東北大学公共政策    

プロジェクトD:東北地域からエネルギー施策を考える

(1)趣旨

福島第一原子力発電所の事故を契機に、我が国のエネルギー政策は大きな転換が行われた。原発への依存度を低下させながら再生可能エネルギーの導入拡大を図り、かつ国民負担の軽減とエネルギー起源CO2の排出削減を進めるという、複雑な連立方程式を解くような政策が求められている。

東北地域は、これまで福島県及び青森県が日本の原子力発電基地の様相を呈していたが、福島県は脱原発、再生可能エネルギー100%構想を掲げるようになり、また、再生可能エネルギー推進政策により東北各地に風力発電や太陽光発電の施設設置が進み、地域でエネルギーの自給自足を目指すような取組も行われている。

本ワークショップにおいては、このような状況を踏まえ、2050年の日本の望ましい経済社会の姿を想定し、その姿を支えるエネルギー需給を考え、そのエネルギー需給を実現するために行うべき施策を提言することを目指した。

このようなバックキャスト方式の検討は、一般社団法人環境政策対話研究所が開催している「エネルギーワークショップ」の手法を利用したものであり、同研究所編著の「エネルギーワークショップ~30年後のエネルギー選択を考える~情報資料集」(以下、「情報資料集」という。)を基礎資料としてワークショップ活動を開始した。

(2)経過

(ア)年間の作業経過等

a)前期

参加学生は、4年生大卒4名、留学生1名、社会人1名の計6名、多様性があり、バランスの取れたメンバーとなったが、エネルギーに関する知識については、通常の文系大学院生と同様、基礎から修得する必要があった。

まず、エネルギーに関する基礎知識を取得するため、情報資料集を熟読するとともに、分担を決めて日本のエネルギーの現状、政策動向等に関する調査、発表を行った。さらに、エネルギーワークショップの手法を用いて、2050年の日本の望ましい経済社会の姿を議論し、その姿を支えるエネルギー需給の姿について情報資料集及び「低炭素ナビ」というWEB上のシミュレーションモデルを用いてエネルギーシミュレーションを行った。学生にとっては、5パターンに分けられた2050年の日本の経済社会の姿があまり腑に落ちなかったようであり、その理解に時間がかかったところがある。

5月後半からは、東北経済産業局、東北電力、環境省に、東北のエネルギー需給の状況、エネルギー施策の動向、再生可能エネルギー普及施策への取組等についてヒアリング調査を行った。併せて「おだやかな革命」という再生可能エネルギーによる地域づくりをテーマにした映画の鑑賞も行った。

このような活動を踏まえて後期における施策検討の基本方針を議論したが、なかなか議論が進まず、「再生可能エネルギーの大量導入」という方向性は、中間報告会の発表資料の調製過程で徐々に形成されて行く状況であった。なお、7月上旬の約2週間は、官庁訪問を行った3名の学生が抜けており、議論が進まないのも無理からぬ状態ではあった。

b)報告会Ⅰ(中間報告会)

中間発表は、望ましい経済社会像、エネルギーシミュレーション結果、エネルギー施策の動向、今後の検討の方向性をまとめたものとなり、議論が不十分な部分はあったが、出来上がりとしては、一定のレベルに達したものと評価できる。原子力発電の取扱いについては聴衆の反応が大きかったようだが、なんとか受け答えできた。

なお、東北経済産業局、東北電力等のヒアリング結果について議事録をまとめるのに時間を要し、中間報告会で結果を披露できなかったことは大きな反省点である。

c)夏季

夏季には、各自で中間報告会を踏まえて報告書執筆作業を進めるともに、数名のグループで地域エネルギー事業等への訪問調査を行うこととしていたが、多くのメンバーが執筆作業を進めることができず、また、訪問調査も行われなかった。

d)後期(年内)

夏季の作業がほとんど進んでいなかったため、後期の作業に並行して前期の成果の報告書執筆作業を進めることとしたが、多くのメンバーは遅々として執筆が進まず、前期分の報告書の一応の執筆完了は12月にずれ込んだ。

後期の作業としては、再生可能エネルギーの大量導入推進という方針に基づき、そのための検討施策の絞り込みを行うこととしたが、メンバー間の議論は進まず、仮説の設定もなかなかできなかった。このため、再生可能エネルギー推進施策や地域エネルギー事業の実態調査として、福島県庁、会津電力、やまがた新電力、長野県飯田市、環境エネルギー政策研究所へのヒアリング調査を行い、その結果を踏まえて、施策の内容を考えることとなった。なお、産業技術総合研究所福島再生可能エネルギー研究所等にも訪問調査を行っているが、その結果は最終報告書には反映されなかった。

再生可能エネルギー推進条例、新RPS制度と再生可能エネルギー証書、木質バイオマスエネルギー利用による持続可能な地域づくりという施策提言の3本柱は、11月頃から徐々に議論の俎上に上がってきたが、メンバー間の活発な議論はあまり行われず、各担当者が検討を進めて披露する状態が続いた。木質バイオマス活用については、追加調査のために林野庁訪問を行った。新RPS制度の詰めと3施策の関連付けは、最終報告会直前にまとまる状態であった。

e)報告会Ⅱ(最終報告会)

最終報告会においては、前期報告を簡単にさらった上で、再生可能エネルギー推進条例、新RPS制度と再生可能エネルギー証書、木質バイオマスエネルギー利用による持続可能な地域づくりの3施策提言をきちんと時間内に発表することができた。広範な内容を分かりやすくプレゼンできたものと評価できる。

これに対し、学生、教員から様々な質問、指摘等をいただき、最終報告書を作成するに当たり、貴重な示唆を得ることができた。

コメンテーターをお願いした東北経済産業局エネルギー対策課長様からは、複雑で理解が難しいエネルギー問題に取り組んだことをについて評価をいただき、特に現行の再生可能エネルギー固定価格買取制度の将来を見越した検討を行ったことに驚きをもって受け止めていただいた。

f)後期(年明け以降)

最終報告会での指摘事項等を踏まえ、提言施策の詰めを行うとともに、後期分の報告書の執筆作業、ヒアリング結果の取りまとめと先方との確認作業を行った。さらに、全体を通した報告書の整合作業を行った。この時点で、前期のシミュレーション結果の見直しも行った。

また、資源エネルギー庁再生可能エネルギー推進室補佐様にご来仙いただき、再生可能エネルギー推進施策の最新動向についてご講義いただくとともに、最終報告会の内容をプレゼンしてコメントいただいた。さらに、東北経済産業局エネルギー対策課長様を訪問して、水素の活用方策を含む東北におけるエネルギー施策の動向についてご講義いただき、これらを最終報告書作成に生かした。

(イ)ワークショップの進め方

原則として毎週火曜日の3限から5限にワークショップを実施したほか、随時学生によるサブゼミや現地調査・ヒアリングを適宜実施した。

現地調査・ヒアリングについては、学生が自主的に訪問先を設定することを奨励したが、なかなか自主的な選定が行われず、前期は教員がセットしたものだけに終わり、夏季は何も行われず、後期においてようやく自主的な選定が行われたが、必ずしも十分な量・質が確保されたとは言い難い。施策提言が机上の検討で組み立てられてしまった感は否めない。

また、学生全員と教員が参加したメーリングリスト、ライングループ、共有ドライブの活用により、情報共有と作業の効率化を図った。共有ドライブによる検討結果の共有とメールによるディスカッションも期待したが、メールは教員からの指示にとどまり、学生間のメールディスカッションは行われなかった。

学生の役割分担については、議長、書記、会計、儀典、室管理の役職を設定し、一定期間で交代することとしたが、結局、前期と後期で1回交代するにとどまった。

(3)成果

(ア)最終報告書

最終報告書は、はじめに、本文、おわりに、参考文献、ヒアリング結果で構成されている。本文は、第1章 未来社会像、第2章 2050年のエネルギー需給の姿の想定、第3章 第5次エネルギー基本計画、第4章 主要なエネルギー施策の動向、第5章 東北地域・再エネの現状の調査結果と東北地域の役割、第6章 2050年の東北地域の役割を踏まえた施策提言、からなる。

施策提言としては、条例制定による再生可能エネルギーの推進、新RPS制度(再生可能エネルギーの導入目標を設定しその達成を義務付ける制度)と再生可能エネルギー電力証書制度の創設、木質バイオマスエネルギー利用による持続可能な地域づくりの3本柱となっており、再生可能エネルギー推進条例が再生可能エネルギー電力証書と木質バイオマスエネルギー支援補助金の根拠となる形で施策間連携が行われている。3施策全体を通じて、再生可能エネルギーを活用して持続可能な地域を実現するという発想である。

再生可能エネルギー推進条例と木質バイオエネルギー活用は、学生のイニシアティブで発想されたものであるが、新RPS制度と再エネ電力証書は制度的理解、内容の詰めに時間がかかり、多少教員の示唆によるところがあったことは否めない。

日本の未来社会像として、グローバル経済の中で競争に勝ち抜き、経済成長を進めていくという「ものづくり統括拠点社会」をメインに据えつつ、施策提言では、地域社会の持続可能性を目的としたことにはやや不整合感もあるが、学生の政策的関心事項はそこにあったのだろうと理解している。

(イ)ワークショップを通じた能力向上

エネルギーに関する知識は大学で教えられる機会が少ないと聞いているが、本ワークショップ参加学生は、かなりの質・量の関連知識に触れることはできたものと考える。特に、ワークショップ活動に並行して、国において第5次エネルギー基本計画が作成され、さらに再生可能エネルギー大量導入施策について検討が進められた状況にあり、タイムリーな知識の吸収を行うことができた。

また、報告会や報告書作成に向けた作業において、論理的思考力、プレゼンテーション能力、文章表現力等を涵養することができたと考える。訪問調査先との調整やヒアリング結果の調整においてうまくいかないことが散見されたが、対外的調整、作業進捗管理等について良い経験を積んだものと思う。

2050年の日本社会を想定した上でエネルギー施策をバックキャストで考える、という本ワークショップのテーマは極めて壮大なものであり、それを消化することは学生にとって負担の大きなものであったと思う。それを学生の自主性に任せ、自由に議論してほしい、ということが担当教員の意図であったが、やや重荷であったように思う。特に学生間の自由で活発な議論を期待していたが、そこに至らずに施策提言をまとめあげることに汲々としてしまった感がある。担当教員としての反省点である。

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