公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2011年度 ワークショップI プロジェクトA

■プロジェクトA:東日本大震災に照らした我が国災害対策法制の問題点と課題に対する実証研究Ⅰ(災害応急対策)

(1)趣旨

 本研究は、平成23年3月11日14時46分に発生した巨大地震(東北地方太平洋沖地震)とその地震に伴い岩手、宮城、福島県の沿岸部を中心に壊滅的な被害をもたらした東日本大震災をテーマに、日本の防災に関する法制度が、現代の災害の実態に対応した適切な形の法体系となっているか、また、どこに問題点があり、その課題は何であるかといった実情に照らして研究を行ったものである。本研究が5月という、東日本大震災からまだ間もない時期に始動したことなどから、本研究の射程としては復旧期に移行する前段階の、発災時から応急救助期を範囲とした。これは、発災から応急救助期を範囲として、防災に関する現行の法制度を対象に実証研究を行うことが、社会に対して最も学術的な貢献が可能であるだろうという結論に帰着したためである。但し、東日本大震災には福島原子力発電所事故も含まれるが、本研究の目的は上記の通り、日本の自然災害に係る防災に関する法体系の見直しを主眼にしているため、福島県における原子力災害は本研究テーマとは性格を異にするものであるとともに、未だに終息していないことから実証研究が困難であるために対象としていない。

(2)経過

ア 年間の作業経過等

a)前期

 今年度は、震災により当初予定していた研究テーマを急きょ変更したことにより、十分な準備が整わないなかで、「走りながら考える」というスタンスで、1か月遅れでスタートした。初めの2か月ほどは、被災地の視察や災害法制に関する知識の習得に充てられ、災害対策基本法、災害救助法等の基本的な法律についての概要を学んだ。毎回、法律の担当者を決めたうえで、法律の概要を発表させて、教員がそれに関する解説や震災の実態との適合性などの問題点の指摘などを行い、皆でディスカッションを行った。

 7月上旬からは、宮城県庁に設置された緊急災害対策本部現地対策本部を訪れて、内閣府企画官から国の現地災害対策の実態等を聞いたり、仙台市天白消防署、自衛隊多賀城駐屯地、第二管区海上保安本部等の実働隊から、初動期における救助活動内容の実態や実動隊同士の連携の調整、被災自治体に対する支援、避難所における住民支援などについて貴重な話を伺った。それと並行して、宮城県及び岩手県並びに仙台市、石巻市、南三陸町、気仙沼市及び陸前高田市に第1回目の調査に出向いて、被災状況等の実態調査を行うとともに、後期に行うヒアリング調査への協力依頼を行った。

b)夏季及び中間報告会

 前期における基礎的な研究成果と実態調査を踏まえて、東日本大震災の実態を理解し、研究をより社会に結びつけ意義のあるものとするため、特に東日本大震災に対する行政的な問題点を明確に把握する観点から、8月〜9月にかけて、メンバーから各2名ずつ、宮城県庁、仙台市役所、国土交通省東北地方整備局のインターンシップに参加した。このインターンシップにおいては、実際に災害関連の実務を手伝うことによって、各行政主体の災害応急対策がどのように行われており、また、どのような問題に直面していたかを身を以て知ることができた。このように各機関への調査を積み重ねることにより、防災の分野が抱える問題と克服すべき課題を浮き彫りにし、深く分析することが可能となった。

 中間報告においては、前期に培った基本的な知見に加えて、第1回目の自治体ヒアリングや実動隊へのヒアリング結果及びインターンの成果を生かして、東日本大震災で明らかになった災害法制度の大きな問題点11項目について、整理、問題点の抽出を行った。

 また、これと同時並行的に、11項目の問題点に対応した形で、後期における各機関にて行うべき実態調査の方針をまとめた。

c)後期(年内)

 中間報告後、岩手県沿岸部の被災地の視察と併せて、後方支援機能を果たした遠野市に合宿を行い、10月中に、上述した実態調査の方針に基づいて、詳細なヒアリング調査様式を作成した。これは、自治体ヒアリングは、担当する学生2,3名が分担し、指導教員も分担して各自治体を訪問して調査するため、ヒアリング事項を統一する必要性から作成したものであるが、その作成過程自体が、各問題点を実証的に検証したうえで実現可能性の高い提言に結び付けるうえで非常に有効であった。

 11月から第2回以降の自治体ヒアリング調査に入ったが、主担当教員が予め各自治体の防災部局担当者に電話で協力依頼をしたうえで、学生がすべてのアポイントメントをとりつけて、日程調整と行程管理を行った。公共輸送機関が復旧していない状況のため、大学の公用車を借りて運転する必要にせまられ、また、かなりのハードスケジュールであったため、肉体的には疲労困憊であった。

 12月に入ると、まずヒアリング資料を整理して、各自治体ごとのヒアリング資料を作成し、そのうえで11項目ごとのヒアリング資料の作成を始めた。こうすることによって、自治体ヒアリングで聞き漏らしていた項目や、再確認する必要のある項目などが明らかになった。それらの項目については、再度ヒアリングに出向いたり、簡単な内容であれば電話やメールで確認したりして内容の補充に努めた。12月6日には内閣府の防災部局とディスカッションを行った。12月半ばからは、上記の11項目ごとのヒアリング結果に基づいて、今後のわが国における、広域・大規模災害に対する防災を考えるうえで必要となる法、運用、各主体の役割などに言及し、分析を行い、これまでの防災の在り方を見直し提言を検討した。広域・大規模災害下において、特に発災直後からの初動期には、国、県、市町村の支援体制と実動隊との連携はどうあるべきか、考えられる体制を如何に構築するべきか、また災害現場における道路啓開や必要物資の供給等における活動をいかに円滑に行うか、さらに避難所から仮設住宅での生活に移行し、今後、さらなる復旧・復興を促進するためにはどのような施策が有効であるか、といったことを法律の改正と運用の改善の観点から考察し、それぞれ提言という形で報告書をまとめ始めた。

d)後期(年明け以降)

 お屠蘇気分も抜け切れない年始早々の1月6日に今年最初のワークショップを実施し、報告書のたたき台をもとに全員で議論を進めた。その結果、11項目のうち、法制的な課題に絞って提言をまとめるという基本方針を確認して最後の作業に入った。1月10日、11日、13日にもワークショップを実施して最終的なチェックを行い、1月16日に最後のリハーサルを終えて翌日の最終報告に臨んだ。準備不足の中でスタートし、しかも極めて流動的な震災後の困難な状況の中での研究であったが、7人がそれぞれの分担項目について具体的な政策提言を行うことができ、ワークショップのねらいは十分に達成できたものと考える。

 最終報告会が終了してから、報告会での指摘事項等について必要な手直しを行って、1月末に最終報告書を提出した。

 2月に入ってから、ヒアリングをお願いした各自治体に、お礼を兼ねた報告の行脚に出向いた(ただし、岩手県は多忙とのことで郵送した。)。各自治体からも高い評価をいただき、是非そのような法改正等をお願いしたとのことであった。その後、2月17日には、内閣府の防災部局を訪れて、提言を発表したところ、ここでも高い評価をいただいた。2月24日には、東北地方整備局で報告を行い、実態に基づいたディスカッションも行った。

イ ワークショップの進め方

 原則として、毎週火曜日の3限〜5限にワークショップを実施したが、それ以外にも必要に応じて臨時に実施した。副担当の西田教授、飯島准教授にも可能な限りご出席いただき、貴重なご助言をいただいた。また、学生全員と教員が共有するメーリングリストを活用して、インターンの成果や個々人が分担した作業結果を共有するとともに、共有ファイルを活用することにより、作業効率の向上と情報の共有化を図ることができた。

 各学生は、月ごとに持ち回りでリーダー・サブリーダー・書記・会計等の役割を務めることとし、リーダーがワークショップの議事進行や全体調整を担当することとした。全員が各役割を経験することにより、集団をまとめることの大変さや、責任感を学ぶことができたと思われる。また、実地調査に伴って、ロジの重要性を認識できたことも、将来の社会人として重要な成果であった。

 最終発表においては、この分野において最も知見を蓄えておられる生田名誉教授にコメンテーターをお願いしたが、厳しいご指摘にもしっかり答えることのできる逞しい精神力も身に着けることができた。

(3)成果

ア 最終報告書について

 最終報告書は、4章から構成されている。第1章では、東日本大震災の概要として、地震と津波の発生のメカニズムとその規模及び被害等を、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)を比較対象としてまとめた。

 第2章では、第1章で論じられた現行の災害法制と、実際に行われた対応をもとに、東日本大震災で明らかになった災害法制度の大きな問題点11項目、すなわち①初動体制の確立、②避難勧告、避難指示、警戒区域の指定、③消防、救出活動、行方不明者の捜索、御遺体の埋葬、④緊急輸送ルートの確保、⑤情報通信の確保、⑥応急医療活動、⑦必要物資の供給、⑧避難所等における生活支援、⑨応急住宅対策、⑩がれきの処理、⑪被災者に対する金銭給付制度について整理、問題点の抽出を行った。

 第3章では、上記11項目を柱として作成した調査票を用いて、各地方公共団体と実動隊へ直接行ったヒアリング調査を分析し、問題点を抽出した。この調査における回答を基に、東日本大震災を改めて俯瞰し、今後のわが国における、広域・大規模災害に対する防災を考えるうえで必要となる法、運用、各主体の役割などに言及し、分析を行った。

 第4章では、第3章の分析から、これまでの防災の在り方を見直し提言を行った。広域・大規模災害下において、防災に従事する各主体が効率的且つ実効的な活動をどのようにすれば達成できるかを提言の軸にして、発災直後からの初動期においては、国、県、市町村の支援体制と実動隊との連携はどうあるべきか、考えられる体制を如何に構築するべきか、また災害現場における道路啓開や必要物資の供給等における活動をいかに円滑に行うか、さらに避難所から仮設住宅での生活に移行し、今後、さらなる復旧・復興を促進するためにはどのような施策が有効であるか、といったことを法律の改正と運用の改善の観点から考察し、最後にそれぞれ提言という形でまとめた。

 本研究報告書が、東日本大震災をまとめた一研究に留まらず、この先発生する可能性のある広域・大規模災害時において被害を抑制するための一助となり、少しでも社会貢献を果たせれば幸いである。

イ ワークショップを通じた能力育成について

 二度の報告会を経て最終報告書を取りまとめるまでの過程で、共同作業を進める上での協調性や責任感、リーダーとしての集団の管理運営能力、ヒアリングを実施する上でのコミュニケーション能力、文献調査等における正確な理解力と分析力、報告会でのプレゼンテーション能力など、多様な能力を身に着けることができた。

 被災自治体に出向いてのヒアリング調査を重ねたことで、社会の実態を踏まえた実証的な研究を行い、実態に即した実現性の高い政策立案を行う能力を養成することができた。特に、各自治体や内閣府、国土交通省東北地方整備局、自衛隊等実働部隊の担当者とのディスカッションにおいて、公式見解ではなく本音に基づいた議論ができたことを通じて、それぞれの学生が大きく成長したものと思われる。

 報告書の成果をヒアリング先に報告することを通じて、本ワークショップの提言が被災自治体のニーズに合致した法制度の提言になっていることを確認できたことは、将来において官公庁等の公共政策に携わるうえで、大きな第1歩を記すことができたものと思う。

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