公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2010年度 ワークショップI プロジェクトC

■プロジェクトC:地方自治体による国際交流事業の再評価とその強化策……福島県及び松江市による対中国事業を例に

a)このプロジェクトの目的と概要

 我が国にとって重要な中国との交流事業を例に、対外関係の面でも重要な「主体」である地方自治体が、わが国の対外交流、国及び地方の対外PR等に於て、大きな役割を果たしていることを再認識・再評価し、そうした事業の強化を通して、地域の振興・再活性化延いてはオール・ジャパンの対外関係積極化の効果を齎らすことを目的とした。具体的には、対中国事業を積極的に行っている福島県及び島根県松江市を提携先に選び、両自治体の事業を主な対象として、日中関係の概況等をも視野に入れた調査・分析を行い、中国での実地調査・検証をも行った上で、両自治体に提言を行うこととした。なお、分析・提言を行うに際しては、それらが、他の自治体との関係でも、出来るだけ一般的妥当性を持つものとなり得るよう努めた。

 本プロジェクトでは、地方自治体による対中交流事業の意義と成果等を、中国の各地で、実地に検証することに重要な意義づけをしたが、その背景には、将来の日中関係を担う有為の若者に、中国を実見させ、先方政府関係者との面談、青年・学生との交流等を行うことを通じて、中国への関心と理解を深めさせることへの期待があった。

b)実施の経過

(先行準備として、2009年12月から翌10年3月にかけ、担当教員から、福島県、松江市の両自治体、中国杭州市所在の浙江工商大学、在上海日本国総領事館、外務省、JICA、国際交流基金、(財)自治体国際化協会、仙台市等を往訪(在中国の機関は電話、メール)し、協力を要請した。)

イ)第一期:2010年4月〜5月

 調査・研究の原点として、シラバスの再読を行った上で、担当教員より、外交論、日中関係、地方自治体の「外交主体性」等につき講義。

 これと並行して、参考文献・書籍の主要なものにつき、本ワークショップ(以下WS)の院生が分担して読み、レジュメを作成して授業で報告し合うことを通じて、効率的な必要知識の共有を目指した。

 予定した訪問、聴取先につき、可能な順に聞き取り調査を開始し、4月下旬、仙台市の国際交流等関係部門を訪問した。5月中旬には福島県庁を訪問、担当の局長を表敬の上、関係幹部等から説明を聴取し、意見交換等を行った。併せて、JICA二本松訓練所(福島県二本松市所在)を訪問、青年海外協力隊業務と自治体との連携につき聴取した。同月下旬、JICA東北(在仙台市)を訪問。

ロ)第二期:6月〜7月、含「中間報告会」

 第一期の調査・学習の基礎の上に、関係中央官庁等の基幹的な部門への訪問、聞き取り調査を開始した。6月には、外務省、JICA、国際交流基金、(財)自治体国際化協会、JETROを訪問し、担当部長等関係幹部への表敬及び実務担当者からの説明聴取を行った。

 7月下旬には、中間報告会が予定されたので、7月に入ってからは、報告書案及びパワーポイント稿の作成に忙殺された。授業時間のみでは足りず、WSの院生諸君は、週に2,3回ずつ自主的に集まって、作成作業及び討論等を行った。

 中間報告会は緊張のうちに迎えたが、パワーポイントも良く出来ており、プレゼンテーションも概して無難に終えた。しかし、質問には多様なものが、幾分の重複・意味の不鮮明さを伴って提起され、WS院生の側が応答に苦しむ場面も現出した。テーマの「大きさ」と比較しての時間的な制約もあり、中間報告会までには、充分深みのある研究、準備が出来上がらなかったことが露呈した面もあった。

ハ)第三期(夏期休暇期):8月〜9月

 夏期休暇期間は、院生が帰省する場合には、郷里の自治体等で、国際交流等に関する聞き取り調査を行うよう求めておいたが、実行出来たのは、一部の院生のみであった。

 夏期休暇は、本来、「充電」用に使われる場合が多かろうが、本WSの場合、提携・調査事例の一つたる松江市の訪問、そして自治体による交流事業の意義・効果を実地に検証する為の中国(上海、杭州、南京)訪問を実施する重要な時期であった。

 松江市は、8月に訪問。市長表敬に始まり、国際交流を担当する方々から、松江市の対中国交流事業の概要、意義等を詳しく聴取した。併せて、同市近隣の自治体や民間団体も訪問して、それらの国際交流事業を、特に、地域振興の観点から調査した。

 中国は9月に訪問、WSメンバーの院生8名中7名が参加。上海では我が総領事館、福島県事務所、中国側の上海国際問題研究院の代表、責任者から、日中関係の現状、自治体の果たす役割、青年・学生交流の意義等につき、現場感覚のある説明・評価を聴取した。

 浙江省の省都杭州市では、松江市との友好都市関係を繞り、市政府対外関係担当の幹部から、日中関係に占める地方政府・自治体間交流の意義、松江市との交流の現状と評価、青年・学生交流の意義等につき聴取し、浙江工商大学(注;市立。日本語・日本研究部門は浙江省で最高レベル)を訪問しての日本語・日本研究専攻の院生・大学生との意見交換、日中関係についてのアンケート調査等を行った。これは、WSの調査・研究の観点からの意義に加え、我々自身で、一つの、有意義な青年・学生交流を行い、その意義を体感してみようとの考えに出たものであった。

 続いて江蘇省南京市を訪問、省政府・対外友好協会(注;中日友好交流が主務)関係者から、日中関係に果たす地方政府・自治体間交流の意義、現状と評価を聴取し、南京大学(注;国立。中国屈指の名門)の院生・学生との意見交換とアンケート実施を行った。併せて「南京大虐殺記念館」を訪れた。

二)第四期:10月〜11月(整理期)

 中国訪問は大事業であり、殆どの院生にとって初めての中国でもあったので、日程の検討、格安チケットの予約から、旅券申請・入手等の準備、中国側関係者との連絡・調整、資料及びアンケート設問の作成等に多大のエネルギーを費やした。結果は、大成功であったが、その間、幹事役の2名を中心に、作業を分担した院生等は、大きな精神的・時間的負担に耐えて奮闘した。それもあり、訪中成功後は、「気が抜けた」ような感じもあったが、程なく緊張感を取り戻し、お世話になった日中双方の各機関・代表者等への御礼状発出、訪中成果の取りまとめ、アンケート調査の集計・分析等の、これまた大量の作業に入った。

 右と並行して、最終報告書の作成に向けた議論、可能な部分からの文章起草、それを繞る議論、足りない部分の補完的調査、メールでの照会等を行った。

 福島県、松江市の両自治体からは、訪中の成果を踏まえて、更に聴取する必要を感じ、松江市はメールによったが、福島県とJICA二本松訓練所は再度訪問して、報告書に厚みを加える補完的調査を行った。

 12月に入ってからは、報告書の作成作業に全力を投入した。自主的な議論、打ち合わせ、意見交換も度々行われ、院生諸君の努力は見事であったが、WSとしては、時間的、身体的、精神的に、余りに負担が大きくなるのを避けるべく、「集まれる者で集まる」との姿勢で臨んだ。

 努力の甲斐があり、報告書案は、改訂を重ねる毎に良くなり、最終報告会を前に、パワーポイントのアピール度を高める工夫、画面の色調について議論するまでの余裕があった。これは、きちんと段取りをつけて物事に臨む、という姿勢が、訪中という「大」事業を通じ、各院生に身についた、ということであったろうか。

 最終報告会では、先生方からの厳しい質問を予期して、心配、緊張する局面もあったが、担当教員からWSの院生に対しては、これだけの調査と研究、現地訪問を重ねた結果の報告であるから、うまく行かない筈はなく、リラックスして臨むべし、と助言した。

 幸いにして、報告会では概ね好意的な反応を頂き、一同ホッとした。

ホ)最終期:2011年1月〜

 最終報告会は済んだが、報告会で指摘された点を始め、WSの院生が自ら発見した問題点、表記上の問題等につき種々解決の努力を行う必要があり、前年末に立てた段取り予定に沿って、年明けから、更に精度の高い微調整の作業に入った。

 最終報告会の「重圧?」から解放された、軽やかな気持もあってか、院生は、ダレたり、手を抜いたりせず、構成の再調整から細かい議論や修正に至るまで、有終の美を飾る作業を行った。

 既に本印刷用の最終版は提出し、報告書の送付先も予定し、本日(2月20日)現在、滞りはなく、後は、本印刷版の出来上がりを待って、提携先を中心に、お世話になったところへのお礼参り乃至報告を行う具体的段取りをしつつある。

 まず手始めに、地元仙台市の関係部局に、(最終版印刷を待たず)二月中に報告し、簡単な発表をさせて頂く予定。次いで、福島県庁へは、3月に、関係幹部を含む方々への、御礼と報告、更には、パワーポイントを使った発表を行う手筈であり、松江市へは、先ず、担当教員が、本印刷が出来上がった段階で、それを持参して御礼・報告に赴き、夏休み等の、時間を取りやすい時期に、院生数名が改めて教員と出掛け、パワーポイントによる発表を行う考えである。それまで、WSメンバーの協調と積極的関与が持続するよう願っている。

c)成果

 成果は大きく、しかも広汎に及んだと思われる。

 第一に、所期の目的を達成し、概ね妥当な報告書に辿りつけたこと。これは、本WSが、テーマと調査・研究の手法、具体的活動を大きく設定したこととの関係で、実は、心配された局面もあったことを考え併せると、目的を兎に角達成したこと自体が、大きな成果と言える。

 第二に、他のWSへの参加者に比べ、対外関係への関心は強かったとはいえ、特に中国に対して強い関心を持つ院生ばかりではなかった、このメンバーで、中国側との関係を含めて、種々の段取りをつけて、それを実行に移し、成果を上げたことは、それ自体、本大学院に於ける実務的教育重視の精神に適ったことであったと言える。

 第三に、国内でも、福島県、松江市はもとより、外務省、JICA、JETRO、国際交流基金、(財)自治体国際化協会等の諸機関を訪問し、様々な人士と交流(幹部表敬、見学、担当部局からの説明、多くの関係者との意見交換、メールでの連絡等)して、多くを学ぶことができた。これには、社会見学や「社会性」向上の観点からの成果も、少なからずあったと認められる。(上記の組織への就職を希望する院生も少なくなく、彼らには職場見学的な意味もあったと思われる。)

 最後に、何よりも、様々な個性を持った8名の院生が、紆余曲折はあったものの、試練を乗り越え、「共同作業」を行って、相応の報告書を作成するに至った、その協働のプロセスが、成果として極めて意義のあるものであった。

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