公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2008年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:農業を軸とする地域振興策について

(1)趣旨

 我が国の農村地域においては、農地の減少や耕作放棄地の増加、経営規模拡大の停滞、農業従事者の高齢化・後継者不足が進んでおり、WTO交渉・FTA交渉により更なる市場開放が予測される状況の中で、農業・農村の役割をどう発揮させていくかが大きな課題となってきている。特に米作のウエートが大きい東北においては、農村を再構築し活性化していくことが、地域振興の面からも避けて通れない課題となっている。

 もとより、各地で様々な先進的な試みが振興策として行われているが、それは地域の特性等に応じて、農業それ自体に対するもの(例えば、環境・安全を重視した付加価値型、国際化をも念頭に置いた低コスト型・輸出指向型、エネルギー関連指向型)から、周辺関連分野を含めたもの(例えば、産地直売型、観光等とのタイアップ型、加工部門指向型)まで多様なものとなっている。

 本ワークショップは、提示したテーマには多様な問題が内在することを明らかにした上で、具体的なテーマを参加する学生に絞り込ませながら、宮城県内の農村をフィールドに約半間かけて調査・検討を行うことを当初の計画とした。

(2)経過

@当初のねらい

 本ワークショップの参加者5名は全員法学部卒業生で、しかも我が国農業について十分な情報を有していないことが予想された。このため、ワークショップの開始に当たり、座学による指導に加え、できるだけ早く現場に赴き実態を把握させることとした。

 また、学生に対しては、「テーマが我が国農業の在り方に関わる難問」であることを繰り返した。従って、快刀乱麻の解決策ではなく現地の実態に即した具体的な政策提言を指向するべきこと、農業政策論は依って立つところが違えば無数の選択肢があることを十分理解した上で他者の議論に耳を傾けるべきこと について注意を喚起した。

A年間の調査・検討作業

a)前期

 ワークショップ開始当初は、教員から我が国農業の現状について講義するとともに、関係する文献の調査を指示した。主として食料・農業・農村基本法制定以後の農業政策、特に土地利用型農業に関する政策である。また、現地調査としては、GW前に終了する「直播」作業を山形県下で視察1するとともに、山形県農林水産部幹部との意見交換の機会を設けた2。更に、東北農政局関係課への往訪や農林水産省大臣官房参事官及び河北新報編集委員の招聘を通じ、我が国の農業に関する説明聴取と意見交換を行った。

 その後、具体的なテーマの絞り込みの入り、学生の自主的な討論の結果、6次産業化などの周辺関連分野ではなく農業そのもの、しかも担い手の問題を取り上げるべき点で意見が一致、特に集落営農方式を更に発展させる方策の検討を選定した。

 この決定と前後して宮城県農林水産部に赴き、県下全体の集落営農の動向に関する説明を聴取するとともに、具体的な調査対象(リーダーのみならず構成員の意見も聴取することが適当)、調査地域(大崎地域中心)についてアドバイスを受けさせた。

 本年から報告会Tが7月末開催となったことから、同月は専らその準備に費やされた。4月以降の短期間で学んだ我が国農業の現状、集落営農の選定理由を判りやすく説明することは容易でなく、加えてパワーポイントの習熟した者ばかりではないこともあり、相当な作業量となった。その全体構成に関しては、指導教官が適宜助言を挟んだ。

b)夏期

 中間報告会終了後の8月7日に大崎市役所農林水産部を往訪3、同市内における集落営農の具体的な地区紹介を依頼した。しかし、程なく盆休みに入ったため、地区の推薦・調査日程の調整に手間取り、9月12日に漸く最初の現地調査となった。なお、9月は稲刈りの時期で、幅広い営農を行う集落営農が対象であったため農繁期はその後も続き、結果的に最終の調査は11月16日となった。

c)後期

 9月中旬から10月下旬にかけて調査が中断したことから、戸澤准教授の指導を受け、参考文献の検索と読み込みを行わせた。

 一方、例年2月開催の最終報告会に代わる中間報告会Uが12月9〜20日に行われたことから、11月後半からは調査の分析及び提言の取り纏めに追われた。報告書案は分担して執筆、これをベースに議論する方式を採らざるを得ず、討論の時間が例年ほど取れなかったことは歪めない。報告書の執筆と同時に説明会で使用するパワーポイント資料の準備を進めたが、各自が作成した部分をメールで集約する方式を全面的に活用し、タイトなスケジュールを何とかこなしたところである。

Bワークショップの進め方

 これまでのワークショップ方式に倣い、学生は月交替で順に幹事になり、議事進行全体を総括した。他方、外部との折衝は個人を特定(例えば、宮城県の窓口は、インターンシップを経験した学生)し、これに当たらせた。

 現地調査はできる限り全員の参加としたが、チーム編成にならざるを得ないこともあった。これは先方(兼業農家が中心)との日程調整で、土日或いは夜の時間帯の指定があったためである。

 火曜日午後の授業に加えて金曜午前(後期は午後)に補講時間を設け、全体の進行状況や週末等に行った現地調査の報告を受けるとともに作成ペーパーについてコメントする場を設けた。5名の学生によるワークショップであったため、集団作業として大きなトラブルは生じず、職務分担はスムーズに行われたように見うけられる。

(3)成果

@報告書について

 報告会Uに提出した報告書案では、第1章で与えられたテーマ(農業を軸とする地域振興策)を如何に理解するか、農業の持つ特色は何かを確認した上で、第2章で日本及び宮城県の農業の現状と課題を分析、土地利用型農業が特に課題が多いことを明らかにしている。その上で第3章では、集落営農の推進を含む現在の農政について、過去の施策との連続性を踏まえて述べ、集落営農がなぜ注目されるのか、目標とする法人化がなぜ順調に進まないのかを、調査結果から明らかにしている。第5章では行った調査の概要を、第6章では調査を通じて明らかになった集落営農の抱える問題点と解決策を整理し、最後の第7章で国、全中、宮城県、大崎市、JA宮城への政策提言を取り纏めている。

 この段階で中間報告会Tにおいて指摘された事項を総ざらいし、主要なものを盛り込むように努力させ、一貫性を持った記述となるよう指導を進めたが、記述内容には時間的制約からHPからの引用、資料の孫引きも一部含まれていた。年明けの最終報告書作成段階では、報告会Uでの指摘事項への対応に加え、その是正について指導した。

 調査結果の分析や政策提言の取り纏めについては、全体に時間が不足したため、不十分な部分が残った。これは、報告会のスケジュールが12月開催と前倒しとなったことに加え、調査対象が兼業農家中心であったこと、調査時期が農繁期と重なったことの結果である。自然を相手にする産業を調査することの難しさを再認識させられた。

 なお、報告書にも間接的に反映されているが、政府が推進する政策と現場対応のギャップ(本音と立前)について、学生は調査を通じて痛切に感じとれた。このことが、このワークショップにおける最大の収穫だったのではなかろうか。

Aワークショップを通じた能力育成について

 本ワークショップでは、現状分析、問題点の提示、政策提言という政策形成過程の一連の流れをたどることで、学生は政策立案の諸要素を経験することができた。また、調査はアポの取り付けから実施まで全て学生のみで行い、報告会でのプレゼンテーション、報告書の作成までのすべての過程は学生による自主的な作業により進められた。

 特に当初のねらい通り、学生の調査能力が十分に訓練された。アポイントメントからインタビュー、記録の作成と共有について、学生は相当程度熟練した。また、プレゼンテーション及び質疑に対する対応能力、簡潔かつ正確な文章作成する能力も、それぞれの学生なりに向上したものと思われる。この点は2月〜3月に農政局、県庁、JA宮城等に対して行われた報告で特に感じられたところである。

 公共政策ワークショップTでの体験は、ワークショップUの作業に反映されて然るべきものである。残念ながら例年必ずしも実現していないようだが、是非この経験を生かすことを希望する。

1 農業は季節感あふれる産業であり、特定の時期を逃すと実地に見聞をできず、また仙台市内を離れ交通手段が不便な地域で行われる。学生の要望に年度当初から速やかに対応できる体制の構築が不可欠である。

2 海野教授、戸澤准教授も参加。以下調査先の訪問は、特記なき限り学生のみ参加。

3 海野教授も参加。

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