公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2007年度 ワークショップI プロジェクトC

■プロジェクトC:「東アジアにおける地域協力:日本の平和と繁栄を実現するための推進の方途」に関する政策提言

a)このワークショップのねらい

 冷戦後の国際社会における大きな変容の中で、グローバルなガバナンスの整備・強化の努力とともに、地域レベルでの対応の強化の動きが顕著になってきており、東アジアにおいても、経済分野のみならず非伝統的安全保障分野等を含むさまざまな分野においての協力が進展し、今後の展望としての「東アジア共同体」の構築なども議論され、そのための日本の主導的役割が具体的な政策課題として検討・議論されるようになってきている。

 今後、日本が東アジア地域においてどのような制度的枠組みや具体的協力を進めていくか、またいけるかは、主要なアクターのポジショニングが大きく変わろうとする21世紀前半の国際社会の中で、日本の平和や繁栄を実現していく上で極めて重要な喫緊の課題となってきている。本ワークショップにおいては、大きく変容する国際社会においてさまざまな困難に直面している日本の平和と繁栄を実現するために、現在さまざまな方向からの議論が行われている東アジアにおける地域的な協力を、今後日本としてどのように具体的に進めていくべきかについて検討し、政策提言を行うことを目的とした。

b)実施概要

ア.第一期(概ね夏休み初めまで)

 本テーマの対象、関連分野は多岐にわたるため、まず、基本的な論点や全体的な問題状況の把握を文献や論考、関係省庁の資料等を通して把握した。具体的には、東アジアにおける地域協力や共同体構想について、その背景、経緯、現状と課題等について、特に基本的な制度的枠組みの整備の状況、主要分野(貿易・投資・金融等の経済分野、非伝統的安全保障や人間の安全保障を含む政治・安全保障分野、社会・文化分野等)ごとの進展の特徴を把握しながら、分析・検討した。

 また、ワークショップにおける作業プロセスの全体を通じて、本テーマに関する近年の動きの加速化の中で、常に時事的な動きにも注意を払い、国際社会の現実の動的な事象や動向を適切に反映させた検討をおこなうよう心がけた。

イ.第二期(夏休みから10月の中間発表まで)

 上述のような東アジア地域協力の全体的な構図の把握を踏まえて、日本が現在直面する課題を克服し国益を実現していくために緊急にとりくむべき課題についての絞りこみを行った。その中で、優先すべき課題として、貿易・投資を中心とする経済面での地域レベルでの制度的枠組みの構築が重要との認識で一致し、具体的には東アジアにおける地域レベルでのEPA(経済連携協定)の締結をめざすべきとして、独自の内容を含む提言としての「東アジアEPA」のあるべき姿の基本点についての一応のとりまとめを行った。

ウ.中間発表から韓国における実施調査(11月末)まで

 「東アジアEPA」のような東アジアにおける地域レベルでの制度的枠組みの構築にあたっては、この地域の他の主要国の立場や動向の把握が不可欠である。このような観点から、この地域において経済の発展度、政治的体制などにおいて日本と共通する部分も多いと考えられ、また近年日本以上に活発にFTA・EPA戦略を展開してきている韓国における現地調査を企画し、そのための準備を行った。その結果、韓国においては、本問題に関わっている韓国政府関係者や、現地の日本大使館、更に、韓国の学術関係者への直接のインタビュー、国際共同セミナーにおける意見交換などを行うことによって、日本のおかれた立場を外から評価する機会を得て、自分達の考えをより客観的に評価する視点を得る機会をえて、これが政策提言の内容をより深く現実的なものにすることに資することとなった。

エ.総括的検討と最終報告のとりまとめ(12月〜1月)

 以上のような検討や調査を通じ、東アジアにおける経済面での地域的レベルの制度的枠組みとルールの確立の重要性を確認した上で、最終的に、独自の視点からの付加価値をもった提言としての「東アジアEPA」に含めるべき内容の検討ととりまとめを行い、最終報告における独自の提言の主要な柱として、@東アジア地域の経済分野において未だ十分にルールが整備されていない分野における規律の導入、Aルールの現実の遵守を確保するための紛争予防メカニズム及び紛争解決メカニズムの整備、Bさらに現実に東アジアEPA締結にいたるまでの道筋を同定し、報告書のとりまとめを行った。同時に、自分達の考えの適切性、現実性を検証するために、日本政府関係者や主要団体(外務省、経産省、農水省関連のシンクタンク、経団連)へのインタビューを実施し、最終報告書に反映させた。

c)成果

ア.最終報告書のとりとまとめ

 本テーマの対象は幅広い分野にわたり、また近年大きな関心と動きがみられる中で、さまざまな方向での議論が行われてきている状況にあるが、最終報告においては、基本的論点についての検討を行った上で、ワークショップ独自の視点から日本の国益を実現するための優先的課題の絞りこみを行い、現実の課題を踏まえて具体的な政策提言を行うことができた。その際、日本以外の主要なアクターの立場や、また日本の国益のみならず、東アジアの地域益の実現という視点をも踏まえた提言になるように努力した。

イ.ワークショップ全体について

 今年度の国際ワークショップにおいては、大きなテーマに対し比較的少人数で取り組むことになったので、各自の負担が大きくなり、また対外政策の検討にあたっては、資料収集や調査の実施等についても、国内の課題を対象とする場合に比べて容易でない面があったが、このような制約の中で各自が常に前向きに課題に取り組み、それぞれの個性を活かしながら協調しての集団作業としての成果を出すことができた。特に、韓国訪問という外国での調査を円滑に行い、国際ワークショップに参加して異なる立場の人達と真剣に議論しあう経験を経て、企画・行動の面での主体性やプレゼンテーション能力、質疑応答力を鍛えるとともに、実質の面でも、日本のおかれている立場についてのより深い理解を踏まえた思考ができるようになったことは大きな成果であったと考えられる。

ウ.対外政策分野における基本的知識と分析・評価の視座の涵養

 多くのアクターがダイナミックに関わりあいながら動いていく国際社会、中でも東アジア地域において日本の国益を実現するための具体的政策を策定するという経験を通じて、政治、経済、社会・文化等の幅広い分野における問題の現状とそれらをめぐる歴史の大きな流れ、秩序や協力の実現のための対応の現状、主要各国の立場の相違等についての理解を深めることができ、日本自身が国内外で抱える問題を克服しながら、国益を実現するための対外政策の検討に必要な基本的知識と、分析・評価の視座を涵養することができた。

▲このページの先頭へ