公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2007年度 ワークショップI プロジェクトB

■プロジェクトB:地域活性化の一般法則に関する研究

a)趣旨

 プロジェクトBでは、学生が「社会問題の解決を実践する」「問題を自らの力で改善する」ことを目指した。具体的には、政府の策定した地方再生戦略において“国の最重要課題”とされた「地域再生」「地域活性化」について、「どうしたら地域は活性化するのか」「そもそも地域の活性化とは何なのか」「それは計測・評価できるものなのか」といった問いを根本的に考察するとともに、地域活性化の成功の秘訣を一般法則として明らかにすることを目指した。また、一般法則が実際の問題解決に役立たないと意味がないことから、具体的な地域を選定して一般法則を基に政策提言を提示し、それが採用されることを目指した。

b)経過

 4〜7月は、メンバー間の意識共有とリーダーの決定、ワークショップ運営手法や問題解決手法の修得、地域活性化に関する理論・実例の収集と地域活性化施策の把握、具体的な政策提言先選定のための実地調査等が行われた。全国の主な地域活性化事例の調査の結果、@すでに住民活動の萌芽があり短期間のプロジェクトでも地域に影響を与える可能性があること、A住民や行政が協力的であること、B頻繁に現地に入り関係者からヒヤリング調査ができる距離であること、の理由から宮城県加美町が政策提言先候補となった。

 9〜2月は、地域活性化の一般法則を研究する「法則班」と加美町への政策提言を研究する「CP班(カウンターパート班)」に分かれ、活動が進められた。9月には、加美町佐藤町長以下町幹部職員との会合が行われ、本ワークショップと加美町との提携が合意された。以後、加美町幹部と毎月定期協議が行われ、調査の進捗状況が先方に報告されるとともに、報告内容に関する様々な指摘を得た。学生はほぼ毎週加美町を訪問し、役場職員や地域活性化の核となる住民活動団体等へのヒヤリングを行い、加美町の課題や住民活動の課題の抽出を行った。

 加美町に対しては、平成20年2月21日に町長、町幹部職員、住民団体関係者等の出席のもと「住民活動日本一を目指す」ことを柱とした政策提言の報告会が行われ、出席者からこれまでの取組と提言内容に対する高い評価を得た。

 また、地元紙である河北新報・大崎タイムズ等にプレス・リリースを発出し取材記事にする、町の広報誌である「広報かみまち」に毎月連載記事を投稿するなど、本プロジェクトの加美町における認知度向上と、地域の課題に対する住民の当事者意識の涵養に努めた。

c)成果

 一般法則のモデル化と加美町への政策提言を行った。

ア.地域活性化の一般法則の研究

 社会問題の解決策を考える上で有効なのが、「要因分析」(問題が起きた要因を分析して対策を講ずる)と「Best Practice分析」(成功事例・先進事例を調査し、できる対策から導入する)である。地域活性化は全国の自治体で取り組まれており、豊富な先進事例はあるものの、地域の現状や課題は多種多様であり、ある地域で効果的な対策が他の地域にそのまま有効ではない。本プロジェクトでは、地域活性化とは何かを改めて定義するとともに、活性化が成功するために必要な要素を抽出し、地域活性化モデルを構築した。

 具体的には、「地域の課題を解決する諸活動が活発であること」を地域活性化と定義し、これまで地域の課題解決の主役と考えられてきた行政・企業の活動には限界があることを指摘するとともに、地域の課題解決の大きな可能性がある住民活動に着目した。

 さらに、住民活動を活発にするためには、「親睦段階から開始段階へ」「開始段階から拡大段階・継続段階へ」といったステージごとにそれぞれ重要な要素があることを指摘し、それらの要素を踏まえて外部から支援を行えば、住民活動を活発化させることができること(一般法則)をモデルとして示した。

 提示したモデルは、限られた事例からの帰納的推論であり、仮説にすぎない。だが、社会経験も少なく学部生時代に組織論等の専門的教育を必ずしも受けていない学生が、ゼロから取り組んで築きあげたものとしては十分評価に値するものである。

イ.加美町への政策提言

 学生に対しては、「言いっぱなしの政策提言は作らない」「実効性のあるものとする」プロフェッショナリズムを求めた。すなわち、政策提言の作成に際しては、FIS:Feasibility(実現可能性)・Impact(効果)・Sustainability(対策の持続可能性)を重視し、実際に採用してもらえるよう町長以下関係者との事前協議を行った。

 政策提言の具体的な内容は、@行政が「加美町を日本一住民活動が活発な町にする」ことを基本目標とし住民と共有すること、Aさまざまな住民活動を地域の問題解決という具体的な成果につなげていくための部署横断チームを役場内に設置すること、B住民活動の課題を解決する動きを一つでも起こすため「加美町住民活動支援センター」の設置等を行うこと、である。

 これらの提言を受け、加美町は、平成20年4月1日付けで総務課内に部署横断チームである「政策推進室」を5名体制で整備することを決定した。また、「加美町住民活動支援センター」等の個別具体的な提言については、具体化に向け検討した上で当方に回答するとしている。加美町から示されたこうした前向きな対応は、授業の枠を越えて加美町に通い続けた学生達の情熱・誠意と不断の調査活動の賜物であり、画期的な成果といえる。

ウ.その他 〜 ワークショップ全体について

 社会問題の解決のためには、@問題を解決しようという「意欲」、A解決するための「能力」、B全体最適を最も効率的に実現する「戦略的視点」が必要である。学生は、インタビュー等を通じて少子高齢化や合併自治体の旧町間の相互不信といった現場の問題に直面し、問題に関する要因分析、対策の立案と提言、実施といった一連の問題解決プロセスを学習するとともに、実際に問題解決手法を実践し、「社会を実際に動かした」「社会の問題は解決できるのだ」という貴重な体験・自信を得られたことから、「能力」面でも基礎的な素養は身についたといえる。

 個々の面での問題があったにせよ、全体的に見て、特に12月以降は、主担当教員から「あれをしろ」「これをしろ」と細かな指示をしなくても勝手に作業が進んでいるなど、ワークショップを舞台とした学生の自律的成長には著しいものがあったと考える。

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