公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2007年度 ワークショップI プロジェクトD

■プロジェクトD:地方自治体の独自課税

a)趣旨

i このワークショップの特色について

 このワークショップは、社会人を対象としたことから、通常のワークショップと異なり以下のような特色を持った。

 第1に、研究者教員が主担当となって、政策の企画・立案作業の模擬体験という側面よりも、学生が職務上既に経験している実務について、理論的・実証的な観点からの見直し・反省を求めるという点を重視した。

 第2に、10月末までの短期間で、このテーマについての最終報告および報告書完成をすませ、それ以後は各自のリサーチペーパーのテーマをとりあげた。

ii このワークショップのねらいと内容について

 近年、地方自治体における独自課税の動きが活発化している。その背景としては、地方分権の拡大や、地方財政の悪化等が挙げられる。独自課税の中には、産業廃棄物課税や森林環境税のように、地方自治体に広く普及しつつあるものも生まれている。また、複数の地方自治体が連携して独自課税を実施するというこれまでにない動きもみられる。東北地方においてもこの点は同様であり、北東北3県の連携による産業廃棄物課税の導入は注目に値する。また、宮城県においても、平成17年度より産業廃棄物税が導入されており、現在も独自課税についての検討が行われている。

 しかし、その独自課税の内容に対しては、課税対象の当否、執行体制、税収の使途等について問題点が散見され、批判も少なくない。

 このワークショップでは、地方自治体の独自課税について、その経緯と現状を正確に認識し、その問題点を把握し、それに対する具体的な政策提案を作成することを目的とした。

b)経過

@ 基礎知識と理論的基盤

 まずはじめに、税制の基礎と地方税のあり方などについて、教員が講義を行い、テーマについての基礎知識と理論的基盤を身につけるようにした。また、この時点で検討対象を宮城県の産業廃棄物税へと絞り込んでいった。そして、産業廃棄物法制の概要、各県での産業廃棄物税導入の経緯、税のしくみの正確な理解、課税の実績、この税に対する一般的な評価や専門家による意見などを、文献や統計データを中心に学習した。

A 問題意識の確立

 次に、産業廃棄物税の理論的・実際的な問題点をより深く把握するために、実地調査を進めた。調査対象は、県庁・市役所の担当課、産廃処分業者、リサイクル業者などにわたった。これらの調査によって、検討対象をさらに、税の転嫁の問題と、税収の使途の問題との2つへと絞り込んでいった。税の転嫁の問題とは、多くの県で採用している産業廃棄物税においては、産廃を排出する事業者ではなく中間処理業者が納税義務者とされることが多いが、この場合には排出事業者が税を負担しておらず、産業廃棄物税の趣旨に反しているのではないかということである。また、税収の使途の問題とは、目的税である産業廃棄物税の税収が、産廃対策として有効に使用されているか、あるいは受益と負担の関係を考慮した上で適正に使用されているかということである。

B 問題意識の深化と課題設定

 引き続き、調査班と文書班に分かれて、上記の2点についてのさらなる調査を進めた。調査班は、ヒアリング対象を広げ、さらに県内産廃処理業者へのアンケート調査を実施し、宮城県での税導入前後において産廃の処理料金がほとんど変化しておらず、税の転嫁が行われていない可能性が高いことを結論づけた。文書班は、文献や統計データの調査により、税収の使途の適正であるか、あるいは有効に使用されているか、さらに検討した。

C 政策提言のとりまとめ

 最後に、調査結果に基づいて政策提言について、いくつかのとりうる方策を挙げて議論・検討を行い、税の転嫁を円滑化するための措置をとるべきこと、および税収の使途を改めるべきことを結論とした。それに基づいて、最終報告書のとりまとめを進めた。

c)成果

 メンバー4人という少人数であり、なおかつ社会人としての様々な制約の下で、ほぼ半年という短期間に報告書をまとめることができた。

 このワークショップでは、社会人学生に対して職場で行ってきたことを繰り返させるのではなく、職場ではあまりできないこと、具体的には理論的続面を徹底して考えさせること、および外部の者の意見に広く耳を傾け、真剣に検討することを重視した。この部分については相当の効果が上げられたと考える。特に、理論的側面から物事の問題点を深く思考する力は高められたと思う。

 他方で、政策提言の実現可能性や実現に至るための利害調整過程の部分は十分にはできなかった。これらに関する能力は、社会人学生は職場で既に身につけている、あるいは今後身につけることができると考えたためであるが、この点は社会人主体のワークショップのあり方として再検討の余地があるかもしれない。

 参加メンバーのロジ管理、文書作成、プレゼンテーション、質疑応答等の能力については、社会人学生としてはじめから一定の力を持っていたものと思われるが、さらに一定の改善がみられたと考える。

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