公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2012年度 ワークショップI プロジェクトD

■プロジェクトD:震災復興に向けた市民・行政協働型の環境政策の課題と推進方策について

(1)趣旨

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災により、東北地方の豊かな自然は壊滅的な被害を受けた。特に東北地方沿岸部においては、津波により森・里・海・川のつながりある生態系が破壊されただけでなく、同時に、膨大に発生した震災廃棄物の処理が喫緊の課題となった。また、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は深刻な環境問題を起こしたとともに、国のエネルギー政策の見直しを余儀なくさせた。

 そこで、各被災自治体は東日本大震災からの復興に向けた「復興計画」を策定している。例えば平成23年11月に仙台市がまとめた「仙台市震災復興計画」では、その復興の基本理念において「市民力」が困難を乗り越える重要な力になったとし、市民と「ともに前へ」歩みを進めていくことが目指すべき復興の姿であるとしている。そして、「減災を基本とする多重防御の構築や、エネルギー対策など環境政策の新しい展開に向けた取組みを総合的に推進しながら、『新次元の防災・環境都市』を掲げ、しなやかでより強靭な都市の構築に向けて、多様で幅広い市民力とともに、本市の復興を推進していきます。」とある。

 このように、市民力を基調とした行政と市民の協働による復興政策の推進は行政プロセスにおいて極めて重要な位置づけとなっている。とりわけ、環境政策の展開は、仙台市復興計画に掲げられた「100万人の復興プロジェクト」においても重要な政策テーマとなっている。その内容には、「美しい海辺を復元する海辺の交流プロジェクト」、及び「持続可能なエネルギー供給を可能にする省エネ・新エネプロジェクトの推進」が掲げられ、貴重な干潟の再生や再生可能エネルギーの街づくり等の検討が始められている。また一方、国では、復興のシンボルとして三陸の沿岸地域に「三陸復興国立公園」を創設する計画がなされている。さらに、震災廃棄物の処理は、着実に進展しつつあるものの、依然として重要な環境問題として残されている。

 こうした行政の動きを踏まえ、宮城県を中心とした東北地方の被災地や全国の環境先進地域を調査の主たるフィールドとして、県、市、地方出先機関、NPO等からヒアリングを実施し、市民と行政の協働という観点から①震災廃棄物処理、②再生可能エネルギー導入の拡大や省エネルギー化を念頭に置いたエネルギー戦略、③三陸復興国立公園を核としたエコツーリズム等を含むグリーン復興の三分野における環境政策の課題と推進方策について考察した。そして、これらを基礎にして、東日本大震災の被災地のこれからの復興や今後発生が予想される自然災害に対する事前準備における市民・行政協働型の環境政策の課題や推進方策について政策提言をまとめた。

(2)経過

ア 年間の作業等経過

a)前期

 ワークショップ(以下、WSとする。)を開始するとともに、本WSの研究テーマを絞るため、各人が興味を持つ復興に向けた環境政策の分野を思いのままに挙げていった。そして、特に興味を持つ者の多かった①震災廃棄物処理に関する環境政策、②再生可能エネルギー普及政策、③三陸復興国立公園を中心とした自然環境政策の三分野に焦点を絞り、それぞれ3名、3名、4名に班分けを行った。その後、文献調査等により班単位で担当分野についての基礎知識を蓄え、その知識をWS中に全員で共有するという作業を繰り返した。また、同時並行で『環境法 第3版』(大塚直 有斐閣 2010年)を全員で読み、環境政策における基本的知識の習得を図った。

 さらに、被災地の現場を見ずに実効性のある復興政策は考えることはできないとの本WS所属学生の総意により、沿岸部を中心とした被災地の視察調査を5月下旬に行った。具体的には、福島県南相馬市周辺の視察班、宮城県気仙沼市・石巻市周辺の視察班、岩手県宮古市・陸前高田市周辺の視察班に分かれて視察した。一年以上経ってもなお復興の兆しすら見えない被災地の生々しい現場を見て、復興政策の必要性と意義を改めて噛み締めることができる有意義な視察となった。

 6月に入り研究が進んでいく中で、再生可能エネルギー普及政策班は「エネルギー戦略班」に、自然保護政策班は「グリーン復興班」に名称を変えるとともに、本WSの横断的テーマである市民・行政協働における理念も熟考する必要があると考え「理念班」を組織した。

 そして、6月下旬からは、中間報告会に向けて現状の課題の抽出を行う作業を着々と進めた。この時期から関係組織・機関へのヒアリングを本格的に始め、第一線で業務に携わる人々の直面する課題や、その課題に対する取組みについてヒアリングを行った。それらの情報に基づきパワーポイント形式の資料を作成し、プレゼンテーションの練習を重ね、中間報告会に臨んだ。中間報告会においては、本WSの報告は教授陣からも高い評価を受け、WSメンバーの研究への熱意が一層高まることとなった。

b)夏季

 夏季休業中は、中間報告会で受けた指摘を踏まえて自己の研究を深める期間に充てた。遠方の市町村に出向いてヒアリングを行う者や、環境省や沿岸被災地の行政機関等でインターンシップを行ったりする者もおり、学生の自主性を重んじた調査が自主的に進められた。

c)後期

 後期最初のWSにおいて夏季休業期間中に各自が調査したことを報告し合い、知識の共有を図った。夏季休業中の調査を基に10月は基礎調査を続けた。そして、10月下旬には更なる知識習得のために、一泊二日の調査旅行を実施した。行先は風力発電やバイオマス発電等自然エネルギー利用で全国的に有名な岩手県岩手郡葛巻町や三陸復興国立公園の北の玄関口となる青森県八戸市、東北電力初のメガソーラーが所在する八戸火力発電所、陸中海岸国立公園の中核である浄土ヶ浜ビジターセンターの4か所である。1泊の調査旅行を通じて、有意義な視察とヒアリングができただけでなく、担当教員を含めてWSメンバー間の親睦が図れることにより、一体感が一層深まることとなった。

 11月に入った頃から、学生各々が一つずつペットアイテム(責任を負った担当分野)を持つべきであるとの担当教員のアドバイスを受けて、各人が各々の興味関心に基づいた課題をピックアップし、一つずつ政策提言を考えた。11月中はWS内で各政策提言をブラッシュアップし、12月からはその政策提言の肯定的側面や課題を行政機関の担当者に伺うことで更に磨きを加えた。その結果九つの政策提言を作成することができ、純粋な環境政策の枠には留まらない非常に多岐にわたる内容を備えた未来志向型の政策提言の素案がまとめられた。

 また、政策提言を推敲する作業と並行して、11月頃から最終報告書の作成作業に本格的に取りかかった。火曜日の3〜5時間目は政策提言のブラッシュアップを行い、加えて、本来のWS時間外であるが、金曜日の午後に学生が自主的に集まり最終報告書の文章の校正作業を行った。些細な間違いが報告書の質の低下を招くとの思いから、全員が目を皿のようにして文章をチェックした。このようにして、最終報告会までに160ページを超す最終報告書(案)を作成することができた。

 こうして最終報告会を迎え、後期になって各人が考えた政策提言を中心としたプレゼンテーションを行った。自由な発想に基づく学生らしい政策提言であることと、パワーポイントのクオリティが高かったことから、非常に高い評価を得ることができた。

 1月は最終報告会で受けた指摘を踏まえた政策提言や最終報告書の見直し作業を行うとともに、政策提言先との日程調整等を行う担当者の決定をした。そして、2月に入ってからは、順次、政策提言を行政機関を中心に実施した。政策提言先は、宮城県、仙台市、東北電力、宮城復興局、東北農政局、東北経産局、環境省東北地方事務所(政策提言順)の七つである。

イ WSの進め方

 本WSは学生が十名であったために、五つの役職を設けて各役職に二名ずつ配置し、毎月役職をローテーションさせた。五つの役職とは、議長(co-chair)、書記、会計、備品、儀典(懇親会担当)である。議長はWSの司会進行役を担い、担当月の日程を策定する役割を担った。この際、月の終わりまでに完了しなければならないことを決め、そのためには何を積み重ねなければなければならないかを考えて、アジェンダと日程を策定するように心がけた。全員が役職を一通り経験し終えた後は、自薦または他薦により役職を決定した。また、このようにプロパーの役職のみならず、調査旅行などの行事がある度に担当者のポストを創設し、議論により適材を配置した。

(3)成果

ア 最終報告書について

 最終報告書は、総ページ数202ページに及ぶ大作を完成させることができた。第1章では、「震災復興に向けた市民・行政協働型の環境政策の課題と推進方策」を研究するに至った背景について述べ、第2章においては、環境政策における市民・行政の協働が要請されることについての理念を、歴史的背景や被災自治体の復興計画、第四次環境基本計画等を参照しながら理論的に説明している。第3章から第5章にかけては、前述の「震災廃棄物班」、「エネルギー戦略班」、「グリーン復興班」がそれぞれ担当して、各分野の基本的知識や現状、課題等についてまとめた。

 その後、「平成24年度ワークショップD 9つの政策提言」と題して、本報告書の目玉となる政策提言を記した。すなわち、①災害廃棄物処理計画策定の義務化、②災害廃棄物ボランティアの安全確保と円滑な活動のための支援、③再生可能エネルギーの導入及びスマートシティ構築のための官民連携・資金調達スキーム、④ミニ公募債等の積極的利用による被災地での省エネ活動と環境教育の推進、⑤特区制度を用いた地域通貨活用型の再生可能エネルギー普及と農業活性化、⑥東北海岸トレイルの持続的管理にむけたトレイル通貨協議会の設置、⑦東北海岸トレイルを活用した環境インターンシップの導入〜高等教育機関におけるESD推進方策として〜、⑧普及指導員制度による農林漁家民宿・民泊を活用したグリーンツーリズムの推進、⑨空き家を活用した滞在型グリーンツーリズムの推進の九つである。震災廃棄物、エネルギー戦略、グリーン復興について、それぞれ二つ、三つ、四つの政策提言を策定することができた。

 なお、報告書には、政策提言とともに、参考文献とヒアリング調査先一覧を載せている。そして巻末には、沿岸被災自治体(28自治体)の復興計画から、研究対象の三分野と復興の基本理念に関連した内容を抜粋して添付している。

 本報告書への評価は非常に高く、各政策提言先の行政官から称賛を得ることとなった。特に、仙台市環境局次長からは、本報告書レベルの報告書の作成をコンサルタントに依頼すると500万円程度かかるため、本報告書は500万円の価値があるとのコメントも頂戴した。まさに一年間弱という短い期間に集中してWSメンバー間が「協働」して取り組んだ努力が報われた瞬間であった。

イ WSを通じた能力育成について

 本WSのメンバーは、学部時代に必ずしも環境政策を学んできた学生ばかりではなく、また、WS形式の授業に親しんできた訳ではなかった。そのため、WSが始まった当初は、試行錯誤の日々が続いた。しかし、各メンバーが主体的に環境政策について学ぶとともに、メンバー間はもちろん外部機関とも調整やコミュニケーションを図る努力を行ったため、徐々にWSに一体感が生まれた。学生10名と比較的大人数のWSであったが、お互いの短所を補完し合う関係を構築することができ、最高のチームワークを築くことに成功した。

 また、毎回のWSにおいて各個人が調査結果をレジュメにまとめ発表し、その発表に対する意見を言い合うということを続けてきた結果、問題の把握能力、整理する力、プレゼンテーション能力、質問する力、コミュニケーション能力、論理的思考力などがこの一年弱の間で飛躍的に伸びることとなった。これらの力が向上したことにより、議論する力がWS開始時とは比べ物にならないほど身に付いたということができる。その証拠に、年度末に行った政策提言では、各行政機関の担当官と実りある議論をすることができるなど、本WSを通じての能力向上は各学生が身をもって感じているはずである。

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