プロジェクトD:循環共生型地域づくり推進のための政策に関する研究

(1)趣旨

 環境負荷の低減と地域活性化の同時実現に向けて、再生可能エネルギーの活用等の取組により循環共生型の地域づくりを進めることが、重要な政策課題として浮上している。

 具体的には、地域主導・市民主導による太陽光発電や風力発電、未利用木材や有機性廃棄物といったバイオマス資源による熱利用や発電、森里川海(里山・里海)の恵みを活かした産品の生産など、地域の自然資源と人的資源を活用する様々な事業を立ち上げ、環境負荷低減とともに地域活性化につなげようとする取組が各地で広がりを見せており、エネルギー自給を掲げる自治体も出てきている。こうした取組は、域外からのエネルギー調達による資金流出を削減するとともに、域内の雇用や需要を創出し、地域の経済循環を拡大すると期待されている。

 このような循環共生型の地域づくりの推進は、環境政策において最重要課題の一つとなってきている。例えば、中央環境審議会が平成26年7月に出した意見具申は、6つの基本戦略の一つとして「地域経済循環の拡大」を挙げており、また、平成27年版環境白書は、「環境とともに創る地域社会・地域経済」を副題として掲げている。

 こうした動きの背景には、地球温暖化対策や地方創生の要請があるだけでなく、持続可能性の危機や人口減少・高齢化といった現代社会の構造的問題に直面する中で、経済社会の変革を模索し、地域において新たなモデルを実現していこうとする考え方がある。特に東北地域においては、東日本大震災の経験から、災害に強い自立的な地域づくりの意識が高まったことが、取組の広がりにつながっている。

 こうした循環共生型の地域づくりが進展し、各地に広がって行けば、地域の活性化に寄与しつつ環境負荷を低減することができ、ひいては、真に持続可能な社会の実現につながっていく可能性があると考えられる。取組をさらに進展、普及させていくためには、その効果と意義を一層明確化しつつ、実情を踏まえた効果的な推進方策を検討していく必要がある。

 こうした認識に立ち、本ワークショップは、循環共生型の地域づくりについて、先進的な取組事例について現状、効果、課題等を調査分析することを通じ、取組推進のための政策について提言をまとめていくことを目的として、調査研究を実施した。

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

 地域における再生可能エネルギー導入に焦点を当てつつ、広く取組の背景及び現状を把握することを通じ、研究の視点を明確化していくよう努めた。

 4月に、中央環境審議会の意見具申等により政策上の位置づけを確認した上で、関連する文献(藻谷浩介(2013)『里山資本主義』角川書店、和田武(2013)『市民・地域主導の再生可能エネルギー普及戦略』かもがわ出版)を輪読し、内外の取組の現状、意義等について学習した。

 5月には、東北地方環境事務所及び環境パートナーシップオフィスを訪問し、政策及び取組の現状について講義をいただくとともに、引き続き関連文献(諸富徹(2015)『「エネルギー自治」で地域再生』岩波書店、中村良平(2014)『まちづくり構造改革』日本加除出版)を輪読し、具体的事例及び分析方法について学習した。

 これを踏まえて6月には、研究の視点を設定することを意識しつつ、現地調査等により具体的な取組事例の調査を行った。南三陸町の関係機関(町、アミタ株式会社等)を訪問してバイオガス事業をはじめとする循環型地域づくりについて調査を行うとともに、最上町を訪問し、町長への面会及び関係事業者ヒアリングを含め、木質バイオマス活用の取組について調査を行った。また、中央環境審議会のシンポジウムに参加し、取組事例数件の発表を聴取した。

 7月には、これまでの文献及び現地調査を踏まえて、今後の研究の視点について検討を行った。取組事例について効果・成功要因・課題という視点から整理・分析し、その結果に基づき、研究の視点として「主体の育成・連携」及び「経済性の向上」を抽出するとともに、「意義」と「効果」についても着目していくこととした。これに基づき担当を検討し、大括りに2つの班(「主体(ヒト)」及び「経済性(カネ)」)を設定した。

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

 7月は、上記の取組に併せて、中間報告会への準備に取り組んだ。取組の背景及び関連制度、事例調査の概要と分析、及びそれらを踏まえた今後の研究方針について報告を行った。プレゼンテーションは比較的高いレベルで実施することができた。質疑応答では、新たな政策分野であるだけに、研究のスコープの適切性、取組のそもそもの意義等に関する指摘もあった。また、研究の視点の抽出を丁寧に行ってきたため、この時点では、当プロジェクトのみ政策提言について未検討であった。これらの点を、後期に向けた検討課題として把握することができた。

c)夏季

 8月上旬に、会津地域における地域主導の再生可能エネルギー事業(会津電力株式会社)について、現地調査を行った。

 また、前期に設定した研究の視点及び担当に基づき、班ごと及び各自で、文献等による調査を進めた。

 進捗状況及び方針について確認・議論するため、上記の現地調査の際に全体での議論の機会を設けたほか、9月には班ごとに議論する機会を設けた。

d)後期(年内)

 まず、これまでに得た問題意識を持ちつつ国の政策の現状を確認するため、環境省環境計画課職員を呼び講義をしていただいた。

 また、班ごと及び全体での議論を経て、大括りの班の中での各自の研究テーマを検討し、6名が「意義」、「自治体」、「中間支援」、「地域主導の電力」、「熱利用」、「資金調達」を分担して研究することとし、うち3名は並行して産業連関分析にも取り組むこととした。

 10月中旬から11月末に、設定した研究テーマに沿って、各自がそれぞれに又は連携してヒアリング調査を行いつつ、研究を深めていった。具体的には、中間支援組織(NPO法人環境エネルギー政策研究所等)、自治体(特に新電力事業に着目)(東松島市、成田市・香取市)、熱利用事業主体(一般社団法人徳島地域エネルギー等)、資金支援関係機関(株式会社自然エネルギー市民ファンド、一般社団法人グリーンファイナンス推進機構、環境省、北都銀行等)にヒアリング調査を行った。また、産業連関分析のため南三陸町を再度訪問してデータ収集を行った。このほか、第1回世界ご当地エネルギー会議等の会議にも参加し、テーマに沿った情報収集を行った。

 11月中旬以降は、上記ヒアリングとオーバーラップしつつ、政策提言に向けて、課題の明確化とそれに対する政策の検討を重点的に進めた。それぞれの担当者が、必要に応じ班でも議論しつつ、全体の場で進捗状況を発表し、全員で議論するという形を基本として検討を進めた。その際、各自の発表の内容を段階的に報告書骨子に進化させていくことを目指した。なお、産業連関分析については、外部専門家の助言も得つつ、指導教員と担当学生とで推計作業を進めた。

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

 12月には、最終報告書の原案作成を先行させつつ、最終報告会に向けたスライド作成等の準備に集中的に取り組んだ。最終報告会においては、循環共生型の地域づくりについて、研究アプローチを明確に示した上で、取組の意義の明確化及び各研究テーマ毎の分析と政策提言について、明確に説明ができたものと考えている。質疑応答を踏まえ、各テーマの政策提言の一層のブラッシュアップが課題として残された。

f)後期(年明け以降)

 最終報告会で受けた指摘も踏まえ、政策提言の内容及び根拠のさらなる明確化に取り組んだ。また、産業連関分析については、シミュレーション分析まで実施し、結果をまとめた。それらの成果を、各人が報告書案文として全体の場に提出し、メンバー及び教員が必要な指摘を行って改善を進め、取りまとめ担当者が取りまとめて形式を整えるという形で作業を進め、最終報告書を完成させた。

 成果は、調査でお世話になった南三陸町の関係者等に報告し、意見交換を行った。特に産業連関分析について、今後の政策検討の際に活用したいとの評価をいただいた。

(イ)ワークショップの進め方

 原則として、毎週火曜日の3限から5限にワークショップを実施したが、時間を延長するケースも多かった。現地調査は他の曜日にも実施した。必要に応じて随時自主ゼミを実施した。学生の役割分担については、議長、副議長、書記、会計、儀典等の役職を原則として1カ月ごとに交替する形で実施した。

(3)成果

(ア)最終報告書

 最終報告書は、9章から構成されている。第1章は「背景とアプローチ」とし、循環共生型地域づくりの取組の背景と経緯を概観した上で、研究のアプローチを整理している。第2章及び第3章は意義と効果を論じており、第2章では取組の意義を事例調査に基づき整理し、第3章では地域産業連関表により経済効果を分析している。第4章から第9章までは、自治体、中間支援、地域発の電力事業、熱利用、資金調達という個別の研究テーマについて、現状、課題、政策提言という構成で論じている。第9章は「提言のまとめ」とし、前章までの政策提言をまとめるとともに、その相互関係を論じて、締めくくっている。

 循環共生型の地域づくりは、環境、エネルギーなど分野横断的であるとともに、技術から経済まで多面的な要素が関わっており、もとより本最終報告書はそれら全体をカバーするものではない。しかし、新しく未確立の政策分野について、そもそもの意義や効果について定量分析を含めて整理した上で、様々な先進的事例の現地調査に基づいて政策を検討・提言できたことは、一つの成果として評価されるものと考えている。

(イ)ワークショップを通じた能力育成

 ワークショップでは、文献調査とヒアリング調査を行う中で、自ら具体的な研究課題を見出し、アプローチを検討し、研究を進め、報告書にまとめることが求められる。また、グループでの作業として、役割分担を決め、協力して作業し、議論し、調整してとりまとめることが求められる。その中で、時に、異なる価値観や論理にぶつかり、また方向性が見いだせずに悩むといった経験を経つつ、次第に、多面的に物事を分析し、問題の本質を捉え、自らの論理を構築し、政策を検討するという、政策立案に必要な能力を訓練することができたと考えている。また、段取りを組み、内外の関係者と調整し、スケジュールを管理するといった実務的な能力の訓練にもなった。

 こうした経験は、今後の実社会での実務において、さらなる向上と発展の基礎になるものと考えている。

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