公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2009年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:過疎地域の集落機能の維持向上策について

a)趣旨

人口の激減や高齢化の急速な進行により、過疎地域の集落が困難な状況に追い込まれている。集落から若者や働き手がいなくなり、生活扶助機能の低下、身近な生活交通手段の不足、空き家や耕作放棄地の増加、森林の荒廃などの問題が生じている。2006年の集落状況調査(国交省・総務省)によると、今後10年以内に消滅する可能性のある集落が423、いずれ消滅する可能性のある集落とあわせると2,643の集落が今後消滅する恐れがあるという。集落は、そこに住む住民の居住の場であることはもちろん、生産や交流の場として生活全般を支え、地域の伝統文化を維持しつつ、農地や森林の保全を通して自然環境を守り、水源を涵養し、下流域における土砂災害を防止するなど大きな公益的機能を果たしている。こうした集落の持つ機能を考えると、過疎地域における集落の衰退や消滅を当然のこと、やむを得ないこととして見過ごすことはできない。

本ワークショップは、こうした状況を踏まえ、過疎地域の集落の現状及び課題を把握し、過疎地域の集落機能の維持向上には何が必要なのかを探っていくこととした。その際、「現場主義」を重視し、現場にできる限り深く入り込むことを心掛けた。本研究の対象地域とした宮城県七ヶ宿町へは幾度となく通い、町職員、区長へのヒアリング、干蒲地区住民へのアンケート調査を実施したほか、宮城県のご理解・ご協力をいただき、県の「集落力向上支援事業(平成21年度新規事業)」の干蒲地区住民ワークショップ(計6回)にもメンバーとして参加する機会も得た。

b)経過

ア 年間の調査・検討作業前期

1)前期

まず、過疎や集落に関する基礎的な文献、総務省、国土交通省などの行政資料の読み込みを通じて、本ワークショップを進めていくうえで最低限必要となる基礎知識を習得することから始めた。また、「百聞は一見に如かず」ということで、5月中旬には七ヶ宿町を訪れ、町職員から町や集落の現状をご説明いただき、全7集落の現地視察を行った。これにより、学生達は、馴染みのなかった過疎や集落の状況について少しイメージを持てるようになったようである。しかし、そもそも集落とは何か、集落機能とは何か、過疎地域の集落が抱える具体的な課題とは何か、といった点についてはまだ雲を掴むような状態であった。なお、本ワークショップは、これらの問題と1年間格闘し続けることとなる。

その後、集落の現状及び課題をより詳細かつ具体的に把握していくため、県職員や町職員に対するヒアリングを行ったほか、6月下旬から7月上旬にかけて、全7集落の区長に対しヒアリングを、干蒲地区については全戸を対象とした対面方式のアンケート調査を行った。ただ、7月に入ると報告会Ⅰの準備に追われ、ヒアリングやアンケート調査の結果の分析が不十分なまま、また、本ワークショップとして取り組むべき課題の設定も不十分なまま、7月31日の報告会Ⅰを迎える。このため、報告会Ⅰでは、「どのような問題意識をもって、何をしていきたいのかが理解できない」といった厳しい指摘を受けることとなった。

2)後期

夏休みは、各自が、前期の作業及び報告会Ⅰの指摘事項等を振り返り、課題を整理する時間とし、9月半ばからワークショップの活動を再開した。後期は、本ワークショップとして取り組むべき課題の設定を早期に行うことと、その課題の解決に現実に貢献できる政策を立案することを目指した。これに関し、指導教員からは「見た目は立派でも現実の課題解決に貢献できない政策は意味がない。泥臭くても良いから現実の課題の解決に少しでも貢献できるものを目指そう」ということを繰り返し伝えた。

この検討・作業と併行して、学生達は、宮城県の「集落力向上支援事業」の干蒲地区住民ワークショップにメンバー(小グループ議論でのファシリテーター役)として参加し、集落の方々とともに集落の活性化方策を探った。また、福島県の「大学生の力を活用した集落活性化調査委託事業」へも公募参加し、伊達市山舟生地区においても、同様の取組を行った。これらは、通常のワークショップにはあまり見られない、本ワークショップ独自の活動となった。その分、学生達の負担も大きなものとなったが、集落の方々との議論を通じて、集落の問題を肌で感じる貴重な機会となった。また、自ら考えた活性化提案が集落の現場では受け入れられないといった経験も経る中で、机上の議論だけでは実効性のある効果的な政策は立案も実施もできないことを学ぶこととなる。なお、これらの活動により、高齢化率が80%を超え、集落の将来について悲観的な議論ばかり繰り返されていたという干蒲地区で、住民の中から「元気が出てきた」「ホタルを復活させよう」「集落を花で一杯にしよう」といった声が出るようになり、山舟生地区では、学生達の考えた地域の伝統芸能を生かした活性化策の一部が現実の取組として動き出すこととなる。このことは、最終報告書に直接反映されてはいないものの、本ワークショップの活動の大きな成果といえる。

このような取組を通じて、課題や政策提言のイメージが徐々に形成されていく。最終的には、自ら深く関わった宮城県の集落力向上支援事業を学生達なりに振り返り、この事業をベースとした政策を提言することで、宮城県における過疎地域の集落支援対策の充実を目指すものとなった。手法論に偏った感はあるものの、自らの実体験も踏まえたものであることから、一定の説得力を持ちうるものになったのではないかと思われる。こうして迎えた12月22日の報告会Ⅱにおいても、過疎対策の費用対効果を巡る指摘など幾つかの重要な指摘を受けた。1月は、報告会Ⅱでの指摘事項等も踏まえ、最終報告書のとりまとめ作業を行うとともに、2月、3月で、この1年大変お世話になった七ヶ宿町、干蒲地区、福島県伊達市山舟生地区、そして、宮城県へ研究成果の報告を行う予定である。

イ ワークショップの進め方

本ワークショップでは、火曜午後の正式な授業時間に加え、学生達は金曜午後などにも定期的に集まり、作業を行った。また、毎月最終火曜日は副担当教員も出席の月例報告会と位置付け、様々な指導を受けた。学生の役割分担については、リーダー(幹事)は原則して月ごとに交代することとした。ワークショップ運営の柱となる役割であることから、頻繁に交替することの弊害も見られたが、一方、各学生が、8名とはいえチームを一つにまとめていくことの難しさを実感するとともに、チーム運営のポイント等を学ぶ貴重な経験になったと思われる。

なお、本年度は1ワークショップ当たりの学生数が8名とここ数年と比べると多かった。学生数の多さは、相当な作業量をこなすことができる大きなパワーとなる一方、学生間の意見調整には相当な労力も要したようであり、一長一短があるように思われる。

c)成果

ア 最終報告書について

最終報告書では、第1章で本調査研究の背景、目的、手法を述べた後、第2章では過疎地域の定義や集落・集落機能等について説明し、本調査研究の対象地域である宮城県の過疎地域、七ヶ宿町の集落の現状等を整理した。第3章、第4章では、本ワークショップの基本的なスタンスを「地域住民の生活を守ること」と設定する。また、「集落共同の問題・個人レベルの問題」と「集落機能の低下」とが悪循環構造を形成していることを指摘する。そして、この2つの課題に予防の視点も入れた対策を講じていく必要があることを述べる。第5章では、自ら深く関わった県の「集落力向上支援事業」を振り返り、住民ワークショップが集落の課題解決に有効な手法であることを確認するとともに、住民ワークショップの様々な課題・留意点にも言及する。

以上を踏まえ、第6章では、宮城県の過疎地域における集落の課題を解決していくために、県による広域的な人材支援・交流の仕組みである「みやぎ・結いコミューンの構築」と、市町村主導での「地域ブランドWS(ワークショップ)の設立・運営」を提言した。「みやぎ・結いコミューン」は、集落の問題は自助・共助で解決していくことを基本としながらも、集落のマンパワー不足を外部の力によって補完していく仕組みであり、「地域ブランドWS」は、各市町村で地域ブランドWSを設立・運営し、地域の課題を住民が主体的かつ継続的に解決していこうという取組である。

イ ワークショップを通じた能力育成について

本ワークショップでは、現状分析、課題設定、政策提言という政策形成過程の一連の流れをたどることで、学生達は政策立案の諸要素を経験することができた。学生自身まだあまり実感がないようではあるが、現場に足を運び、現場の声に真摯に耳を傾け、また、学生同士、住民の方々との議論も積極的に行うなど常に前向きにこの問題に取り組んでいく中で、基本的には、どの学生も、調査能力、企画能力、コミュニケ-ション能力等が相当程度身についたものを思われる。また、報告会Ⅰで厳しい指摘を受け、以後、意識を持ち続けたこともあり、プレゼンテーション能力についてもある程度習熟したものと思われる。

一方、積極的、意欲的に議論はするもののなかなか結論が出ない、結論が出てもそれを安易にひっくり返し作業をやり直す、といったことが前期のみならず後期にも散見された。この結果、作業スケジュールが遅れ、最も重要な課題設定や政策提言の検討に十分な時間をかけられず、やや精度の粗いものとなった感は否めない。また、最終報告書の構成や文章についても、精査する時間的余裕がなくなり、正確性や分かり易さといった点で課題が残った。

いずれにしても、学生達には、本ワークショップで学んだことを最大限生かし、同時に、様々な反省点・課題も胸に刻みつつ、2年次のリサーチ・ペーパーに取り組み、大きく成長してくれることを期待したい。

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