形で住民に直接ヒアリング調査を行うべきであり、かつ、参加学生も前期はそのようなことを心がけていただけに残念なことである。

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