プロジェクトA:石巻市、東松島市及び女川町における定住自立圏構想に関する研究

(1)趣旨

 我が国全体において人口が急激に減少しつつあるが、今後の人口減少の見通しは、地域によって大きく様相を異にしており、東京圏には地方からの人口流入が見込まれる一方で、地方は人口の維持に不可欠な若年層の流出と高齢化が特に進んでいる。

 このように、人口減少と高齢化とが急激に進みつつある地方圏の将来に渡る維持・活性化を図ること、及び地方から大都市圏への人口の流出を防ぐことにより我が国全体の人口維持を図ることは、我が国の喫緊の課題となっている。

 本ワークショップの研究テーマである定住自立圏構想は、「集約とネットワーク」のもと市町村が連携することで生活機能の確保維持を図り、安心して暮らせる地域を各地に作り出し、将来的には地方圏から都市圏への人口流出の抑制、都市圏から地方圏への人口流入の拡大を目指すものである。

 今回の研究対象である石巻市、東松島市および女川町の2市1町で構成される石巻圏域においても、2010年当初から定住自立圏構想の形成に関する協議が行われていたが、2011年3月11日に発生した東日本大震災により、定住自立圏構想の形成に関する話し合いは一度停止され、それ以降においても、各市町は「自治体内での復興事業に集中する必要がある」という理由から停止されたままになっている。その一方で、震災による人口減や震災に伴う居住環境の変化による圏域課題の先鋭化等の理由から、石巻圏域において連携を行う必要性は震災以前よりも強まった状況にあると考えられる。さらに、被災自治体の定める復興関連事業の計画期間は概ね2020年度までとなっている。

 このような状況を踏まえ、ワークショップAでは、『2020年度以降の「復興」後を見据えて、地域住民が安心して暮らすことの出来る圏域』というテーマを掲げ、その実現のための具体的な連携政策を検討することとした。

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

 4月から6月までは、今後の検討を行う上で必要となる基礎的な知識の把握及び2市1町の現状分析を行った。具体的には下記のとおりである。

 最初に地方自治制度の概要に関して、主担当教員が講義形式で解説を行った。

 その後、定住自立圏構想の詳しい制度内容、定住自立圏構想の先進事例である八戸市の事例、広域連携の仕組みや地方創生の概要等について、メンバーの学生がそれぞれ発表する形で理解を深めた。

 併せて、4月末には、現在の2市1町の様子について、まずはワークショップのメンバーが具体的なイメージを持つことができるよう、2市一町を訪問し、震災復興等の現場を視察するとともに、定住自立圏構想のご担当の職員の方々から2市1町の全般的な状況に関するご説明を頂いた。

 さらに、5月から6月にかけて、石巻市、東松島市及び女川町に係る具体的な状況、すなわち人口、財政力、産業、子育て教育、社会福祉、公共交通等の状況及び課題、また、2市1町間の連携の状況に関して、メンバーが2市1町の総合計画、震災復興基本計画、地方創生総合戦略、その他2市1町のホームページで公開されている各種データ等を分析し、その結果を報告する形で理解を深めた。その際、メンバー間で2市1町の職員に扮し、雇用(産業)、公共交通、観光、社会福祉等の分野において「このような点に関して連携したい」と他の自治体に対して要望し、それに対する回答を行うといった、いわゆるロールプレイングの手法を活用したことで、どのような点において石巻圏では連携が求められているのかについて、メンバー間で一層、理解と共通認識を深めることができた。

 このような調査分析を踏まえ、検討のテーマを『「復興」後も住民が安心して暮らせる石巻圏域』の実現とすることとし、今後のワークショップの検討対象として、「生活機能の強化」の分野では「高齢者福祉」及び「子育て・教育」、「結びつきやネットワークの強化」の分野では「公共交通」、「圏域マネジメント能力の強化」の分野では「行政のマネジメント能力強化」の4分野に絞ることとした。

 そして、6月末から7月にかけて、これら5分野における連携に対する2市1町のお考えを把握するためヒアリングを行うとともに、定住自立圏構想の意義等について一層の理解を深めるべく、総務省地域力創造グループ地域自立応援課に対して、定住自立圏構想における中心市のメリットや効果測定のあり方等についてヒアリングを行った。

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

 7月は、上記のような調査・分析作業に加えて、中間報告会におけるプレゼンテーション資料の作成を行った。メンバー間で役割分担を決め、それぞれ担当者が作成した原案を元に、メンバー全員及び教員が何度も議論を行い、論旨が明快で、かつ、イラストや図表を用いた、聴衆が見やすく分かりやすいパワーポイントの資料にするよう努めた。

c)夏季

 8月及び9月は、メンバーが分担して、中間報告会において提示した今後の検討課題である4分野について、関連する法制度や2市1町の状況や課題に関して、文献やインターネット等を通じた調査を行った。

 なお、メール等のインターネット上での議論に加えて、メンバー及び教員がワークショップ室に集まり議論する機会を設けた。

d)後期(年内)

 10月に入り、最初に、定住自立圏構想の実際の効果や、構想を推進している自治体の職員の方々の率直なお考えを把握するため、現在、定住自立圏構想を推進している大崎市にヒアリングを行った。

 その後、政策提言に盛り込むべき項目の絞込みの検討を行った。

 その際、検討のテーマを精査し『2020年度以降の「復興」後を見据えて、地域住民が安心して暮らすことの出来る圏域』とした上で、石巻圏域における既存の連携事業を勘案し、今後の更なる発展を必要としている連携分野として「高齢者福祉」「地域公共交通」という2つの分野を選んだ。そして、各分野において具体的に検討する政策として、「高齢者福祉」分野については「介護支援ボランティア制度」と「介護機器貸与モデル事業」の2つを、「地域公共交通」分野については「バス路線の維持・充実」とすることとした。

 11月、12月にかけて、「介護支援ボランティア制度」に関する先進的な取り組みを行っている稲城市に電話ヒアリングを行うとともに、同市が11月7日に開催した介護支援ボランティア10周年記念式典に参加し、制度の現況の把握に努めた。

 「介護機器貸与モデル事業」に関しては、特区制度を活用し最先端の介護機器の導入等に取り組んでいる岡山市にヒアリングを行った。「バス路線の維持・充実」に関しては、検討対象のバス路線に実際に乗車し、現地の状況の詳細な把握に努めるとともに、定住自立圏構想として(現在は連携中枢都市圏として)公共交通における連携事業に積極的に取り組んでいる八戸市にヒアリングを行った。

 これらと並行して、これらの政策に関連する制度、法律を所管する関係省庁(厚生労働省、復興庁等)に対して、電話ヒアリングを頻繁に行った。

 併せて、最終報告書の概要作成と、最終報告会に向けたパワーポイント作成等の作業を行った。

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

 最終報告会においては、提言した政策の連携の必要性についてさらに検討したらどうか、震災前に検討されていた当圏域における定住自立圏構想の内容と今回の政策提言との関わりを明確にしたほうが良いのではないか等の指摘を受けた。これらを踏まえて、年明け以降に更に研究を進めることとした。

f)後期(年明け以降)

 最終報告会で受けた指摘を受けた点に関して、最終報告書の記述を詳細にするなどの対応を行った。その際、各メンバーが担当箇所の記述内容の修正を行うこととしたが、重要な内容に係る箇所については、メンバー全員及び教員により議論をした上で記述の確定を行った。

(イ)ワークショップの進め方

 毎週火曜日の3限から5限のワークショップの他に、必要に応じて臨時にワークショップを開催した。併せて、学生主体のサブゼミが頻繁に実施された。また、副担当の西岡教授にも可能な限りご出席いただき、貴重なご助言をいただいた。さらに、学生全員と教員が共有するOneDrive及びメーリングリストを活用し、作業効率の向上と各自が担当した作業結果の情報の共有化を図った。

 学生の役割分担については、代表、副代表(書記)、儀典及び会計の役職を設けて、3ヶ月ごとに交替することとした。(ただし、当初の6人のメンバーが4人に減少したということもあり、最後の四半期は役割分担の変更を行わなかった。)

 代表はワークショップの計画的運営と毎回の議事進行全体を総括した。副代表(書記)は、授業ごとに配布資料を保存するとともに、ワークショップ終了後速やかに、議論の要点をとりまとめた議事録を作成してOneDrive上にアップロードを行った。儀典は、メンバー及び教員間の親睦を深めるため、随時、懇親会等の設営を行った。会計は、ワークショップによるヒアリングに使用する旅費等の管理を行った。

 ワークショップを運営全般に関しては、学生の自主性をできるだけ尊重することを基本的な方針とした。特に、議論の内容に関して、教員は一定方向に誘導することなく、議論の整理に止めるようにした。

 ワークショップAにおいては、2市1町に出向いてヒアリングを行うほか、電話やメールによるヒアリング・事実確認、更には政策提言の検討に資する複数の自治体(稲城市、岡山市、八戸市等)にヒアリング調査を行うなど、机上の議論ではない、現場に根ざした議論・検討を行うよう努めたところである。

(3)成果

(ア)最終報告書

 本稿は、大きく分類して2部構成となっている。第1部では、定住自立圏構想自体の研究や石巻圏域の現状を通して、「石巻圏域における定住自立圏構想推進の意義」について述べる。第2部では、石巻圏域定住自立圏の連携施策分野として選択した2つの政策分野についての「具体的な連携施策案」について述べる。

 第1部は、第1章から第3章で構成されている。

 第1章では前提知識として定住自立圏構想自体の制度解説等を行う。第2章では研究対象である石巻圏域を構成する2市1町の現状やこれまでのつながりについて述べる。これらをふまえて、第3章では石巻圏域において定住自立圏構想を推進していくことの意義について検討し、石巻圏域における定住自立圏構想の推進を行うべき理由についてのワークショップAの見解を述べた上でワークショップAが考える「石巻圏域の将来像」についても触れる。

 第2部は、第4章から第6章で構成されている。

 第4章では連携事業に係る検討の方向性について示す。定住自立圏構想の具体的な連携事業としてワークショップAはどのような政策分野を選択するのか、また何故それらを連携施策として選択したのかについて説明する。

 そして、第5章及び第6章では、政策提言として、2つの政策分野における連携施策の具体的な提言内容について述べる。

 最終報告書は、メンバーが訪問、電話、メール等により頻繁にヒアリングを行うことにより得た情報に基づく検討の成果をとりまとめたものであり、政策提言の内容は、机上の空論ではなく、まさに2市1町の現場の実情に即した極めて実践的なものであることを、あらためて強調したい。

(イ)ワークショップを通じた能力育成

 メンバーの一人一人が、石巻圏域の定住自立圏構想に係る調査研究を通じて、地方公共団体の現状に関する相当程度の知見を得るとともに、今後の地方の維持活性化に係る施策のあり方全般についての思索を深めることができた。

 また、データ等に基づく分析・検討に、多くのヒアリングの実施による具体的な現場の状況を踏まえた補正を加えることにより、科学的・体系的でありつつ、現場の実情に即した現実的な政策提言を策定するというプロセスをメンバーが経験することを通じて、まさに行政機関や民間企業において必要となる企画立案能力を実地で身につけたものと言える。

 また、メンバーの作業の進捗状況に合わせてスケジュールを微修正しつつ期限までに報告資料をまとめる管理運営能力、ワークショップでの議論やヒアリング調査を実施する上でのコミュニケーション能力、報告会におけるプレゼンテーション能力等を伸ばす機会が得られたと考えられる。

 さらに、組織体制の危機が発生した際の対応についても学ぶことができた。すなわち、ワークショップAは、メンバーが4月当初は6人であったところ、8月に5人に、そして11月には4人に減少したところであり。このようなメンバーの減少があるごとに、検討対象の変更及びそれに伴うメンバー間の役割分担の見直しを行った。このように、実社会では頻繁に起こりうる組織体制の危機に際しての対応方法も、実地で学ぶことができたといえる。

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