公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2010年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:仙台市における地球温暖化対策の今後のあり方について

(1)趣旨

 産業革命以降、石炭、石油等の資源利用が爆発的に増大し、二酸化炭素をはじめとする大気中の温室効果ガスの濃度が上昇している。特に、戦後、先進諸国においては大量生産・大量消費型の社会経済システムが定着したことにより、温室効果ガスの増大に伴う地球の平均気温の上昇傾向は一層強まっており、生態系への影響、海面上昇等人類の生存基盤に対する深刻な影響が懸念されている。

 世界の科学者からなる「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、「20世紀半ば以降に観測された世界平均気温の上昇のほとんどは人為起源の温室効果ガス濃度の上昇によってもたらされた可能性が非常に高い」と報告(2007年第4次報告書)するとともに、地球温暖化対策の推進を図らなければ、地球の生態系に対する不可逆的な影響を生じる可能性が非常に高いと警告している。

 我が国は、1997年に採択された京都議定書において「2012年までに温室効果ガス排出量を1990年比で6%削減する」ことを国際的に約束し、目標達成のための基本的な法的枠組みとして「地球温暖化対策の推進に関する法律」を制定(1998年制定)し、国、地方公共団体、国民等が取り組むべき役割や義務等を定めた。この中で、地方公共団体に関しては、同法の第4条において「地方公共団体は、その区域の自然的社会的条件に応じた温室効果ガスの排出の抑制等のための施策を推進するものとする。」とされているところである。

 仙台市は、2002年に地球温暖化対策推進計画を策定し、各種の温暖化対策を講じてきたものの、依然として温室効果ガスの排出量の増加傾向に歯止めがかからない状況にある。このため、仙台市においては、現在、国の動向も踏まえつつ、地域特性や社会経済的動向も踏まえた新たな計画(2011年が始期)を策定するため、専門家からなる審議会において検討を進めているところである。

 こうした国や仙台市の動向を受け、本ワークショップは、仙台市における地球温暖化対策の検討と併行しつつ、その検討に対して学生の立場から積極的な貢献を図るべく、仙台市における温暖化対策の現状を調査するとともに、今後如何なる施策を講じていくべきか、そのための課題は何か、重点的な施策として何が考えられるのか等について政策提言をまとめることを主たる目的として開始した。

 なお、政策提言をまとめるための政策の調査・企画・討議・立案プロセスにおける基本的な作業の進め方について学生各人の能力を向上させることが本ワークショップの大きな目的であったことは言うまでもない。

(2)経過

ア 年間の作業等経過

a)前期

 ワークショップ開始当初1か月程は、地球温暖化問題についての基礎的知識、地球温暖化問題への国際的な対応の状況、我が国における制度や対策の現状等について、行政資料等に基づく説明と質疑を行った。また、第2週目には、学生とともに仙台市環境局を訪問し、仙台市の担当職員から地球温暖化に関する取組の状況等について説明を受けた。

 その後、WSⅠの報告会Ⅰ(7月下旬)に向け、現状分析に基づき適切な研究プロセスと調査項目、さらに研究方針の確立を図るため、学生を主軸とした調査活動に入った。前半においては、主に世界や日本における地球温暖化の実態と取組を整理するとともに、社会経済活動との関係を含む地球温暖化問題の構造の理解が進むことを狙った。後半においては、仙台市における地球温暖化の現状と課題を整理するとともに、後期における施策展開の議論に繋がる研究方針の討議を進めた。これらを基に、報告会Ⅰ直前には、本ワークショップにおける調査・作業項目等の絞り込みが行われ、概ねの研究方針を学生が共有することとなった。

 なお、報告会Ⅰでは、世界や我が国の温暖化対策の現状のほか、他の先進的な地方公共団体の取組や仙台市における部門別温室効果ガス排出量や排出傾向等について、後期における重点施策の展開を意識した報告を行った。

b)夏期

 8月は、公務員等の就職に係る勉強に取組む期間とし、ワークショップの活動は行わずに、各人が出身・地元自治体の温暖化対策を調査し、レポートをまとめることとした。9月に入ると、各人のレポートの発表とそこから得られる含意の抽出のための討議を行った。

c)後期

 後期は、仙台市における現行の温暖化対策の整理はもとより、仙台市へ新規かつ具体的施策を提言できるよう、学生間の討議による実質的な提言作成作業を行った。また、併行して、報告会Ⅱ(12月下旬)の報告書の基となる文書の作成及び校正作業も行った。

 提言作成プロセスにおいては、国よりも仙台市で行われ得る対策を整理するために、現行の制度および計画から仙台市の地球温暖化対策を中心に調査するとともに、仙台市において温暖化対策の推進のために解決すべき問題の特性を民生及び運輸並びに自然エネルギーの各分野に焦点を当てて詳細に分析・整理した。この政策提言に至る調査の過程では、10月中旬に東北電力株式会社所管の地熱発電所、水力発電所、河川塵介堆肥化施設等の現地調査を行い、自然エネルギーの利用促進という観点から、現場の担当者との意見交換等を行った。

 10月下旬には、仙台市の温室効果ガス排出実態や傾向等を踏まえ、政策提言をする部門として運輸部門・民生部門・自然エネルギー導入の3部門に焦点を当てることとし、各部門に担当者を割振り、特に重点的に仙台市が取り組むべき重点施策の検討作業を進めた。

 報告会Ⅱにおいては、重点施策の考え方や具体的な政策提言の内容を主として報告した。報告会Ⅱ以降は、そこでの指摘等を踏まえで文章等の校正を行ったうえで、2月9日に仙台市においてプレゼンテーションを行い、環境局幹部に報告書を提出した。なお、その際、本提言を高く評価する旨のコメントを頂戴したところである。

イ ワークショップの進め方

a)前期

 前期のワークショップは火曜3-5限をワークショップの時間として固定し、その他の時間を授業の報告の準備の時間として、学生間で自主的に作業にあたった。学生の役割分担は前期を通じて1名がリーダーとしてワークショップの統括等を行ったほか、他の学生も書記や会計等各自が何らかの役割を担った。

 各回のワークショップには、初期を除き、その時点における作業成果としての報告書のほかに、作業計画、研究成果等研究全体のストーリーの素案を学生が用意して臨むことを原則とした。これらの報告物に対し、教員は助言しつつ指導を行うことで毎回のワークショップとした。

b)後期

 後期のワークショップは前期同様に火曜3-5限をワークショップの時間として固定し、必要に応じて学生間で自主的に作業時間を設けた。学生の役割分担は、基本的には1か月毎の持ち回り制とし、最終的にリーダー未経験者がいないように役割分担を行った。

 各回のワークショップでは、その時点における作業成果である報告書案について、日本語として意図が読み手に伝わるか、実現可能性のない荒唐無稽な内容ではないか等々、ロジックやフィージビリティの観点が重要との助言を与えつつ、学生間で議論する時間ができるだけ多くなるよう努めた。

(3)成果

 仙台市に提出した報告書については、地球温暖化問題に関する世界、我が国、仙台市の取組の状況を整理するとともに、特に仙台市において対策が求められる分野として、民生及び運輸並びに自然エネルギーの各部門に焦点を当て、学生間の議論を通じて、新規で具体的な重点施策案を多く立案することができた。

 もちろん、行政的な立場からすれば、予算の制約や他の制度との調整等もあって実現可能性については疑問符が打たれることは承知しているが、学生のフレッシュな思考を優先し、アイディアを活かすための報告書としたいとの意思が強く働いた結果である。

 報告書を受け取った仙台市の幹部からは、コンサルタントの報告書にも優る価値があるとの言葉を頂戴したところであるが、社会経験の少ない学生が一生懸命に調査し、整理し、企画し、立案してとりまとめた報告書への最大限の賛辞であると考えている。教員としても学生とともに誇らしい思いを共有した次第である。

 なお、学生には、論理的な表現力、判断力、説得力、文章力など課題は依然として多いが、1年前に比べ飛躍的にその能力は向上しているのは明らかであり、本ワークショップが学生達の今後の飛躍のプラットフォームとなったものと確信している。

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