公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2008年度 ワークショップI プロジェクトC

■プロジェクトC:宮城における多文化共生推進政策の提言

1.趣旨

 現在の日本では年々外国人登録者数が増える傾向が見られる。例えば1999年末時点で、日本における外国人登録者数は1,556,113人で、日本の総人口に占める割合が1.23%であったのに対し、2007年度末においては、それぞれ2,152,973人、1.69%になっている。そして近年、在住外国人は、首都圏をはじめとする大都市地域や、従来から外国人労働者が集住してきた特定の地域に留まらず、日本全国のほぼあらゆる地域において増大する傾向が見られる。そしてこのような傾向は今後も続くことが予想される。

 そこで、各地域社会がそのように増大している在住外国人をどう扱うかは、それぞれの地域社会にとって重要な政治課題になっている。すなわち、在住外国人の増加によってもたらされる困難を極小化し、また、在住外国人の活力を地域社会の発展にどのように活かすかが、地域社会の重要な課題になっている。

 本ワークショップは、在住外国人の増大によって様々な問題を抱えつつある宮城をとりあげ、宮城においてどのような多文化共生社会推進政策を進めるべきかを探ることを主テーマとした。

 より具体的には、以下の3つの主要な問いの解明を目指した。

@現在の宮城では在住外国人をめぐってどのような問題が発生しているか。
Aそのような問題を解決するためには宮城の多文化共生社会化を進めることが有効・適切であるか。
B今後の宮城の多文化共生社会化を進めるためには、誰がいかなる政策を実行すべきか。

2.経過

2.1.テーマ選定の過程

 本ワークショップは、当初、別のテーマを採り上げる計画の下に開始されたが、2度の大きな変更を経て、結局、上記のようなテーマを選択するに至った。

 すなわち、本ワークショップは、当初は、2008年度の『公共政策大学院講義要項』にあるように、現在、日中間、日韓間で生じている重要な問題を一つ選び、その問題の解決のために、主として、市民・民間レベルで何をなすべきか、について提言を行うことを主テーマとし、7月に行われる韓国・国民大学の学生との合同ゼミ、10月に北京・清華大学を訪れての日中合同ゼミにおいて、報告・討論を行うことを大きな目標に据えていた。そして、4月から5月にかけては、そのようなテーマ・目標に沿って、日中間の近年の重要な政治イッシューに関する基本文献講読を行いながら、学生による具体的テーマの選定作業が行われた。

 ところが、5月末頃になって、本ワークショップに参加する学生が、当初のテーマでは報告を行うことが困難であると考えるようになり、結局、正・副の担当教員とも議論した結果、「宮城に役立つ高度留学生人材の活用――中国人留学生の就職推進策を中心に――」というテーマを採り上げることにして、7月30日の「報告会」では、このテーマによる中間報告を行った。

 しかし、上記報告会において、このテーマに基づく報告には大きな意義があるとは考えられないとの厳しい批判に直面し、学生達は、再度テーマを見直すこととした。結局、最終的に、本ワークショップのテーマが宮城の多文化共生社会化に確定したのは、10月になってからであった。

 学生達がこのようなテーマを選択したのは、既述のように、多文化共生社会化が日本の各地域社会で重要な政策課題になっているとの認識に基づくものであったが、それに加えて、後で詳しく述べるように、10月に日中合同ゼミを行うために北京を訪問して、自分たちが「異邦人」となる体験をしたことによって、多文化共生社会化の必要性を切実に感じたことも直接的動機として働いたと思われる。

2.2.報告書作成までの作業

 上記のようにテーマの確定が相当に遅れたために、報告書作成のための作業が実質的に開始されたのは秋以降となった。

 9月頃から、多文化共生に関する基本的文献の講読を行うと共に、日本の各地域における在住外国人の現状と問題点を探る作業が開始された。

 そして10月頃から、宮城の県をはじめとするいくつかの自治体の多文化共生を扱う担当者や宮城において在住外国人を支援する各種の民間団体、ボランティア等から聞き取り調査を行い、近年の宮城において、在住外国人をめぐるどのような問題が発生しているか、又、そのような問題を解決するために、これまでどのような対策が講じられているか、を明らかにするための作業が行われた。

 その後、諸外国や日本の他の地域で行われている多文化共生政策の例を参照しながら、宮城における多文化共生推進のために、新たに採るべき政策提言を作成する作業が行われた。この際、宮城において最も深刻な在住外国人問題の一つである、農村地域における「外国人妻」の問題を解決するための政策提言を行うことに力点が置かれ、実際に、農村地域における「外国人妻」を支援しているボランティアや「外国人妻」本人へのインタビューも重ねることによって、より有効な政策の作成が図られた。

 このような経過を経て、12月末の報告会で報告が行われ、そこで出された意見も採り入れて、最終報告書は1月30日に提出された。

2.3.北京での日中合同セミナー

 本ワークショップに参加した4人の学生は、10月に、主担当・副担当の教員と共に、北京を訪れ、6日間滞在し、清華大学をはじめとする大学の院生・学部生と合同セミナーを行ったのをはじめ、交流する機会を持った。

 合同セミナーは、家族・友人・恋人などの身近な人間関係、就職、勉学、さらには日中国民間の相互認識などをテーマに議論するものであったが、日中の学生参加者それぞれが英語でプレゼンを行った後、主に英語で議論するという形で行われた。

 既述のように、本ワークショップのテーマが当初のものから変更されたため、この日中合同セミナーは、そこで議論された内容がワークショップの報告書に反映されるというような直接的成果には結び付きにくかったが、各学生が「国際交流」とか「多文化共生」とかを実感するという点では、大きな意義を持ったと考えられる。

3.成果

3.1.最終報告書について

 既に何度も述べたようにテーマの確定が相当に遅くなったために、基本的文献の講読、調査、及びそこで入手したデータの分析、政策の作成のいずれについても十分な時間をかけることが出来なかった。その結果、最終報告書では、宮城における外国人をめぐる問題の指摘と分析、宮城における多文化共生化を進めるための政策の提言、及びそれらを裏付ける調査内容、のいずれの点においても、よく練った深みのあるものとなるには至っていない、

 しかしその半面、テーマを選択するまでに多くの議論を費やしたために、本ワークショップでなぜそのようなテーマを採り上げるのか、という点に関しては、かなり明確な問題意識に基づく、相当に深い考察がなされている。

 もう一つ達成できなかった点を述べれば、学生達は、特に、北京での体験を通じて、多文化共生の重要性を痛感したにもかかわらず、時間の制約もあって、自分たち独自の「多文化共生社会」像を作り出す契機と結びつけるには至らなかった。本来、そのような自分たち独自の「多文化共生社会」像を懐きながら、宮城において何が問題となっているかを探り、さらに、独自の多文化共生推進政策作成に取り組むことができれば良かったのであるか、残念ながらそこまでは到達できなかった。

3.2.各参加者の得た成果について

 本ワークショップに参加した学生は4人であったが、4人共、懸命な努力を続け、フリーライダーとなる参加者は現われなかった。

 その結果、各学生は、討論する能力、文献を読む能力、文章を書く能力、大学外の社会の人と接するマナー等のどの点を取っても、大きく能力を伸ばした。又、チームの中でのそれぞれの役割を果たす方法やチーム全体のマネージメントの方法についても相当程度学ぶことができた。

 ただ、まだどの学生も、自分が本ワークショップの作業を通して何を得たか、よく掴み兼ねているように見える。そのために、例えば、自分独自の「多文化共生社会」像を創り出すきっかけを手に入れていながら、そこから出発するのでなく、自治体やボランティア団体の「専門家」が誘導するままに問題点の摘出や政策作成を行うというような結果を招いてしまったように思われる。もちろん、自分が何を得たかを知るためには、それに先立って、過去の基本文献を学び、十分な裏付けの調査を行う等の努力を払う必要があることは当然である。今後、学生達が、そのような研鑽・努力を重ねることによって、本ワークショップで自分が何かを得たという確かな自信を持つに至ることを切に望む次第である。

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