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プロジェクトD:仙台市における大都市行政の今後のあり方

(1)趣旨

 国民の暮らしを支え、経済をけん引していくのにふさわしい核となる都市を戦略的に形成していくため、札幌・仙台・広島・福岡(いわゆる札仙広福)といった地方ブロックの中枢的な都市をはじめ、指定都市や中核市・特例市の中で地方の拠点である都市といった中枢都市がその役割を担っていくことが求められている。

 また、地方の中枢都市を核とする圏域は、三大都市圏に先行して、すでに高齢化や人口減少といった課題に直面してきており、地域住民が快適で安心して暮らせる都市環境を確保するとともに、三大都市圏から人の流れを作るためにも、地域を支える拠点の構築が課題となる。このためには、地方の中枢都市を核に、都市機能、生活機能を確保するとともに、都市構造の集約化と都市機能のネットワークを図っていくことが必要になる。

 ことに指定都市については、効率的・効果的な行政体制の整備として、いわゆる「二重行政」の解消を図ること、住民の意思の適切な繁栄としては、住民に身近な行政サービスを住民により近い組織において提供すること、また、住民がより積極的に行政に参画しやすい仕組みを検討することが求められている。

 このような状況を踏まえ、本ワークショップでは、大都市制度のうち指定都市制度を取り上げ、仙台市をフィールドにして、今後の社会経済情勢の変化にも対応し、より東北地方における中枢的な大都市としての機能を発揮していくためには何が必要なのかを探っていくこととした。

 すなわち、国の法整備や各種団体の意見等を参考に、①効率的・効果的な行政のために、どのような大都市行政が望ましいか(「二重行政」の解消、指定都市と都道府県との協議会の設置等)、②大都市における住民自治を強化する体制として、どのような行政区行政が望ましいか(「都市内分権」)などの検討を行い、仙台市へ政策提言を行うこととした。

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

 4月には、先ず、地方自治制度についての基本的な知識の習得から始めた。教員が作成した地方自治制度の概要ペーパーを配付し、適宜講義を行うとともに、基本的な入門書として「大都市のあゆみ」(東京市政調査会編、2006年)を全員で講読した。その上で、指定都市制度の課題と対応方向についてフリー・ディスカッションを行い、各人の問題意識の醸成に努めた。

 5月から6月にかけては、指定都市が抱える具体的な課題を把握するため、各自が行政テーマごとに報告するとともに、仙台市にあてはめた場合の問題点の抽出し、研究対象の整理を行った。その結果、「少子高齢化」「社会資本の維持管理」「二重行政」「財源不足」「災害対応」の事項を中心に調査することとした。

 7月に入り、仙台市における大都市行政の実態を把握するため、仙台市の各部局にヒアリングを実施した。ここでは、上記事項に関係する部局から仙台市における各行政分野の運営の実態を知るとともに、現場における課題を調査した。

 また、大都市行政制度を規定する地方自治法の所管部局・総務省自治行政局行政課の担当者から、大都市行政の制度改正の検討状況を聴き取るとともに、今後の調査研究を進める上での貴重な助言を得た。

 併せて、横浜市、川崎市、さいたま市など他の指定都市における大都市行政の実態に関してヒアリングを行い、仙台市における課題を比較検討し、多面的な解決方策への示唆を得た。

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

 7月は、上記ヒアリングに併せて、中間報告会への準備に取り組んだ。発表骨子の作成やパワーポイント資料の作成など、10名もの共同の取組みは困難な作業であったが、仙台市の大都市行政の課題について整理し、その後の調査研究の方向性を明らかにした。

c)夏季

 中間報告会における指摘やヒアリングで得られた情報をもとに、各自が改めて文献やインターネット等を通じた調査を行った。この取組みを通して、各担当の事項についてより深い分析を行うことができるとともに、後期における政策提言内容の原案作りの事前作業を行うことができた。

d)後期(年内)

 夏季において各自が調査研究した内容をもとに、まずは事項ごとの政策提言内容の検討に取り組んだ。その過程で、各自が中間報告会における指摘やヒアリングで得られた情報をもとに、各自が改めて文献やインターネット等を通じた調査を行った。この取組みの中で「何が問題なのか」を再度見詰め直し、検討を行った。その結果、「二重行政」「集約とネットワーク」「財政」「教育」「社会資本整備」「医療・社会福祉」「減災」「産業」「都市内分権」の項目立てに再構築し、その項目ごと各自が担当制で調査研究を行い、情報の共有、より深い検討のために発表を通した議論を行った。11月には、政策提言に向けた調査・検討の作業を引き続き実施するとともに、最終報告書の枠組みを組み立てる作業を並行して行った。12月からは、政策提言に関する議論を行いながら、最終報告会に向けて最終報告書案の骨子及びパワーポイントの作成作業を行った。

 また、この間、各項目に関連する事項について、仙台市をはじめとして宮城県、仙台市周辺自治体、横浜市、川崎市などの指定都市などの行政機関のほか、企業、事業者団体、シンクタンクなどへのヒアリングを実施した。

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

 最終報告会においては、指定都市市長会が主唱する「特別自治市構想」を推進した場合と現行の指定都市制度を前提とした場合との比較検討を行うべき等の指摘を受け、更に分析を進めることとした。

f)後期(年明け以降)

 各項目について、最終報告会で受けた指摘を踏まえ、追加的な調査及び提言の再検討の作業を進め、最終報告書の取りまとめを行った。なお、最終報告書の取りまとめに当たっては、全員による議論を通しての推敲を行うとともに、教員による細かいチェックを行った。

 また、政策提言先であり1年間を通じてお世話になった仙台市等に対し、研究成果を報告し、意見交換等を行った。

(イ)ワークショップの進め方

 原則として、毎週火曜日の3限から5限のワークショップを実施したが、それ以外にも必要に応じて随時実施した。また、学生全員と教員が共有するメーリングリストを活用し、作業効率の向上と各自が担当した作業結果の情報の共有化を図った。

 学生の役割分担については、代表、副代表(書記を含む。)などの役職を1カ月ごとに交替することとし、代表は議事進行全体を総括した。各自が代表を務めることで、10名にも及ぶ学生の各意見の全体調整を経験し、集団をまとめることの大変さや責任感を学ぶことができたと思われる。

 また、書記担当の副代表は、授業ごとの議事録を作成し、メーリングリストを通して回覧した。議事録を作成することにより、議論の過程をレビューすることができ、多人数ゆえに各方面に飛びがちな議論を方向付ける上で有益であった。

(3)成果

(ア)最終報告書

 最終報告書は、4章から構成されている。第1章では、まず、大都市制度を考える意義として、大都市制度の沿革や現行制度の概要などについて整理を行っている。次に、大都市が抱える問題として、少子高齢化、社会資本の維持管理、二重行政、財源不足、災害への対応を挙げている。それを受けて、各方面で議論されている特別自治市構想などの大都市をめぐる諸構想を概説している。

 第2章では、調査・研究の概要として、本ワークショップの調査研究対象である仙台市の概要について述べた上で、研究の手法・視点を提示している。

 第3章では、分析と提言として、各項目の問題点について分析し、それに対する提言を行っている。すなわち、図書館の設置管理や企業誘致などの二重行政、広域連携の方向性を示した集約とネットワーク化、財政、教育、都市計画などの社会資本整備、医療・社会福祉、減災、産業、地域と区役所の連携等を示した都市内分権について、課題、方向性、提言の形で提案を行っている。

 第4章では、総括として、特別自治市へ移行した場合と指定都市制度を前提とした場合との比較などを行っている。

 提言は、協議会の設置などを主な内容としているが、具体的事案に即した実現可能な解決策の方向を示すことができるものとして評価できる。

(イ)ワークショップを通じた能力育成

 中間報告会、最終報告会を経て最終報告書を取りまとめるまでの間、共同作業を進める上での協調性や責任感、代表としての集団の管理運営能力、議論やヒアリングを実施する上でのコミュニケーション能力、文献調査等における理解力や分析力、報告会でのプレゼンテーション能力などを伸ばす機会があり、各自ともワークショップでの作業を通して成長、改善が図られたものと思われる。

 人数の面においては、多人数であったことから文献調査やヒアリングでは広範囲に及ぶリサーチが可能となったが、一方で、フリーライダーが発生するおそれもあったため、お互いの短所を補完しあう関係を構築するよう意を払った。この点では、十分とは言い切れない結果となった。

 その中で、学生は、様々な個性をぶつけ合って、試練を乗り越えて相応の報告書を完成するに至り、その協働の過程こそが成果として十分意義あるものと言える。

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