公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2008年度 ワークショップI プロジェクトB

■プロジェクトB:地方公共団体における環境マネジメントのあり方−仙台市を事例として−

(1)趣旨

 今日の環境問題においては、不特定多数の主体による日常的な(個々には悪性の程度が高いとは決めがたい)行為から発生する環境負荷に起因するものが大きな問題となっている。例えば地球温暖化問題はその典型例であり、また、資源の消費や物の廃棄に起因する問題も相当程度そのような性格を持っているといえる。このような状況に対応して、規制等に限らず事業者等の各主体における自主的で柔軟な取組を総合的に進める必要が生じており、その手法の一つとして、事業者等の活動主体がその活動に伴い生ずる環境負荷を自ら総合的に管理抑制していく取組である「環境マネジメント」がある。

 地方公共団体は、民間事業者にとって身近な存在であるとともに、「民生(業務その他)」部門(地球温暖化問題における分類)の一事業者として地域の主要な排出主体のひとつとなっており、環境行政の推進主体として自らの排出負荷を積極的に低減する責務を負うものであることから、環境マネジメントを改善していく必要性及び意義は大きい。また、良い取組ができれば民間事業者への参考事例ともなる。このような視点から仙台市を事例として本研究を行った。

(2)経過

ア 内容等全般

 開始から前期前半の時期は、まず教員より、テーマ趣旨の説明、関連する地球温暖化等の我が国の環境問題の状況、環境マネジメントという手法の意義・内容、調査研究の進め方、授業の準備と進め方等について説明した。その上で、プロジェクト機関(提言先)である仙台市の環境局環境保全部環境管理課の方々から、仙台市の環境マネジメントの仕組みや実態についてご説明をいただく機会を持った。その後は原則として教員を介さずに、学生が直接仙台市の御担当の方と随時連絡をとり、情報提供をいただいたり、実地の調査をさせていただいたりした。

 前期の後半においては、i仙台市に関する現状(組織の状況、環境負荷発生の状況、環境マネジメントの経緯、現在の環境マネジメントの規定、その運用と成果の実態等) ii日本全体での環境及び環境マネジメントの状況 iii環境マネジメントについての先行研究等の状況等についての調査検討を順次進めていった。

 各回のワークショップでは、作業計画、研究全体のストーリーを確認した上で、その回における個別の作業成果を報告し、作業成果の問題点の検討を行うとともに、それを踏まえてストーリーの記述ぶりやその内容を検討し、その上でその後の研究の方向を確認した。

 副担当教員は都合により2回変更があり、計3名が交替で担当することとなった。二人目である仲野准教授からはこの時期に、テーマ及び研究成果の意義についての本質が何であるかという点の再考を促す指摘があった。

 前期の終わり(7月下旬)には今年度からの行われることとなった報告会Tがあった。前年度までの中間報告会が、研究成果がある程度出た時点のものとして行われていたのに対して、この報告会Tは、研究テーマを明確化し、解決すべき問題点についての基本的な認識を整理して調査研究計画を立てたという程度の状況が報告されればよしとされる性格のものであったと考えられるが、この班の実態はそこからさえ遅れており、報告会T直前の集中作業によりやっと報告会Tの報告を間に合わせた。報告会Tでは、解決すべき問題点が持つ意味、それが解決されることによる仙台市及びより広い環境問題への効果について十分説明できていないところがあり、「仙台市だけあるいは個別問題の解決策だけではテーマとして小さいのではないか。」などのさまざまの厳しく有益な指摘を受けた。

 夏期はあまり進展がなかった。が、後期に改めて、“仙台市の環境マネジメントについて、その問題点を望ましい環境負荷水準などとの関係から整理し、その解決策を検討し提言する。”ことを中心テーマとすることを確認した。メンバーが4名と少なかったこともあり、他都市の事例調査も、仙台市の実態把握や問題点抽出作業等も概して遅れがちであったが、全体のストーリーの確認・整理を授業の場で繰り返しつつ、各種の作業が進められた。

 報告会Uにおいては、環境負荷のうち温暖化問題等について問題点の整理と対策の基本的な方向性を打ち出すことはできたものの、提言内容の検討に十分至ることができなかった。また、個別対策についての研究のようにも見える報告であり、環境マネジメントとしての改善がどうあるべきか、より広い視野の意義は何かといった点が不十分との厳しいが妥当する指摘を受けた。後期から副担当となった桑村准教授には最終段階まで、全体の論理的つながりや、全国的な視野での本研究の位置づけ等について指導があり、これを踏まえた改善をある程度行うことができた。

イ 進め方について

 研究過程において、往々にしてインタビュー先の意見や個別の調査の成果などに左右され研究全体としての意義やそれを踏まえた全体のストーリーを見失いがちになることを回避し、計画的に研究を進めて完了させることを学ぶ等のため、当初から、@作業項目と手順、 Aストーリー の2点をその時点時点で整理する作業を学生に課し、特にAを原則として毎回授業で確認した。

 このWSでは授業時間においてストーリーの内容と文章等について指導を行う時間が多くなり、またその他の個別の研究内容等についても教員への報告と教員からの指導という時間が多くなって、“学生同士の議論を中心にそれに対して指導する”時間が十分確保できなかった。これは、問題点の把握から解決策の提示に至る論理構成や、その表現上の問題点についての指導が必要な点が非常に多かったことにも起因する。今後は、論理的思考とその表現方法や研究調査方法など、研究に必要な基礎事項に関する力を付けるための教育を別途強化する必要を感じた。

 毎回の進行のため幹事及び書記等の役割分担を決定して進めた。前期の分担は毎月交代制とした。ただし、学生による進行が十分できない場合もあり、自主的というよりは教員の介在がやや強すぎるワークショップとなったかもしれない。

 原則として月末のワークショップにおいて副担当教員からの指導も得た。

 例年から見ると少人数である4名編成であり、マンパワーの不足が感じられる点があった。

(3)成果

@最終報告書について

 最終報告書では、温室効果ガスと廃棄物に研究を重点化し、それらの原因分析と対策の検討を行った。温室効果ガスについては、世界的な情勢等から今後市も大幅削減が求められるとの見込を前提に、また、廃棄物問題についてもゴミ有料化等に伴い大幅な対策強化が必要であることを前提として、そのためには、個別の努力レベルを超えた、目標に照らして必要な対応を、組織的に進めていくことが必要であることが指摘された。温室効果ガス対策については、建物や設備そのものからの改善が必要であること、そのためには、@施設の所管課、A営繕課及び設備課、B財政部局、の3面から全体的取組が必要であることが指摘された。温暖化に関しては、プロジェクトチームによる省エネ診断を行い@に提案、それを受けてABと協議調整して設備機器に関する省エネ回収を行うことを全庁的に進める、新築建て替え時にはCASBEEによる評価に基づき、各部署と協議して対策を進めることを、廃棄物については、市立学校のリサイクル体制の統一基準の明示、各学校で管理とそのチェック体制の確立、保育所廃棄物の地区別一括回収、指定管理者等が管理する市民利用施設におけるリサイクルの義務化等を提言した。また、環境マネジメント全体の今後のあり方として目標設定から対策を考えるバックキャスティング的アプローチ、意思決定構造まで踏み込んだ見直しの必要性を提言した。

 これらは、具体的事案に即した有効な解決策の方向及び他の組織にも活用し得る環境マネジメント改善方向の提示となったと評価できる。

Aワークショップを通じた能力育成について

 授業初期段階は、「公共政策ワークショップハンドブック」や論文の書き方に関する市販の本の内容に言及しつつ、全体の作業の進め方について指導を行った。特に、年間を通した研究の着実な進展のために、“@作業計画(作業の項目と手順)及び Aストーリー(研究成果物の構成・論旨)、研究開始当初から、時点毎に作成すべきこととした。

 以後、作業計画及びストーリーを毎回作成することを原則とするとともに、それらを常に参照しつつ、順次各種の作業を行い、その成果を元に毎週のWSで検討を進めた。

 このような年間の研究を通じて、実態の把握、問題点の抽出、解決策の検討という政策立案全体の過程について学生は学ぶことができた。また、論理的に思考を整理して相手に伝わるように表現する能力については、学年当初と比較すれば全員大幅に成長があったと思われる。

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