東北大学公共政策    

プロジェクトC:資源循環・気候変動・自然共生に関わる国内外の動向及び対策に関する研究~身近なプラスチックを例として


(1)趣旨

現在、廃棄物・リサイクル・資源循環、気候変動・地球温暖化防止、自然との共生・生物多様性、SDGs(持続可能な開発目標)等の観点から、国内外で様々な検討・対策が加速している。 このような状況の下、有用性・利便性等から日常生活・経済社会において従来幅広く多種多様な形で利用・普及されてきた石油等の化石資源由来のプラスチックについても、上記観点から国内・国際両面で緊要な課題の1つとなっている。 国内では、容器包装リサイクル法に基づくPETボトル等の分別収集・再生利用、企業・地方自治体等による取組みに加え、最近のレジ袋有料化(2020年7月)、プラスチック資源循環促進法の施行(2022年4月)等、旧来のごみ・廃棄物処理に止まらず、循環型社会経済への移行が加速している。 例えば、本学が位置する地元仙台市においても、全国に先駆けて、プラスチック資源循環促進法に基づき、従来の容器包装プラスチックに加えて製品プラスチックの一括回収・リサイクルが2023年4月開始され、今後の状況や他の地方自治体等の取組みも注目されている。 また、化石資源である石油由来のプラスチックの生産から廃棄・焼却等に伴うCO2等の温室効果ガスについても、気候変動・地球温暖化対策の観点から課題となっている。日本においても、2050年カーボンニュートラル・脱炭素社会の目標に向けて、2030年度温室効果ガス46%削減(更に50%の高み)を目指す地球温暖化対策計画及びエネルギー基本計画の改定(2021年10月)も踏まえた今後の取組みが焦点となっている。 加えて、海洋に流出するプラスチックは、マイクロプラスチック(5㎜以下の微細なもの)も含め、海洋・生物への影響等も国内外で懸念されると共に、このままでは2050年には総重量で魚を上回るとの試算もなされている。東北も含め日本の沿岸においては、国内外からのプラスチックごみの漂着・漂流物等も大きな課題となっており、海岸漂着物処理推進法(2018年改正)も踏まえ、回収処理のみならず、発生抑制、更にはプラスチック使用・排出等増加傾向の東・東南アジア諸国等との連携協力も重要となっている。また、国内の廃プラスチック等の海外輸出についても、近年、不適切処理・環境汚染の懸念等から国際的規制が強化されている。 このような情勢の下、G20(2019年大阪)議長国日本が提案し採択された「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」(2050年迄に海洋プラスチックごみによる追加的汚染ゼロ目標等)も踏まえ、プラスチックによる環境汚染を終わらせるべく新たな国際条約交渉が2022年末に開始され、また、丁度2023年は、日本がG7の議長・開催国を務め、日本とASEAN(東南アジア諸国連合)との友好協力樹立50周年でもあり、国際的動向等も注視される年でもある。 以上を踏まえ、日常生活にも身近で国内外で緊要な課題の1つとなっているプラスチックを例として、本ワークショップ受講生自らが主体となって、担当教員の助言・指導も踏まえつつ、国内及び国際的な現状・動向・課題等に係る調査・ヒアリング等も通じ、今後の方向性・取組みについて研究・探求し、提言・報告取纏めを目指した。 国内・国際両面において急速に展開・深化し、現在のみならず将来の世代にも関わり、私達一人一人のライフスタイル・事業活動・ビジネス等の社会経済活動全体とも密接不可分なテーマについて、本ワークショップ活動が、国内外の現状・課題・動向等の把握・整理・分析及び今後の取組みに係る企画・提案・調整・説明・取纏め等の貴重な機会・経験に学生・教員共に繋がる絶好の時機と考えた。  

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

4月は、主担教員が主導し、初回ガイダンスとして、各自紹介後、趣旨及び国内外概況、当面の学生間の役割分担、今後の予定等について説明した。また、理論抽象的な座学講義・文献通読の前に、先ずは“百聞は一見に如かず”地元市民・住民目線での現場の実感・実態把握の方針の下、事前に準備調整済の上で、第2回は仙台市葛岡ごみ処理施設等、第3回は仙台市内で全国先駆的に4月より一括回収が開始したばかりの製品プラスチックのリサイクル施設(仙台市から環境施設見学用「ワケルくんバス」を事前借上手配)について、現地視察とヒアリングを早速実施した。市民の日常生活から排出・回収される多種多様な廃棄物、プラスチックについて、処理工程等を実見・直視し、現場担当の方々から自らの日常生活にも関わる具体的なお話しを直接伺った事は、その後の活動の貴重な礎・土台となった。また、質問の事前検討の為の勉強・準備と結果概要作成取纏めの経験も初期に図った。(参照:本学websiteニュースレター https://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/newsletter/newsletter2023/wsc20230508) 5月は、基礎知識の習得を目的として、主担教員から提供した各種参考文献情報等を基に、連休を挿んで各学生自学自習して頂き、連休以降は、各自が分担調査した文献の要点、自己の関心分野等を順に発表頂き、教員も交えて質疑応答・議論等を行った。 6月は、中間報告会発表の準備も見据えつつ、本テーマの重要な政策主体であると共に今後想定される提言先として、先ず地元の環境省東北地方環境事務所及び宮城県庁、次いで環境省本省の其々関係課室の往訪ヒアリングを計画・実施した。当初学生には難題・躊躇も見受けられ、主担教員より事前連絡調整を行った結果、6月下旬予定とし、予め十分な調査研究の上で質問リストを検討・作成・送付し、当日は主担当教員の引率指導の下、東北地方環境事務所では、全国的動向の中での東北地方全般の状況等、宮城県庁では仙台市以外の県内状況等も拝聴し、環境省本省では各室長から説明・応答頂くと共に、国際条約交渉にも参画している地球環境審議官にも表敬し、いずれもその後にも繋がる貴重な機会となった。  

b)中間報告会

7月は、前期調査研究結果の整理と今後の方向性の検討を踏まえ、中間報告会発表用スライド資料の検討・作成作業を加速させた。メンバー各自の担当分野・発表時間の質量バランス等の課題も有ったが、全体の流れ・全員協力によるグループ作業等を経験する良い機会となった。暑さの中で直前迄、資料完成、各自予行練習・全員リハーサル等熱心に行い、当日は、接続技術的問題の突発等にも拘らず、各自及び全員協力による説明と質疑応答に、見事成果が発揮された。(参照:本学websiteニュースレター https://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/newsletter/newsletter2023/movie-interim-report-2023-r5/) 中間報告会の後、夏休前に全員で、当日の振返りと今後の調査研究の具体化等について検討・共有するとともに、海外調査(日程・予算等も考慮し、東・東南アジアの中で人口増・経済成長等顕著で環境問題・国際協力上も重要なベトナム)に向けて、ロジ・サブ両面の準備作業分担等を行った。  

c)夏季

8~9月の夏休期間は、各学生も本年度から本格的に早期化した就活・説明会・インターン、帰省等が有る為、各自の分担作業の成果・状況・当面の予定等の共有・把握を図るべく、2週間に1度のペースで定期的オンライン打合を学生主催で行う事とし、教員も陪席した。この際、学生毎の進捗状況・姿勢等の差異・懸念も踏まえ、チームワーク及びPDCAの観点から、目標期限から逆算した現況と予定を共有・見える化する為の全体及び各自の作業予定表を学生で作成し、随時見直し・修正するようにした(尤も、以後後期に自発的・効果的な更新・活用には必ずしも十分には至らなかった)。また、地元仙台市・宮城県以外の地方自治体の参考情報収集・ヒアリング等については、先方アポ取り等担当学生の自主性・企画調整も促し、成長・進展も窺えた。 更に、仙台市等とも連携し地元における様々な関連行事・活動(「せんだいリブート」、「せんだいエコフェスタ」、「せんだいゼロカーボン市民会議」、「深沼ビーチクリーン」等) へも参画する等、理念的調査研究のみならず、行動・実践に関わる貴重な機会となった。 他方、ベトナム現地調査については、ロジ面では予算や現地の空き具合・料金、学生諸事情等を考慮し、8月早々主担教員が11月上旬フライト・ホテル予約手配及び当該日程を前提とした現地関係者との連絡調整等を主導し、集金・会計手続等は担当学生が行い、サブ面は事前の勉強・関連情報収集整理・理解の促進と質問の事前検討等を図った。

d)後期(年内)

10月は、仙台市役所担当課の往訪追加ヒアリング他を通じて、国内関係提言の具体的 検討を進めると共に、ベトナム現地調査に向けたロジ詳細、質問内容の事前検討整理、連絡窓口の主担教員から担当学生への移管も含め、サブの作業も加速させた。 11月上旬にベトナム・ハノイ等訪問し、日本大使館、現地専門家等ヒアリング及び現 地視察を行い、日本との比較も含め、文献情報だけでは得られない現地実情の把握・現場の体感体験等、大変貴重な機会となった。(参照:本学websiteニュースレター https://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/newsletter/newsletter2023/wsc20231129/) 帰国後は、国際面におけるベトナム調査結果の整理、進行中の国際条約化交渉の最新状況の把握等とともに、国内の仙台市・環境省他関係者への追加・最終ヒアリング等を進めつつ、最終報告会を見据えた提言の検討の深堀・取纏め等を加速させた。 12月は、最終報告会発表資料作成、発表の予行演習等の作業を鋭意集中的に行った。  

e)最終報告会

最終報告会当日は、積雪・冷込・凍結にも拘らず、発表・質疑応答時の会場は熱気に溢れ、充実していた。発表順番が最後でもあり、適度な緊張感で始まった説明と質疑応答は、事前準備練習の成果が良く反映され、当日陪席を御願いした外部コメンテーター(環境省室長、仙台市役所担当課)の方々からも温かい講評を頂き、有終の美となった。 (参照:最終報告書中の最終報告会発表資料集、及び本学websiteニュースレター https://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/newsletter/newsletter2023/r5_final_report-session/ https://www.publicpolicy.law.tohoku.ac.jp/cms/wp-content/uploads/2024/02/WSC.pdf)  

f)後期(年明け以降)

最終報告会直後、年末年始に入る前に、最終報告書の執筆完成作業について、基本的作業方針(文字フォント、項立番号等の統一含む)、作業分担(総論、各論個別分野、資料編等)他について、教員も交えて打合せを行った。その上で、1月初回定例日迄には、質量バランスも概観する観点から全体素案を学生から作成・提示して貰い、教員からの修正コメント等について議論・検討を行い、その結果を踏まえて、次回で仕上げに近づけるべく修正作業を進める事とした。原案作成者毎に異なる文体スタイル、重要かつ明らかな誤解誤記、頁数・図表番号・レイアウト等の整理・修正、ヒアリング結果について御協力頂いた各関係者の方々による内容と報告書掲載の最終確認チェック等、教員共々集中的作業となった。通常の各自個人レポートの場合の各々の判断と作業による完成・提出に比べて、チームワーク・グループ作業としての本ワークショップにおいては、全体の流れ・統一性、質量バランス等の必要性、学生毎の個性・進捗・貢献度の多様性等に伴う諸作業努力も伴うが、今後の進路・就職先において、組織・グループとしてプロジェクト等説明・報告書の作成・修正・完成迄も見据えて体験する有意義な機会となったと考えられる。ワークショップ最終回には、ベトナム海外調査の際に主担教員が密かに現地で購入していた記念土産(特産コーヒー入チョコレート)を配布し、約9か月に及ぶ各自及びチームとしての作業努力に対し、振り返れば甘く良い経験・想い出として頂けるよう図った。  

(イ)ワークショップの進め方

毎週火曜日3~5限ワークショップ定例日以外に、別途適宜開催された学生自主ゼミには、基本的に教員は同席を控えて学生の自主的な検討議論を促した。また、夏季8~9月は、学生も帰省・早期就活等により対面打合が難しい為、約2週間毎の学生主催オンライン打合に教員も同席し、各自作業の現状・課題・今後の予定に関する学生各自からの報告を通じて、PDCAの観点から全員の共有・把握を図った。更に、中間・最終報告会、最終報告書完成作業等に際しては、適宜追加打合等を行った。 副担当の阿南友亮教授、西本健太郎教授、前期の坪原和洋教授及び後期後任の宇田川尚子教授には、適時適切に貴重な御指導・御助言等頂いた。 学生と教員の連絡等は、Google Classroomを基本とし(全員宛連絡共有にはストリー ムや共有ドライブ等)、別途学生間においては、Lineグループ、自主ゼミ等による相談・共有等も図られた。 現地調査・ヒアリングについては、先方も業務多忙な中で時間を割いて御対応頂く事及び効率・効果の観点から、事前に公表情報等を調査研究して質問内容を全体整理の上で先方へ予め送付し、ヒアリング当日は限られた時間の中で、入手したい情報・回答ができるだけ具体的に得られ有意義な意見交換となるよう図った。前期は、主担教員が訪問ヒアリング先との日程等事前調整他を主導したが、事後の御礼と結果取纏め確認依頼等は担当学生から行うよう指導した。夏以降後期は、国内地方については、自ら連絡調整窓口を自主的に担当した学生については、成長が感じられた。他方、プロジェクトC特有の海外調査先(ベトナム)については、準備時間や予算、先方及び学生の諸事情等も考慮して11月上旬訪問を予定としつつ逆算してフライト・宿泊予約を主担教員が8月上旬に主導し、集金・支払等手続は担当学生に御願いすると共に、現地ヒアリング調査先等の連絡調整についても、学生諸事情、時間的制約等から、主担教員が夏以降主導しつつ、現地訪問直前及び事後は、連絡調整窓口を担当学生に移行(㏄を主担教員に)した。尚、11月環境省本省追加ヒアリング調整についても、時間的制約、難度等から主担教員が行うこととなり、事後御礼、結果取纏め確認等については担当学生から行った。 学生の役割分担については、4月初回当初、主担教員から、途中又は前後期で学生間の自主的交代の可能性も示唆しつつ、当面の役割案として、リーダー、サブリーダー、会計、書記、IT庶務の役割を提示し、学生の自主的立候補を募った。また、プロジェクトC固有の海外・国際調査のロジとサブについても、前期途中、特に中間報告会以降の準備作業加速化に向けて、国際班を設定した。尚、国内班と国際班は、原案の企画作成、先方との窓口作業上の便宜的な設定であり、ロジ・サブ共に両班の縦割ではなく学生同士お互い自主的に上手く融合・助力し合って頂きたい意図を再三強調したものの、実情に鑑み、9月からはベトナム現地に行く全員で分担協力し合うよう、またサブリーダーに国内・国際両面の橋渡・調和調整を担うよう、主担教員から指導・依頼した。学生諸事情もあり結果的には、夏以降リーダー、サブリーダー、会計(国内外)、ベトナム等国際班長は、基本的に同じ学生が担い続ける事となり、各連絡調整先窓口担当学生も同一固定化となった。役割分担を前期と後期で学生間で自主的に変更し、全学生が全ての役割と負担を経験・均等化する選択肢・可能性も考えられたが、実際は、学生毎の意欲・実情・能力等に多様性・差異も有り、またチーム内及びヒアリング先の連絡調整等の継続・安定性等の観点から、自主的に意欲をもって担当開始から最後迄粘り強く努力した学生には、今後にも資する有意義な経験となったと考えられる。  

(3)成果

(ア)最終報告書

国内・国際両面の鋭意諸作業の成果として、印刷上限350頁近くの大部となった。 第1部「総論」、第2部「プラスチック問題の現状と対策」、第3部「政策提言」から成るが、内容・詳細は、報告書本体を別途御参照頂ければ幸いである。上記概説通り、国内外の調査研究に加えて、市民としての実践活動も含めた結果を踏まえ、学生・若者ならではの発想・広報手法や地元にも密着し地に足のついた具体的・実効・実践的な内容も含め、国内・国際両面における計14の提言を纏めている。 また、本研究及び本報告書が、身の回りの日常生活で身近・便利で広範多岐に使用されているプラスチックに関わる関係者・当事者でもある私たち一人一人・社会の意識の啓発向上と行動の変容にも繋がる事への期待を「はじめに」と「おわりに」で言及している。  

(イ)ワークショップを通じた能力育成について

4月ワークショップ開始当初、参加学生は一定の関心・興味を抱いて参加したと思われるが、先ず市民として、地元仙台市における身の回り・日常生活からのプラスチックを含むごみの排出・処理と全国先駆的に開始された製品プラスチック一括回収・リサイクルの現場の直視・実感・実態把握を皮切りに、県内・他地域、日本全体、そして国際的動向・海外現地調査(ベトナム)へと視野・研究対象を具体的・段階的に拡大しながら調査研究を進めると共に、地元仙台市における様々な関連行事・活動等への参画実践等、単なる理論理念的調査研究に留まらず、Think Globally, Act Locally, 更には、Think and Act Glocally への連繋を実感し、教員共々大変貴重な機会と経験になったと思われる。 各自の調査研究、原案の検討・作成等は、今後、個人としての他のレポート、M2のリサーチ・ペーパー等に、また、様々な内外の関係者との連絡調整、御願・御礼等に至る迄の諸作業も、将来資する事が期待される。 更に、本ワークショップの特性として、個人の作業のみならず、グループ活動・チームワークとしての連絡調整、役割分担、一致協力等も、社会・組織においては必要不可欠であり、各自実体験・研鑽を積む重要な機会となったと考えられる。 激動する国内外の諸課題・情勢の中で、身近なプラスチックを例として取り上げた今回のワークショップを通じた諸活動と成果が、単に個別専門的分野に留まらず、今後も各自の活用・貢献に繋がれば大変幸いである。

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