東北大学公共政策    

プロジェクトA:故郷を元気にするオリジナルな地域振興政策の研究


(1)    趣旨

本ワークショップは、人口の減少に歯止めをかけ、地方経済を活性化し、地方と東京圏がそれぞれの強みを生かした日本社会の姿を目指す地方創生の実現に向け、

① ワークショップ参加者それぞれが故郷(政策提言のフィールド)の現状や課題を分析し、

② フィールドワーク等を通じて、故郷が活性化する政策手法を模索・研究し、

③ 最終的に一つの政策提言として取りまとめること

を目的にしたものである。

また、地方創生は、幅広い政策が対象となるテーマであるが、本ワークショップでは、その軸を農林水産・農村政策に置いて活動に取り組んだが、これは、次のような考えに

基づくものである。

・ 農林水産・農村地域政策は、食品産業はもちろんのこと、環境、観光、商工業、地域交通など、幅広い産業分野の視点も交えながら、時には海外も視野に入れて地方創生の在り方を学び・研究できる政策分野であること(「幅広いフィールドを対象に研究できること」)

・ 地域振興方策として、立法政策はもちろんのこと、ソフト・ハードの補助事業、金融税制、規制・科学技術振興、国際対応(輸出振興等)、情報発信・広報戦略等々、幅広い政策手法が研究・検討の対象に位置付けることができること(「多岐にわたる政策手法を研究・検討できること」)

・ 国内には、1次産業以外に主たる産業のない地域も多く、地方創生を実現する上で、農業・農村等の振興は避けて通れない政策課題と考えること(「やるべきことがまだまだたくさんある政策分野であること」)

我が国の農林水産業は、担い手の高齢化、農地の減少、荒廃農地の増大など、難しい課題を抱えているが、一方で、世界第8位(2019)の生産額を誇るほか、世界を魅了する高品質な農産物の生産する技術(米、和牛、シャインマスカット等々)を有し、輸出額も年々増加している。また、輸出振興のみならず、スマート農業、みどり戦略(環境政策)、健康に貢献する農産物づくり(機能性食品)等々、新たな政策も次々生まれているところである。

本ワークショップ参加者の学生は、このような特徴を持つ農林水産・農村政策を通じて地方活性化の手法を学びつつ、政策の企画立案の検討、関係者との意見交換、チーム内・各方面との調整・渉外実務等を通じ、社会人としての素養を磨くことも目的に1年間の活動に取り組んだ。

 

(2)    経過

(ア)    年間の作業経過等

a)前期

参加学生は、当初、4年大卒4名、社会人3名、海外留学生1名の多様性の富む計8名の体制でスタートしたが、このうち1名の社会人学生が事情により前期で大学院を退学せざるを得なくなったため、7名で活動に取り組んだ。

最初に、1年間の活動を共にする学生が、お互い相手のことをよく知り合うことも目的にして、自分の故郷の抱える課題や故郷の地域振興のアイデアのプレゼンテーションから活動が始まった。その後、チームの役割分担を決め、まずは、地方振興政策の大枠をつかむことを目的にしたヒアリング活動に移行した。

具体的には、農林水産・農村政策等に関し、東北農政局を、地方行政に関し、山形県庁を訪問し、学生が事前に考えた質問事項を軸にして、行政の考え方を聴取した。また、

学生の農業経験が乏しいことや、政策を考えるに当たり、実際の農作業を体験することの意義を踏まえ、山形県寒河江市のサクランボ農家を1泊2日で訪問し、収穫作業等の現場体験を行った。その際、地元のテレビ局から各学生が取材を受ける機会も生まれた。

学生にとっては、自分の姿がテレビで放映されるいい思い出になったことはもちろんのこと、政策普及において大切なポイントでもあるマスコミ対応の機微などに触れることができたのは幸運なことであった。

 

b)中間報告会

中間報告は、それまでに行ったヒアリング結果に基づき、各学生が考えた自分たちの故郷の地域振興策を提唱する内容で臨んだが、多分野にわたる研究テーマを地方創生という名の下、総花的にならずチームのプレゼンとしてどう一体性のある内容に取りまとめるかが大きなポイントとなった。最終的に、人口減少に対する対策というストーリーを軸にして資料を取りまとめたが、最終報告会に向け、更に磨く必要を感じたのも事実であった。

一方、プレゼンテーションそのものについては、学生自身がしっかりと準備をしたことにより、堂々と行うことができたことは評価すべきものであった。また、プレゼンの中で、山形県寒河江市のテレビ取材映像を紹介したところ、学生だけでなく、大学院のPRにもつながると教員にも好感を持って頂くことができ、改めて、マスコミとの連携の大切さを感じた報告会でもあった。

 

c)夏季

夏季においては、各学生が帰省の機会などを活かして、故郷の現状分析を深めるとともに有志の学生が、国の地方創生の政策の全体像を自主的に研究し、その概要を資料に取りまとめた。その研究結果は後期開始直後に急遽対応が必要になった(公財)大学基準協会の認証評価の場で発表され一定の評価を得られたとともに、後期のスタートに当たってメンバー間の意識合わせに大いに役立った。また、この有志の自主的な研究活動は、学生のワークショップに対する意識の高さを改めて感じた出来事でもあった。

 

d)後期(年内)

後期は、今後の地方創生において、民間の力が不可欠であることなどを踏まえ、ヒアリング活動に関しては、金融機関・輸出振興団体、建設会社、マスコミ、有識者など、行政以外に対象を広げ活動を行った。一方、行政機関に対するヒアリングとしては、地方創生に関し、更に知見を深めるため、また、地方創生に関する新たな戦略策定に向けた国の動向をつかむため、まち・ひと・しごと創造本部や宮城県庁などからヒアリングを行った。

さらに、前期同様、モデルとなる取組を行っている現場に接し、現場主義に基づいた政策提唱ができるように、地域振興の観光政策(民泊・農泊)の先進地である沖縄県糸満市等を2泊3日の行程で訪問した。

沖縄県糸満市の取組は、国で高く評価されているだけあり、非常に学ぶことが多かったほか、地元の方が非常にフレンドリーに学生に接してくれ、学生にとっては、この地域の方とのふれあいは、大学院時代の非常に思い出深いひと時にもなった。

なお、この糸満市での研究活動を、NHK沖縄が取材してくれることになっていたが、台風が襲来したため、急きょ取材が中止となったことは、とても残念であった。

ヒアリングに並行して政策提言をまとめる作業も進められた。基本的には学生自身で原案を考え、それを担当教員が指導し、それを踏まえ学生が提言案の修正を図るという作業が、臨時ワークショップも急きょ開催して最終報告会の間近まで行われた。プレゼンテーションの準備と最終報告書の執筆が並行しての作業は学生にとっても大変だったと思うが、最後まで粘り強く取り組みながら最終報告会を迎えた。

 

e)最終報告会

最終報告会では、総花的な研究活動と受け止められないように、中間発表会で活用した人口減少対策という切り口に加え、国のまち・ひと・しごと創造本部のヒアリング結果や夏季休暇の時に有志の学生が整理した国の地方創生の政策体系の分析資料を活かして、各自の考えた故郷への政策提唱の内容を、チームとして一つの研究成果として説明できるよう注力した。

具体的には、国の地方創生の6つの重点政策枠に沿いながら、各学生の研究内容を発表することで、地方創生に関する一体性のある活動報告に努めることとしたが、この点について、教員から好感を持った旨の発言を頂き、学生も大変喜んだほか、その他の質疑応答においても、各学生が積極的かつ堂々と行う姿に、各学生が最終報告会に向けて真摯に準備したことが伺え、春とは異なる確かな成長を感じるひと時でもあった。

 

f)後期(年明け以降)

学生間で、最終報告書の柱立てと役割分担、作業工程のスケジュールを決めたあと、各学生が素案作成に着手した。その後、担当教員が分担して、学生の原稿に対し、確認・質疑を重ねながら、執筆作業を行った。

 また、添付する資料として、本文の執筆作業と並行しながらヒアリング記録の整理、ヒアリング先への照会・確認を進め、最終報告書に掲載できるようにしたが、締め切り直前に臨時のワークショップを開催するなど、全体の体裁を整える作業は思いの外大変なものとなったが、学生は精力的に最後まで作業は進め、期限前に提出を完了させることができた。

 

(イ)ワークショップの進め方

原則として、毎週火曜日の3限から5限にワークショップを実施したほか、中間・最終発表会や最終報告書の直前などに、臨時のワークショップを開催した。

教員と学生との連絡等は、学生全員と教員がメーリングリストやライングループ、グーグルの共有ドライブを活用して情報共有と作業の効率化を図った。特に共有ドライブはワークショップ中も含めメンバーの共同作業に大いに活用された。

現地調査・ヒアリングについては、前期は主担当教員が先方とのアポイントメントや日程調整などをお膳立てしたが、後期の始めには主担当教員が予め自治体の関係者に電話で協力依頼をした上で、学生がすべてのアポイントメントを取り付けて日程調整等を行うようにした。また、ヒアリングを効率的に行うために、1週間前を目途に聞きたい事項等を紙で整理して、先方に提出する工夫を行った。

学生の役割分担については、リーダー、サブリーダー、会計、書記、IT担当(リモートセッティング等)などの役割を、学生が自主的に立候補して決めていった。役割分担については、前期と後期で変更し、学生のワークショップ活動から得られる経験や負担をなるべく均等化されるような運営の工夫も学生中心に行われた。

 

(3)    成果

(ア)    最終報告書

最終報告書は、国の地方創生を推進する政策の中で重点化枠と位置づけらえた6つの枠組みに沿いながら、6章から構成されている。

第1章と第2章では、国の地方創生の第1の重点化枠「地方へのひと・資金の流れを強化」に関連する研究として、農村地域の民泊活動(農泊)に関する先進地沖縄での現地調査を踏まえた政策提唱や、政策金融機関等からのヒアリングを踏まえた農業金融の強化策の提唱を記述した。

第3章では、国の地方創生の第2の重点化枠「新しい時代の流れを反映」に関連する研究として、山形県や静岡県でのヒアリングを踏まえた農産物の輸出振興政策を記述した。

第4章では、国の地方創生の第3の重点化枠「人材育成」に関連する研究として、山形県で2024年に開学予定の東北農林専門職大学(仮称)などに着目した農業の担い手対策等に記述した。

第5章では、国の地方創生の第4・第5の重点化枠「民間と協同」「誰もが活躍できる地域社会」に関連する研究として、埼玉県での民間の先進的取組みなどを踏まえた労働政策の行政の新たな情報発信のあり方を記述した。

第6章と第7章では、国の地方創生の第6の重点化枠「地域経営の視点」に関連した研究として、仙台市や京都市からのヒアリングを踏まえつつ、商店街の活性化方策や地域交通の今後のあり方について記述した。

なお、この最終報告書は、まち・ひと・しごと創生本部を始めとしたヒアリング協力先や各学生の故郷の行政機関等に提出するとともに、各学生の今後の研究活動につなげていくこととしている。

 

(イ)    ワークショップを通じた能力育成

 本ワークショップの受講学生は、入学時には研究対象である地方創生に関する知識等があまり無い状況から、1年間の活動を通じて相当量の学びを得ることができたものと認識している。

とはいえ、地方創生を考える上で必要な知見は大変広範なものであり、そこから研究対象とすべき領域をどこに絞りこむか決めていくことは決して容易なことではない。主担当教員の狙いとしては学生自身でどこを焦点にしていくか決め、その各研究をチームとして一つの成果に取りまとめる協同作業のだいご味を感じて欲しいということであったが、学生にとっては、いろいろな学生と協調しながらチームで作業することの苦悩も多かったと推察される。

しかしながら、社会人にとっても難しい課題を、めげてしまうことなく自主的に調査を進め、粘り強く作業をこなし、彼ら自身が大いに悩みながら少しでも有用な政策提言を見出そうと努力し、何とか最終報告会での報告及び最終報告書という形にまとめ上げた。これこそが学生自身の成長の証ではないかと考えている。

ぜひ、本ワークショップの7名のメンバーには、この1年の経験を翌年度のリサーチ・ペーパー作成作業につなげて修士の学位を得て欲しいと思うほか、自分の希望する官公庁・企業への就職に向け、この1年で学んだことを「御庁・御社の業務・ビジネスを通じて、自分の故郷を活性化したい、元気にしたい」と自己アピールする糧につなげるなど、各自の将来の活躍の場のチャンス獲得にもつなげて欲しい。

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