公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2009年度 ワークショップI プロジェクトB

■プロジェクトB:政策の企画・実施・検証プロセスのガヴァナンス・システム

a)趣旨

 政策の企画・実施・検証プロセスのガヴァナンス・システムがいかにあるべきかを考え、グローバリゼーションの進展の中でのその機能別・地域別の整理と再構築のためのプランを作成すること、これが本ワークショップの目的であり、具体的テーマについては、WS内での検討、ディスカッション等を経て決定することとした。

b)経過

ア 年間の調査・検討作業
(具体的スケジュールについて)

 次の通りのスケジュールを想定した。[ ]内は各々に予定した期間である(期間の合計は4月から年末までの時間(夏休み期間は含まず。)を考え、7.5ヶ月強とした)。概ね1.から3.までを夏休みまでの間に、4.及び5.を空き以降に実施する予定とした。

  1. いくつかの国内外の事例を調べ、そこから浮かんでくる構造的課題を抽出することにより、問題意識を醸成する。[1ヶ月]
  2. パブリック・セクター関連諸制度の中で焦点を当てていく分野を決定していくことを念頭に、日本の国・地方、大学等に関する諸制度及びそれらを巡る最近の議論について調査する。また、参考になるいくつかの海外の国(と地方)の例について調査する。また、参考文献等により理論面での学習を進める。[1.5ヶ月]
  3. そこで得られた材料を基にシナリオ・プランニング(1回目)を行い、「分野と論点を絞り込む」と共に「さらに知りたい内容」を具体化していく。これは即ち、フィールド・スタディ、アンケート等の具体的内容(クエスショネア、方法等)を確定していく作業である。なお、この段階(概ね7月)からはアポイントの取り付けも始まる。[1.5ヶ月]
  4. フィールド・スタディ、アンケートの発送と回収等を実施する。その(中間)結果を元に、関係者を招聘した(ミニ)シンポジウム(またはWS)を開催する。[2ヶ月強]
  5. その成果を分析し、それを基にシナリオ・プランニング(2回目) を行う。その結果出てきた複数のシナリオについて検討し、政策提言の内容を固めていく。[1.5ヶ月]

 上記の1.(及び2.)の段階等では、『日本の論点2009』(文藝春秋社)及び村松岐夫編『テキストブック地方自治』(東洋経済新報社)も用いた。当初決まった具体的テーマの分野は、初等教育、高等教育及び統計の三つであった。

 シナリオ・プランニングについては本格的なものを行う時間的余裕はなくなったため、その考え方を実質的に取り入れた検討プロセスを実現することとした。また、具体的テーマの中の一つ(初等教育)は、担当チームでの検討がなかなか進展せず、11月の段階で取りやめることとし、代替的な内容(アンケートの実施とその統計分析・解析)を行うこととなった。

イ 進め方について

 次に、方法等に関して留意した点について述べる。

①まず、情報の収集とその構造的理解の二者は、別のことであるということを繰り返し伝えてきた。構想的理解のためにどのような視座を持ちえるか。情報の山を前にして、どのような構造的事実理解が立ち現れてくるか。これらのプロセスを大事にするようにしたところである。

②また、ゲーム理論的思考で、将来についての可能性のある複数のシナリオを想定することの大切さを強調した。複数のシナリオを想定するプロセスを通じて論点の明確化を図ることが可能になり、それにより、調査・研究全体が円滑に進むことになる。

③さらに、具体的政策提言を企画していくプロセスに関しては、次の通りのプロセスを経るように指導した。

「複数の政策オプションを考えてみる。その際、何らかの公的な関与に意味があるか、また、資源配分として妥当性があるか、等の観点からチェックを行う。
 それを通じて、複数の政策オプション間の比較、あるいは、コンティンジェンシーとの関連付けを行う。なお、問題と対策は(一対一ではないにせよ)対応関係にあるはずであり、そのことに注意する。
 また、関係者各々に、インプリメンテイション・プランとして、短期、中期、長期の区分ごとのどのような政策を提言するのか、それらの間の内容的、時間的整合性は確保されているのか、等のポイントを忘れずにチェックする。新しいガヴァナンスメカニズムを提案するわけであるが、それをどのようにして実現していくのかというポイントである。」

④ヒアリング先については、第一線で活躍中の方にお願いすることが出来た。これらも、相当熟度のある、また、実現可能性のある政策提言が実現する上で有意義であったと考えられる。

c)成果

ア 最終報告書について

 進め方に関しては、反復的・継続的指導を行った。一回で理解がしっかり出来るというわけではなく、繰り返し粘り強く指導に当たることとした。幸いなことに、次第に、各メンバーにも成長が見られ、概ね、上述の通りの進め方に沿う形で諸活動が行われた結果、ファクト・ファインディングと政策提言との整合性、また、時間的軸の中での検討と実際に政策実現に向けての戦術面も充分に考えられた、相当レベルの高い報告書が完成したと評価している。

 なお、実際のところ、関係機関等に報告書を基にご説明を行ったが、フィードバックとしてかなり高い評価を頂くことが出来たと感じている。

イ ワークショップを通じた能力育成について

 論理的な思考、コミュニケイション能力、交渉力等様々な面で、元々の能力にも成長スピードにも個人差があるが、各々大きく成長した。自分の頭で、考え、判断をする、鵜呑みにはしない、といったことが身に付いてきたと思われる。

 また、グループでの作業自体が組織での活動経験が乏しい各メンバーにとっては、貴重な体験となったことは間違いがないと考えられる。一部のテーマを変更したことは上述の通りであるが、進行上一番コストがかかったのは、内部調整であり、一部の学生のある種のこだわりとそれに関連するディスカッションのレベルの低さに起因している、いわば負の貢献がしばしば発生した。しかし、こうしたプロセスの中で、①メンバーがロジックで、言いたいことを言い合える仲間になったと言って良いことはうれしく感じるところであり、また、②アジェンダ設定のプロセス及びその重要性並びにアジェンダを変化させる判断の難しさと面白さ(柔軟性、合理性等がキー・ワード)に関しての理解が進んだことも極めて大きな意義があったと考えるところである。

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