公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2008年度 ワークショップI プロジェクトD

■プロジェクトD:現代の大都市行政におけるコミュニティ支援政策の再検討

(1)趣旨

 日本の都市行政において「コミュニティ」を支援する政策は、1960年代より登場し、公民館の充実などの成果を収めてきた。だが、しばしば代表的な地域コミュニティとされる町内会への支援策は、戦前にさかのぼる。また、現在進行しつつある地方分権改革と市町村合併によって、基礎自治体の自治の実質が問われ、住民が直接関わる「コミュニティ」と行政との協働のあり方が模索されている。そのような状況下で、仙台市は、地域コミュニティのあり方を検討するため、「コミュニティビジョン検討委員会」を設置し、2008年1月に提出された「最終報告」をもとに部内調整を進め、2008年4月に「コミュニティビジョン」を発表した。

 本ワークショップは、以上のような全国の趨勢を戦前・戦後の歴史的パースペクティヴの下でとらえ直した上で、仙台市をフィールドに、(1)本庁・区役所それぞれにおけるコミュニティ支援政策の特徴、(2)町内会等の地域コミュニティの実態調査、(3)仙台市のコミュニティ支援政策への提言、(4)法改正をめぐる現行制度への提言を目的に一年間かけて調査・検討作業を行うことを当初の計画として掲げた。

(2)経過

@当初のねらい

 本ワークショップを計画するに当たって、2007年度のプロジェクトA「『平成の合併』後の基礎自治体」に副担当として指導した経験が大いに参考となった。同プロジェクトが、地域自治組織に焦点を当て、これを導入した仙台市外の自治体をフィールドとしたのに対して、本プロジェクトでは、より下位のコミュニティ組織を直接対象とし、学生が機動的に調査しやすい仙台市をフィールドとすることで、綿密な調査を行うことを目的とした。これはまた、例年とは異なり、年度当初は学生旅費を大学院が支給できない可能性があったため、仙台市をフィールドとすることが有効であるという判断もあった。

 次に、年間を通して、学生には、「調査を厚く、提言を薄く」を言い続けた。過去のプロジェクトの報告を聞くと、ともすれば、調査を中途半端に切り上げ、十分に議論することなく提言内容を拙速に絞り込んだのではないかと感じるときがあったからである。むろん、ワークショップであるから、学生の自主的な議論に委ねたが、重要な局面では教員として強い指導を行った。具体的には、学生には、@仙台市のコミュニティに対しては綿密に調査を行うこと、A他都市の事例を可能な限り広く調べ、調査旅行に行くこと(これは学生旅費の支給が例年通り可能となった段階で特に強調した)、B政策提言の方向性を決めるときには、安易に多数決などをせず、何度でも行きつ戻りつすること、もし方向を決めてみて「間違った」と思ったならば、躊躇することなくもう一度出発点にもどって方向性を再検討すること、C政策提言は必ずしも包括的に議論できなくてもよいが、政策案の骨子は丁寧に整理すること、の4点である。

A年間の調査・検討作業

a)前期

 ワークショップ開始当初は、教員から資料調査として最低限必要な作業を指示した。それは、コミュニティに関する文献調査、国のコミュニティ支援政策の調査、全国の政令指定都市のコミュニティ支援政策と町内会の現況についての悉皆調査である。さらに現地調査としては、教員の引率で、本庁市民活動推進課に「コミュニティビジョン」のヒアリングを行った後、若林区、宮城野区、青葉区、宮城総合支所のまちづくり推進課で区レベルのヒアリングを行った。その後は、学生の自主的な調査として、他の区、総合支所のまちづくり推進課でヒアリングを行い、並行して区担当者から紹介を受けた町内会へのヒアリングに入った。また、7月末の報告会Tが近づくにつれて、学生は市民センター関係者や、NPOサポートセンターへ独自に調査を行った。報告会Tでは、学生は自主的に大部の報告書を作成・配布した。

b)夏期

 9月以降は、試みとして、辻清明『日本の地方自治』、西尾勝『権力と参加』・『都民参加の都政システム』をテクストに地方自治基礎文献講読を行い、学生が理論に親しむよう配慮した。また学生は、札幌市、北九州市、福岡市に対して、調査旅行を行った。

c)後期

 他の政令指定都市事例の比較と、7月末の報告会Tでの指摘をもとに、仙台市の調査を継続させつつ、政策提言の方向性について1ヶ月以上議論を続けた。これにはかなり教員が関与し、学生全員が納得するまで議論を続けさせた。結果として、庁内組織の検討班と、高齢者対策及び地震対策の検討班とがそれぞれ組織され、調査作業が続けられた。報告会Uでは、現地調査の整理については完成に近づいたものの、提言内容の準備が整わず、1月冒頭のワークショップでは、生田教授を招いて、さらなる方向性について助言を受けた。最終報告書を完成するに当たっては、「地域コミュニティ」即「町内会」ではないことを、学生に認識させるために教員からかなり積極的に問題提起を行った。だが、この点を除けば学生は自主的に報告書作成作業を進め、1月末に最終報告書を提出した。なお、この間、12月末に学生は青葉区まちづくり懇談会に出席し、他都市の事例について短い報告を行い、2月中旬には市民活動推進課のアレンジで、同課と各区まちづくり推進課担当者の前で最終報告書のプレゼンテーションを行った。

Bワークショップの進め方

 前記の通り、2007年度プロジェクトAの方式に従い、学生は月交替で順に幹事になり、議事進行全体を総括した。また書記にもう一人の学生が就任し、議事録を作成・回覧した。ただし、報告会Uの前に、幹事は固定し、書記は学生が必要と判断する範囲で議事進行を記録した。さらに、月末には、副担当の教員が出席し、全体の進行状況や作成ペーパーについてコメントを発する場を設けた。4名の学生によるワークショップであったため、集団作業として大きなトラブルは生じず、またそれぞれの得意分野を比較的早い段階で互いに認識しており、職務分担はスムーズに行われたように見うけられる。

(3)成果

@最終報告書について

 最終報告書では、年間の調査検討を踏まえて、第1章でコミュニティを定義し、NPOのようなテーマ型コミュニティではなく、地域コミュニティを対象とすることとした上で、第2・3章で国・政令指定都市のコミュニティ支援政策の動向と、その背景を整理した。その上で、仙台市の分析に入り、各区の特徴と町内会の組織的特徴をふまえ、区独自のコミュニティ支援政策の調査結果・町内会の独自の活動についての調査結果を整理した上で、コミュニティビジョンを再検討した。活発な地域コミュニティでは、町内会長によるリーダーシップ、町内会内部の円滑な世代交代、住民の関心を持続させるテーマの存在、他の地域団体との連携の深化といった成功要因があることを指摘した上で、これらをさらに促進することで、先進的なコミュニティのモデルを作り上げ、それを他の地域コミュニティに波及させるべきであるとする政策提言の方向が打ち出された。第5章以下では、住民の関心を持続させるテーマとして、高齢者対策と地震対策が選定され、それぞれについて仙台市の取組、他自治体での先進事例を整理した上で、高齢者対策については、高齢者が日常的に活躍する機会を増やすため世代間交流事業をコミュニティが行うよう、行政が助成すべきことを提言し、地震対策では防災マップの作成・図上訓練・防災訓練が関連づけられることで日常的に住民の防災意識を高めることを目的に、行政側も市民局と防災局とが連携を強めつつ、支援に当たるべきことを提言した。

Aワークショップを通じた能力育成について

 本ワークショップでは、現状分析、問題点の提示、政策提言という政策形成過程の一連の流れをたどることで、学生は政策立案の諸要素を経験することができた。また、調査から報告会でのプレゼンテーション、報告書の作成までのすべての段階で、学生は自主的に作業を進めた。4名の学生は全過程に主体的に取り組んだ。

 特に当初のねらい通り、学生の調査能力が徹底的に訓練された。アポイントメントからインタビュー、記録の作成と共有について、相当程度学生は熟達した。また、報告と議論を通じて、プレゼンテーション能力、わかりやすく正確な文章作成能力の向上は、精粗はあるが各学生なりに達成できたものと思われる。

 ふりかえると、4名であったためフリーライダーが生じない反面、逆に組織化で苦労することがなく、チームとしての苦労が例年に比べて少なかったように思われる。その分、調査・分析そのものについて密に議論できたとも言えるかもしれない。また、政策提言については、時間が不足し、報告書でも若干書き足りない部分が残っている。これは、学生のスケジュール管理能力の問題とも言えるが、野心的に政策課題に取り組んだことを評価してもよいように思われる。

▲このページの先頭へ