1925年3月に日本のラジオ放送が始まってから、今年は100周年にあたります。それを記念して、NHKの歴史教養番組「歴史探偵」で、「後藤新平の大風呂敷」と題する特別番組が放映されました(2025年3月26日午後10時〜11時)。法学研究科の伏見岳人教授が番組制作に協力され、スタジオトークにも出演されています。

(NHKオンデマンドより)
以下、伏見教授による解説文です。
番組内では、2年前の関東大震災100年で発掘された資料である「幻の地下鉄計画図」を取り上げました。これは、日比谷公園の一角にある市政専門図書館で、長く保管されていた歴史資料です。詳しくは、伏見岳人「関東大震災後の東京高速鉄道計画」『都市問題』114巻12号(2023年)所収、をご覧ください。この市政専門図書館が入っている市政会館の向かい側は、今の渋谷のNHK放送センターに移る前にNHK東京放送会館があった場所で、現在もその放送記念碑が建っています。

(「幻の地下鉄計画図」、後藤・安田記念東京都市研究所市政専門図書館ウェブサイトより)
また、NHK放送博物館(東京都港区愛宕)に所蔵されていた新資料を調査し、番組内で紹介しました。NHKの前身である東京放送局の常務理事だった新名直和が、ラジオ放送草創期の苦労話を、30年以上経った後に語った音声記録です。戦前のラジオ放送は、あまり音声記録が残っておらず、NHKスタッフや関係者と、100周年にふさわしい新資料を、いろいろ探し求めた成果でした。

(NHK放送博物館)
ちなみに、この新名直和は、1926年にNHKを退職します。その時、後藤新平に宛てた書簡には、「体調が戻ったら、また後藤と一緒に、国家に奉仕したい」という思いがつづられています(「オンライン版後藤新平文書」所収)。そして、後藤の作ったシンクタンク「東京市政調査会」に入り、その運営に戦後まで関わり続けます。

(1926年12月31日付後藤宛新名書簡より)
この東京市政調査会の後継にあたるのが、後藤・安田記念東京都市研究所という研究機関で、先に述べた市政専門図書館の運営主体です。「幻の地下鉄計画図」を含む後藤新平の関係文書が、長らくそこで保管されていたのには、後藤の功績を後世にきちんと伝えたいという新名たちの意思が反映されていたに違いありません。

(「市政会館」、後藤・安田記念東京都市研究所ウェブサイトより)
内幸町と日比谷公園にあった後藤新平由来の「双子の組織」で、今回の放送100年を通じて、新たな交流の輪が広がったことに、歴史研究の醍醐味をまた実感できました。番組にご協力いただきました関係各位に、この場を借りて、深く御礼申し上げます。