東北大学公共政策    

プロジェクトA:東京圏への一極集中の是正に向けて宮城県と仙台市ができることは何か?


(1) 趣旨

東京圏(東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県の区域をいう。)への人口の過度の集中(以下「東京圏への一極集中」という。)を是正することは、地方創生における大きな目的の一つとして、2014年に制定・施行された「まち・ひと・しごと創生法」に掲げられ、国を挙げてそのための取組がこの10年間進められてきた。しかしながら、2024年6月10日に内閣官房と内閣府が公表した「地方創生10年の取組と今後の推進方向」と題した文書でも述べられているとおり、東京圏への一極集中の大きな流れを変えるには至っておらず、東京圏以外の地方の人口動向は依然として厳しい状況にある。このことは、岸田内閣から石破内閣への交代に伴い設置された「新しい地方経済・生活環境創生本部」が同年12月24日に決定した「地方創生2.0の「基本的な考え方」」と題した文書でも同様の認識が示されたところである。
そこで本ワークショップでは、国の政策文書などにおける言説の妥当性も検証しながら、東京圏への一極集中の是正について、地域発の視点から実効性ある具体的政策を提言するため、本大学院が立地している宮城県と仙台市をフィールドにして、①東京圏との関係でみた宮城県や仙台市の人口動態などの現状分析、②それらの現状分析を踏まえた課題の抽出、③それらの課題を解決する上で宮城県や仙台市における現行の取組が抱える問題点の提示、④それらの問題点の解決方策としての政策提言という一連の流れで調査研究を行い、もって現状分析や課題・問題点の抽出・提示、政策提言を行う能力、すなわち「政策形成能力」を養成することを主たる目的にすることとした。

(2) 経過

(ア) 年間の作業経過等

a)前期

前期においては、まず、国・宮城県・仙台市における東京圏への一極集中の是正に関するこれまでの取組内容などに関する基礎知識の習得を行った。具体的には、①主担当教員からの講義、②文献調査、③宮城県・仙台市に対する1回目のヒアリング調査の3つである。第1に、国における地方創生に関する取組内容・評価・課題や地方自治体(以下「自治体」という。)の取組事例について、主担当教員から実務上の経験も踏まえた講義を行うとともに、東京都が作成した動画や資料を参照の上、東京圏への一極集中と人口減少問題について学生間で討議を行った。第2に、東京圏への一極集中の現状とそれに対する対応策に関する国・宮城県・仙台市の政策文書をそれぞれ3つの小グループに分かれて分析した結果を発表し、学生間で討議を行った。第3に、宮城県と仙台市の関係部局に対してヒアリング調査を実施した。このうち、宮城県企画部総合政策課に対する調査では、宮城県の令和7年度当初予算において人口減少対策を3つの重点項目の1つに位置付けるに至った背景や、社会増減に関する取組の考え方・方向性、社会増に向けた対策のうち主な取組の具体的内容などについて説明を受けた。また、仙台市まちづくり政策局政策企画部政策企画課に対する調査では、「第3期仙台市地方創生総合戦略」の「人口ビジョン」において「若い世代の流出抑制・流入促進」を将来展望の一つに位置付けるに至った背景や、「戦略」の基本目標に関する記述のうち「東北各地から集う若い世代の東京圏への転出を抑制する取り組み」と「若い世代や子育て世代の転入増加に寄与する取り組み」の具体的内容などについて説明を受けた。これらのヒアリング調査の際には、学生たちからの質問に対する回答もいただいた。
続いて、宮城県と仙台市の人口動態分析などを行った。具体的には、宮城県に関しては①大学進学層・就職層の人口移動の動向、②産業構造、③移住関連事業の3つについて、仙台市に関しては①若年層・大学進学層・就職層の人口移動の動向、②産業構造と雇用、③子育て世代が本当に子育てを目的として帰ってきているかの3つについてそれぞれ分析し、それらの結果を踏まえて学生間で討議を行った。このうち人口動態分析を行うに当たっては、神戸市が全国のデータをダッシュボードとして公開している「神戸データラボ」における「住民基本台帳人口移動報告の分析(都道府県・大都市)」
https://www.city.kobe.lg.jp/a47946/shise/toke/toukei/kobedatalounge/kokutyou/zyukiido.html )を最大限活用した。なお、この「神戸データラボ」の活用は、前期の副担当教員を務めてくださった堀澤 明生 准教授からのご示唆によるものである。さらに、「東京圏への一極集中の何が問題か」を明確にするため、一極集中の肯定派・是正派に分かれて討議を行った。あわせて、本ワークショップにおける問題意識や研究目的を明確にすることにも努め、KJ法なども活用しながら、それらを踏まえた宮城県や仙台市における課題の抽出と、現行施策の内容分析を通じた問題点の提示に向けた作業に取り組んだ。それとともに、「地方創生2.0基本構想」や「令和7年版男女共同参画白書 特集編」といった4月以降に公表された国の政策文書も講読し、国の直近の政策動向を把握することにも努めた。
これら一連の作業において、現代の若者がとかく重視しがちな「タイパ」「コスパ」を犠牲にしても、拾うべきデータは拾うこと、宮城県や仙台市の現行施策は網羅的に調査した上で分析することの2点を主担当教員から呼びかけたこともあり、中間報告会の準備に着手したのは学生たちが当初予定していたスケジュールよりも遅くなり、7月に急ピッチでの作業を余儀なくされた。とはいえ、宮城県と仙台市における問題点として仮説的に提示した3つの事項について、3つの班に分かれてそれらの解決方策としての政策提言の方向性の検討を重ねるとともに、中間報告会におけるプレゼンテーション資料の作成や質疑応答の準備にメンバー全員が取り組んだ。

b)中間報告会

前期における調査・分析を経て、7月の中間報告会に臨んだ。
東京圏への一極集中に係る宮城県と仙台市の状況について、就職等を契機とした「20代の転出超過」が生じていることなどを総務省の「住民基本台帳人口移動報告」のデータから示した上で、「宮城県と仙台市は「就職等を契機とした20代人口に選ばれない」という課題に、これまでの取組を踏まえ、今後、どのような取組を行うことができるのかについて提言を行うこと」を研究目的として掲げた。そして、宮城県と仙台市における前述の3つの問題点のうち「アンコンシャス・バイアスに起因する女性就職層の流出」という問題点に対しては「就職活動中の女性を対象とした施策の充実」、「宮城県・仙台市内の企業と就職層のニーズのミスマッチ」という問題点に対しては「就職層のニーズとマッチする企業の増加」、「公共交通の利便性の低さ」という問題点に対しては「待ち時間を短縮し、公共交通の利便性を向上」をそれぞれ政策提言の方向性として打ち出した。
本ワークショップはメンバーが9名と多いことから、主担当教員として、誰一人取り残さないよう、またフリーライダーが生じることのないよう、ワークショップ内で闊達かつ建設的に意見交換することのできるような「心理的安全性」の高い環境づくりを心がけた。そのおかげもあってか、質疑応答の場では司会の学生が自ら質問を拾って答えるだけでなく、他の学生がすかさず挙手して答えたり、その内容が不十分な場合には別の学生が補足したりする光景がみられた。
とはいえ、この時点で以下の2つの課題が残された。第1に、前期の活動においてデータ分析や現行施策の把握に注力したことから、本ワークショップのような地域政策に関するテーマを取り上げる際には、本来ならば「現場主義」であってしかるべきところ、ヒアリング調査が宮城県と仙台市に対してそれぞれ1回ずつしか行うことができなかったことである。第2に、政策提言の方向性については、学生たちが問題点として仮説的に提示した事項を解決するものになっているかを論理的に検証することが不十分であったことである。2つ目の課題については、ロジックモデルなどを活用しながら分析することを指導していきたい旨、中間報告会の席上、主担当教員からコメントしたところである。

c)夏季

7月29日の前期最後の授業で主担当教員から指導したことなどもあり、学生たちは8月から9月までの間において「札幌市」「広島市」「福岡市」の3つの班に分かれ、これら3都市のヒアリング調査に当たって事前に送付する質問票の作成などの準備を進めた。あわせて、中間報告会における教員や学生からの指摘事項などを踏まえつつ、「まち」「ひと」「しごと」の3つの班に分かれて、中間報告会で問題点として仮説的に提示した3つの事項とそれらに対する政策提言の方向性についても再検討を行った。これらの作業については、オンラインによりこの期間中に6回開催した自主ゼミにおいて、学生間で進捗状況の報告や資料内容の検討などを行った。このうち上記3都市に対するヒアリング調査の質問票については、主担当教員が各班に対して添削指導を行ったものの、それ以外の作業についてはもっぱら学生たちの自主性に委ねたところである。
そして、広島市と札幌市については8月末、福岡市について9月末にそれぞれ3名ずつの学生と主担当教員が現地へ赴き、1泊2日の行程で各市役所の関係部局と関連する民間団体・企業に対するヒアリング調査を実施した。これらのうち、前者に対する調査については年度明けの比較的早い時期に主担当教員から趣旨を伝え、対応を依頼していたものの、後者に対する調査については学生たちの自主的な働きかけにより実現したものである。また、調査先との日程調整などは、主担当教員によるビジネスメールの添削指導も経た上で学生たちが全て主体的に行った。

d)後期(年内)

後期においては、メンバーのほぼ全員又は「まち」「ひと」「しごと」の班単位で、宮城県・仙台市の各関係部局や関連する民間団体・企業、有識者など全部で19回にわたり対面、オンライン又は書面でヒアリング調査を行い、前期とは対照的に、本公共政策大学院が掲げる現場主義の理念に沿った調査活動を積極的に進めた。また、これらの調査と並行して各班において政策提言に向けた調査・検討を進め、多くの提言については、調査先の人々に対して提言の案を投げかけ、より実現可能性の高い案に鍛え直していく、いわゆる「壁打ち」も行った。これらの作業については、毎回の授業において進捗状況が報告され、主担当教員からその都度助言が与えられた。
そして、12月には最終報告会におけるプレゼンテーション資料や最終報告書概要版の作成、質疑応答の準備にメンバー全員が精力的に取り組んだ。しかしながら、最終報告会の日程は年度当初に確定していたものの、そこから逆算してスケジュールを組み立てる必要があることを主担当教員から再三指導したにもかかわらず、社会人学生以外の学生たちは「具体的にいつまでに何をどこまで詰める必要があるか」ということについての感覚に乏しく、プレゼンテーション資料の作成は遅々として進まなかった。そうした中、後期の副担当教員を務めてくださった諸岡 慧人 准教授の作成スケジュール・資料内容の両面にわたる的確なご指導により、最終報告会直前のリハーサルまでこぎつけることができた。
なお、前期から後期を通じて、本ワークショップのチューターを務めてくれたM2学生の丸野 泉紀 さんからは、いわゆるサブ・ロジの両面で前年度の自らの経験を踏まえた様々な助言を受け、これらは学生たちだけでなく主担当教員にとっても大いに参考になるものであった。

e)最終報告会

最終報告会では、はじめに「総論」として、東京圏への一極集中が是正すべき課題であることを先行研究をもとに述べた上で、「宮城県・仙台市から一度転出した人々が戻ってこられるような地域づくりという視点も加味すべき」という中間報告会での指摘事項を踏まえ、中間報告時点の「就職層である20代前半人口に選ばれる宮城県・仙台市」から「域内外の20代人口から選ばれる宮城県・仙台市」へ研究目標を改めたことなどを報告した。
続いて「各論」として、「しごと」「ひと」「まち」の3つの分野ごとに政策提言を行った。まず「しごと」分野では、稼げる産業を「呼び込む」「育てる」「後押しする」ことで東京圏への人口の一極集中是正に向けた更なる雇用の創出へつなげることを目指し、「就職層のニーズとマッチする情報通信業、特に稼げる産業であるコンテンツ産業の誘致」「域外の需要を取り込むような成長の余地のある企業の抽出や、企業登壇型のNanoTerasu利活用成果共有報告会の実施による地元企業の成長支援」「スタートアップ向け公共調達の仕組み導入によるスタートアップの事業化支援」を提言した。次に「ひと」分野では、若者・女性が安心して人生を描ける地方を目指し、「若者から企業経営層への効果的啓発活動による職場のアンコンシャス・バイアス解消」「地域の意思決定層を対象にした啓発活動による地域社会のアンコンシャス・バイアス解消」「公共調達におけるリスキリングの要件化による県内企業におけるリスキリング環境の整備」を提言した。最後に「まち」分野では、仙台市においてどこにいても安心して暮らせるまちの基盤をつくることを目指し、「ウェットラボ整備の高機能オフィス要件への追加やPR強化によるせんだい都心再構築プロジェクトの高度化」「住宅支援情報の一元化と可視化や、空き家を市場に流す仕組みの強化による住宅支援の強化」「運賃制度の見直しやバス路線網の再編、駐車場税の導入による公共交通の利用促進・持続可能性の向上」を提言した。
当日はパソコンの操作ミスや、機材トラブルによるオンライン配信音声の一部中断などがあったものの、制限時間ぎりぎりで報告することができた。また、質疑応答の場面では、応答がもたついた学生が一部にいたものの、全体を通じて中間報告会のときよりも応答能力が向上している様子がうかがわれた。コメンテーターとして宮城県総合政策課長と仙台市政策企画課長をお招きしたところ、当日コメントをいただいた宮城県総合政策課長からは、提言内容に関連して、県庁内において企業誘致の対象となる産業の見直しを検討していることや、固定的な性別役割分担意識に関する国の調査概要、事業者の行動変容を目的とした宮城県の独自課税の制度趣旨についてご披露いただいたほか、本ワークショップで視野が及んでいなかった広域連携に関連して、直近の東北6県と新潟県における広域リージョン連携の取組についてもご紹介いただいた。

f)後期(年明け以降)

年明け以降は、最終報告書について、作成済みの概要版をベースに最終報告会における指摘事項を踏まえた内容の見直しや総論部分の執筆作業を行った。また、最終報告書に添付するヒアリング記録の整理や報告書送付先の確認作業なども並行して進めた。学生はこれらの作業に主体的に取り組み、特に1月に幹事を務めた社会人学生が、実務経験に裏打ちされた段取り力を発揮して工程管理を行ったため、作業は比較的円滑に進められた。
最終報告書概要版の段階で、主担当教員が原稿を確認して「分かりやすく正確な文書」という観点から大幅に修正を施し、多数のコメントを付す作業を経ていたものの、最終報告会における指摘事項を踏まえて見直した部分や新たに書き下ろした総論部分を中心に、さらに多くの修正やコメントが加えられた。また、全体の編集作業を担当した学生が、執筆した学生に対してコメントを付すことも度々行われた。これらの作業は、Microsoft 365上で学生・担当教員間で共有されたWordファイルの変更履歴やコメントの表示機能を最大限活用して行われた。執筆を担当した学生はそれらに対して真摯に対応し、全体の編集作業を担当した学生による地道な作業を経て、無事に提出までこぎつけることができた。

(イ)ワークショップの進め方

4月から翌年1月まで、原則として月替わりで幹事と書記を分担することにより、学生たちが作業スケジュールを的確に管理する能力を涵養する機会を得ることができるよう、また、全員がワークショップの進行に責任をもち、集団作業において円滑なチームワークを心がけ、その中でリーダーシップを涵養する機会を得ることができるよう配慮した。また、原則として毎月末に月例報告会を開催し、その月の成果・課題・今後の方向性について幹事から報告し、副担当教員からコメントをいただくことにより、分かりやすく正確な(説明)文書を作成する能力や効果的・説得的なプレゼンテーションを行う能力を高めることができるよう努めた。
担当教員と学生間の連絡や情報共有については、当初はGoogle ClassroomとLINEグループを併用したものの、途中からもっぱら後者を活用した。なお、学生どうしの連絡等は、主に彼らが自主的につくったLINEグループで行われた。
内容面では、主担当教員として次の2点を心がけた。第1に、基本的なデータやファクトを押さえ、それを踏まえて分析を行うことである。人口動態などに関するデータやファクトに立ち返り、既に知られていることも含めて自分たちなりの分析を行うべきであるということを学生たちに呼びかけ、学生たちもそれに対して誠実に対応してくれた。第2に、国や関連する自治体の既存の施策内容をきちんと把握することである。その上でそれらの施策について、目指す目標に対して依然として不足していることは何か、あるいは全然違った方向のことをやっていないかといった観点から分析すべきであるということを学生たちには呼びかけた。それに対して学生たちは彼らなりに分析を行い、中間報告会や最終報告会における指摘事項などを踏まえ、最終報告書においてその成果を盛り込んだところである。
副担当教員の堀澤 明生 准教授(前期)と諸岡 慧人 准教授 (後期)には、授業に出席された際に数多くのご指導・ご助言をいただいた。また、本ワークショップチューターのM2学生の丸野 泉紀 さんからも多くのサポートを得た。この場をお借りして、厚くお礼申し上げる。

(3) 成果

(ア) 最終報告書

最終報告書は、「東京圏への一極集中の是正に向けて宮城県と仙台市ができることは何か?」と題して、第1部「総論」、第2部「中間報告会までの活動」、第3部「政策提言」の3部から構成されている。
第1部では、東京圏への一極集中の現状について、東京圏への転入超過数や、宮城県と仙台市の転出超過数といった人口動態に着目して分析を行い、その分析の結果をもとに設定した本研究における問題意識と目標について述べている。あわせて宮城県・仙台市の各関係部局や関連する民間団体・企業、有識者などに対するヒアリング調査の実績を簡単に紹介した上で、北海道、中国、九州の各ブロックにおいて、東北ブロックにおける仙台市と同様の性格を有する札幌市、広島市、福岡市の3都市を夏季に訪問して実施したヒアリング調査から得られた知見などを紹介している。
第2部では、中間報告会までの活動として、宮城県と仙台市の東京圏への転出超過の状況に関して、「転出超過の原因」「転出超過で生じる課題」「転出超過への対応策」の観点から現状の政策内容を検証している。さらに、中間報告会における指摘を踏まえた研究の方向性の変化についても述べている。
第3部では、第1部で設定した研究目標の実現のための政策について、「しごと」「ひと」「まち」の3つの分野から提言を行っている。それらの提言を列挙すると、「しごと」分野における提言は「情報通信業の企業誘致」「Nano Terasuを用いた産学官連携による地元企業支援」「公共調達制度を用いたスタートアップの事業化支援」、「ひと」分野における提言は「企業経営層の意識変革」「地域社会の意識変革」「宮城県におけるリスキリング環境の整備」、「まち」分野における提言は「せんだい都心再構築プロジェクトの高度化」「住宅支援の強化」「公共交通の利用促進・持続可能性の向上」である。本ワークショップでは、「域内外から選ばれる宮城・仙台の実現」というワークショップ全体の目標実現のために、3つの分野ごとの小目標の実現を目指す形で政策提言の検討を進めた結果、「しごと」分野では企業誘致や企業支援施策を提言し、「ひと」分野ではその企業で働く人々が将来に希望を持てるような職場と地域社会の意識変革に関する施策を提言した。そして、「まち」分野では、「しごと」分野における政策で誘致や支援した企業で働き、「ひと」分野における政策で意識変革が起きた地域社会で暮らす人々が、どこにいても安心して暮らせるまちづくり施策に関して提言した。このように、これら3つの分野における政策が互いに支える役割を果たし、政策効果が相互補完的に発揮されるとしている。最後に、①本ワークショップにおける提言が東北圏全体にどのような波及効果を及ぼし得るのかに関する分析が不足していること、②仙台市と札幌市、広島市、福岡市の3都市との比較分析、さらには宮城県とそれらの都市を抱える道県との比較分析を十分に行うことができていないこと、③仙台市と宮城県との関係、仙台市と周辺市町村との関係、さらには宮城県と他の東北各県との関係といった広域連携の可能性について分析することができなかったことの3つを残された課題としてあげている。
なお、この最終報告書については、3月中旬に宮城県の伊藤 哲也 副知事(本学法学部ОB)にお渡しするとともに、その概要を報告することにしている。

(イ) ワークショップを通じた能力育成

本ワークショップの主な目的として掲げていた「政策形成能力」の養成については、①現状分析、②課題・問題点の抽出・提示、③政策提言といった政策形成過程の一連の流れを曲がりなりにもたどったため、それなりに達成できたのではないかと考える。このうち③に関しては、実現可能性を高める観点から、多くの提言においていわゆる「壁打ち」も行ったことについては前述のとおりである。なお、ヒアリング調査の企画・実施をはじめ、中間報告会・最終報告会におけるプレゼンテーション資料の作成、最終報告書の作成に至るまで、基本的には全て学生たちが主体的に取り組んだところである。
さらに、①作業スケジュールを的確に管理する能力、②わかりやすく正確な文書を作成する能力、③効果的で説得的なプレゼンテーションを行う能力、④有意義なヒアリング調査を行う能力などを養成することも副次的な目的として掲げていたが、これらについても学生たちが行う主体的活動に対して、毎回の授業で主担当教員が細かく指導することにより、少なくとも各々の能力の現状と課題については十分に自覚できたものと考えており、これらの能力向上に向けた各人における今後の努力に期待するものである。
最後に反省すべき点を挙げるとすれば、以下の2つである。第1に、本ワークショップでは「東京圏への一極集中の是正に向けてできることは何か」という大きな政策課題に対して大小合わせて13の政策を提言したものの、これらの政策をそれぞれ実施することがどのような論理的道筋をたどってこの大きな政策課題の解決につながるのかを検証すること、これを主担当教員は「ストーリーづくり」と称して学生たちに度々その必要性を呼びかけたにもかかわらず、最後まで学生たちの意識をそうした方向に徹底させることができなかったことである。第2に、大学院生である以上、担当教員からの助言や指導であっても一旦は批判的に受け止めた上で、学生どうしでいろいろ闊達に議論して研究の方向性などを定めるべきところ、本ワークショップにおいては、「まち」「ひと」「しごと」の班内ではそのような議論を行っていたように見受けられるものの、9人全員の場では、主担当教員から促したことがあったにもかかわらず、そのようなことが行われることはほとんどなかったことである。
このように、反省すべき点はあるものの、中間報告会、最終報告会、そして最終報告書とフェーズが移行するたびにさらに充実した調査研究内容になっていった。このことは、学生たちがそれぞれ4月から懸命に努力を積み重ねてきた賜物であり、伴走してきた者として彼らのことを誇りに思う次第である。

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