東北大学公共政策    

ワークショップC 最終報告会・最終報告書執筆の感想

「ワークショップとは、社会の縮図である」という言葉をしばしば本学で耳にします。これは的を射た言葉で、我がワークショップCでは、学部で到底味わえぬ機会に恵まれる一方、それに見合う努力も要求されました。後学のために、ワークショップCの軌跡を辿っていきたいと思います。

ワークショップCは、「我が国の経済安全保障の確保について」を題材に、8名のメンバー(学部卒6名と社会人2名)で文献調査とヒアリング調査を行い、内閣官房をはじめとする各省庁に提言を行うことを目的に活動しました。今回の研究に関しては、自民党・甘利明先生及び大野敬太郎先生、経済産業省をはじめとする中央省庁、オーストラリア外務貿易省、マイケル・グリーン氏、アームストロング・士郎氏、数多くの有識者の先生方、JETRO をはじめとする独立行政法人及び民間企業の皆様のご協力のおかげで、研究を取りまとめることができました。また、今回の研究に際しまして、先生方や東北大学の職員の皆様方など関係各所からご高配を賜り、無事に1年間のプロジェクトを終えることができました。この場をお借りして、深く御礼申し上げます。


(公共政策大学院の入るエクステンション教育研究棟前にて)

 

中間報告会前

前期は「経済安全保障とは何か」を学ぶことに必死でした。経済安全保障は、比較的最近、頻繁に報道されるようになりましたが、その具体的な内容は論者により違うように見えました。授業では、読むべき論文を指定され、どう感じたか議論を行い、経済安全保障について理解を深めていきました。

また、7月には霞が関に訪問し、国家安全保障局経済班をはじめ、経済産業省、警察庁、外務省から貴重なお話をお聞きしました。また、警視庁本部も見学させていただきました。



(警視庁本部内にて)

 

そのおかげもあって、経済安全保障の現状分析も進みました。また、チーム内の合意形成もうまく行き、サプライチェーンの強靭化、サイバーセキュリティの強化、経済インテリジェンスの強化に的を絞り、分担して研究することになりました。

 

順調に終わるかに見えた中間報告会の準備は、思わぬハプニングにより急転直下します。あと「残り1週間」で完成していた原稿が一からやり直しになったのです。さらにひどいことに、やり直そうにも各々譲れない主張があったため、議論の応酬が繰り広げられました。完成のためには、早急な資料作成、内部調整を行う必要があったので、残業続きでした。

ワークショップは一筋縄ではいかないと気づいたのはこの頃でした。お互いに合理的なロジックを持っている場合、短い時間の中でどれを優先して結論を出し、早期に作業を進めることを考える必要がありました。チームでの作業というものの難しさとそれを乗り越える上でリーダーやその他のメンバーのフォロワーシップのあり方、責任の分担をどうするかといったところで非常に勉強になりました。


(中間報告会前のワークショップC)

 

夏休み及び後期

夏休みからは、前期の反省を踏まえて、スケジュールを意識して行動していました。ですが、状況は以前よりも悪化しました。特に大きかったのが、人的リソースの縮減でした。国家公務員試験秋区分の受験、お仕事等により実質2,3名でワークショップを動かざるを得ませんでした。さらに、ここから想定外の事態がたくさん起こり、やることが指数関数的に増えていきました。

例えば、オーストラリア調査の調整です。我々は豪州大使館とのヒアリングの機会を頂戴したものの、安倍元首相の国葬でアルバニージー豪首相が訪日したため、同館へのヒアリングが何度も延期になりました。他にも、渡航制限が緩和されたことで高騰した航空運賃の取扱いや現地交通費を含めた検討が必要となり、いつも縁の下の力持ちで支えていただいていた総務企画係・専門職大学院係様と連携して渡航に向けた調整を行い、法学研究科長を始めとする教員の方々にも基金の支出決定を含めて多大なご協力をいただくこととなりました。ロジスティクスに多大な労力が必要であるということを肌で感じて理解できたほか、海外調査研究に大きな期待を寄せていただいたこともありがたく、関係者には心よりの感謝を申し上げます。

他にも、ヒアリングを所用で欠席せざるを得ないメンバーが多かった時期には、少ない人数でやりくりしなければならない場面も数多くありました。それでも、甘利明先生、兼原信克先生とお会いできたのはまさに僥倖とも言えるでしょう。


(兼原信克先生とのヒアリング。)

 

この頃からは甘い期待をしないようになりました。ワークショップでは予測不能の事態がたくさん発生します。計画作成よりも何事にも耐えられる根性と対処力こそ大事だと思うようになりました。

色々あったものの、皆様のご協力で無事出発できる状況になり、さらには豪州大使館の方々のご厚意のおかげで渡航前にオーストラリアの調整を終えられました。

 

海外調査及び最終報告会

責任を迫られる環境下でなら、人は大きく成長できると思います。少なくとも僕はそう思います。夏休みに鍛えられた対応力が存分に発揮されました。

中でも、オーストラリア外務貿易省重要鉱物資源課の課長との議論は、今までの知識と対応力の真骨頂とも言えましょう。録音完全禁止、OtterやDeepLといった文明の利器を使えない、という危機的状況で議論をリードしなければならないとなると、英語を喋れないという言い訳は通じません。うまく聞き取れないし、話せないならば、どうすれば相手の話していることを理解できるか、どうすれば伝わるか、必死で考えながら答えを紡ぎました。結果的に我々の思いが通じたのか、親切さと寛容さに溢れた豪州外貿省の方々のおかげで、貴重な情報を数々頂戴することができました。


(11月、オーストラリア外務貿易省にて。)

 

先日の記事の通り、滞在中は多くのトラブルがありましたが、それだからこそオーストラリア調査はとても楽しい思い出になったと言えるほど、チームメンバーの胆力も上がったように思います。

 

最終報告会・最終報告書作成

しかし、楽しい思い出も束の間。最終報告会まで残り1ヶ月という、非常にわずかな時間でこれまでの成果をとりまとめなければなりませんでした。そのため、12月からは今まで得たエビデンスをひたすら分析し、政策提言をまとめました。

この期間中もいつもの如く様々な問題が発生しましたが、後期、海外調査を乗り越え、悟りを開いた我々にとっては、もはや何度も見た光景で、対応も慣れたものでした。ほぼ不眠不休でしたが、坪原先生も同じくらい手伝っていただいたこと、東京大学専任講師の井形彬先生をはじめたくさんの方のご協力で、なんとか完成できました。本当に感謝の思いでいっぱいです。

さらに、最終報告会は日経新聞編集委員の太田泰彦様、経済産業省安全保障貿易管理政策課の末藤課長補佐、NISC(内閣官房 内閣サイバーセキュリティセンター)基本戦略第2グループの福田参事官補佐からご講評をいただき、さらには質問時間が通常に加え延長45分と、非常に盛況でした。そのほかにも第一線級の様々な先生方から良い評価を頂けたことは一生の財産だと思います。

 


(最終報告会にて。コメンテーターの日経新聞編集委員・太田泰彦様と。)

 

総括

ワークショップは社会の縮図です。学部の頃のように、友情や論理的思考力のみで何とかできることは少なく、全人格的な努力が必要なことばかりでした。ですが、頑張れば頑張るほど、こんなにも素晴らしい経験を積ませていただける機会も滅多にあるものではありません。ぜひみなさんも公共に行って、人間を磨きましょう。

このページのTOPへ