東北大学公共政策    

プロジェクトD:SDGsの達成を目指した協働プロジェクトを企画する

(1)趣旨

2015年9月、国連総会「持続可能な開発サミット」が開催され、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。このアジェンダは、2030年に向けた人間、地球及び繁栄のための行動計画であり、すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行するとされた。この中に持続可能な開発のための17の目標(SDGs)と169のターゲットが示され、これらの目標とターゲットは持続可能な開発の経済、社会、環境の3側面を調和させるものとされた。

17の目標は、貧困の終結、健康な生活の確保、ジェンダー平等、人間らしい雇用、安全な都市、気候変動対策、平和で包摂的な社会等、人類の幸福のための包括的かつ理想主義的な内容となっており、現在、世界中の政府、地方自治体、企業、民間団体等が、2030年におけるこれらの目標の達成を目指して活動を展開している。

本ワークショップでは、①2030アジェンダの理解を深める、②SDGs達成に向けた多様な主体の活動を知る、③自分たちが興味を持てるSDGs目標群、SDGs活動等を特定する(SDGsをジブンゴトにする)、④マルチステークホルダーパートナーシップの下で実行するSDGs達成プロジェクトを企画する、を活動テーマとした。

公共政策ワークショップⅠは、「行政機関やNGO、NPOと協力しながら、それらの機関や組織が実際に抱えている政策課題を調査し、解決策を書き上げる」ことが通常の活動内容であるが、本ワークショップは、SDGsという広範な枠組みの中で、自分たちで「課題」自体を見つけ出すこと、必ずしもその「解決策を書き上げる」必要はなく、課題に対応する「具体的な活動を実践する」こと、その中からSDGsの達成に資する何かを見つけ出すこと、を主目的に実施した。

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

参加学生は、4年生大卒6名(うち女性1名)、留学生1名、若・壮年の社会人2名の計9名、ジェンダーバランスには欠けるものの、多様性のあるメンバーとなった。政策提言ではない、実践活動がメインだ、と明言する風変わりなワークショップ活動に興味を示して参加した者もいたようである。

まず、SDGs の理解を深めるため、2030アジェンダを熟読するに加え、一般社団法人イマココラボが提供するSDGsカードゲームのファシリテーターをお招きし、カードゲームを体験することによりSDGsの体系や考え方を学んだ。さらに教員が準備したヒアリング先である東北環境パートナーシップオフィスや一般社団法人ワカツクを訪問し、SDGs等への具体的な取組内容をヒアリングした。

これらを踏まえて、メンバーが実現したいと考える将来の社会の姿を議論するとともに、5月からはメンバーの関心に応じたヒアリング先の選定を行い、東松島市役所、つくば市役所、居場所サポートクラブロべ、東北地方ESD活動支援センター、宮城県国際化協会、足立区役所、横浜市役所、(株)モバイルソリューション、にじいろキャンバスのヒアリングや、横浜フットボールクラブ主催セミナーへの参加、映画「ザ・トゥルーコスト」の鑑賞等を行った。

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

中間報告会では、SDGsとは何か、メンバーが目指す社会の方向性、今後取り組む3つの実践プロジェクトについて説明した。

メンバーが目指す社会の方向性は、「あらゆる分野で機会の平等が確保され、結果として所得、教育などの格差が最小化される社会、多様性が尊重され、多様な意見に耳を傾ける社会、誰一人取り残さない包摂的な社会」とまとまり、このためには、「対話の場」、「協働」、「学び」が必要、という認識に至った。これを踏まえ、今後取り組む3つの実践プロジェクトは、対話、協働、学びについて行うこととし、その活動の方向性を提示した。

中間報告までは実践活動に踏み込むことはできなかったが、メンバーの目指す社会の姿が示され、それに向けた実践活動の方向性がまとまったのは、本ワークショップ活動の基礎を固めるものとして重要な進展となった。

c)夏季

3つの実践活動の方向性が固まったため、3プロジェクトに所属するメンバーを決め、それぞれのプロジェクト毎に自主的に活動を進めることとした。

学びプロジェクトでは、ESD(持続可能な開発のための教育)学会に参加したり、協働プロジェクトでは、フードバンク事業についてヒアリングを行ったり、対話プロジェクトでは、仙台医健・スポーツ&こども専門学校の先生方と相談したり、と後期の実践活動の準備作業が行われた。

d)後期(年内)

後期からは、3つの実践活動が並行して自主的に実施されることとなり、毎週火曜日にワークショップ室に全員集まることが稀になった。各メンバーが数名で、または一人で様々な実践活動に取り組んでおり、そのすべてが最終報告書に盛り込まれた訳でもない。試行錯誤しながら現実と格闘するのが実社会であり、成果につながらない活動も多々ある。その練習を本ワークショップ活動で行ったと言える。

対話プロジェクトは、メインの活動として仙台医健・スポーツ&こども専門学校と協働し、同専門学校が実施する健康リハビリ教室の場を借りて、対話の場づくりの実践活動を行った。その他に、石巻リハビリテーション研究会に参加したり、障碍を抱える子供を持つ親御さんとの対話カフェなどにも参加した。

協働プロジェクトは、ふうどばんく東北AGAINの活動に毎週参加し、食品の仕分け作業や配達作業に汗を流した。

学びプロジェクトは、東北地方ESD活動支援センターの活動への参加をメインに取り組み、「東北ESD/SDGsフォーラムin仙台」の企画段階から作業に参加した他、ESDに取り組む大学の先生にヒアリングしたり、国連大学のESD会議に参加したりした。

一方で、ヒアリング結果の取りまとめや実践活動報告等の執筆作業はあまり進まず、12月までは最終報告書が完成するのか危ぶまれる状態が続いた。

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

最終報告会では、対話、協働、学びの各プロジェクトの実践活動の状況を報告した上で、いくつかの提言的なものを提示した。

対話プロジェクトは、対話の場づくりの実践活動を踏まえ、多様性をお互いに認め合う対話の場を成立させるために必要な要素を提示した上で、そこで合意形成に至るためのファシリテーターの重要性を指摘した。

協働プロジェクトは、フードバンク事業の実情を踏まえ、事業が持続可能となるよう輸送上の問題解決案を提示するとともに、社会貢献事業に対する個人寄付が集まりやすくなるよう、インターネット上のフリーマーケットプラットフォーマーのビジネスと寄付金に係る所得税等の優遇措置を組み合わせた現物寄付促進のビジネスモデルを提示した。

学びプロジェクトは、ESDに関する様々な実践活動を踏まえ、大学におけるSDGs演習の資料案として、オリエンテーション講義、マイクロプラスチック問題講義、地域活性化に関する学生発表の資料案を作成し、その上で、大学におけるSDGs教育の課題と方向性について指摘を行った。

コメンテーターをお願いした東北地方環境事務所長様からは、深刻な対立がある場における対話の難しさ、言葉を介さない人と人とのコミュニケーションも重要、といった含蓄の深いコメントを頂き、メンバーは更なる学びを得ることができた。

f)後期(年明け以降)

最終報告会での指摘事項等を踏まえ、年末年始にかけて最終報告書の執筆作業を分担して行い、各プロジェクトグループ内での摺合せを行った上で、年明けのワークショップにおいて報告、全体調整を行った。年末までは影も形もなかった報告書案が一気に姿を現し、ワークショップ時間外も使った学生の自主的な議論、調整作業により、スムーズな報告書作成が行われたのは担当教員として驚きであった。

なお、本ワークショップ活動の成果については、学びプロジェクトが企画段階から参加した「東北ESD/SDGsフォーラムin仙台」(2020年2月9日開催)において、宮城県のSDGs活動団体としてメンバー3名が発表を行い、東北一円のESD/SDGs関係者の関心を集めた。

(イ)ワークショップの進め方

前述のとおり、前期は幅広いヒアリング活動、後期は様々な実践活動に取り組み、特に10~11月の間は実践活動に出かけ、ワークショップ室に集まることは稀であった。学生自身が自主的積極的にヒアリングや実践活動に取り組み、担当教員はその状況の報告を受けるにとどまった。

学生全員と教員が参加したメーリングリスト、ライングループ、共有ドライブの活用により、情報共有と作業の効率化を図った。最終報告書の作成に当たっては、学生がアップした報告書案を共用ドライブ上で教員が添削することで無駄な会合の場を省いた。

学生の役割分担については、代表、副代表、書記、会計、儀典、データ・資料管理、図書・室管理の役職を当初に設定したが、3プロジェクトチーム制を取ったこともあり、状況に応じた柔軟な作業分担を行い、結局、当初の役職の入れ替えは行わなかった。

(3)成果

(ア)最終報告書

最終報告書は、はじめに、第1章SDGsとは、第2章SDGs実現のための3つの実践プロジェクト概要、第3章対話プロジェクト、第4章協働プロジェクト、第5章学びプロジェクト、おわりに、参考文献等一覧、ヒアリング調査、関連資料、で構成されている。

報告書の肝として、本ワークショップが目指す社会は「多様性が尊重される社会、多様な意見に耳を傾ける社会」、「誰しも排除されない場づくり」、「機会の平等が確保され、所得、教育などの格差が最小化される社会」などと表現され、「誰一人取り残さない包摂的な社会」実現に向けた実践活動を行うという方針を明示した。

こうした社会を実現するために、以下の理由により「対話」と「協働」と「学び」が重要と考えた。

対話については、①対話そのものが個人に生きがいを提供し個々人の幸福感につなげることができる、②対話を通じて社会的ネットワークを充実させ、孤立する人々を極力減らすことができる、③多様な立場の主体によるフラットで質の高い対話が課題解決のスキルとして極めて重要、と指摘した。

協働については、SDGsの課題は複雑、多岐かつ巨大であるため、単独の主体で解決することは困難であり、異なる多様な主体が知恵とエネルギーを出し合い「協働」して課題解決策を設計・実践していくことが求められる、と指摘した。

学びについては、「対話」や「協働」が社会のあらゆる場面で効果的に実践されるためには、個々人がそのための基礎的素養を学び、身につけている必要があり、SDGsの17のゴールが自分に直接結びついていることを知り、実践していくための学びが必要である、と指摘した。

この対話、協働、学びについての実践活動やそれを踏まえた提言的な内容については、前述の後期年内の活動状況及び最終報告会のとおりである。

なお、担当教員としては、実践活動主体のワークショップであるため、報告書も実践活動報告的なものを想定していたところであるが、第1章SDGsとは、をはじめとして、各章とも、その内容に関連する文献を学生が自主的に読み込み、それをかみ砕いて、実践活動とも関連させて論述を進めたことはかなり驚きであった。

(イ)ワークショップを通じた能力向上

実践活動主体のワークショップとして何よりもまず各学生が、実社会でSDGsの達成に資する活動に従事されている志の高い方々と一緒になって議論し、汗を流し、現実と格闘した経験が、すべてに勝る教育効果であったと考えている。

上っ面でない体験を通じた深い現実理解、様々な困難に対して実社会の方々がどのように対処されているかを間近に見ること、そうした対処について、学生として学んだ知識でさらに付加価値をつけられないか考えてみること、このような経験が実社会で世の中に貢献できる多様な能力養成に役立ったものと考えている。

また、実践活動主体のワークショップの内容をいかに聞き手に分かりやすく伝えるかは、難しい課題であったところ、学内の報告会はもとより、東北ESD/SDGsフォーラムの大勢の聴衆の前でも堂々たるプレゼンテーションを行うなど、状況に応じた表現能力も高まったと認められる。

こうした能力向上は、ひとえに学生を協働相手として受け入れていただいた仙台医健・スポーツ&こども専門学校、ふうどばんく東北AGAIN、東北地方ESD活動支援センターをはじめとする皆様方のご協力のおかげであり、ほとんど何もしなかった担当教員として厚く御礼申し上げる。

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