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■プロジェクトC:東北地方における広域連合等の広域的実施体制創設の可能性について

(1)趣旨

 民主党政権が進めている地域主権改革では、出先機関の廃止が大きなテーマとなっており、平成22年12月28日に閣議決定された「アクションプラン」において、出先機関の事務・権限をブロック単位で移譲できるよう、地方側の「受け皿」となる新たな広域行政制度を整備し、26年度中の事務・権限の移譲を目指すとしている。

 一方、関西2府5県では、国の動きに先んじる形で、平成22年12月1日に、「関西広域連合」を創設した。また、九州地方知事会は、国の出先機関の事務・権限等を、地方で「丸ごと」受け入れるための組織として、「九州広域行政機構」(仮称)を提唱している。

 このように全国で、広域行政の枠組みづくりの検討が進められているが、東北地方では、平成22年11月の北海道東北地方知事会議で「広域連携等に関する検討会議」の設置が決定され、事務レベルの検討が始まったが、広域連合の設立には消極的な知事も少なくなく、他地域と比べて、広域連合などの広域的実施体制の創設が遅れる可能も生じている。

 しかしながら、東北地方では、複数県で連携を図るべき課題を有するとともに、震災からの復興に当たって、東北地方の各県が広域的な連携・協力を図ることが今まで以上に重要となるものと考えられる。したがって、東北地方において、県境を越えた行政課題に対応できる広域的な実施体制を確立することは重要な課題であるといえる。

 このような状況を踏まえ、東北地方における広域的な行政課題に対処するとともに、出先機関の「受け皿」ともなる広域的実施体制の創設の可能性について検討することとしたものである。

(2)経過

ア 年間の作業経過等

a)前期

 今年度は震災の影響により、スタートが1か月ほど遅れ、5月中旬からの授業開始となった。当初1か月ほどは、広域行政に関する知識の習得に充てられた。各授業では、道州制導入に関する提言内容や広域連合制度の仕組み、国の出先機関改革の状況、各地域における広域的実施体制の検討状況などを取り上げている。全員が共通の理解を持つ必要があったため、文献等を分担してまとめるのではなく、毎回、全員が同一の文献等を読み、全員がレポートの提出を行った。授業では、代表者が報告し、教員が解説をする形で進めた。

 また、東日本大震災からの復旧・復興を踏まえずに政策提言を行うことは現実的ではなかったことから、毎回の授業で、震災に関連した広域的行政課題について取り上げた河北新報の記事(1週間分)を、担当から報告してもらうようにした。

 7月上旬からは、国や地方における広域行政への取組み状況の実態を知るため、実地調査を行った。実地調査は、関西方面と東京方面の2グループに分けて実施した。

 関西方面では、関西広域連合事務局をはじめ、兵庫県、大阪府、京都府、滋賀県といった構成団体の各担当者へのヒアリングを行うとともに、山田京都府知事との面談も行った。いずれのヒアリングも得るところが大きく、広域連合創設の意義を再確認することとなった。東京方面は、内閣府地域主権戦略室及び総務省を訪問し、最新の制度改正の検討状況について情報収集を行った。また、増田元総務大臣(元岩手県知事)、寺田参議院議員(前秋田県知事)と面談し、広域行政の枠組みや実施すべき事務等について、示唆に富むお話をいただいた。

 さらに、7月下旬に宮城県と岩手県へのヒアリングを行った。広域連合として取り組むべき事務に関してヒントが得られることを期待したが、いずれの県でも、広域行政への気運が高まっていないことや震災への対応等があり、あまり有益な情報は得られなかった。

b)夏期及び中間報告会

 前期の実地調査では、教員が主導した部分もかなり多く、自立的に研究を進める姿勢が十分とは言えなかったことから、夏休み期間中に、学生が独力でアポイントを取り、学識経験者や財界人、行政機関等へインタビューを実施し、報告を行うことを宿題とした。結果として、各学生が意欲的に取り組み、東北観光振興機構や東北経済連合会、東北活性化研究センター、三菱総研など、多方面へのヒアリングを実現することができた。この取り組みを通じて、学生の自主性が大いに高まった。

 9月に入り、中間報告会への準備を開始したが、発表の骨子の作成、パワーポイント資料の作成、想定問答の作成、全体のスケジュール管理等、いずれも共同で取り組むのは初めての作業であったため、かなり苦労した。パワーポイント資料については、原案段階では極めて冗長で要領を得ないものであったが、9月下旬に、野村総合研究所のコンサルタントに原案に基づいてプレゼンを行った際、極めて厳しい指摘を受けたことにより、各自が問題点を自覚し、修正を行い、大幅に改善がなされた。中間報告会までには、何度かプレゼンの練習を行い、本番では、予想外の質問に戸惑った場面があったものの、ほぼ無事に終えることができた。

c)後期(年内)

 中間報告会終了後、直ちに政策提言の具体的なテーマの選定に取りかかったが、なかなか良いテーマが見つからなかった。結果として河北新報において取り上げられた広域的な課題の中から、各自が興味関心の高いものを選択する形で、7人がそれぞれ一つずつテーマを決め、具体的な政策を考えることとした。

 研究テーマ決定後は、各学生が自分の研究テーマに沿って、インターネットや電話・メールによるヒアリング等により基礎的情報を収集するとともに、毎回の授業で調査の進捗状況を報告した。

 11月から12月上旬にかけて、7つのテーマを広域防災(広域防災拠点、広域防災訓練)、広域医療(ドクターヘリ、遠隔医療)、広域産業(新エネルギー、新商品調達認定制度、マイクロファイナンス)の3分野にわけ、それぞれの分野ごとにチームを編成して、各チームごとに実地調査を実施し、調査結果を授業で報告した。ヒアリング先は、宮城県、岩手県、香川県、徳島県、八幡平市、盛岡市消費生活センター、東北環境事務所、東北経済産業局、東京臨海広域防災公園、石油連盟、国際石油開発帝石、消費者信用生活協同組合(盛岡市)、仙台銀行など、多岐にわたっている。

 実地調査が終了した12月上旬から最終報告会に向けたパワーポイント資料の作成を開始した。膨大な調査を行ったため、コンパクトにまとめ上げるのに苦労したが、12月下旬の最終授業までにパワーポイント資料をほぼ完成することができた。引き続きパワーポイント資料の文章化に取りかかり、年末までに、報告書の政策提言に係る部分について原案を作成した。報告書の政策提言以外の部分については、各自が年末年始の休みを利用して、中間報告会で報告した内容をもとに作成を行った。

d)後期(年明け以降)

 年明け後は、報告書全体の作成作業を進めるとともに、想定問答の作成を行い、さらにプレゼンの練習を繰り返して最終報告会を迎えた。7人がそれぞれのテーマについて具体的な政策提言を行うことができ、ワークショップのねらいはある程度達成できたものと考える。

 なお、最終報告会では、コメンテーターとして、河北新報の鈴木論説委員長をお招きした。東北地方における広域連合の創設は、東北再生共同体の創設を提唱する河北新報の問題意識と合致するものであったため、非常に有益なコメントをいただくことができた。

 最終報告会の翌週には、「北海道東北地方知事会・広域連携等に関する検討会議」の事務局を務める宮城県に対して、政策提言を行った。村井知事に直接、提言書を手交することができたのは大きな成果であった。

 その後、報告書の校正を行い、1月末に最終報告書を提出した。

イ ワークショップの進め方

 毎週火曜日の3限〜5限にワークショップを実施した。また、各月の最終授業日に、副担当教員である牧原出教授に出席をお願いし、研究の進捗状況について報告を行い、ご意見をいただいた。これは、授業にメリハリをつける上で、非常に効果的であった。

 報告会前の作業が集中するときは、学生間で時間を調整して集合し、準備を行った。また、学生全員と教員が共有するメーリングリストを活用して、個々人が分担した作業結果を共有することにより、作業効率の向上を図ることができた。

 各学生は、月ごとに持ち回りでリーダー役を務めることとし、リーダーがワークショップの議事進行や全体調整を担当することとした。全員がリーダー役を経験することにより、集団をまとめることの大変さや、責任感を学ぶことができたと思われる。中間と最終の報告会前及び後期最初の研究方針決めの際のリーダーの役割は、特に重要であった。

 また、毎回の授業ごとに、順番で書記を務め、授業後に議事録を作成して、全員にメーリングリストで配信し、情報の共有を図った。

 会計については、当初設けていなかったが、出張が多くなるにつれて予算の管理が必要となり、前期途中から会計担当を設けた。後期は、予算が追加になったこともあり、多数出張を行ったため、予算の枠内で適正に執行する上で、会計の仕事は、目立たないものの非常に重要なものとなった。

(3)成果

ア 最終報告書について

 最終報告書は、9章から構成されている。第1章から第3章までは、東北地方で広域的実施体制が必要な背景、道州制や出先機関改革をめぐるこれまでの議論、東北地方における広域的実施体制に関する検討状況、道州制と広域連合の比較など、広域的実施体制を検討する上での基本的な知識について整理を行っている。また、第4章では、関西広域連合の取組状況や最新の国の出先機関改革の動向について確認し、第1章から第4章までのまとめとして、広域的実施体制として広域連合の創設が適当であることを述べている。

 第5章において東北地方において広域連合を創設すべき理由を述べた上で、第6章では東北広域連合の組織、第7章以下では東北広域連合が実施する政策として、防災(第7章:広域防災拠点、広域防災訓練)、医療(第8章:ドクターへり、遠隔医療)、産業(第9章:新エネルギー、新商品調達認定制度、マイクロファイナンス)について、それぞれ政策提言を行っている。提言内容に関しては、やや荒削りな面もあるが、数多くの関係機関へのヒアリングを基に政策内容を検討したことにより、かなり現実的な制度設計ができたのではないかと思われる。

 宮城県に対して行った政策提言については、河北新報がその概要を掲載するとともに社説でも取り上げたことから、多くの自治体関係者の目に触れたところであり、東北地方における広域的実施体制創設の議論に関して、一石を投じる効果はあったものと考えられる。  また、今回の政策提言に関して、3月上旬に仙台青年会議所と意見交換を行うことが予定されており、今後、提言を一つの契機として、東北地方における広域連合創設に向けた具体的な動きが生まれることが期待される。

イ ワークショップを通じた能力育成について

 二度の報告会を経て最終報告書を取りまとめるまでには、共同作業を進める上での協調性や責任感、リーダーとしての集団の管理運営能力、ヒアリングを実施する上でのコミュニケーション能力、文献調査等における正確な理解力と分析力、報告会でのプレゼンテーション能力など、多様な能力を発揮することが求められる。学生のいずれもが、自分の至らぬ点を再認識し、その改善に努める一方、得意とする分野においては、大いにその能力を発揮したことから、グループ全体としては大きな成果を得ることができた。このワークショップを通じて、それぞれの学生が一段階、成長することができたのではないかと思われる。

 また、政策を提言する場合、①高い志を持って、普遍的な価値観に基づいた政策を考案することが必要であること、②信頼に足る政策を構想するためには、現行制度や事実関係についての正確な理解と緻密な制度設計が必要であること、③政策提言が世の中に受け入れられ、実現されるためには、そのための一定の戦略が必要であることを十分踏まえる必要があるが、今回のワークショップを通じて、各学生とも、それを実感することができたのではないかと思う。

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