- 公共政策ワークショップⅠ 最終報告書 プロジェクトB(全254ページ、6.26MB)
(1)趣旨
我が国の農山漁村は、農林水産物、バイオマス、自然エネルギー、景観、伝統文化などの有形無形の豊富な資源を有している。また、農業生産活動や地域の共同活動が行われることにより、食料供給のほか、水源の涵養、土砂災害の防止、生物多様性の保全などの多面的機能を発揮し国民生活を支えている。
食料、農業、農村をとりまく状況が大きく変化する中で、都市に先駆けて人口減少や少子高齢化が進んでいる農山漁村においては、農林水産業の担い手不足、耕作放棄地の増加、地域活力の低下などの課題が顕在化している。このような課題に対応していくためには、農林水産業の担い手を確保するとともに、農山漁村に様々な主体を取り込みながら多様な仕事を創出し、所得と雇用を生み出す必要がある。
このため、国は農林水産物の加工、販売などを行う6次産業化を進めてきており、それを更に発展させ、農山漁村にある農林水産物、文化、歴史、景観等の多様な地域資源を活用し、観光・旅行、教育、福祉などの他分野と組み合わせて新事業や付加価値を創出する農山漁村発イノベーションを推進しているところである。
都市にはない豊かな自然や美しい景観、農山漁村での様々な体験・交流等への関心が高まる中、農山漁村を活性化し、持続可能なものにしていくためには、そこに豊富に存在する地域資源を見つめ直し、それを起点に新たな価値を創出する取組が求められている。
このような観点から、本ワークショップでは、農山漁村振興政策の現状及び課題を分析した上で、地域資源を活用した農山漁村振興施策について提言をまとめていくことを目的とし、研究活動に取り組んだ。
(2) 経過
(ア) 年間の作業経過等
a)前期
4月は初回ガイダンスとして、7名の学生から自己紹介を行った後、当面の学生間の役割分担、今後の予定等について説明した。今後の予定については、学生にスケジュール感をつかんでもらうため、M2チューターから昨年度の実績をもとに年間のワークショップの流れについて説明してもらった。
研究テーマについては、農山漁村における地域資源活用の主要な施策である農泊、6次産業化を軸として学生の関心に応じてその他のテーマも扱うこととしていたことから、国の施策である農山漁村発イノベーションについて主担当教員が説明し、その他の農山漁村振興施策や課題などについては学生が分担して調べ、自主ゼミでも検討することで農山漁村の現状及び施策に関する知識の習得を図った。更に、4月下旬から5月下旬にかけて、農村政策に関して東北農政局農村振興部を、観光政策に関して東北運輸局観光地域振興課を、農泊及び6次産業化に関して宮城県農山漁村なりわい課を訪問し、担当する施策の現状及び課題等についてお話を伺い、これらについての理解を深めた。また、学生は農山漁村の現場を見る機会が乏しかったことや、実際に地域資源に触れることが学生の今後の研究に役立つことから、5月末に日帰りで釜石市のDMC及び遠野市のNPO法人を訪問し、農泊の現状及び課題等についてお話を伺うとともに、地元の直売所を見学して6次産業化を体感することで、農山漁村の課題や多様な地域資源の一端に触れることができた。
6月に入り、農泊、6次産業化以外の研究テーマも固まり始め、オンラインによるインタビュー調査を複数回実施し、中間報告会に使用するスライドの原案を作成し、構成や内容等について議論を行った。7月は中間報告会に向けて発表用スライド資料の作成作業を加速させ、研究の方向性を①地域資源を活かす(農泊、6次産業化、新しい産業)②地域資源を繋ぐ(交流の場、教育、企業や大学との連携)③取組や地域を支える(組織の形成、活動の定着・展開)の3つに絞り、活かす、繋ぐ、支えるに属するそれぞれの研究テーマについて発表を行うこととした。
b)中間報告会
中間報告においては、学生がそれぞれの研究テーマについて、現状、課題、政策提言の方向性について発表を行った。予定していた発表内容を時間内に収め、多くの質問や厳しいご指摘にメンバー全員でなんとか対応したが、中間報告会の後、全員で中間報告会の振返りを行い、発表時間に比してスライドの情報量が多過ぎたこと、目指す姿と研究のアプローチなどの繋がりや流れがわかりにくかったことなどは最終報告会に向けての反省材料となった。
c)夏季
夏休み期間中の自主ゼミは開催日程及び毎回の司会担当学生をあらかじめ決めて、研究の進捗などを学生間で共有し、政策提言の方向性について議論を進め、その結果を担当教員に共有することとなった。また、主担当教員からは夏休み期間中にたくさん文献を読むなどして研究を進めておくこと、後期のインタビュー調査を円滑に進めるために9月中に打診を始めておくように指示を行った。学生は個人で研究を進めるとともに、自主ゼミでは研究テーマの進捗報告、目指す姿と研究のアプローチなどの繋がりについての議論が行われた。
中間報告会の前から夏合宿の検討を始めたが、夏合宿の目的は、研究テーマの1つである農泊を学生に体験してもらい、農泊の課題や現場の方々の意見をより深く理解すること、また、研究テーマである地域資源活用の取組の現場を体験することで地域資源活用の課題やそのポテンシャルをより理解してもらうことであった。夏休み期間中にアポイント先や行程表などのロジの検討を進め、いくつかのインタビュー先の変更を余儀なくされたものの、夏合宿の行程を固めることができた。
夏合宿は、9月29日から10月1日の2泊3日で北海道を訪れ、初日は旭川市役所でインタビュー調査を行った後、3件の農家民宿に分かれての農泊となった。学生にとって初めての農泊を体験できたことや、ホストファミリーの農家の方から農業や狩猟、農村の課題など様々なお話をお伺いできたことは、学生のその後の研究に大いに役立ったと思われる。2日目は北班と南班に分かれて学生の担当する研究テーマに沿ったインタビュー調査を行った。北班は美深町を訪問し、全国的にも珍しいチョウザメ養殖や山村留学について現状や課題などをお伺いした。南班は上川町から地域おこし協力隊の現状、観光事業者から交流人口などについてお伺いした。3日目はジビエ料理を体験した後、6次産業化による付加価値向上の取組を行っている牧場を見学した。この夏合宿により、学生は研究を進めていく上での貴重な示唆を得ることができたこと、また、実際に地域資源に触れ、付加価値向上の取組を見ることで農山漁村における地域資源の重要性や可能性を理解することができたと思われる。
d)後期(年内)
後期は、最終報告会の日程から逆算して、インタビュー調査の実施、政策提言案の作成、最終報告会スライド作成など大まかなマイルストーンを念頭に入れながら各自研究を進めたが、目指す姿と研究のアプローチや研究テーマとの繋がりの議論が続き、現場の課題や政策提言の参考となる情報などを把握するためのインタビュー調査が本格化したのが10月下旬からとなった。
学生の研究テーマが多岐にわたっていたため、インタビュー先は地方自治体、6次産業化事業者、農泊事業者、ジビエ事業者、金融機関、コンサルタント、研究者など幅広く、最終報告会の前の週まで精力的にインタビュー調査を行った。また、インタビュー調査では、その研究テーマを担当する学生以外の学生も積極的に参加して自分の担当外の研究テーマについても意欲的に学んでいた。
インタビュー調査と並行して政策提言を具体化する作業も進められた。主担当教員からは個別の政策提言の寄せ集めではなく政策パッケージにするよう指示するとともに、政策提言案を早めに固めるため、東北農政局の担当の方々に政策提言案をご説明してご意見をいただく「壁打ち」を11月下旬にセットした。これに向けて、政策提言が固まらない研究テーマは複数の学生間で検討を加速化させ、ワークショップも時間を延長して政策提言のとりまとめを行った。
最終報告会に向けて、スライドの準備と最終報告書概要及びその元となる最終報告書案の作成を並行して行った。中間報告会の反省を踏まえ、スライドは文字数を押さえてできるだけシンプルで分かりやすくすること、目指す姿と研究のアプローチなどの繋がりや流れが理解されるようにすることを特に意識して作業を行った。スライドの作成と約50ページの最終報告書概要及び最終報告書案の作成を並行して行う大変な作業だったが、学生は最後まで粘り強く取り組んだ。
e)最終報告会
最終報告会では、本研究により目指す姿を「行きたくなる、帰りたくなる農山漁村」と設定し、そのために必要な要素は「所得の向上と雇用の創出」と「愛着の醸成」であると位置づけ、これらを実現していくために地域資源を活用した4つの分野①「価値向上」②「新しい産業」③「学びと人」④「地域経済」に分けて9つの政策提言を報告した。農山漁村にある地域資源を活用した農泊・6次産業化による「価値向上」や、まだ価値が見出されていないものを発見し高付加価値化するジビエ・未利用資源活用といった「新しい産業」は本研究の中核をなすものであり、既存施策も多い中で、政策提言を学生はよくまとめ上げたと思う。また、「学びと人」の分野で、制度面や実務面の課題はあるものの、社会人の休暇制度の整備や姉妹校同士の体験活動といった政策提言により、「価値向上」の取組に欠かせない担い手や関係人口の創出につなげようとしたことは意義深いことであり、「地域経済」の分野での地域通貨の導入の政策提言により域内経済循環を促そうとしたことは、持続的な農山漁村づくりに大切な視点だと考える。更に、4つの分野の9つの政策提言をパッケージとして作り上げるだけでなく、政策提言間の相乗効果についても検討し、具体例を示してくれたことを評価している。最終報告会ではトップバッターとして、リハーサル通りの時間配分にてプレゼンテーションを円滑に進めた。学生や教員との質疑においても、いくつか厳しいご指摘もあったが、よくまとめられている旨の今後の励みになるコメントをいただくことができた。
f)後期(年明け以降)
最終報報告会の翌日には、ワークショップ室に集合し、最終報告書の作業工程のスケジュールを再確認した。既に作成中の最終報告書案に加筆・修正の上、年内に学生が最終報告書の案を完成させ、年始に学生間チェックを行った後、初稿を担当教員に共有した。その後、担当教員のコメントを踏まえ、修正等を重ねながら最終報告書の本体部分を取りまとめた。また、最終報告書に添付する資料として、インタビュー記録の整理、インタビュー先への照会・確認を進め、全体の体裁を整える作業は大変であったが、学生は精力的に最後まで作業を進め、期限前に最終報告書を提出することができた。
(イ)ワークショップの進め方
毎週火曜日の3限から5限のワークショップのほかに、学生が主体となって自主ゼミを行った。また、役割分担については、学生の意見を尊重し、リーダーは置かず、旅費の申請等で総務企画課係との調整を行う会計担当2名のみを決めた。
前期前半のワークショップは主担当教員が進行を行ったが、その後は学生の司会に移行し、司会担当を交代制で実施した。
現地調査・インタビュー調査については、前期は主担当教員が先方とのアポイントメントや日程調整などを概ね行ったが、夏休み期間や後期は、学生がすべてのアポイントメントを取り付けて日程調整等を行うようにした。なお、インタビュー依頼メール文及び質問事項についてはあらかじめ主担当教員が確認後、学生からメールするようにした。
教員、M2チューター、学生との連絡は、メーリングリストやライングループを活用して情報共有と作業の効率化を図った。
中間報告会や最終発表会の前には学生は夜遅くまでワークショップ室で作業を行い、通常の自主ゼミに加えて臨時の自主ゼミも行うなど、大変熱心に取り組んでいた。
副担当の鹿子生教授には常に貴重なご助言をいただき、また、M2チューターの鈴木さんから多くのサポートを得たことに対し、この場をお借りして感謝申し上げる。
(3) 成果
(ア) 最終報告書
最終報告書は、4章から構成されている。
第1章では、日本及び農山漁村の人口減少の現状や国の農山漁村振興策などを説明したうえで、研究により目指す姿(「行きたくなる、帰りたくなる農山漁村」)に必要な要素(「所得の向上と雇用の創出」と「愛着の醸成」)の実現のために4つの分野①「価値向上」②「新しい産業」③「学びと人」④「地域経済」で研究を行った旨を記述した。
第2章では、ワークショップのこれまでの前期インタビュー調査、中間報告会、夏休み期間中の活動、夏合宿、後期インタビュー調査など様々な活動について記述した。
第3章では、4つの分野ごとに①「価値向上」は農泊・6次産業化についての政策提言、②「新しい産業」はジビエ・未利用資源についての政策提言、③「学びと人」は姉妹校同士の体験活動・休暇制度の整備についての政策提言、④「地域経済」は地域通貨の導入についての政策提言を記述した。
第4章では、4つの分野ごとの政策提言がそれぞれどのように「所得の向上と雇用の創出」と「愛着の醸成」に繋がっているのかを述べたうえで、政策提言により農山漁村の就業機会の確保、地域外からの人の流れや多様な交流の創出、地域に対する愛着醸成、それらの相互作用により「行きたくなる、帰りたくなる農山漁村」という目指す姿が実現すると結論づけた。更に、提言ごとの相乗効果の可能性についても記述した。
(イ) ワークショップを通じた能力育成
中間報告会、最終報告会、最終報告書のとりまとめの過程で、協調性や責任感、マネジメント能力、論理的思考力、文章表現能力、プレゼンテーション能力などが学生に次第に身についていった。特に中間報告会と最終報告会のプレゼンテーション資料の作成や報告会でのプレゼンテーションと質疑応答は、自らの考えをいかに相手にわかりやすく説明し、理解を得るかというトレーニングとして非常に有効であった。
また、多数のインタビュー調査を通じて、コミュニケーション能力やスケジュール管理能力、ビジネスマナーといった社会人としての基礎スキルが学生に身についていった。
バックグラウンドや考え方の異なる学生が一つの目的に向かって共同研究を進めていく中で、意見の相違に直面しても議論を尽くして乗り越えてきた経験は、これから社会で自分の道を歩むうえでの大切な財産である。WSBの皆さんの努力と成長を誇りに思う。