プロジェクトC:高校・大学・企業における「グローバル人材」育成のあり方について

(1)趣旨

 輸出主導型の経済成長を遂げた日本にとって海外ビジネスの重要性は今に始まったことではないが、近年では、国内市場のシュリンクの見通しや新興国をはじめとする海外市場の活発化により、更なる成長のためグローバル展開とそのための人材育成が不可欠であることが多くの企業で意識されている。そうした背景から、産業界を中心に「グローバル人材」の育成の重要性が唱えられ、2010年代に入る頃から、大学をはじめ教育界を巻き込む形で、「グローバル人材」育成のための政策や施策が実施されるようになった。

 2011年5月には、新成長戦略実現会議の下に「グローバル人材育成推進会議」が設置され、その審議に基づき、文部科学省は各大学に公募する形で、「大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業」(グローバル30:2009年度〜2013年度)、「大学の世界展開力強化事業」(2011年度〜)、「グローバル人材育成推進事業」(2012年度〜)を打ち出してきた。2014年度からは、これらの事業を包含する形で「スーパーグローバル大学等事業」が実施されている。

 各大学は、こうした公募事業に対応した独自の取り組みを試行してきたが、政策・施策の展開から数年を経て、中間的な評価の時期に差し掛かっている。東北大学も例外ではなく、本ワークショップの主担当教員も様々な施策の企画や遂行に追われてきた。その際に「グローバル人材」の意味・内容や育成のあり方について根源的な疑問を感じることも多く、現状の中間的な評価を行うとともに、今後の指針・方策に向けた提言を行うことを目的とする本ワークショップを企図した。具体的には、日本の将来にとって最重要ともいえる「グローバル人材」育成の政策・施策のあり方について、産学官連携の視点から、幼児教育から企業内教育に至るまで、包括的な検討を行うことを目指した。

(2)経過

①年間の調査・検討作業

a)前期

 本ワークショップの開講当初には、「「グローバル人材」をめぐる政策・施策の現状評価と将来展望(仮題)」とテーマを設定し、日本の人材育成一般についての多面的な検討から着手した。その際、自主的な運営を行い得るようメンバー間での役割分担を指示した。

 内容面については、個々のメンバーが文献調査および実地調査を自主的に遂行し掘り下げた分析を行うことができるよう能力を引き上げるため、以下のことを行った。

 第一に、「新聞当番」である。主要全国紙+河北新報および総合雑誌等の一週間分の関連記事を幅広にチェックし要約して報告してもらうという、アクチュアルな問題の把握を行うための定番の作業である。もっとも、グローバル人材関連の記事は国際面から地方面のベタ記事にまで及び、(特に新聞を綿密に読む習慣の乏しかった)学生の記事チェックには漏れも多く、中間報告の準備に追われる時期まではこの作業を続けることとなった。

 第二に、文献調査による基本的な知識の習得である。この点では、(本来は学部卒までに習得しておいてもらいたいことであるが)文献を「批判的に読む」訓練が必要である。特に前提知識がない事項について、学生は文献や資料に書かれた内容を鵜呑みにしがちであり、「誰が」「どういう意図で」「どのような論拠で」執筆したものか、といったことを徹底的に意識させる必要があった。まずは、いくつかの文献を熟読し、さらには上述の政府関係の審議会報告書や各大学・高校の「グローバル人材」育成事業にかかる構想調書等についても、その行間ににじむ背景等も含め批判的な読み方の伝授に努めた。

 第三に、フィールド調査についても予行演習的に行えるような機会を与えるよう工夫した。まず、ヒアリング調査に不慣れな学生の力量を引き上げるべく、東北大学の関係部局および主担当教員も関与しているスーパーグローバルハイスクール指定校である仙台二華高等学校の関係者へのヒアリング調査を行った。

 上記のウォーミングアップの時期を経た上で、6月中旬から7月にかけて、秋田南高および国際教養大学という他地域の取組みや、ジェイテクト・東芝メディカルシステムズ・住友商事・楽天といった企業へのヒアリングを行った。また、ワークショップでの自主的な検討を通じて、本ワークショップの調査対象を高校以降の施策に絞ることとなり、テーマ名が変更されることとなった。

 こうして前期の活動を進め、7月末の報告会Ⅰについては、文献調査を通して得た基本的な知識をまとめ、今後の調査の方向性を考える内容の報告書を作成することとなった。

b)夏季

 報告会Ⅰで得られた示唆や助言も参考に、後期には「グローバル人材」育成の観点からは先進的な取り組みを行っているシンガポールへの調査旅行を10月上旬に行い、その成果を踏まえて、高校・大学・企業の関係者が一同に会し各々の取組みや連携のあり方を議論するシンポジウムを大学祭に合わせて10月下旬に開催することとした。

 調査旅行とシンポジウムの準備のため、夏季休暇の間にも定期的にサブゼミが行われ、また適宜メーリングリストで情報共有しつつ、各自がアポ取り等の作業を進めた。

 同時に、公務員を目指すメンバーにとって、夏季休暇はまとまった勉強をする大切な時間である。基本書を熟読する等の勉強を慫慂しつつ、他のメンバーも含め本ワークショップの関連文献をじっくり読むことを課した。

c)後期

 シンガポール調査旅行は10月5日から11日の日程となり、シンガポールの高校・大学・企業および日系企業関係者に計16件のヒアリングを行った。これほど多くのアポ取り付けが可能となったのは、主担当教員および9月に着任した副担当教員(外務省から出向)の人脈に加え、シンガポール在住経験のある社会人学生の持つネットワークがあったからである。現地での日程は分刻みに近く、時に二班に分かれて行ったヒアリング調査は質量ともに充実したものであった。

 10月29日には、「「グローバル人材」育成を考える――高校・大学・企業の連携を図るためのフォーラム」と題したシンポジウムを東北大学川内南キャンパスにて開催した。当日は、楽天で英語公用語化を進め、文部科学省に出向し英語教育改革プロジェクトマネージャーを務めた楽天教育事業プロジェクト推進課シニアマネージャーの葛城崇氏、東北大学の植木俊哉理事および山口昌弘副理事・グローバルラーニングセンター長、仙台二華高でSGHを担当している地主修教諭をお招きし、それぞれの取組みについて発表いただいた後、パネルディスカッションを実施した。本ワークショップからは、シンガポール調査で得られた成果を踏まえ、日本の諸施策の状況について問題提起を行った。

 シンポジウム後は、追加的・補充的な文献調査およびヒアリング調査を行いつつ、最終報告書をとりまとめる作業に入った。もっとも、マンパワーの不足という事情もあり、報告書作成の進度管理には難渋した。また、シンポジウムまでの手配やアポ取りはほぼ教員が手配したものであり、自主的な調査活動とは言い難いものであったことから、各メンバーに自主的な調査を促した。その結果、渋谷教育学園幕張高等学校、立命館アジア太平洋大学および経団連事務局にヒアリング調査を行うことができたことは評価に値する。

 報告会Ⅱにおいては様々な点に改善の示唆を受けたが、特に「グローバル人材」の定義や全体の論理展開について練り上げられていない、という批判が寄せられた。この点については、時間が足りなかったことも否めず、メンバーは追加的な調査を行なうと同時に加筆・修正の作業を進め、1月末に最終報告書を提出した。

③ワークショップの進め方

 学生は交替で幹事になり、ワークショップの運営と各回の議事進行を担当した。また各回のミーティングでは当番の書記が議事録を作成・回覧した。

 毎回のワークショップでは、サブゼミでの作業や議論を教員が確認しつつアドバイスする形で進むのが通常であった。もっとも、5名の学生で始まったワークショップから夏季までの段階で他研究科への進学準備のため1名が抜け、また社会人学生は職務およびリサーチ・ペーパーと鼎立だったことや、他の学生も含めて作業時間に限度を設ける必要があったことから、進度管理に苦心したのは前述の通りである。

 シンポジウムまでの時期は、リーダー格の社会人学生が率先してワークショップを引っ張ったが、それ以後の時期については時間的な制約が大きくなったため、自主的な調査の企画や遂行も含め学生の自主的な運営という観点からは不十分なところがあった。報告書作成時にも主担当教員が多くをカバーすることを余儀なくされるなど、学生の能力引き上げという点では反省点の残るワークショップでもあった。

(3)成果

①最終報告書について

 最終報告書は、序章・第1章(現状分析及び問題抽出)・第2章(提言)・終章(まとめ)の4章から成る。第1章・第2章の内容は、高校・大学・企業ごとに分かれて考察され、終章で高校・大学・企業の連携の観点からまとめる構成となっている。

 最終報告書は、高校・大学・企業の関係者に送付され、その提言の妥当性が世に問われることとなる。とりわけ、主たる提言先である東北大学が本ワークショップの提言を活かして「グローバル人材」育成の実を挙げるよう、主担当教員としては今後も働きかけを強めたいと思っている。

②ワークショップを通じた能力育成について

 公共政策ワークショップは、現状分析、問題点の提示、政策提言という政策・施策の形成過程の一連の流れをたどることで学生に政策・施策立案の諸要素を経験させることに主眼があるが、本ワークショップでも、学生はこのプロセスに意欲的に取り組んだ。但し、上述の通り、マンパワーの不足と各学生の時間的な制約から、自主的な調査能力や報告書作成能力の涵養といった点では必ずしも満足いくレベルにまで引き上げられなかったことは反省点である。

 他方で、プレゼンテーションや調査旅行・シンポジウムの企画・運営の実務といった点では、かなりの能力向上があったものと思われる。今後は、ワークショップⅡの作業において、なお不足している部分を伸ばすよう指導に努めたい。

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