プロジェクトC:広報文化外交の強化に向けて

1 趣旨

 広報文化外交(パブリック・ディプロマシー)は、広報や文化交流等により、外国の国民に働きかける外交活動である。伝統的には外交は主に政府間で行われるものであったが、世論の影響力の増大や情報通信技術の発展などにより、国際関係において民間部門の果たす役割が大きくなり、民間部門に働きかける活動である広報文化外交の重要性が増大してきている。

 日本においても、特に領土や歴史認識をめぐる近隣諸国との関係に関する近年の状況などもあり、広報文化外交の重要性が強く認識されるようになってきている。

 本プロジェクトは、このように近年ますます重視されている広報文化外交をテーマとしてとりあげ、現状の把握や課題についての検討を行った上で、政策提言を行うものである。

2 経過

(1)年間の作業経過等

ア 前期(中間報告会まで)

 4月、5月には広報文化外交の基本的知識を習得した。初めに金子将史、北野充編著『パブリック・ディプロマシー戦略』(PHP研究所、2014年)、外務省ウェブサイト関連部分等を用いて、主担当教員が広報文化外交に関する基本的知識について講義を行った。次に、主要諸外国の広報文化外交について、学生が上記文献や関連の文献を用いて分担して調査し、報告を行った。さらに、日本の広報文化外交にとって重要な課題の1つとなっている中国との関係に関し、主担当教員より、中国の政治・社会や対日認識、領土・歴史認識をめぐる状況等について講義を行った。

 5月下旬より6月にかけて、外務省、独立行政法人国際交流基金の方々に仙台に来て頂き、広報文化外交の各分野について講義をして頂いた。広報文化外交政策の企画・立案、実施において中心的役割を果たしている方々からの講義は知識を広げ、理解を深め、考え方を学ぶ上で極めて有意義であった。また、折角の機会を最大限に活かすべく、毎回事前に学生が議論して質問事項を考え、講義の後には復習するとともに、どのように質問をすべきだったかなどについて反省を行った。最初は適切に質問をすることが必ずしも容易ではなかったが、次第に要領を得た質問ができるようになった。これにより、考えを整理することの良い訓練にもなったものと思われる。

 6月中旬から中間報告会の準備を進めた。これまで得た知識を整理し、課題は何かを考えるとともに、報告の構成がどうあるべきかについて議論を重ねた。総論における各項目、各論における各項目を決定し、各人の分担を決定した。7月には、中間報告会におけるプレゼンテーション資料の作成を行った。各人が分担部分を起案し、学生の間で何度も議論を行い、教員もコメントした。また、聞き手に分かりやすく提示するための準備も重視した。整理されたプレゼンテーションとするために、かなりの議論と時間が費やされた。

イ 中間報告会

 中間報告会では、広報文化外交の重要性の高まりや日本にとっての課題、広報文化外交の各活動類型(海外広報、文化交流、人物交流、国際放送)などについて説明した上で、政策提言の方向性を示した報告を行った。現状説明や課題の部分についてはまとまった報告になったが、今後後期にどのように研究を進めていくのかについての方向性の部分は十分とは言えなかった。

ウ 夏季

 学生が担当部分等において、中間報告会で指摘されたことを含め、さらに調査を行った。

エ 後期(最終報告会まで)

 後期には、第1に、引き続き、情報の収集・分析を行った。関係者へのヒアリングも行った。第2に、情報の収集・分析を行ってきた部分について、報告書の原稿にしていく作業を行った。これについては、各人が分担する部分についてメモにまとめ、他の参加者及び教員がコメントを行うことを繰り返していった。第3に、これまで得た知識やヒアリング結果等を踏まえて、政策提言を検討していった。この作業についても、各人が担当部分についての原案を作成し、他の参加者・教員からコメントを加えることを繰り返していった。

 ヒアリングについては、11月、12月に集中的に行った。特に関係の深い分野を担当している学生が2、3名でヒアリングを実施した。ヒアリングの実施先は、外務省、国際交流基金、内閣官房国際広報室、経済産業省、文部科学省、総務省、宮城県庁、福島県庁、東北大学等である。また、11月下旬には、在中国日本国大使館、国際交流基金北京日本文化センターで広報文化外交を担当している方々から話を伺った。これらの組織で実際に広報文化外交を実施されている方々からの話は、現状把握、課題抽出にとって非常に有意義であるだけでなく、現状を踏まえた政策提言を考える上でも大変役に立った。

 さらに、12月には東北大学の外国人留学生を対象として、対日認識や日本に関する情報の入手方法、日本への留学に関する状況等についてアンケート調査を行い、報告書作成に役立てた。

 最終報告会の準備の過程で、中間報告会前と同様に、報告書の構成、分担、分かりやすいプレゼンテーションの仕方等について議論を重ねた。報告書の構成については、日本の広報文化外交にとって特に重要な課題になっている中国との関係に関する状況、韓国との関係に関する状況、東日本大震災後の風評被害について、報告書全体の構成の中でどのようにとりあげるかについて検討した結果、これらを第3部重要課題とし、第1部総論、第2部各論と合わせ、3部構成とすることとした。最終報告会提出用資料の作成のためにかなりの議論と時間を費やした。分かりやすいプレゼンテーションとするための注意も払った。

オ 最終報告会

 最終報告会では、総論の説明の後、各論における課題と提言、そして重要課題における3つのテーマについての課題と提言を行った。質疑では有益な質問・コメントが多数寄せられた。

カ 後期(最終報告会後)

 最終報告会後は、最終報告会で頂いたコメントを最終報告書にどのような形で反映すべきかについての検討を行うとともに、最終報告書をまとめる作業を行った。

(2)ワークショップの進め方

 前期、後期を通じて、学生は非常に熱心にとりくんだ。毎週火曜日3限から5限の正規の授業時間帯以外にも、必要に応じて随時ワークショップを実施した。通常時でも前期は週に1回、後期は週に1、2回、中間報告会、最終報告会前の時期には週に2、3回以上実施した。また、副担当として、戸澤教授、西本准教授に適確な御指導をいただいた。学生はリーダー、副リーダー、総務、会計、記録の役割分担を設け、2か月交替とし、全員が各役割を経験するようにした。毎回の議事進行についてはリーダーが担当し、各回に具体的に実施する作業についても5月以降は、学生が協議して進めた。

 公共政策ワークショップは中間・最終報告会、最終報告書と目標が明確であり、学生は各期日から逆算して作業日程を組んだ。運営についての教員の介入は最小限にとどめた。学生間の協議が効率的に進まず、時間を浪費しているかのようなときもあったが、これにより、集団作業を進めるための要領を習得することができたと思われる。

(3)成果

ア 最終報告書について

 最終報告書は120頁以上のものが出来上がった。第1部総論ではまず広報文化外交の概要、近年における重要性の高まり等について述べるとともに、本件を考える上で出発点となる諸外国における対日認識の状況について考察した。第2部各論では、広報文化外交の各活動類型(海外広報、文化交流、人物交流、国際放送)の現状、課題について説明し、それぞれについて政策提言を行った。第3部では、日本の広報文化外交にとっての重要課題として、中国との関係に関すること、韓国との関係に関すること、東日本大震災の風評被害をとりあげ、それぞれについて現状、課題について述べ、政策提言を行った。また、最後に東北大学留学生に対して行ったアンケート結果を掲載した。

 報告書については、検討が不十分であったところや残された検討課題もあると思われるが、文献調査、ヒアリング調査などに基づき、思考し、学生間で議論し、教員のコメントも得ながら作成したものであり、一応の水準には達していると思われる。政策提言については、そもそも広報文化外交は短期間で著しい成果を生むようなものではなく、重要課題としてとりあげたテーマも難しい課題であることもあり、明らかに直ちに効果的であると思われるような提言を行うことは容易ではないが、提言された内容の中には重要なものも多く含まれていると思われる。

イ ワークショップを通じた能力育成について

 本ワークショップでは、文献調査や原稿の起案だけでなく、他の学生への説明、学生間での議論、リーダーとしての議事進行、記録作成、毎回のワークショップの議題・日程設定、関係者へのヒアリング、報告会でのプレゼンテーション・質疑応答、報告書の作成など、集団作業において必要な多くのことを体験した。学生はこれらに終始熱心にとりくむことにより、これらに関する能力が開始当初より格段に向上したと思われる。また、現状把握、課題抽出、政策提言という政策の企画・立案過程の一連のプロセスを、「広報文化外交の強化」というテーマに即して通年という期間で経験することにより、政策の企画・立案の基本的な考え方を体験的に習得した。これらは学生が将来公共政策に携わる場合、大いに応用のできるものであると考える。公共政策に携わる者としての今後のさらなる成長を期待したい。

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