東北大学公共政策    

プロジェクトC:我が国の経済安全保障の確保に向けた研究


(1)趣旨

 近年、厳しい国際情勢を踏まえ、各国において「経済安全保障」関連施策が次々と講じられている。この「経済安全保障」について、我が国では「我が国の平和と安全や経済的繁栄等の国益を経済上の措置を講じ確保すること」(国家安全保障戦略令和4年12月16日閣議決定)を意味するものとされている。

本ワークショップの目的については、現在進行系の施策である経済安全保障につき、過去から現在までの議論を整理するとともに、我が国及び他国における取組状況を把握し、国会における関連法案の審議等を踏まえることで、我が国の「国益」について海外の情勢をも踏まえた上で深く考え、具体的に課題を抽出した上で、今後の関連施策のあり方を見据えた政策提言を行うことと設定した。

政府は経済安全保障施策の一環として、「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案」(以下「経済安全保障推進法案」という。また、成立したものを以下「経済安全保障推進法」という。)を第208回国会に提出し、令和4年5月11日に成立、同月18日に公布するとともに、経済安全保障法制に関する有識者会議における検討、既存の外為法等の法改正、国の行政機関が策定する無数の方針・通知・事務連絡等に基づいて様々な取組が進められている。非常に施策の範囲が広いことから、その全体像が捉えにくく、ともすれば「経済」「安全保障」という用語に引っ張られて抽象的な議論が展開されがちであるが、本研究を進めるに当たっては施策担当者等が実務レベルで検討・立案・実施した施策や実践を丁寧に観察し、その背景や課題を具体的に把握し、自らが施策担当者であったらどのよう施策を講じるのかという当事者意識を持ちながら施策担当者との対話を通じてこれを行うことが適当と考えられた。ここでワークショップという本公共政策大学院の教育手法の本領を発揮できる分野であったことも本テーマが選択された理由である。

 本ワークショップでは、①日本政府機関関係者、②企業関係者、③研究者・有識者、④外国政府機関関係者を軸として計60ヶ所におけるヒアリングを実施し、現状の把握・分析、課題の抽出および解決策の検討を行い、学生ならではの具体的な政策提言を行うこととした。

 

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

 4・5月は経済安全保障に関する基礎知識を習得し、現状を把握することに力点を置いた。現行法制度や施策・事業等に関する基礎文献として、北村滋著『情報と国家-憲政史上最長の政権を支えたインテリジェンスの原点』(中央公論新社、2021)、兼原信克著『安全保障戦略』(日本経済新聞出版、2021)、「経済安全保障法制に関する有識者会議(令和3年度)」(https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/index.html)内の議論及び提言を担当教員から紹介・教授するとともに、学生が調査した資料についてお互いに議論をする中で各省庁の施策を調査・分析し、課題の抽出を行った。また、この時期には現在進行形で「経済安全保障推進法案」が国会において議論され、各種報道がなされていたため、国会における議論や関連報道を随時にキャッチアップすることにも努めた。

 また、ワークショップの運営においては、今後のヒアリング、海外調査等の準備を進める観点からも学生全員が当事者意識を持ち、積極的に準備を進める必要があったため、リーダー、会計等の役職を輪番で務めることとするほか、負担について学生間に不公平感が出ないようにすることとした。この点については、リーダーを全員が経験することでその役割の重さを実感し、全員が当事者意識を持ってワークショップを進めていくことが期待された。この段階でのワークショップの運営方法については、昨年度のワークショップCに所属していたM2学生の鈴木七夏海氏からもその経験を踏まえた指導を受けたところである。

これらの基礎知識をベースにして、6月からヒアリング調査を開始した。この時点でのヒアリングは、各学生の問題意識を尊重しつつ、非常に幅広い経済安全保障の政策分野のうち、中間報告・最終報告に向けてどの分野をより深く調査研究するべきかを決定するという視点も踏まえ、まずは幅広く実施していくこととした。

ヒアリング調査に当たっては、ディスカッションをしながら事前に質問票を作成し、ヒアリング先へおおむね1週間前までに送付することとした(年間を通じてこのような手法をとった)。具体的なヒアリング先は、経済安全保障を担当する主な省庁についてこれを行い、まずは全体像を把握することを基本とした。具体的には、6・7月には内閣官房国家安全保障局経済班を始めとして内閣府、警察庁、外務省、経済産業省の関係部門にヒアリングを行った。また、経済安全保障施策の従前の経緯を把握するという観点から、北村滋元国家安全保障局長へのヒアリングを実施し、そもそもの問題意識や施策の理念等についての教示も受けた。このように調査の初期の段階で実務家から網羅的に全体像に関するヒアリングを受けることができたため、個別の論点に早いうちから過度にはまり込むことなく、多岐にわたる論点を把握し、その全体像を踏まえて今後の課題を探っていく必要があることを学生が理解できたことは、以降の研究の進展に大きく役立った。

また、経済安全保障は単に国家的な課題というだけではなく宮城県・東北大学にとっても重要な課題であることを認識し、地に足がついた議論を行うことができるようにするため宮城県警察や東北大学安全保障輸出管理室にもヒアリングを実施した。この時期に現場と中央省庁の双方のヒアリングを実施できたことは中間報告会以降のヒアリング先の決定や提言先の検討に大いに役立ったものと考えている。

さらに、この段階から海外調査研究をどの国で実施するかの検討も進めた。当初は台湾を想定していたところであるが、QUAD等の我が国との近年の国際関係の深化、経済安全保障関連施策を最近になって積極的に講ずるようになったため施策担当者に話が聞きやすい状況にあること、レアアースの供給不安等で我が国との連携が進んでいること、新型コロナウイルス感染症による渡航制限等の諸情勢を踏まえ、豪州での調査がより適当であるとして、海外調査は豪州で行うことと決定した。

これらのヒアリングや検討を通して、チームとしての提言先として全体的なものとしては国家安全保障局としつつ、関連施策のうち各省庁・機関・団体に関連するものは個別に提言することとした。さらに中間報告に向けての準備と並行し、①サプライチェーン、②サイバーセキュリティ、③インテリジェンスのタスクフォースを設置し、分野ごとに今後の方向性について議論を重ねたところである。

 

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

 中間報告会では、それまでに行ったヒアリング結果等を踏まえ、現在の情勢及び関連施策を整理し、サプライチェーンの強靭化、サイバーセキュリティの強化、インテリジェンス体制の強化の3点から課題を抽出、今後の施策のおおまかな方向性について学生の考えを提示したところである。

 個別の論点の掘り下げや施策理解が不十分な点、ぎりぎりまで頑張りすぎたが故の資料の不備等は多少見られたもの、全体像の整理や今後の研究の方向性については大筋で問題ないものにまとまったところであり、この段階としては十分な到達点に至ったものと評価している。

 

c)夏季

中間報告会の振り返りを行うとともに、その反省を踏まえ今後のスケジュールを再整理した。その上で学生は自主ゼミを実施するとともに数多くのヒアリングを設定したところである。

またヒアリングに当たっても前期は全体像を把握することが中心となっていたため質問事項も一般論に関するものが多かったが、この時期になると最終的に政策提言を行わなければならないことも意識し、できる限り具体的な質問を行うように努めていた。

指導教員は学生の作業を見守りつつ折に触れてアドバイスをしていたところであるが、この時期になると特段のアドバイスがなくとも積極的にヒアリングを企画し、自身の研究の方向性を踏まえて適切な質問を整理するといった作業を自律的・積極的に行えるようになったところであり、大きな成長が見られたところである。

夏季においてもヒアリングを前期の期間に劣らないペースで実施し、文献の読み込みも徹底していたところであり、学生のワークショップの取り組む意識は極めて高いものであると認められた。

ヒアリング対象については、中央省庁については、経済安全保障施策の取りまとめ部局から個別の施策を所掌する部局へのヒアリングを行うようになるとともに、有識者・研究者についても経済安全保障全般から個別課題の知見が深い方を中心にとするようになってきた。また、施策の対象となる民間企業へのインタビューも進展し、政策提言を具体的に検討するにあたり、行政以外からの視点を盛り込むことも意識するようになってきた。さらに、経済安全保障施策の推進に当たってはそのきっかけとなった自由民主党の提言も含めて政治の役割が非常に重要であったことから、当該提言の中心であった甘利明衆議院議員へのヒアリングを実施することで公共政策における政治の役割にも視野を広げていった。

ヒアリングに際しては多数の専門家の方々のご指導を受けたところであるが、兼原信克同志社大学教授からは「今まで見たことのある学生の中では最もこの問題についてよく勉強・理解している。」と評価されたところでもあり、学生のたゆまぬ努力が着実に実を結びつつあることが見て取れた。

 

d)後期(年内)

10月は、夏季の議論やヒアリング先との調整結果も踏まえつつ、夏季から引き続いてのヒアリングを集中的に実施するとともに、豪州の海外出張調査についてもその準備を加速した。

前期のヒアリングを行った北村滋氏からは在日豪州大使館のMike Parker氏の紹介を受け、豪州におけるヒアリング対象者の選定や紹介に多大な支援を受けた。また、M2学生のコーエンズ英理氏から語学面の指導を受けつつ、豪州のヒアリング先と連絡を取りながらヒアリング項目を整理し、現地調査が実効的なものとなるよう鋭意準備を進めていった。

これにより11月には3年ぶりに実現に至った海外調査である豪州ヒアリングの実施に至ったところであるが、その様子についてはぜひ「ワークショップC 豪州調査記」(http://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/newsletter/newsletter2022/wsc20221214/)を参照していただきたい。事前準備が大いに効を奏し、DAFT、ASPI、JETRO、シドニー大学アメリカ研究所所長マイケル・グリーン氏、在豪日本大使館等へのヒアリングにおいては、我が国と豪州との経済安全保障施策の比較に必要な内容を的確に聴取するとともに、我が国と豪州の法制度、国益に対する考え方の違い等についてもその交流の中で議論することができ、学生が国際的な視点を得るという観点から極めて有意義な経験を積むことができたと考えている。

帰国後はヒアリング内容の整理を行うとともに、政策提言に向けてさらに掘り下げる必要がある場合には過去にヒアリングを行った方とメールのやり取りや再度のヒアリングを行ったところであり、これにより政策提言の精度をより高めていった。この際には経済安全保障施策でそもそも守るべき価値についての議論が必要であることから、科学技術行政に関する理解を深めるため内閣府や文部科学省等からのヒアリングを行うとともに、科学技術政策に深い知見をお持ちの大野敬太郎衆議院議員へのヒアリングを実施し、この分野においても公共政策における政治の役割について視点を広げたところである。

12月には、最終報告会のパワーポイント資料の作成と最終報告書の執筆を並行して実施し、提言内容をブラッシュアップしていくことに力を尽くした。チームとしての政策提言を行うことを目指し、3つのタスクフォースに分かれて議論をしていたそれぞれの内容を相互に参照し、それぞれの提言の関連性を意識しながら作業を進め、最終的には「情報共有の場」という視点から全ての施策を下支えする形でインテリジェンス班の提言をまとめることができたのは、学生の視野が大きく広がったことによるものであろう。

いずれにせよ特に留意した点としては、経済安全保障施策は非常に広い分野で展開されており、かつ、現在進行系の施策であるため常に変化する状況のなかでその時々の状況を正視しつつ、学生が自ら見出した問題を踏まえ、近視眼的な短期の施策の必要性のみにとらわれず、施策として長期的に何が重要であるのかをしっかりと見据えてチームとしての提言を行うよう努めたことがあり、その目的は達成されたものと考えている。

 

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

最終報告会においては、中間報告における発表内容を基本的に踏襲し、ヒアリングや文献調査により得た知見を加え、我が国の経済安全保障を確保するという目的を達成するため、サプライチェーン、サイバーセキュリティ、経済インテリジェンスの3つの分野において各種提言を行った。

具体的には、サプライチェーン分野においては「産業のコメ」とも呼ばれる重要物資である半導体及び今後のEV戦略等で重要になるレアアースのジスプロシウムの例を踏まえ、国際連携の強化、国内産業の強化についての提言を行うとともに、その一環として東北大学を中心とした東北地方の産業・人材育成にも言及した。

サイバーセキュリティ分野においては、サイバー攻撃からの防御、被害発生後の対応の側面から各種課題を抽出し、それぞれに必要な対策として産業・人材育成・法整備等を掲げ、幅広い提言を行った。

経済インテリジェンス分野においては、情報保護、情報収集・分析、情報共有をそれぞれ強化する観点から各種提言を行い、施策の運用・周知までを視野に入れた体制についての提言も行った。

最終報告会では、これらの提言について、各学生ともペーパーに目を落とすことなく、スムーズにプレゼンテーションを行うことができ、また、質疑においても、概ね自分たちの考えを説明することができた。これも学生自身が自主的に関心を持ったことについて納得できるところまで徹底して調べることができたことによって自信を持つことができたことが何よりも大きな要因であろう。

 

f)後期(年明け以降)

主に最終報告書の執筆と内容確認作業を行った。ヒアリング結果や文献等の改めての精査が作業の中心であったが、リーダーの的確な指揮の下、学生間で作業を分担し、チームとしての報告書を完成させることができた。また、最終報告書に掲載するヒアリング記録について、それぞれヒアリング先に案を送付し、内容のご確認をいただいた。

 

(イ)ワークショップの進め方

毎週火曜日の3限から5限の開講時間のほか、学生は必要に応じ、自主ゼミを実施していたが、これは、ワークショップの準備に充てるためのものであり、学生同士の議論を尊重する観点からも、担当教員は求められた場合を除いては基本的に参加しないこととした。メンバーは、学部卒の学生6名と社会人学生2名という構成であった。バックグラウンドの異なる学生がそれぞれに強みを生かし、刻一刻と変化する状況のなかで多岐にわたる課題を把握することに多くのエネルギーを注ぐことで、ワークショップ全体として理解と認識の共有を図った。

スケジュールについては、中間報告会、最終報告会といった主要なポイントから逆算して、学生が主体的に日程を立てて管理した。役割として、リーダー、書紀、会計、儀典、マネージャーを設け、すべての学生が輪番で役割を担当するとともに、役職を付与されえいない学生は業務繁忙の役職員を補助することとした。とりわけすべての学生がリーダーの役割を経験し、チームを引っ張り、まとめあげることの難しさとやり甲斐を感じたことや、チームメンバーとして全体の状況に目を配ることの重要性を体感したことは、将来的に大きな財産になると考えられる。

ヒアリング調査等については、本ワークショップの強みである実践的な手法として、現場を幅広く観察し、現場の声を踏まえて、具体的な政策提言をつくりあげるプロセスが重要であるところ、3年ぶりに海外調査の実現にこぎつけ、豪州の「現場」に出向き、プロジェクトを観察し、現場の担当者、訪問国政府の関係者にヒアリングして、政策提言を作り上げる機会を提供できたことはワークショップCとして本来の役割をやっと果たすことができたという意味で大きな意義があった。

本年度のワークショップに顕著な特徴としては、国内外の多くの方々にヒアリングへのご協力をいただいた。①日本政府関係者については、内閣官房国家安全保障局経済班をはじめとした計25か所、②企業関係者については、電気通信事業会社やセキュリティー関連会社、独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構、日本経済新聞社等の、経済安全保障に深く関係する企業・団体計11か所、③研究者・有識者については、衆議院議員の甘利明氏(自由民主党前幹事長)及び大野敬太郎氏(現自由民主党副幹事長)、北村エコノミックセキュリティ合同会社代表の北村滋氏(元国家安全保障局長)、同志社大学法学部教授の兼原信克氏(元国家安全保障局次長)、本学教授の遠藤哲郎氏(現国際集積エレクトロニクス研究開発センター所長)等の経済安全保障に精通した計13名の方々、④豪州政府関係者については、外務貿易省や内務省、政府系シンクタンクのASPI、シドニー大学 United States Studies CentreのCEOであるマイケル・グリーン氏等計11か所へのヒアリングを実施するなど、ヒアリングは計60箇所にも及んだ。これらの方々には大変にご多忙の中、その後の追加調査等にも応じていただくなど、将来を担う学生の配慮と期待に基づいてヒアリングに応じてくださり、貴重なご教示を賜り、学生の指導に大きな役割を果たしていただいたことを心から感謝を申し上げる。また、最終報告書に掲載したヒアリング記録には、厳しい国際情勢を踏まえて構築された経済安全保障施策に関する同時代の貴重な証言が多数含まれており、ぜひ共有財産とさせていただきたい。

 

(3)成果

(ア)最終報告書

最終報告書は、第1部「問題の所在」、第2部「経済安全保障の確保に向けた政策提言」の2部構成である。

第1部は、第1章「研究の背景・目的」、第2章「各国の経済安全保障施策」、第3章「我が国の経済安全保障施策」の3章構成として、主に経済安全保障施策に関する総論を整理したところである。第2部は、第1章「サプライチェーン分野の政策提言」、第2章「サイバーセキュリティ分野の政策提言」、第3章「経済インテリジェンス分野の政策提言」の3章構成として、それぞれの章において分野ごとに「現状分析」、「課題抽出」を行い、各政策提言に至るという構成となっている。

①「サプライチェーン分野の政策提言」では、経済安全保障推進法においても4つの柱のうちの一つである「重要物資の安定的な供給の確保」について、ジスプロシウム及び半導体の事例を踏まえ、鉱物資源・工業製品のそれぞれについて調達において重視すべき事項が異なることに留意しながら、物資の種類に応じた提言をまとめている。経済安全保障の対象となる重要物資の種類・特性によって、連携すべき国が大きく異なることが活写されており、経済安全保障がいわゆる「自前主義」のみでは達成できず、有志国との国際協調やルールに基づく国際秩序の維持により達成すべきものであることが改めて明らかになった。

②「サイバーセキュリティ分野の政策提言」では、サイバー攻撃からの防御手段を構築するために必要な事項について技術面を含めた考察を行った。本分野は他国の政府関係者から我が国取り組みが不十分であるとの指摘を受けることが多く、本邦関係者はその進展に多大な努力をしているところであるが、他国の法制において可能な手段が我が国では実施が困難であることに加え、人材・産業育成においても課題が山積している状況がヒアリングから明らかになった。学生はこの点を正面から受け止めて国家安全保障戦略において導入の必要性が言及された「能動的サイバー防御」の概念等も取り入れた様々な提言を行ったところであり、これらの対策を国際標準に近づけるためにはこれまで以上に強力な取組が必要であることを荒削りではあるものの明らかにした。また、民間企業と連携した取組が必要不可欠であるとの認識から、その連携施策についての提言も行った。

③「経済インテリジェンス分野の政策提言」では、従前から議論されている「国家機密」にかかわるインテリジェンスに加えて、経済安全保障におけるインテリジェンスが民間企業・大学等も含む極めて広範な主体がかかわるものとなることから、人材育成、情報収集・分析、情報共有、情報漏えい防止のそれぞれについて民間の取組も含めて幅広い提言を行った。この点についても国際標準を意識し、国際連携の観点からもこれまで以上に強力な取組が必要であることを明らかにした。

詳細は最終報告書本文をご参照いただきたい。

 

(イ) ワークショップを通じた能力育成について

他の公共政策大学院とは一線を画し、学生が1年間を通した「共同研究作業」を通じて、「個」としての力を磨くことができる非常に貴重な機会であることを痛感した。

 共同作業では、研究テーマの探究に加え、チームワーク、信頼関係の構築、コミュニケーションスキル等集団・組織の中で自分の力を生かすことが求められる。その意味では、社会に出る前に、共同作業の中で自分の力を鍛錬する非常に恵まれた、濃密な時間といっても過言ではない。

WSの運営は、基本的に学生の自主性に任せるようにし、必要に応じ、中間報告、最終報告に向けた時間軸を意識するように助言した。また、課題の整理、その原因の究明等については、担当教員と意見交換しながら学生たちのロジックを修正し、その内容、説明ぶりについては第三者にも平易に分かるものとなるように意識付けることに留意した。

本ワークショップの成果発表のハイライトである7月の中間報告、12月の最終報告においては、高い集中力で本番の発表に臨み、大人数の前でのプレゼンテーションにおいて、それぞれが実力を十全に発揮した。また、最終報告書をまとめるに当っても最後まで気を抜かずにより完成度の高い作品を仕上げるべく全力を尽くしており、一年間での学生の大きな成長を実感したところである。

 本ワークショップは、毎週火曜日3~5限の非常に長い時間、一年間通して取り組む忍耐力が求められる。その中で、毎ワークショップの計画、時間配分等については、よりメリハリをつけて運営することが求められる場面が多々見られた。本ワークショップメンバーについては、限られた時間の中で高い生産性で作業を進めていたが、この点についても今後のさらなる研鑽に期待したい。

本ワークショップは、3名の副担当教員にご指導いただいた。阿南友亮教授には、ワークショップの豊富な経験や専門分野に基づいて、チームとしての調査研究の質の向上に尽力していただいた。西本健太郎教授は、過去のワークショップの状況を踏まえたご指導とともに、国際法の専門家として専門的知識を踏まえた指導をいただいた。今西淳教授は実務家教員として外務省でのご経験を踏まえ、前期の退任当日まで全力を注いで下さり、退任後もヒアリング先の設定や学生への指導についてご配慮をいただいた。

また多くのヒアリングに応じていただいた方々のご指導により学生の能力は大きく向上した。業務多忙の中、ヒアリングの場のみならず最終報告書の作成の段階においても学生と丁寧に議論をしてその作成へのご支援をいただいた方々もおり、そのご支援には心より感謝を申し上げる次第である。

これらの献身的な取組の成果として、8名の学生の努力が立派な最終報告書として実ったことに改めて感謝申し上げたい。この成果物を完成させるまで得た苦労、喜び等様々な経験が、今後の学生生活、就職活動、社会人生活で生かされる機会があれば、本懐の至りである。

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