公共政策大学院TOP > 概要 > FDと公共政策ワークショップの事後評価 > 2009年度 ワークショップI プロジェクトC

■プロジェクトC:地域の手による新たな道路管理について

a)趣旨

道路は、最も基礎的な社会資本であり、公共用物の典型であることから、現在の道路法のもとで、公の主体である道路管理者が一元的に管理を行ってきたところである。しかしながら、社会経済情勢の変化の中で、道路管理を取り巻く状況も大きく変化しており、近年では、道路の公共空間としての機能に注目が集まっているほか、従来行政が担ってきた様々な分野において、行政と、地域住民、NPO、企業等とが協働する動きが各地で広がってきている。さらに、行政側の事情としても、財政状況や人的制約が極めて厳しい中で、民間企業やボランティア団体等のノウハウ等を活用するニーズが高くなっている。こうした中、今後の道路管理については、公的主体による画一的な管理ではなく、様々な主体の能力も活用した、柔軟な道路管理に転換していく必要が生じている。

本ワークショップにおいては、こうした状況を踏まえ、広い意味での地域の手による、新たなニーズに対応した道路管理のあり方について、宮城県大崎市をフィールドに検討を行い、政策提言をとりまとめることを目的とした。

b)経過

ア 年間の調査・検討作業

1)前期(4月〜7月)

本ワークショップで扱う道路管理分野は、学生にとってあまり馴染みのないものであることが予想されたため、4月は教員主導のもと、学生に道路管理に関する基礎的知識の習得にあたらせることとした。まず、初回と第2回で主担当教員から道路管理に関する基礎的な講義を行うとともに、第2回以降は、主担当教員が課題を提示し、それについて学生が調査・報告をするという方式をとった。また4月28日には、本ワークショップの協力自治体である大崎市の建設部技術参事から、大崎市における道路管理の現状等についての講義を受けた。

これ以降は、基本的に学生主導でワークショップを進めていくこととした。5月は主に検討すべきテーマの絞り込みを行い、6月からは大きく2班に分かれて作業を進めるとともに、7月は報告会Ⅰに向けた中間報告書及びプレゼン用パワーポイントの作成作業を行った。

この間、5月25日には学生全員及び教員で大崎市に出向き、大崎市内の道路管理の現場見学及び大崎市建設部職員との意見交換を行った。その他、学生で分担して、宮城県北部土木事務所、大崎市鹿島台総合支所へのヒアリング、第3回西古川小学校通学路コラボ事業検討会、第1回鳴子温泉新屋敷地区交通問題懇談会への参加、大崎市道路管理パトロールへの同行などを行った。また一部の学生は、宮城県の道路管理ボランティアのプログラムに年間を通じて参加した。

2)報告会Ⅰ(7月31日)

報告会Ⅰでは、これまでの調査報告を行うとともに、今後の検討の方向性として、行政以外の主体による道路管理の新たなスキームの導入と、道路の多様な機能の活用方策について、大崎市へ政策提言を行う旨提示した。これに対し、「解決すべき具体的な問題が何なのかはっきりしない」との指摘を中心に、多くの指摘を受けた。

3)後期(9月〜12月)

8月から1カ月程度は各自の時間とし、9月半ばからワークショップを再開した。

まずは報告会Ⅰでの指摘を踏まえ、「何が問題なのか」という点を議論しなおすこととした。しかしながら、なかなか議論の出口が見えてこないため、10月には、各自がもう一度「何が問題なのか」ということを実感するため、ほぼ全員が大崎市の道路管理パトロールに同行した。これらの結果、「生活道路の環境が悪い」という問題意識にたどりついたが、この議論にかなりの時間を要してしまったため、11月は、政策提言に向けた調査・検討の作業を、最終報告書の草案を書く作業と並行して行うこととした。12月からは、政策提言に関する議論を行いながら、報告会Ⅱに向けて、最終報告書案及びプレゼン用パワーポイントの作成作業を行った。

またこの間、他の先進事例等の調査として、福島県伊達市に出向いてのヒアリングや、国土交通省古川国道維持出張所、愛媛県、静岡県磐田市などへの電話・メール等による調査のほか、政策提言先である大崎市へも度々必要な調査等を行った。

4)報告会Ⅱ(12月22日)

報告会Ⅱでは、大崎市において「地域の道路」(いわゆる生活道路)の環境が悪いという問題を、地域住民がその管理に関与することで解決する、との方向性を提示した。これに対して、「道路の『管理』という点に視点を絞りすぎではないか」、「地域住民は本当に道路管理に関与してくれるのか」などの指摘を受けた。

5)最終報告書とりまとめ(1月)

1月は、報告会Ⅱでの指摘事項や、12月までに十分に議論できなかった点などを再度議論し、最終報告書の取りまとめ作業を行った。なお、報告書の取りまとめに当たっては、「てにをは」も含め、教員による細かいチェックを行った。

6)大崎市への報告会(3月実施予定)

3月には、政策提言先であり1年間お世話になった大崎市に対し、研究成果を報告するとともに、意見交換等を行う予定である。

イ ワークショップの進め方

本ワークショップでは、前期においては、火曜午後の正式な授業時間に加え、金曜午後も、主担当教員出席の授業時間とした。後期においては、原則通り、火曜午後のみを主担当教員出席の授業時間としたが、学生達は、前期に引き続き、原則として金曜午後も集まり、作業を行った。また、毎月最終火曜日は副担当教員も出席の月例報告会と位置付け、副担当教員からも様々な指導を受けた。

学生の役割分担について、当初は、幹事、書記、会計等の役職を1カ月ごとに交替することとしていたが、ワークショップの進行に重要な役割を果たす幹事が1カ月という短いスパンで替わることの不都合が生じてきたことから、途中からは、学生間の負担の公平性にも配慮しつつ、柔軟に対応することとした。

なお、本年度は各ワークショップとも学生8名と、例年と比べ若干多めの人数構成となったため、マンパワー的には十分であったと言えるが、一方で、このことにより学生達の間で一種のやりにくさがあったように感じられたのも事実である。

c)成果

ア 最終報告書について

最終報告書では、1年間の調査研究を踏まえ、以下のような内容をまとめた。

まず第1部では、国内一般でも大崎市でも、いわゆる生活道路の環境が悪いという問題が見られることから、この問題の解決策を考えていくことを課題として設定した。

第2部では、いわゆる生活道路を「地域の道路」と定義し、この地域の道路の環境が悪い原因を分析するとともに、解決方法として、道路管理への地域住民の関与という方向性を提示した。

第3部では、大崎市への政策提言につなげるため、他の地方公共団体等における道路管理への地域住民の関与の先進事例を調査し、それぞれの特徴、効果、課題等を分析するとともに、大崎市における類似事例の調査を行った。

そして第4部では、大崎市への政策提言を行った。提言にあたっては、まず目指すべき将来像を提示したうえで、その将来像に向けた第一弾の政策として、「宝の都(くに) 守ろーどプログラム」、「宝の都 しゃべろーどプログラム」、「宝の都 作ろーどプログラム」の3つの地域住民関与の方策を提言した。さらに、これらの政策が実行された後に行われるべき第二弾の政策の方向性についても言及した。

イ ワークショップを通じた能力育成について

本ワークショップでは、現状分析や課題・問題点の検討、政策提言を行う能力に加えて、共同作業やスケジュール管理を的確に行う能力、調査・情報収集にかかる基本的な能力、文書作成能力、プレゼン能力などを身につけることを当初の目標として掲げていたが、基本的にはどの学生も、これらの能力を一定程度身につけたものと思われる。特に、スケジュール管理については、その重要性、具体的には、①〆切は必ず守ること、②節目の日程を踏まえて進行管理を行うことの2点を、常々指導してきた甲斐もあってか、駆け込み作業になりがちな報告会Ⅰ・Ⅱの前や最終報告書提出前の時期においても、比較的落ち着いて作業ができたのではないかと感じている。

一方で、課題・問題点の検討や政策提言において重要な「徹底的な議論」という点では、若干不十分であったように感じられる。意見の衝突や大幅な方向性の変更などを恐れず、もっと皆で徹底的に議論を重ねた方が、より深く、意味のある研究になったものと思われる。また、調査に関しては、学生達自身も自覚しているように、「現場に足を運ぶ」、「当事者の声を聞く」という点で不足していたように思われる。これがあってこそ、説得力のある、地に足についた政策提言となったのではないだろうか。

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